相続税は原則、現金で一括納付が条件ですが現金一括で納めることがどうしても難しい場合に、分割で納める「延納」、さらに物で納める「物納」が認められています。物納するためには厳しい条件があり、それらを満たさないと物納はできません。今回は、相続税の物納について、その条件や物納できる物について解説します。
物納をするための条件
ここでは具体的に物納ができる条件を解説していきます。
条件1:延納によっても金銭で納付することが難しいこと
相続税は原則として現金で一括納付が求められますが、相続した財産の中には簡単に現金化できないものもあります。たとえば、不動産や上場していない株式などです。これらの財産を現金化するには時間がかかり、また市場の状況によっては適切な価格で売却することが困難な場合もあります。そのため、一括納付や延納(分割払い)による納付が難しいと認められる場合、物納が認められる可能性があります。
物納とは、納税義務者が相続税を金銭ではなく、不動産や株式などの相続財産で納めることを指します。しかし、物納が認められるのは、納税者が金銭での納付が困難であることを証明できる場合に限られます。
条件2:物納できる財産が日本国内にあり、種類と順位を満たしていること
物納には財産の種類によって申請できる順位が定められています。物納できる財産は、原則として日本国内に所在するものに限られ、相続により取得した財産から選定されます。
第一順位の財産には不動産や上場株式などが含まれ、これらが物納に適さない場合に限り、第二順位以降の財産が物納の対象となります。
物納を申請する際には、これらの順位に従って適切な財産を選定し、申請する必要があります。
条件3:物納する財産が物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)に該当しない
物納には適用できる財産と適用できない財産があり、物納に適さない財産を管理処分不適格財産といいます。
これは、権利関係で紛争中の不動産や管理費用や処分費用が相続税課税価格より高くなりそうな財産などが含まれます。
物納を申請する際には、申請する財産がこれらの管理処分不適格財産に該当しないことを確認する必要があります。
物納できる財産は、国が比較的容易に管理・処分できるものに限られるため、これらの条件を満たさない財産は物納の対象外となります。
条件4:物納申請期限までに、物納申請書と物納手続関係書類を提出すること
物納を利用するためには、相続税の納税申告と同様に、一定の期限内に物納申請を行う必要があります。
この期限は、相続開始を知った日から10ヶ月以内です。
物納申請には、物納申請書だけでなく、延納を利用しても金銭で相続税が納税できない理由書や、物納しようとする財産の詳細を記載した財産目録や、登記事項証明書や住宅地図の写しなど、複数の書類が必要になります。
これらの書類を期限内に正確に提出することが、物納を利用する上での重要な条件となります。
物納制度は、納税者にとっては貴重な選択肢の一つですが、その適用条件は厳しく、すべての相続人やすべての相続に適用されるわけではありません。
物納を検討する場合には、専門家の助言を得ながら、適用条件や必要書類、申請手続きの詳細を正確に理解することが重要です。
★つぐわんワンポイント解説★
1. 現金で一括納付が難しい場合、物納が選択肢になりますワン
不動産や上場していない株式など、すぐに現金化できない財産があるときは物納が便利ですワン。
2. 物納する財産は、日本国内にある必要がありますワン
物納には順位があり、不動産や国債などが優先されますワン。適切な財産を選んで申請しましょうワン。
3. 管理処分不適格財産は物納できませんワン
紛争中の不動産や価値が不明確な財産は避ける必要がありますワン。
4. 物納申請は、相続開始から10ヶ月以内に行う必要がありますワン
必要な書類を期限内に正確に提出しましょうワン。物納は慎重に検討し、専門家の助言を得ることが大切ですワン。
物納できる財産には申請できる順位がある
物納申請の際には、これらの順位に従い、適切な財産を選定する必要があります。物納が認められるかどうかは、提出された書類や申請された財産の状況によって税務署が決定します。したがって、物納申請を検討する場合には、専門家のアドバイスを受けながら、物納を認められる財産と適切な書類の準備を行うことが非常に重要です。
①第一順位 不動産、船舶、国債、地方債、上場株式など
物納制度における第一順位の財産は、国が管理・処分しやすいとされる財産です。
これには不動産、船舶、国債証券、地方債証券、および上場している株式などが含まれます。
これらの財産は市場での流動性が高く、価値の評価が比較的容易であるため、物納に最も適した財産と考えられています。
物納を申請する際には、まずこれらの財産から選定することが求められます。
②第一順位の2不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
物納劣後財産とは、一般的な物納財産に比べて使用収益に制約があるため、物納許可後に処分しづらい財産を指します。
例えば、特定の権利が設定されている不動産や、事業を休止している会社の株式などがこれに該当します。
これらの財産は、第一順位の財産が物納に使用できない場合に限り、物納の対象として考慮されます。
③第二順位 非上場株式等
第二順位の財産には、上場していない株式や社債などが含まれます。
これらは市場での流動性が低く、実際に処分することが難しいため、第一順位の財産に比べて物納に適さないと考えられています。
しかし、他に適切な財産がない場合には、これらの財産も物納の対象となることがあります。
④第二順位の2 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第二順位の財産の中でも、事業を休止している会社で特に処分が困難になる非上場株式を指します。
これらは、特定の条件や制限の下で売却することになり、物納にはさらに不適切とされます。
しかし、他に適切な財産が全くない場合には、最終手段としてこれらの財産も物納の対象になる可能性があります。
⑤第三順位 動産
動産とは、不動産や株式以外の物理的な財産のことで、車両や貴金属、美術品などが含まれます。
これらは通常、物納の対象とはなりにくいですが、他に適切な財産が一切ない場合に限り、物納に充てられることがあります。
動産の保管や処分には特別な配慮が必要であり、そのプロセスは通常の物納申請よりも複雑になる可能性があります。
物納申請の際には、これらの順位に従い、適切な財産を選定する必要があります。
物納が認められるかどうかは、提出された書類や申請された財産の状況によって税務署が決定します。
したがって、物納申請を検討する場合には、専門家のアドバイスを受けながら、物納を認められる財産と適切な書類の準備を行うことが非常に重要です。
物納する場合の申請手続き
物納に必要な申請書と必要書類
物納の申請をする際には、物納申請書に加えて、延納を利用しても金銭で納付することが困難である理由書、物納しようとする財産の詳細を記載した物納財産目録、物納に充てる財産の写真や地図など、財産の状況を明確に示すための書類が必要となります。また、物納財産が不動産の場合は、登記事項証明書などの公的書類の提出も求められることがあります。これらの書類は、物納の許可を受けるための重要な提出書類根拠となるため、事前に準備しておくことが重要です。
物納の許可までの審査期間
物納申請書及び必要書類を提出した後、税務署による審査が行われます。この審査期間は、申請内容や提出された書類の内容、物納申請された財産の数によって異なりますが、一般的には申請から数週間から数ヶ月を要することがあります。税務署は、提出された書類や財産の状況を慎重に審査し、物納の可否を3ヶ月以内(最長9ヶ月まで延長される場合があります。)に決定します。この期間中、税務署から追加書類の提出要求や質問がある場合もあるため、迅速に対応することが求められます。
物納することになった場合の物納財産の価額
物納が許可された場合、物納財産の収納価額は、原則として相続税の課税価格計算に基づいた相続財産の価格となります。しかし、物納申請時から収納までの間に財産の状況が著しく変動した場合は、収納時の現況で価額を評価し直すことがあります。
物納することになっても、利子税の納付は必要
物納を利用しても、相続税の納税義務が免除されるわけではありません。物納財産の価額が相続税額に相当する場合でも、物納申請期限から物納の許可による納付があったものとされた日までの期間に発生した利子税は納付する必要があります。この利子税は、物納による相続税の納付が遅延したことに対する遅延利息として課されるため、物納手続きを迅速に行うことが重要です。
物納は、特定の条件下でのみ利用できる相続税の納付方法です。
物納申請を検討する場合には、申請手続きの流れや必要書類、物納財産の選定基準など、複雑なルールを理解する必要があります。そのため、物納を検討する際には、税理士や専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら申請を進めることが望ましいです。
★つぐわんワンポイント解説★
「審査期間で価格の増減があったらどうなる??」
申告した後に物納の許可をもらうまで、または本当に財産を渡す時に、その価値がガラッと変わっちゃうことがあるんだワン。
たとえば、増資や減資が行われたり、不動産の地目が変更したりすることがそれに当たるワン。
そんな時は、税務署が「ちょっと待って、もう一度計算し直そうか」と再評価をすることがあるんだワン。
だから、物納を考えている時は、申告した時の状態が維持されそうな財産か、よくチェックすることが大切ワン。
専門家に相談して、しっかりと準備をしておくと安心だワン。
物納と物納できる財産を売却して現金納付するならどちらがいい?
物納の選択は、相続税の納税方法として特別なケースに限られます。現金での納税が可能な場合、一般的にはその方がシンプルで手続きが簡単です。しかし、納税資金の調達が困難な場合、物納は有効なオプションになります。以下では、物納と財産を売却して現金で納税する場合のメリットとデメリットを比較します。
物納する場合のメリット・デメリット | |
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メリット |
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デメリット |
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物納財産を売却して納付する場合のメリット・デメリット | |
メリット |
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デメリット |
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※売却可能な資産があるのであれば選択できるものではない
物納する場合のメリット・デメリット
- メリット
- 納税資金の調達が不要:現金を用意する必要がなく、財産そのもので納税できるため、資金繰りの問題を解決できます。
- 収納価格は相続税の課税価格になる:物納される財産の価値が申告時より低くなっても、収納価格は相続税の課税価格となる。そのため、相続財産を売却したけど相続税額に足りずに、追加の納税資金確保のため奔走する必要がない可能性があります。
- デメリット
- 手続きが複雑:物納には細かな要件と複雑な手続きが伴います。専門的な知識が必要となるため、税理士等の専門家のアドバイスが求められます。
- 利子税の発生:物納の申請から収納までの間、利子税が発生する可能性があります。
- 収納価格は相続税の課税価格になる:物納される財産の価値が申告時より高くなっても、収納価格は相続税の課税価格となる。そのため、相続財産を売却して相続税額や諸費用を支払っても、手元に現金が残る状況を作り出せない可能性があります。
物納財産を売却して納付する場合のメリット・デメリット
- メリット
- 現金化による柔軟性:財産を売却し、現金化することで、納税資金を確保できます。また、余剰資金は他の用途に使用できます。
- 納税額の確定:現金で納税することで、納税額が確定し、利子税の心配がありません。
- デメリット
- 売却に伴うコスト:財産を売却する際には、仲介手数料や税金が発生します。また、市場状況によっては希望する価格で売却できないリスクがあります。
- 時間と労力の要求:財産を売却するためには、市場での価格交渉や手続きに時間と労力が必要になります。
実務上多いのは不動産売却して現金で納付すること
実際には、不動産などの財産を売却し、その資金で相続税を納付するケースが多く見られます。これは、物納の適用条件が厳しく、手続きが煩雑であるためです。また、不動産を売却することで、資金の柔軟な運用が可能となり、相続後の資産管理においても有利に働くことがあります。
物納の選択肢を検討する際には、財産の種類、相続人のニーズ、市場状況などを総合的に考慮し、専門家と相談しながら最適な納税方法を選択することが重要です。
この記事の監修者:畠山 義輝(はたけやま・よしてる)
税理士
1993年 国税局入局 国税局、税務署勤務
2023年 日本経営ウィル税理士法人 入社
2023年 税理士登録
税務署にて、個人課税部門で統括官等を経験。国税局で査察部、徴収部に在籍し、所得税法・法人税法・相続税法違反の査察調査や滞納処分免脱罪の調査に従事。
また、税務相談室で相続税に関する質問に対応し、幅広い知識と実務経験を持つ。
畠山税理士が所属する日本経営ウィル税理士法人はこちら