相続税に時効はある?【逃げ切り】は可能?タンス預金はバレる?

更新日:2023.12.13

相続税に時効はある?【逃げ切り】は可能?タンス預金はバレる?

相続税には消滅時効が設定されており、課税があるにもかかわらず申告しなかったとしてもが、一定期間に渡って指摘を受けなければ追徴課税の可能性はなくなります。

それでは、時効まで逃げ切って相続税を納めずに済ませることは可能なのでしょうか。

実のところ、税務署の適正申告に向けた施策は徹底しており、逃げ切りはほとんど不可能です。

適正申告できない事情はさまざまですが、時効制度を正しく理解し、より現実的に判断しましょう

1. 相続税は時効まで逃げ切れる?まず知っておきたい時効期間

前提として、相続税の申告期間は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」です(法第27条)。

この期間を過ぎると、課税額に所定の割合で加算税が上乗せされるものの、この罰則には時効があります。

時効を過ぎると、無申告になっていても、後から徴収・賦課されることはありません。

上記の「相続税の時効」が完成する期間は、以下のように考えます。

1-1 相続税の時効時期

無申告者に対して税務署が課税額を決定できる期間は「除斥期間」と呼ばれ、除斥期間は「通常の申告期限の翌日」から起算して原則5年です。

ただ、「申告義務を認識していながら行わなかった」ということが税務署側から見て明らかである場合、除斥期間は7年まで延長されることになります。

また、相続税法の中には被相続人同士の連帯責任を定める条文もあり、誰かが申告義務に応じない場合は、他の被相続人に請求が行われてしまいます。

1-2 相続税の時効時期の計算方法

相続税の時効が完成する時期は、申告期限を起算点とします。被相続人の死亡日からの起算とする、おおよそ以下の通りです。

<被相続人の死亡日を令和2年1月1日と仮定した場合>

法定申告期間:令和2年10月1日に時効完成

課税処分の原則時効:令和7年10月1日に時効完成

偽りその他不正の行為がある場合:令和9年10月1日に時効完成

なお税務署側が相続人の悪意を確認するまでの期間は不定ですが、申告期間中に「相続税についてのお尋ね」という書簡が届いた場合は、既に要調査対象とされている可能性大です。

申告期限を一日超過しただけでも悪意とみなされかねないので、期限までの納税が困難な方は延納や物納といった代替手段(※)を必ず税務署に申請してください。

(※)延納:納税不可能な金額を上限とした年単位の分割払い

   物納:土地などの物的財産をそのまま納付

1-3 時効期間が中断することもあるので注意

借金の返済をはじめとした支払い義務の時効は、督促や差押えが行われるとその時点で中断されます。

この原則は相続税においても例外なく適用されるうえ、税務署からの督促は厳格かつ頻繁に行われるため、実際に時効完成に至る望みはほとんどありません。

また、税務署は未納税者に対して差押えも積極的に行うため、相続税を未納のままやり過ごすことはそもそも不可能です。

2. 相続税の無申告や脱税は高確率でバレる!税務署の調査は、タンス預金も把握しているから逃げ切りは難しい

相続税に関する税務署の調査能力は非常に高く、被相続者の死亡情報から預貯金の移動まで全て把握できると考えても差し支えありません。

そのため、無申告や脱税は基本的にすぐバレます。本項では税務署が行う具体的な調査方法を通じて、相続税からの逃げ切りが難しい理由を説明します。

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2-1 死亡情報は税務署に把握される

被相続人が死亡した際、市区町村の役所に必ず提出しなければならないのが「死亡届」です。

死亡届の情報は、生前納めていた地方税等にかかる行政手続きのため、税務署に通知されます。

その後、被相続人が死亡した時点での資産状況は税務署によってすぐに調べられ、相続税申告の必要ありと判断された時点で遺族に案内が届きます。

なお死亡届の未提出には5万円以下の過料が発生する(戸籍法第137条)ので、間違っても「死亡したことを黙っていればいい」とは考えないようにしてください。

2-2 生前から税務署に目を付けられていることも

税務署は各家庭の資産状況を事細かに把握しているため、相続額が大きくなりそうな場合は生前から申告状況に対する監視が強化されることもあります。

また被相続人の財産を親族名義の口座で管理する、いわゆる「名義預金」も調査対象となるため注意が必要です。

また、相続税の節税対策として、生前贈与を行う方法もあります。

しかし、贈与税が課される場合もあるので、相続税をなるべく抑えたい場合は、自力であれこれ画策するよりも税理士に相談する方がおすすめです。

2-3 KSKを始め、税務署の調査能力は高く、調査権限は広い

被相続人の収入・財産に関わるデータは全てKSK(国税総合管理システム)に登録されており、相続税の発生が見込まれる世帯を税務署側は予め把握しています。

また、調査の際は口座情報や納税履歴を本人の許可なく確認できるうえ、海外への財産の移管についても、国際条約に基づく情報交換などを通じて全てチェックできます。

つまり、一般の人が考える所得隠しの手法は、まず通用しません。

万が一申告漏れがあった場合、相続人の自宅で税務調査が行われることになります。

なお普通は申告義務者の協力の下で行う「任意調査」で完結し、予告なしで自宅に押し入る「強制調査」まで発展することは極めて稀です。

とはいえ税務調査を受けた人の約8割が追徴課税を支払っているので、相続税の申告は必ず期限内に行うよう心がけてください。

2-4 タンス預金を疑われやすいケース

タンス預金とは金融機関を使わず自宅に現金を保管することです。しかし、相続税対策の一環で行おうとしているならば、思いとどまった方がいいでしょう。

なぜなら税務署は口座の入出金履歴を容易に確認でき、使途不明な出金があればすぐに税務調査へ移れるからです。

また、未申告のタンス預金が税務調査で見つかった場合、「悪質」という判断のもと重いペナルティを課される可能性が高くなります。

相続人がタンス預金の存在を知らなかった場合でも何かしらの加算税が発生してしまうので、タンス預金の有無は被相続人が生前のうちに聞いておきましょう。

【関連記事】相続税未申告時のリスクについてもっと知りたい方におすすめ

>コラム:タンス預金は税務署にバレる?お尋ねがあれば銀行口座をどこまで調査?

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2-5 相続税が無申告の場合税務調査が入る確率

国税庁が発表した令和元年度の調査実績によると、相続税の申告者115,267人に対して税務調査の件数は10,635件であり、およそ11人に1人が申告漏れ等を指摘されていることになります。

一方で無申告者に限った同年のデータでは、調査件数1,077件に対して申告漏れが921件あり、追徴課税率は実に85.5%にのぼります。

平成27年の法改正によって相続税の基礎控除が40%減額されたため、「自分は課税対象ではない」と勘違いした結果、税務署から思わぬ指摘を受けてしまうケースが後を絶ちません。

多くの税理士事務所は無料相談を実施しているので、課税の有無が分からない方もまずは気軽に問い合わせてみてください。

【関連記事】相続税未申告時のリスクについてもっと知りたい方におすすめ

>コラム:【相続税無申告】だと税務調査が来やすい?相続税を申告しない場合の罰則も解説

3. 相続税の逃げ切りができなかった場合の追徴課税と計算方法

本項では、税務調査が入って相続税の無申告・申告漏れを指摘された際、具体的にどのようなペナルティが課せられるのかを解説します。

それぞれの追徴課税の計算方法も紹介していきますが、自己判断せず、早めに税理士に相談するよう心がけてください。

3-1 無申告課税

相続税に限らず、税金の申告を期限内に行わなかった場合、必ず発生するのが無申告加算税です

課される税率は本来の納税額のうち50万円分までは15%、50万円を超える部分については20%となっています。

なお既定の申告期限後、税務調査が入る前に自ら申告した場合は「期限後申告」として扱われ、無申告加算税は以下のように変わります。

  • 法定申告期限より1ヶ月以内に自主申告した場合→免除※
  • 2ヶ月目以降、税務調査の事前通知が来る前に申告した場合→5%(5%)
  • 事前通知後、実際の調査開始より前に申告した場合→10%(15%)

※期限後申告までの納税、過去の無申告加算税の不適用等、一定の条件があります。

3-2 重加算税

重加算税とは、悪質な申告義務者に課せられる追徴課税です。基本的には、税金に関わる財産や書類に関して、明らかな隠匿行為が確認された場合に悪質認定を受けます。

その税率は過少申告の場合で追加で納めるべき課税額の35%、無申告の場合は課税額の40%と非常に高く、納付額は適正申告時より1ケタ多い事も稀ではありません。

また、過去5年以内に何らかの追徴課税を課されていた場合、増差額がさらに10%上乗せされます。

3-3 延滞税

延滞税とは文字通り税金の延滞に対して課せられるペナルティであり、その税率は「納付期限の翌日から実際に納付を完了するまでの期間」に応じて計算されます。

<納付期限翌日から2か月間の延滞税>
未納付の税額 × 7.3%もしくは特例基準割合※+1%のうち値の低い方 ÷ 365 × 滞納2ヵ月経過分の日数

<納付期限翌日から3か月目以降の延滞税>
未納付の税額 × 7.3%もしくは特例基準割合※+1%のうち値の低い方 ÷ 365 × 3か月目初日からの滞納

(※)銀行の短期貸出約定平均金利をもとにした割合。各年の前年11月30日までに財務大臣が告示

3-4 過少申告課税

過少申告加算税とは、本来の納税額より少ない金額を申告した場合のペナルティです。

税率は追加で申告・納付する金額の10%が原則ですが、その一部については15%に引き上げられます。

税率引き上げの対象になるのは、50万円を超える部分(期限内に50万円以上申告済なら期限内申告額を超える部分)です。

ただし、過少申告加算税が適用されるのは税務調査以後であり、事前に自ら修正申告を行った場合は一切課せられません。

少なく申告してしまう失敗は誰にでも起こりうることなので、誤りに気づいた時点で一刻も早く修正申告をしておきましょう。

3-5 刑事罰

税金の未納が意図的と判断されると、重加算税のみならず刑事罰を課せられることもあります。

文書偽造や粉飾決算、業務上横領など罪状は様々ですが、金額の大きさや手口の悪質さによっては、初犯で実刑判決を受ける可能性があります。

各種控除や投資運用など合法的に節税する手段はきちんと存在するので、相続税を少しでも抑えたい方は早めに税理士に相談するよう心がけてください。

【関連記事】相続税未申告時の罰則についてもっと知りたい方におすすめ

>コラム:相続税の追徴課税(4つ)を解説!内容や計算方法、時効の時期はいつ?

4. 相続税の還付が受けられる期間にも時効があることに注意

相続税を払い過ぎてしまった時、「更正の請求」を行うことで納付額の一部を還付してもらえる場合があります。

しかし、更正の請求は相続税の申告期限から5年以内に行う必要があり、この期限を過ぎてしまうとそれ以降はいかなる請求も通りません

相続税の払い過ぎは、とりわけ土地相続において発生する傾向があります。

その原因は、不整形地に対する補正等といった「土地の評価額を左右する要素」を知らず、知っていたとしても複雑で完璧に理解できていないことにあります。

知識・理解が不足している状態から更正の請求に着手すると、複数の専門家に書類作成を依頼する点も踏まえ、ことさら準備に時間がかかります。

5. 相続税の逃げ切りは現実的に不可能なため申告や節税については税理士に相談するのがおすすめ

相続税の無申告・過少申告を自覚しているのなら、消滅時効の完成まで逃げ切ることは不可能と考えるべきです。

監視は常に行われており、税務署の担当官が必要と判断した時には、日頃のちょっとした資金移動歴まで丸裸にされてしまうからです。

▼逃げ切りを考えた時に思い出したいこと

  • 相続税の消滅時効は5年経たないと完成しない
  • 故意の無申告or過少申告は7年に延長される
  • 死亡=相続発生は即時把握される可能性大
  • 遺産隠しはどんな手段を使ってもバレる
  • 加算税は最大で50%に達する(場合によっては刑事罰も)

申告にお困りの方や節税を考えている方は、極力税理士に相談するよう心がけてください。

 
監修者プロフィール
遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

 

 

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