被相続人が亡くなると相続が開始します。
相続が開始すると被相続人の遺産を相続人などが取得することになりますが、ある一定の場合に相続財産に対して相続税がかかってきます。
相続税は、財産を相続した場合に必ずかかるわけではありません。
ではどのような場合に相続税がかかってくるのでしょうか?
相続財産の合計額が基礎控除額を上回る場合に相続税がかかってきます。
またどのような財産が相続財産に含まれるかというと、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものが対象になります。
目次
そもそも相続税はなぜかかるの?
ではそもそもなぜ相続税がかかってきてしまうのでしょうか?
故人がせっかく残してくれた遺産を受け継ぐだけなのに、税金がかかってしまうのは何故なのでしょうか?それには大きく理由が3つあります。
相続税がある理由
理由1.富の再分配
所得や資産の多い人からより多くの税金を徴収し、社会保障などへ再分配して、現在裕福でない人も平等に暮らせるようにしようという意図があります。
不平等対策の一環で、国民間の経済的格差を是正し、格差の固定化を防止する目的があります。
理由2.所得課税の補完
被相続人の生前における所得について、相続時に精算的に課税します。
また、相続財産を取得した相続人の純資産の増加を所得とみて、税負担を求めています。
※所得課税
本来被相続人が払うべきであった所得税の代わりに、財産を引き継いだ相続人が相続税として精算するという考え方
理由3.社会保障料の調達
平成25年度の改正の基となった平成24年3月の税制抜本改革法附則において触れられており、「資産課税においては……老後における扶養の社会化の進展への対処等の観点からの相続税の課税ベース、税率構造等の見直し……について検討を加え……」とあります。
老後における扶養の社会化の進展への対処のために相続税について見直すということは、相続税の意義として、社会保障料の調達も大きな役割であるといえます。
相続税の仕組み
それでは相続税はどのような仕組みになっており、どのように課税されるのでしょうか?
相続税は、個人が被相続人から相続などによって財産を取得した場合に、その取得した財産に課せられる税金のことをいいます。
相続税がかかる場合、相続税の申告及び相続税の納付が必要になります。
相続税は相続遺産がある場合に必ずかかってくるものではありません。相続税がかからない場合、申告は不要です。
それでは相続税がかかるか否かはどのようにして決まるのでしょうか?
答えは、相続遺産の総額が基礎控除の範囲かどうかです。
基礎控除は、以下のように計算します。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人数)
この基礎控除での判別は、前トピックで触れた相続税の理由のひとつ、富の再分配、つまりは格差をなくす目的に沿っています。
基礎控除額は法定相続人の数で決まり、法定相続人には養子も含まれます。ただし人数に上限はあります。
なお、養子縁組をすると法定相続人が増えるので節税対策として利用される場合があります。
また、基礎控除額を上回っても、配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用することによって、相続税の支払いがなくなるケースもあります。
相続税がかかる人の割合
2015年から相続税課税割合は亡くなられた方の8%に増えています。令和元年の調査でも、相続税課税割合は8.3%となっています。
これは2015年1月に相続税法の法律改正が行われ、相続税の基礎控除額が下がったことが理由になります。
改正される前は、基礎控除額の計算方法は以下の通りでした。
改正前の基礎控除額=5,000万円+(1,000万円×法定相続人数)
この改正は相続税の理由の3番目に挙げた、社会保障料の調達という目的の影響があるといえます。
相続税がかかるもの・相続税の対象となる財産一覧
それでは相続税はどのような財産にかかってくるのでしょうか?
相続税の計算に関わってくる財産のことを相続財産と呼びます。
相続財産は、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものを含みます。
また、以下に挙げる財産も相続税法の規定などにより相続税の対象となります。
①死亡退職金、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金など。
②被相続人から生前に贈与を受けて、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地、非上場会社の株式や事業用資産など。
③教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額。(死亡日において受贈者が23歳未満であるなど一定の場合を除く)
④結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税の適用を受けた場合の管理残額。
⑤相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から財産の贈与を受けている場合。(一定の特例を受けた場合を除きます。)
⑥被相続人から、生前、相続時精算課税の適用を受け取得した贈与財産。
⑦相続人がいなかった場合に、民法の定めによって相続財産法人から与えられた財産。
⑧特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額で確定したもの。
相続税がかからない非課税財産の範囲・例
相続税のかからない財産には、どのようなものが該当するのでしょうか。
相続税がかからない財産のうち主なものは以下の通りです。
①墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物。
ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや商品として所有しているものは相続税がかかります。
②宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によって取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なもの。
③地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利。
④相続によって取得したとみなされる生命保険金のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分。
⑤相続によって取得したとみなされる退職手当金等のうち500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分。
⑥個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすもの。
⑦相続や遺贈によって取得した財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの、あるいは、相続や遺贈によって取得した金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの。
相続税がかかるかどうか判断する方法
それでは相続税が相続した相続財産にかかってくるかどうかはどのように判断すれば良いのでしょうか?
前述のトピックでお話しした通り、相続財産に対して相続税がかかってくるかどうかは、相続財産が基礎控除額内にあるかどうかが基準となります。
基準となる基礎控除額の計算の仕方は以下の通りです。
具体的な例を挙げると、被相続人Aが死亡し、相続人が妻の相続人B、子の相続人Cの2人だったとします。
この場合の基礎控除額は、以下の通りです。
基礎控除額=3,000万円+(600万円× 2)=4,200万円
つまりこのケースですと、相続財産の合計が4,200万円を超えていた場合に相続税がかかってくることになります。
実際には借金などの債務や葬式費用を相続財産から差し引いてから検討します。
葬式費用は相続の場面において必ず生じるものですので、控除が認められています。
STEP1.相続税の対象となる財産の総額を計算する
相続税がかかるか否かについての基準はご紹介しました。
それでは相続税がかかるかどうかの判断基準となる相続財産はどのように計算するのでしょうか?
相続税の総額の計算は、以下のようになります。
①まず、相続人など財産を取得した各人の課税価格を計算します。
純資産額(赤字の時は0)=非課税財産の価額+相続時精算課税に係る贈与財産の価額ー債務及び葬式費用の額
各人の課税価格=純資産額+相続開始前3年以内の贈与財産の価額
課税価格は1,000円未満は切り捨てます。
②各人の課税価格を合計して、課税価格の合計額を計算します。
課税価格の合計=各相続人の課税価格の合計
③課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算します。
課税遺産総額=課税価格の合計額ー基礎控除額
基礎控除額は次の項目で詳しくご説明します。
STEP2.法定相続人の数を決定し、基礎控除額を計算する
基礎控除額の総額は法定相続人の数によって決定します。
計算には以下の式を用います。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数が増えれば、基礎控除額も増えます。
STEP3.課税遺産総額から基礎控除額を引く
STEP1.で出した課税遺産総額から、STEP2.で出した基礎控除額を差し引きます。
課税遺産総額ー基礎控除額
この計算ででた金額が0円以上の場合は、基礎控除額の範囲を超える財産があったということになるので、相続税が発生します。
まだ配偶者控除や小規模宅地等の特例などの特例を適用させていないので、これから支払うべき相続税の金額が0になる可能性もあります。
STPE4.相続人ごとに分配する
STEP3.で出した金額を、相続人の遺産分配の割合に応じて分配します。
残った金額×相続人の相続分=相続人の相続税がかかる相続遺産
相続人の相続分について、特に遺書などで指定されていない場合は、相続人たちの話し合い、つまり遺産分割協議において決めるか、または法律の規定通り、法定相続分で分配します。
STEP5.特例や控除分を計算し、最終的な相続税の金額を計算する
STEP4.にて、各相続人の相続税がかかる相続遺産が算出されました。
この金額に対して、各相続人が適用できる相続税の特例を検討していきます。
例えば配偶者の場合、配偶者控除を利用できるかもしれません。例として配偶者控除について説明します。
配偶者控除とは、納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には一定の金額の所得控除が受けられるという制度です。
一定の要件があり、例えば内縁関係では利用できず、民法上の配偶者であることだったり、年間の合計所得金額が48万円以下であることだったりなど、合計4つの要件に全て当てはまる必要があります。
それでは、特例の適用を考慮した結果の金額が算出されました。
あとはこの金額に税率を乗じて、最終的な相続人の相続税の金額を計算することができます。
相続税がかかる場合、発生する税金の計算方法
被相続人が確定申告を行わなくてはならなかった場合、相続税の申告以外にも支払う税金が発生する可能性があります。
相続人は被相続人の代わりに、所得税や消費税の確定申告を行います。これを「準確定申告」といいます。
なおこの準確定申告にも申告の期限があり、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内となっています。
また準確定申告が必要になった場合、準確定申告の申告書の提出先は被相続人の住所地を管轄とする税務署となります。
相続税がかかる場合は期限内に申告・納税の手続きが必要
相続税がかかってくるとわかった場合、いつまでに何をすればよいのでしょうか?相続税は税金ですので期限内の納付がマストです。
また相続人から申告する税ですので、必ず相続人自身で確認して遅れないように気をつけましょう。
相続税の申告期限
相続税の申告及び納税が必要となった際の相続税の申告期限は被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
例えば2021年1月6日に被相続人が死亡し、その日に死亡を知った場合、2021年11月6日までに申告及び納付が必要となります。
なお提出期限が土・日曜日・祝日などに当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
相続税の申告方法
相続税法に申告方法も規定されています。相続税の申告書は、持参または郵便などを用いた送付により、税務署へ提出します。
相続税の納税方法
相続税の納付方法は4つあります。
①金融機関の窓口で支払う
最も一般的な方法は金融機関の窓口支払いです。
銀行、信用金庫など、どちらの銀行でも納税することが可能です。
手数料は不要で領収証書も発行されます。
②クレジットカードで支払う
2017年1月からインターネット上で納付できるようになり、夜間休日を問わず納税することが可能になりました。
利用する際には国税庁ホームページ、またはe-taxから「国税クレジットカードお支払いサイト」にアクセスして納税を行います。
注意点もあり、金額の上限設定があること、領収証書が発行されないこと、納付額に応じた決済手数料がかかってしまうことが挙げられます。
③コンビニエンスストアで支払う
納付金額が30万円以下の場合、コンビニでの納税も可能です。
事前に納付書を作成し、その納付書を税務署に持参して「バーコード付納付書」を発行してもらう必要があります。
このバーコード納付書は必要箇所に既に印字がなされた状態で発行しますので、納税者本人が新たに何か記入する必要はありません。
④税務署の窓口で支払う
現金と納付書を持参することで、税務署の窓口でも納税することが可能です。
ただし、納税できる税務署窓口は、申告書を提出した管轄の税務署のみとなります。
期限内に申告・納税が完了しない場合はペナルティがあるので注意
相続税の申告・納税が申告期限に間に合わない場合は、さらに課税される以下のようなペナルティがあります。
・無申告加算税
正当な理由なく、相続税の申告を期限までにしなかった場合、無申告加算税が加算されます。期限後に自主的に申告した場合の無申告加算税は追加納付した税金額の5%となります。
なお、申告期限から1か月以内に申告した場合はこちらの税は加算されませんので、万が一申告期限を過ぎてしまってもできるだけ早めに出すことが必要といえます。
・延滞税
納付期限の翌日から納付した日までの日数に応じて、利息に相当する金額が課税されます。
相続税の部分にのみかかり、延滞した結果加算された金額にはかかってきません。
・重加算税
相続税の申告において隠蔽が認められる場合には、重加算税が課税されます。
・過少申告加算税
相続税の申告額が少ない場合は過少申告加算税が加算されます。
相続税がかからない場合でも特許や特例を適用するなら申告が必要なケースもある
相続税は、遺産総額が基礎控除の範囲内であれば申告が不要であるとご説明しました。
また、相続税には様々な控除・特例があり、うまく適用させることができれば、相続税の費用を大きく抑えることが可能です。
そういった前提を踏まえると、相続遺産の課税価格が基礎控除以上であった場合にも特例を適用することにより、税額が0円になったというのは現実で起こり得ます。
ではその際に申告は必要なのでしょうか?
申告が必要な特許・特例
申告しないと適用されない控除は申告が必要になります。
・配偶者控除
・小規模宅地等の特例
・農地の納税猶予の特例
・寄附金控除など
申告が不要な特許・特例
以下の控除は申告がなくとも自動的に適用されますので、以下のものを適用して基礎控除の範囲内であった場合は申告は不要です。
・基礎控除
・障害者控除
・未成年控除
・数次相続控除
・相続時の精算課税制度
相続税を減らすためには節税対策を行う
それでは支払う相続税を減らすためには何を行えば良いのでしょうか?
節税対策として以下の方法が挙げられます。
・生前贈与をして相続財産を減らす。
・生命保険金をかけて、生命保険金の非課税枠を利用する。
・養子縁組で法定相続人を増やす。
・小規模宅地等の特例など、控除や特例を利用する。
挙げた方法以外にも、節税につながる手法はまだまだあります。
相続税が大きくかかってきそうな場合には、相続人の負担を減らしてあげるためにも種々の節税対策は有用ですので、一度専門家である税理士に相談することをお勧めします。
相続税がかかるものについて詳しく知りたい場合は税理士に相談
相続税の手続きは申告書の作成や相続税にかかるものについての計算など、いろいろな作業が必要となります。
また、現在お持ちの財産について、相続財産はどのくらいになるのか、早めのうちから把握しておくことは将来の相続税の節税対策にとって有用です。
相続を考えた際にはぜひ一度、専門家である税理士に相談して、財産を残すため・受け継ぐためのより良い方法を考えてみませんか?
また相続税がかかるものについて詳しく知りたい場合は、専門家である税理士にぜひご相談ください。
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。