相続財産調査の中で、支出はあるものの使い道について裏が取れない「使途不明金」は、税務調査で指摘される事項の典型です。本記事では、相続税にかかる税務調査で使途不明金を指摘されやすい例、および指摘後の適切な対応を解説します。
目次
相続での「使途不明金(しとふめいきん)」とは?
相続における使途不明金とは、被相続人が亡くなる前後に発生した用途不明の出金があり、そのお金がどこで・誰が所有し管理しているのか分からなくなった財産を指します。
親族が勝手に預金を引き出したようなケースはもちろんのこと、生活費や医療費などの真っ当な使い道だったとしても、それを証明する領収書等がなければ使途不明金とみなされます。また、被相続人自身が生前に預貯金を引き出していた場合でも、その後のお金の流れが分からなくなっているケースは少なくありません。
このように使途不明金を指摘される可能性は誰にでもあるので、相続額の計算にお困りの方は早めに税理士に相談するよう心がけてください。
なお、遺産隠しの目的で不正に用途を偽装、もしくは用途不明にしたと認められる場合は、使途不明金ではなく「使途秘匿金」として扱われます。この場合、重加算税と呼ばれる多額の追徴課税が課される他、場合によっては刑事訴追に至ります。
相続税の申告で使途不明金があったときには税務調査される?
使途不明金は経費として遺産から差し引くことは出来ません。実際に取得できた遺産の価額に使途不明金を含める形で、課税対象になる価額を計算します。
使途不明金の存在に一切触れず、実際に取得できた遺産の価額に基づいて相続税申告した場合には、遺産隠しを疑われて税務調査の対象に選定されやすくなります。
税務調査では、出金者の特定や使い道の確認のほか、被相続人宅にて現金の保管がないか入念に調べられます。
その結果、用途不明の出金額が相続人その他の親族名義になっていると判明した場合場合、みなし贈与認定や不当利得返還請求権によって課税価格が増え、相続税額の増加分を納付せざるを得なくなります。
税務調査で使途不明金と認識されやすい5つの例
被相続人の死亡直前(直後)の出金、および高額ないし頻繁な出金は、税務調査で使途不明金として用途チェックが入りやすいものです。
また、被相続人以外の第三者からの出金があった場合、相続税申告のみならず遺産分割の点でも多大な問題が生じます。
1.死亡前の出金
被相続人が亡くなる前の出金は、生活費としては不自然な金額に達していると、生前贈与や名義預金などの可能性を疑われます。
入院費用の精算準備やお墓の生前購入といった正当な理由である場合は、領収書など使途を証明できるものを必ず保存しておかなければいけません。
また、被相続人が亡くなる3年前までの生前贈与、および半年前までの直前引き出し(用途不問)については、相続財産の一部として相続税評価額に加算されます。
この点を考慮せずに申告すると使途不明金をほぼ必ず指摘されるので、相続税のことはなるべく被相続人が存命のうちから税理士に相談しておいてください。
2.死亡直後の出金
銀行では、口座名義人が死亡すると、その連絡を受け次第、対象の口座の入出金取引を一時的に凍結する運用になっています。
凍結の直前には、当面の支出のため慌てて出金されることが多く、その後の具体的な使い道が不明瞭なままになっているケースが少なくありません。上記の出金分につき、税務署は状況を理解しつつも「使途不明金」として目を付けます。
基本的には葬儀費用や準確定申告など、「被相続人のために」出金されたお金は課税対象外です。
しかし、生活費など私用に引き出したお金に関しては、平成30年の法改正により相続財産として扱われるようになりました(※)。よってこれを加味せずに相続税を申告した場合、使途不明金として税務調査を受けやすくなります。
(※)出金者以外の相続人が「相続財産として扱うべき」と主張した場合のみ
3.急な多額の出金
タイミングに関わらず、被相続人の口座から唐突に多額の出金があれば、税務署は必ずマークします。数千万円~億単位の預金を下ろして自宅に隠す人もいるため、金額により、被相続人宅を直接確認しようと担当官がやってきます。
被相続人の口座から大金を引き出した際は、支払先から見積書や領収書をもらい、いつでも情報開示できるようにしておいてください。
4.特定の時期からの頻繁な出金
税務署は毎回の出金額のみならず、出金頻度に関してもつねに目を光らせています。
目立たないようにタンス預金を増やしていたり、貴金属や骨董品に代わっていたりと実例は様々ですが、いずれにしても特定の時期から出金が相次いでいた場合は使途不明金を指摘される可能性が高くなります。
また、出金の頻度が高ければ、それだけ税務調査で聞かれることも多くなるため、相続人の精神的負担も大きくなります。
被相続人の口座から不明瞭な出金が多い場合は、必ず税理士に相談するよう心がけてください。
5.被相続人でない第三者による出金
被相続人が入院中ないし寝たきりの状態であれば、家族が代わりに預金管理を行うこともあるでしょう。
死亡直後の出金と同じく「被相続人のための」出金であれば何も課されることはありませんが、問題はそれを証明できない場合です。
税務署からはもちろん、他の相続人からも私的流用の可能性を指摘されかねず、疑いを晴らすのも非常に困難になります。
被相続人から預金管理を任されている場合は、介護や通院など諸般の領収書を必ず手元に残しておくよう心がけてください。
相続税の使途不明金について税務調査ではどのように、どこまで調べるの?
相続税の申告後に使途不明金の存在が明らかになると、税務署はまず準備調査として預金取引の照会や各種資料の精査を行います。その後納税者に事前通知を行ったうえで臨宅調査を行います。
なお臨宅調査では被相続人の経歴や人間関係を雑談形式で聞き取りしたのち、財産管理や分割協議の状況を調査していくのが一般的です。
特定の相続者に対して使途不明金の責任を追求する場合は、民事訴訟となり立証が必要
使途不明金が特定の相続人による使い込みだと分かった場合、相手方と協議をして返還して不当利得返還請求権をしますが、合意できなければ「不当利得返還請求」の民事訴訟を提起することになります。
また、被相続人が生前のうちから損害を被っていた場合、相続人から当該出金者に対して損害賠償を請求することも可能です。
ただしこれらの手続きは訴訟という形で行われるため、弁護士に依頼して相手方の不当利得があったことを立証する必要があります
相続税の税務調査で使途不明金があった場合は修正申告が必要になることも
相続税の使途不明金に関して正当性が認められなかった場合、最終的には修正申告を行ったうえで所定の追徴課税を支払うことになります。
相続税の計算にお困りの方はこのような事態にならないよう、ぜひ早いうちから税理士探しを始めてみてください。
修正申告の方法
相続税評価額への不加算に値する出費と証明されない限り、使途不明金は現存の財産同様に全額が課税対象です。
よって修正申告では使途不明金を含めた財産総額から、元々の相続割合に応じた不足分の税金を算出・申告する必要があります。
なお納付期間は修正申告を行ったその日限りなので、税務調査で指摘を受けた後は速やかに必要金額を用意するよう心がけてください。
修正申告が必要となった場合には追徴課税のペナルティもある
修正申告を行った際にかかる追徴課税は、主に以下の3種類です。
- 過少申告加算税:通常の未納者に課せられる税。新たな税額の10~15%
- 重加算税:悪質な未納者に課せられる税。新たな税額の35~40%
- 延滞税:本来の申告期限の翌日から起算し、完納までの日数に応じて課せられる税
使途不明金をそのままにしておくと、ありもしない財産が相続額に含まれてしまううえ、さらに追徴課税まで上乗せして支払うことになります。
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相続で使途不明金について税務調査となる場合は税理士に相談
相続開始前後に出金する場合、用途等を証明できる領収書等の書類を必ず取っておかなくてはなりません。用途や払込先の分からないお金は、使途不明金として税務調査の対象になります。
また、外部関係者にとって不自然に感じられる資金の流出状況は、税務署が「遺産隠しの可能性を考えて用途を確認する必要がある」と判断します。
税務調査の対象になりやすい状況を理解して、調査された時に記録に基づく説明ができるようにしましょう。
▼使途不明金として税務調査されやすい状況
- 死亡前・死亡直後の出金
- 唐突な多額の出金(生活費としては不自然な額)
- 特定の時期からの出金頻度の上昇
- 被相続人でない第三者による出金(近親者等)」
使途不明金をはじめとした相続のお悩みがある方は、まずは気軽に税理士に相談してみてください。
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遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。