遺産相続をすると、相続税申告や確定申告が必要なのかどうか気になります。納税が必要であるのに放っておいて、後から税務署に指摘された場合、本来申告期限までに納めるべきであった本税だけでなく、延滞税や加算税が課される危険があります。
そこで今回は、遺産相続における相続税申告と確定申告について、実際に申告・納税が必要かという点を詳しく解説します。記事は税理士法人東京さくら会計事務所相続専門部の谷合譲太税理士が監修しました。
目次
1.遺産相続に相続税申告は必要? 確定申告は必要?
遺産を相続した場合、直面するのが「相続税申告」と「確定申告」です。この2つは税金の「申告・納税」という意味で共通しますが、実はまったく異なる手続きです。
違いを正しく理解し、必要な手続きを適切に行いましょう。
1-1.相続税申告と確定申告の違い
相続税は、亡くなった方からの相続や遺贈で財産を取得した際に、取得した人に課税される税金です。一方で、確定申告は毎年、個人の所得について申告するもので、所得税や住民税の課税に用いられます。
相続税は「亡くなった方からの財産の移転」に対して課され、所得税・住民税は「個人の1年間の所得」に対して課税されるものです。
1-2.相続税申告・納税は基礎控除額を超えている場合に必要
相続税には基礎控除額が設けられています。2024年現在、基礎控除額は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)となっています。
つまり、遺産総額がこの基礎控除額を超えている場合に相続税の申告・納税が必要です。とはいえ、大多数の遺産相続がこの基礎控除額以下であるため、相続税を納める必要があるケースは全体の10%程度に過ぎません。
1-3.遺産相続に確定申告は「原則不要」だが、必要なケースも
一般的に、遺産相続に確定申告は必要ありません。しかし、亡くなられた方が、個人事業や不動産賃貸業を営んでいた場合や、生前に株式や不動産の売却による所得があるとき、又は、その事業を相続人が承継した場合などは確定申告が必要です。
2.確定申告が必要なケースは大きく2つ!
相続税の申告とは別に確定申告が必要になるのは大きく2つです。
亡くなられた方の所得に関するものと、相続人が相続により新たに得た所得に対するものがあります。
2-1.亡くなられた方の確定申告(準確定申告)が必要なケース
亡くなった方が、死亡した年に所得があり、確定申告をする必要がある場合は相続人が代わりに確定申告をしなければなりません。これを「準確定申告」といいます。
2-2.相続人の確定申告が必要なケース
相続人が相続によって取得した財産から所得を得た場合、その所得に対して確定申告が必要になることがあります。賃貸不動産を相続し、新たに家賃収入を得ることとなった場合などは確定申告が必要です。
3.準確定申告が必要な6つのケース
では、準確定申告はどういったケースで必要になるのでしょうか?
ここでは、準確定申告が必要となる主な6つのケースについて解説します。
3-1.給与収入が2,000万円を超える場合
亡くなった方の給与収入が2,000万円を超えていた場合、準確定申告が必要です。なぜなら、給与収入が2,000万円を超えている場合、年末調整の対象とはならず、確定申告により所得税の精算を行うためです。
3-2.二か所以上から給与所得がある場合
複数の勤務先から給与を受け取っていた場合も準確定申告が必要になります。
二カ所以上から給与を受け取っていた場合、年末調整を行えるのは一か所のみ(主たる給与)で、他の給与については年末調整を受けることが出来ません。このままでは所得税の精算を行うことが出来ないので、すべての給与を合算して確定申告を行う必要があります。
監修者 谷合税理士のアドバイス
二カ所以上から給与を受け取っていた場合でも、年末調整を受けなかった給与と他の所得の合計額が20万円以下だった場合、確定申告の義務はありません。
3-3.事業所得や不動産所得がある場合
亡くなった方に、事業所得や不動産賃貸による不動産所得がある場合も準確定申告をしなければなりません。
事業所得や不動産所得の申告は、詳細を把握していない相続人にとってはハードルが高いです。
後述するように、準確定申告の期限は相続発生後4カ月となりますので、不安な方は早めに税理士に相談してください。
3-4.400万円以上の公的年金等を受給していた場合
合計400万円以上の公的年金等を受給されていた場合も準確定申告が必要です。公的年金等とは、具体的には以下のとおりです。
- 国民年金
- 厚生年金
- 企業年金
- 確定給付企業年金
- 海外の社会保険制度に基づいて支給される年金
これらの合計が400万円以下であれば、申告義務はありません。
3-5.給与所得以外の所得が20万円を超える場合
亡くなった方が給与所得者で、20万円を超える給与所得以外の所得がある場合も準確定申告が必要です。
たとえば、副業で給与所得以外の所得を得ていた場合や、満期保険金などの一時所得が生じている場合などが該当します。
判断が難しい場合は、亡くなった方が毎年、確定申告をしていたか確認すると良いでしょう。
3-6.不動産や株式を売却した場合
亡くなった方が、不動産や株式を売却し譲渡所得が発生している場合も準確定申告を行う必要があります。
これらは、分離課税と言って、他の所得とは別個に所得税の計算を行います。また、各種特例の適用も考えられるので注意が必要です。
4.相続人の確定申告が必要な4つのケース!
相続により財産を取得したことで、相続人自身が確定申告をする必要がある場合があります。
ここではよくある4つのケースを取り上げます。
- 家賃収入が生じる不動産を取得した場合
- 相続した不動産を売却した場合
- 死亡保険金を受け取った場合
- 未支給年金を受け取った場合
監修者 谷合税理士のアドバイス
上記①~④で必要な確定申告は、相続税の申告とは別物であり相続税申告の要否とは関係がないので注意してください。
4-1.家賃収入が生じる不動産を取得した場合(賃貸マンション・アパート等)
相続により賃貸物件を取得し、不動産所得を得ることとなった場合、所得税の確定申告が必要になります。
給与所得など相続人の他の所得と合算して所得税を計算することとなります。
4-2.相続した不動産を売却した場合
相続で取得した不動産を売却し、売却益が生じている場合、譲渡所得の申告が必要です。売却価額から取得費用、売却に係る諸経費を差し引いたものが売却益です。
監修者 谷合税理士のアドバイス
相続税が多額になる場合、納税資金捻出のため相続不動産を売却することがあります。売却して相続税を納付した場合には相続税申告だけでなく、確定申告も忘れずに行いましょう。
4-3.死亡保険金を受け取った場合
死亡保険金を受け取った場合も所得税の対象になることがあります。具体的には、死亡保険金の受取人と保険契約者(保険料支払者)が同一の場合、死亡保険金は一時所得として所得税の課税対象となります。
一方で、被保険者(亡くなられた方)が保険契約者である場合は、死亡保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になります。ただし、死亡保険金については「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられていますので、この非課税枠をを超えなければ相続税の負担はありません。
監修者 谷合税理士のアドバイス
死亡保険金=相続税と考えがちですが、被保険者、保険契約者、受取人が誰かにより、課税される税金が変わりますので注意しましょう。
4-4.未支給年金を受け取った場合
亡くなった方の年金のうち、生前に受給しなかった分は、未支給年金として生計を共にしていた親族が受け取ることができます。
未支給年金は、亡くなった方の所得ではなく、受け取った親族の一時所得になります。
一時所得の計算は、次のとおりです。
(一時所得の収入金額-経費-特別控除[50万円])×1/2
未支給年金以外の一時所得がある場合はすべて合算したうえで、特別控除[50万円]を超える場合は一時所得が生じることになります。
5.遺産相続の相続税申告・確定申告の注意点
5-1.相続税申告は10カ月、準確定申告は4カ月の期限があります!
相続税の申告、納付期限は、相続の発生から10カ月です。この期限を過ぎると延滞税が発生する可能性があります。
また、準確定申告は相続発生から4カ月が期限になりますので注意が必要です。
期限内に手続きを行えるか不安な方は、早めに税理士に相談することをおすすめします。
5-2.相続人が複数の場合は早めの話し合いを!
相続人が複数の場合、遺産分割の方法に関して意見が割れることもあります。
遺産分割を巡るトラブルは、相続手続きへの着手を遅らせるだけでなく、時には家族間の争い(争族)に発展するリスクまであります。
相続人が複数の場合は、早めの話し合い(遺産分割協議)をお勧めします。親が生前のうちに、相続人となる配偶者や子どもらと自分の財産について話をし、必要に応じて遺言書を残すことでスムーズな相続を行うことができます。
5-3.準確定申告の還付金も相続税の対象になる
準確定申告による還付金は、相続財産として扱われます。準確定申告を行うと、納税ではなく還付(税金が返ってくる)場合があります。代表的なものとして給与所得者の医療費控除による還付があります。
還付申告は義務ではないですが、亡くなった方の権利であり残された財産の一部なので、しっかり行いましょう。
また、還付金を受け取ったときは相続財産に含めることを忘れないように注意しましょう。
6.まとめ相続税申告・確定申告で不安があれば税理士に相談を
遺産相続において、相続税申告、確定申告(準確定申告)の要否については事前に税務署から指摘されることはなく、自ら判断する必要があります。
また、申告期限に遅れると加算税や延滞税が課税されるおそれもあります。特に、相続人が複数いる場合は、遺産分割のトラブルから手続きが遅延することもあります。
相続税申告・確定申告(準確定申告)に不安がある方は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
この記事の監修者:税理士 谷合 譲太(たにあい・じょうた)
税理士法人 東京さくら会計事務所
相続専門部 税理士
所属団体:東京税理士会 立川支部
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この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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