最近、富裕層でなくても税務調査の対象となる事例が増えています。
多くのケースは悪意によるものではなく、無申告でも問題ないと安心して放置していたことが理由ですが、不用意に申告を怠ると延滞税や加算税など通常よりも重い税金が課されますので注意が必要です。
今回は相続税の無申告が招くペナルティーの具体的な内容や、税務調査の内容について解説します。
目次
1. 相続税を申告しなかったら(無申告)税務調査されやすくなるの?
「うちには大した財産もないし相続税なんて」と安心していた人を対象とする税務調査が増えているのが近年の特徴です。
基礎控除のルールがありますので、無申告という理由のみで税務調査の対象になるわけではありません。
無申告で税務調査の対象になるのは一部です。しかし申告が本当に不要か否かの判断には慎重になるべきです。
1-1 無申告でも問題ないケース
財産を相続したからといって必ずしも申告しないとダメというわけではありません。
相続財産から法律で決められた金額を控除(マイナス)して、それでも相続財産がプラスになる場合に限り、相続税の無申告が問題になります。
控除が適用されるパターンは複数あります。その代表的なものが基礎控除です。
基礎控除の額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されますので、相続人が子供二人だった場合、相続財産から4,200万円が控除されます。この場合被相続人の相続財産がトータルで4,200万円以下であれば相続税の申告は不要です。
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1-2 申告が必要なのに無申告の場合は税務調査されやすい
申告が必要である状態にもかかわらず、申告しないでそのまま放置をすれば、調査対象の選定対象として選ばれやすくなります。
生前の申告情報等から、各納税者の資産状況は容易に予測できるのです。そして実地調査等が行われ、ついに無申告が発覚してしまいます。
相続人が自ら申告して税金を納める形式をとっているため、申告しないままやり過ごせば税務署も見逃すかもしれないと考えるのは早計です。
相続税徴収における税務署の調査能力は私たちの予想を超えます。
税務署は相続税の申告が必要か否かを、相続発生前の段階からある程度把握しているのが現実です。
申告が必要なのに申告しない場合は、そのまま放置するといずれ税務調査の対象になると思ってください。
1-3 相続税はゼロ円でも、特例や控除を利用する場合は申告が必要
結果的に納める相続税がゼロだったとしても、特例・控除を適用するなら申告しなければなりません。
代表的なのは、不動産の課税評価額を大幅に減らせる「小規模宅地等の特例」を使うケースです。
しかし特例による減税には注意点があります。特例を使う場合は、適用の結果、納税額がゼロ円になるとしても、相続税の申告自体は必要になるのです。
基礎控除等による減税との大きな違いです。
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1-4 税務調査されやすい人の特徴
金融資産が多かったり海外不動産を所有していたり、やはり富裕層と言われる人たちは税務調の対象になりやすいです。
一方で富裕層といえなくても税務調査の対象になってしまうケースもあります。
相続税がかかるにもかかわらず申告書を提出しないで放置したり、提出した申告書や添付書類にに不備が見受けられる場合です。
個人で申告書を作成するとどうしても不備が生じてしまいます。
正直なところ、税理士に依頼しないで個人で申告書を作成した場合は税務調査がされやすいのが実情です。
どうしても税務調査を避けたいのであればやはりプロである税理士に依頼するのが無難と言えます。
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2. 相続税について申告漏れなどで税務調査が入る割合
平成30事務年度の公式データ(リンク)によれば、相続税の申告後に税務調査を受ける割合は単純計算で4人に1人(約24%)です。
また、実際に税務調査を受けた案件のうち8割を超える案件が何らかの不備や誤りを指摘されています。
税務調査の段階で申告漏れが発覚すると、本税の不足分に加えて延滞税や加算税も支払う結果になります。
余計な負担を避けるためにも最初の申告の段階で、できる限り正確な内容の申告書類の提出が望まれます。
申告書類の内容不備から生じる不利益の重さを考えると、早い段階から税理士に相談してリスクを減らしておくのも1つの方法です。
税理士が関与してない申告書に対して税務調査が入りやすのは事実です。
3. 相続税の申告漏れはなぜバレるの?どこまで調べられる?税務署はどこを見ているのか
相続税の徴収にあたり税務署には強力な調査権限が与えられています。
私たちの保有不動産、受け取った保険金額、預貯金の残高など、財産として一般によく知られるものについては、税務署は簡単に知ることができます。
KSK(国税総合管理)システムの恩恵もあって、税務署は私たちの生前の収入状況すらも把握できる立場にいるのです。
3-1 税務署は死亡情報はすぐに把握している
家族が亡くなると市役所に死亡届けを提出する義務がありますよね。
市役所は死亡届けを受け取ると、死亡した旨をそのまま税務署に報告する流れになっています。それゆえ税務署は死亡の事実を容易に把握できるのです。
死亡届けは戸籍法によって定められた義務であり、正当な理由なく届け出が遅れると罰則が課されます。
市役所に死亡届け出が提出された時点で、税務署は自ずと死亡の事実を認識するものと思っておきましょう。
3-2 税務調査対象者は生前から把握されている
将来の相続税の徴収に備えて、税務署は生前から私たちの資産状況を把握できるような体制を整えています。
後述するKSK(国税総合管理)システムを用いて私たちの収入状況はある程度税務署もわかっていますし、いくら程度の価値の不動産をどこに所有しているかも、固定資産税や登記簿を確認することで彼らは判断できます。
税務署は死亡の事実が発覚してからはじめて財産の調査に入るのではありません。
死亡の前から、どの程度の額が相続財産として見込まれるかを独自の調査にもとづいて事前に予想しているのです。
3-3 KSK(国税総合管理)システム
KSKシステム(国税総合管理システム)は、各税務署が共通で利用できる巨大なデータベースのようなものです。
このKSKシステムがあるおかげで、税務署は、その人が生きていた当時にどの程度の収入を得てどの程度の財産を相続したかを時間をかけずに把握できるのです。
税務署はKSKのデータをもとに、「このくらいの収入があれば死んだ後にこのくらいの資産は残っているはずだからこの申告内容は疑わしい」などと判断します。
タンス預金の存在を疑われるのもこのKSKのシステムがあってこそです。
3-4 税務署が承諾なしで調査できる情報
相続税を徴収するにあたり、税務署には強力な調査権限が与えられています。例えば、銀行に照会をかけて税務署は簡単に死亡者の預貯金残高を閲覧できます。
残高のみならず預貯金の出入履歴も開示されるため、不自然なお金の動きがあればその送金先や用途を怪しまれます。
高額になりがちな生命保険金の支払いも、生命保険会社側から税務署に支払調書が送付される仕組みなっているので、私たちが受け取った保険金の額を税務署は簡単に知ることができます。
なお、これら一連の調査には本人の承諾は不要です。
4. 申告していない期間に税務署がお知らせが届いた場合は要注意
相続発生後に税務署から相続税に関する書類が届く場合があります。書類が届いたからといって100%申告が必要なわけではありません。
しかし届く書類の内容によって重要度は違います。「相続税についてのお知らせ」ではなく、「相続税の申告等についてのご案内」が届いたのであれば、税務署側が申告すべき事案であると考えている可能性がきわめて高いです。
4-1 「相続税の申告等についてのご案内」
「相続税の申告等についてのご案内」が届いてしまった場合、税務署側が申告が必要な相続事案であると認識している確率が高く、早急に対応するべきです。
具体的には、期限内に相続税の申告書を提出するか、あるいは申告は不要だと主張するのであれば、同封されている「相続税の申告要否検討表」に申告不要に至った理由を記載する必要があります。
しかし「相続税の申告等についてのご案内」が届いた時点で、少なくとも税務署側は申告が必要な相続事案であると考えている可能性が高いのは間違いないです。
仮に自身で申告不要だと判断する場合であっても、念のため一度税理士に相談することをおすすめします。
4-2 「相続税についてのお知らせ」
「相続税についてのお知らせ」が届く場合は、「相続税の申告等についてのご案内」ほど深刻度合いは高くありません。
税務署側も、申告すべき相続財産があるはずだと確信を得ているわけではなさそうです。ただそうだとしても、やはり申告の要否を一度は検討してみる必要があります。
近年、基礎控除内におさまるかおさまらないかのギリギリのラインで申告しなかったところ、結果的に税務調査の対象となってしまったケースが増えています。
「相続税についてのお知らせ」も「相続税の申告等についてのご案内」もいずれも届かなかったにもかかわらず、税務調査に至ったなんて事例もあります。安心はできません。
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5. 相続税を無申告で税務調査が来た際のペナルティー・罰則
無申告のまま法定期限を過ぎてしまうと、納税する際にペナルティーが課されてしまいます。本来おさめるべき税金の額(本税)に加え、延滞税、無申告加算税が課されるのです。
法定期限後であっても、税務署から指摘を受ける前に自発的に申告をすれば負担の軽減が期待できます。
しかし税務調査が入ってしまうと、高額の加算税を支払う結果になり得ますので注意が必要です。
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5-1 無申告加算税
無申告加算税は申告すべき状況にあったにもかかわらず申告を怠ったことに対するペナルティーです。
税務調査の事前通知を受け取った後なら、無申告加算税は期限内に納付すべき額の15%(50万円以上の部分は20%に加重)されます。
ただし、自分で無申告に気付いて正しい手続きを取った人については、税率を5%(納付すべき額のうち50万円を超部分にも適用)とする軽減措置があります。
無申告である以上ペナルティーを完全に免れるのは難しいですが、税務署に指摘される前の段階で早めに動けば加算税を低くおさえることができます。
5-2 延滞税
文字通り納税を延滞した事実により発生する税金です。世間一般の延滞料金と同じに考えて問題ありません。
延滞税率は延滞期間によって異なり、年7.3%か年14.6%のいずれかを延滞税として支払います。
法定期限を2か月経過する前に申告すれば年7.3%でおさまりますし、逆に法定期限から2か月を過ぎると14.6%の延滞税を支払う義務が生じます(延滞税率は特例により修正されるのが通常です。
税率は毎年変わりますので詳しくは国税庁のホームページを参照してください)
無申告のまま納税を延滞してしまっても早期に書類を揃えて申告すれば、延滞税率を半分程度にまでおさえることができますので迅速な対応が求められます。
5-3 重加算税
単に申告しなかったにとどまらず、課税を免れる悪意があったと判断された場合は、無申告加算税の代わりに金額の大きい重加算税が課されます。
無申告加算税の税率最高でも20%であるのに対し、重加算税は40%です。平成29年1月1日以降、過去5年以内に同じ税目について加算税を課された人については、さらに10%上乗せして50%とする過重措置も導入されています。
相続税の負担は確かに重いですが、だからといって相続財産を隠すなど税務署から悪意を疑われる行為は絶対にやめましょう。
税務署から悪意があるとみなされ重加算税が適用されてしまう危険が高まります。
5-4 相続税の申告をしなかった場合に税務調査がきたときの流れや注意点
申告対象であるにもかかわらず、相続税の申告をしないでいると、どこかのタイミングで税務署から税務調査をする旨の連絡が入ります。
税務調査には任意調査と強制調査がありますが、巨額の脱税・強い悪意等の特別な理由がないかぎり、ほぼ任意調査になると考えて問題ありません。
税務署から調査を実施するにあたり都合の良い日程を聞かれますので、希望の日取りを伝えましょう。
調査の場所は被相続人の最後の住所地になるのが原則ですが、場合によっては、相続人の住所や、相続財産のある場所で調査が実施される場合もあります。
6. 相続税の時効は?申告をせず逃げ切ることはできる?
相続税の申告・納付は、その期限から5年(不正と判断されるケースでは7年)で時効にかかります。
それぞれ期限は10か月と定められているため、時効が完成するには少なくとも死亡時から5年と10か月を要します。
相続税には時効の制度がありますが、現実には申告をしないで相続税の支払いを免れるのは極めて困難です。
時効を狙って下手に放置をすると、時効直前に税務調査が入り、法外な延滞税が上乗せされるリスクが生じます。
時効によって相続税を免れようとするのは諦めたほうが得策です。
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7. 相続税の申告をせずに税務調査が来た場合は税理士に相談
申告しないまま放置した結果、税務調査の案内が来てしまった場合ですが、税理士に相談し、なるべくなら調査に立ち会ってもらうことをおすすめします。
税務調査の当日、職員から相続財産につきさまざまな質問や指摘を受ける場面が予想されます。
税理士の立ち合いなしで個人で対応した場合、 求められた説明が上手く出来なかったり、そのつもりはないのに遺産隠しの意図を気取られたりしがちです。
税務署の担当官と上手くコミュニケーションがとれないと、不必要に否認事項(申告の誤り)が指摘されるだけでなく、延滞税や無申告加算税も重くなる恐れがあります。
リスクを最小限におさえるため、相続税に詳しい税理士に相談し調査に立ち会ってもらいましょう。
8. まとめ
今回は相続税を申告しないとことが招くリスクについて解説させていただきました。
- 務署には相続税の徴収について強力な調査権限が与えられている
- 税務署はKSKを活用するなどして生前から私たちの財産状況をチェックしている
- 無申告のまま放置すると将来的に延滞税や無申告加算税などのペナルティーが課される可能性がある
以上の通り、税務署の調査能力は私たちが思っている以上に高いです。申告が必要であるにもかかわらず無申告を貫くと、後々になって重いペナルティーが待ち受けています。
税理士を頼ることで税務調査そのものを回避したり、ペナルティーの負担が軽くなる結果も期待できますので、気になる方は一度税理士に相談することをおすすめします。
遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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