相続税の配偶者控除とは?1億6千万円まで抑えられる必要要件や制度内容を解説

更新日:2024.06.21

相続税の配偶者控除とは?1億6千万円まで抑えられる必要要件や制度内容を解説

相続税は、そのまま払うと税金が高額になることで知られていますが、実際にはさまざまな特例が設けられており、節税対策をすればかなりの税額が軽減されます。その特例の一つが配偶者控除です。

本記事では、配偶者を亡くした多くの人が適用される配偶者控除についてご紹介します。

利用するための要件や配偶者控除を用いた計算例もご紹介するので、ぜひお役立てください。

1. 1億6,000万円までならかからない相続税の配偶者控除とは

配偶者控除は、相続人の中に配偶者がいる場合に適用される優遇措置です。配偶者の課税対象となる財産が1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額なら相続税が非課税となります。軽減される税額の算式は次の通りです。

配偶者の税額軽減額=相続税の総額×次の1,または2のいずれか大きい方の金額÷相続税の課税価格の合計額

1. 相続税の課税価格の合計額×配偶者の法定相続分または1億6,000万円(多い方の金額)

2. 配偶者の課税価格

具体例を用いて説明します。

例えば、父、母、子2人の家族で、父が3億円の相続財産を残して死亡した場合、母と子2人が法定相続分通りに相続したとして相続した金額はそれぞれ母1億5,000万円、子は7,500万円ずつです。

では、相続財産が5億円だった場合はどうなるでしょう。法定相続分通りに相続したと仮定すると母は2億5,000万円、子は1億2,500万円ずつ相続する計算になります。

母の相続財産は1億6,000万円を超えていますが、法定相続分の範囲内なので相続税はかかりません。

この場合、母が法定相続分である2億5,000万円を超えた財産を相続した場合に相続税が発生します。

つまり、法定相続分の範囲内ならたとえ10億円、50億円を相続したとしても、相続税はかかりません。

こうした相続税の優遇制度は、被相続人の財産形成に配偶者が寄与していること、また相続後の配偶者の生活保障を考慮して税額を軽減する措置が設けられています。

1-1 配偶者の法定相続分とは

民法では遺産分けの分割割合の基準を定めていて、これを法定相続分といいます。この割合は子どもの有無、ならびに被相続人の親兄弟の有無によって法定相続分は異なります。

  配偶者の法定相続分 その他の相続人の法定相続分
配偶者と子(第一順位) 1/2 1/2
配偶者と親(第二順位) 2/3 1/3
配偶者と兄弟姉妹(第三順位) 3/4 1/4
配偶者のみ 配偶者が全額相続

なお、実際の相続では必ずしもこの通りに相続する必要はありません。相続人全員同意があればこれとは異なる割合で遺産分割が可能です。

1-2 配偶者控除の適用要件

配偶者控除の適用を受けるには次の要件をすべて満たす必要があります。

・戸籍上、被相続人の配偶者であること

・遺産分割が相続税の申告期限内

・税務署に相続税の申告書を提出していること

順番に内容を見ていきます。

配偶者控除の適用要件1:戸籍上、被相続人の配偶者であること

配偶者控除の適用要件に、婚姻期間の定めはありません。婚姻期間が数十年でも数か月でも、配偶者であれば控除を受けられます。

ただし、内縁関係など籍を入れていない場合、配偶者控除は適用されません

配偶者控除の適用要件2:遺産分割が相続税の申告期限内に完了していること

相続税の申告期限は相続開始を知った日から10か月以内です。相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分けの方法で合意した後に相続税申告手続きを始めます。

ここで協議がまとまらなければ、配偶者控除の適用なしで相続税を納めなければなりません

遺産分割協議中に遺産分けに不満のある相続人が、故意に協議を長引かせようとする可能性もあるので、できるだけ早く協議を済ませることが望ましいです。

相続人同士でどうしても話がまとまらない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出します。こうすることで、申告期限から3年間までの延長が可能です。

配偶者控除の適用要件3:税務署に相続税の申告書を提出すること

配偶者控除を受ける場合は、税務署に申告書の提出が必要です。相続税が発生しない場合でも相続が発生してから、10か月以内に申告を完了させなければいけません。

1-3 相続税の配偶者控除と所得税の配偶者特別控除の違い

相続税の配偶者控除と似たような制度として所得税の配偶者特別控除があります。

相続税の配偶者控除は、配偶者が被相続人の財産を相続する際、相続財産が1億6,000万円までなら相続税がかからない制度です。

一方、所得税の配偶者特別控除は、一定以下の所得がある配偶者がいる納税義務者が受けられます

配偶者の所得が48万円を超える場合に133万円まであれば、所得控除が適用可能です。控除額は所得に応じて段階的に設定されています。

なお、所得税の配偶者特別控除には次のような適用要件があります。

・民法上の規定による配偶者であること

・納税者と生計を一にしていること

・白色申告者の事業専従者でないこと

・青色申告者の事業専従者としてその年を通じて給与の支払いを1度も受けていないこと

このように、相続税の配偶者控除と所得税の配偶者特別控除は別物なので、混同しないように注意しましょう。

【関連記事】配偶者控除についてより詳しく知りたい方はこちら

>コラム:相続税が夫婦間では【1.6億円まで0円!?】|配偶者控除の条件を解説

>コラム:「相続税の配偶者控除で1.6億まで非課税」に注意! 子に大きな負担の危険

2. 相続税の配偶者控除の計算方法を具体例を交えてご紹介

配偶者控除の適用を受ける場合の計算方法を、具体例を用いてご紹介します。

2-1 配偶者の相続分が配偶者控除額より少ない場合

配偶者が、配偶者控除額である1億6,000万円より少ない金額を相続した場合の計算方法です。ここでは、父、母、子2人の家庭で父が死亡した場合を想定します。

父が残した財産のうち、課税価格の合計額が2億円、相続税の総額が2,700万円で、母と子2人の法定相続分がそれぞれ2分の1ずつとします。

母の課税額は2億円×1/2=1億円です。配偶者に課せられる税金も法定相続分通りに分割するので2,700万円×1/2=1,350万円。

前述した計算式で配偶者控除額を計算すると、2,700万円×1億円÷2億円=1,350万円。

よって、配偶者に課される税金は1,350万円-配偶者控除額1,350万円=0円となるので、相続税は発生しません

2-2 配偶者の相続分が法定相続分に収まる場合

では、配偶者控除額である1億6,000万円を超えているものの、法定相続分に収まる場合の計算式も見ていきましょう。

父、母、子2人の家族で、父が死亡した場合を想定します。課税価格の合計額が5億円、相続税の総額が1億3,110万円で、母と子2人の法定相続分がそれぞれ2分の1ずつとします。

配偶者の課税額を計算すると5億円×1/2=2億5,000万円。配偶者に課せられる税金も法定相続分通りに分割するので、1億3,110万円×1/2=6,555万円。

前述した計算式で配偶者控除額を計算すると、1億3,110万円×2億5,000万円÷5億円=6,555万円。

よって、配偶者に課される税金は6,555万円-配偶者控除額6,555万円=0円となるので、やはり相続税は発生しません

2-3 配偶者の相続分が法定相続分を超える場合

配偶者の相続分が控除額である1億6,000万円以上で、なおかつ法定相続分を超えた場合の相続税も見ていきましょう。

父、母、子2人の家族で、父が死亡した場合を想定します。課税価格の合計額が5億円、相続税の総額が1億3,110万円で、遺産分割協議により母は4/5を相続し、子2人はそれぞれ1/10ずつ相続したとします。

配偶者の課税額を計算すると5億円×4/5=4億円。配偶者に課せられる税金も同じ割合で負担するので1億3,110万円×4/5=1億488万円。

前述した計算式で配偶者控除額を計算すると、1億3,110万円×2億5,000万円÷5億円=6,555万円。

よって、配偶者に課される税金は1億488万円-配偶者控除額6,555万円=3,933万円となり、母は3,933万円の相続税が発生します。

このように、課税価格の合計額が同じ5億円でも配偶者の取得分が過剰になると相続税が発生してしまいます

配偶者控除は節税効果が高いので、うまく利用して節税を行った方が良いと言えます。

3. 相続税の申告に必要な書類とは

相続税の申告に必要な書類は下記のとおりです。

・被相続人の出生から死亡までの履歴がわかる戸籍謄本

・遺言書(あれば)

・遺産分割協議書の写し

・相続人全員の印鑑証明

・相続税申告書

・申告期限後3年以内の分割見込書(遺産分割協議が整わない場合)

相続税申告書と申告期限後3年以内の分割見込書は、税務署または国税庁のホームページから入手できます。

【関連記事】相続税申告書について詳しく知りたい方はこちら

>コラム相続税申告の必要書類・添付書類は?各書類の入手先もあわせて解説

>コラム:相続税の申告は自分でできる?相続税申告を自分で行う場合の判断基準やメリット・デメリット

4. 二次相続で相続税が高くなる可能性がある

配偶者控除の適用を受ける際、何よりも気をつけたいのが二次相続です。二次相続とは、父の相続(一次相続)終了後、母が死亡した際に発生する相続のことをいいます

父の財産を母と子が相続した際は配偶者控除が受けられるのに対し、母が死亡した際の二次相続では配偶者控除が受けられません。

また、相続人が1人減るので基礎控除額が600万円減額され遺産の総額も高くなります。それだけでなく、母がもともと所有していた自己財産も遺産総額に加算しなくてはなりません。

そのため、一次相続の段階から二次相続を想定した遺産分割を進める必要があります。具体的には母の相続が発生するまでに必要な生活費、年金などの収入、それを補う相続財産の額など、簡単なシミュレーションをすると良いでしょう

二次相続は、配偶者控除を受けられる一次相続とは異なり、節税対策がしにくいので母が相続する財産の金額については慎重に話し合うことが大切です。

【関連記事】二次相続についてさらに詳しく知りたい方はこちら

>コラム:数次相続(二次相続)とは? |数字相続での遺産分割協議書の書き方も紹介

>コラム:数次相続と代襲相続を《わかりやすく》解説|数次相続(二次相続)も紹介

5. 配偶者控除・相続税に関するQ&A

配偶者控除を適用して相続税を申告する際に起こりうるトラブルとその対処法についてQ&A形式でお答えします。

5-1 後から遺産が出てきた場合は?

相続税を納税した後になって遺産が見つかった場合、修正申告が必要となります。修正申告は訴訟上の和解が成立したり、遺留分侵害額請求をして納めた相続税に不足が生じたりしたときに改めて申告しなおします。

修正申告が必要だとわかったら、すみやかに手続きをしましょう。修正申告する前に税務署から指摘を受けた場合、配偶者控除を適用できない、あるいは重加算税が課されるおそれがあるので注意が必要です

5-2 相続税の納税義務を知らなかった場合は?

家族を亡くしてしばらくした後、税務署から「相続税についてのお尋ね」という手紙が届いて納税義務があることを知るケースもあります。

「相続税についてのお尋ね」は、税務署が死亡した人に一定の財産があると判明した場合に相続税が発生しているかどうかを相続人に確認する目的で送付されます。

この場合、延滞税や無申告加算税が発生するものの、期限後申告すれば配偶者控除の適用を受けることが可能です。相続税の納税義務に気がついたら、すみやかに申告を行いましょう。

5-3 遺産分割の前に配偶者が死亡した場合は?

夫の遺産分割中に配偶者である妻が死亡した場合は、配偶者が生存しているとして遺産分割を進めます。

また今回詳しく解説した配偶者控除も、妻死亡の場合であっても相続人の合意が得られれば適用可能です。

6. まとめ

相続税の配偶者控除についてご紹介しました。配偶者控除を適用すれば1億6,000万円までなら相続税がかかりません。

また、1億6,000万円を超えていても法定相続分の範囲内なら相続税は発生しません。数ある相続税の優遇措置の中でも、配偶者控除の節税効果はかなり高く、積極的に活用していくべきといえます。

ただし、たとえ相続税が0円になっても相続税の申告があること、二次相続の際に発生する相続税も視野に入れた上で遺産分割を進めなければなりません。上記でご紹介した要件や注意点をよく確認し、配偶者控除の適用を受けましょう。

この記事の監修者:阿部 由羅

ゆら総合法律事務所・代表弁護士(税理士法51条1項に基づく国税局長への通知により、税理士業務も行う)。

西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。

ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

各種webメディアにおける法律・税務関連記事の執筆にも注力している。

 

この記事の執筆者:つぐなび編集部

この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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