家族を養ってきた人が突然亡くなれば、悲しみと同時に今後の不安も押し寄せてくるものです。特に、今後どのように生活していけば良いのかという経済的不安が挙げられます。
そんな不安を少しでも解消してくれるのが、遺族年金です。遺族であれば全員もらえると思う方は多いですが、実際はいくつか条件があります。
もらえるだろうと思い込んで以後のライフプランを設計していると、後々困る事態になりかねません。
そこで、今回は遺族年金の概要と受給条件などについてご紹介します。
目次
1. 遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金がある
種類は2つあり、被相続人の公的年金納付状況に応じて、どちらか片方を、または両方を、受け取れます。
それぞれどのような違いがあるのか解説していきましょう。
1-1 遺族基礎年金
国民年金の被保険者が亡くなった際に、生計を一にしていた家族に支給されます。生活費を共有している状態を指します。
対象者は下記の2つです。
・18歳になる年度の年度末までの子ども
※ただし、障害等級1級または2級の認定を受ける子どもに限り、20歳未満とする
・その子どもを持つ配偶者
国民年金だけでなく厚生年金保険の加入者であっても、条件をクリアしていれば受け取りは可能です。
原則、配偶者と子どものみを対象としているので、亡くなった人の両親や孫などは受け取れません。
もっと知りたい方は下記の記事で紹介しています。
遺族基礎年金ガイド|遺族基礎年金とは?条件・手続き・注意点を簡単解説
1-2 遺族厚生年金
厚生年金保険の被保険者が亡くなった際に、遺族が受け取れる年金です。
しかし、生前に厚生年金への納付がない自営業の方や無職の人の場合は支給されません。
遺族基礎年金と異なるのは、対象者が配偶者と子どものみとしていない点です。
なお、亡くなった人の収入相当額によって支給額も変動します。
もっと知りたい方は下記の記事で紹介しています。
遺族厚生年金ガイド|遺族厚生年金とは?条件・対象者・手続きを簡単解説
2. 遺族年金の受給資格とは?
続いて、それぞれの受給資格を紹介します。受給できるかの条件も異なるので、しっかり確認しましょう。
2-1 遺族基礎年金の受給資格
被相続人が公的年金を納付していれば、必ず受け取れるわけではありません。
亡くなる前に一定の条件を満たしている必要があります加えて、遺族側にもいくつかの条件があります。
亡くなった方の条件
(1) 国民年金の被保険者であること
(2) 2/3以上の保険料を納付していること
(3) 老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上であること
20歳から亡くなるまでの間に、全体の2/3以上の保険料納付をしている必要があります。
なお、納付免除の申請した一定期間に関しては、納付されたと判断されます。
遺族の条件
原則として、年金を受け取れるのは亡くなった人の子どもまたはその子どもを持つ配偶者です。
それ以外にも、下記3つの条件を満たしている必要があります。
(1) 納付者の死亡時に、その収入で生活をしていたこと
(2) 同居していること
別居中であっても仕送りを受けている、または健康保険の扶養内家族であれば可。
(3) 前年の収入支給額が850万円未満であること
追加の条件
また、子どもについても追加で条件があります。
(1) 18歳になる年度の末日前であること
(2) 子どもが障がい等級1・または2級の子は20歳未満とする
つまり、高校卒業前の子どもか20歳未満の障がいを持つ子どもがいる必要があります。
また、亡くなった人に配偶者がいる場合には配偶者が優先されます。
一方で子どものみの場合には、受け取りの対象は子どもです。子どもが複数の場合はそれぞれ支給額が決まっています。
2-2 遺族厚生年金の受給資格
続いて、遺族厚生年金の受給資格について解説します。先ほどと同様に、亡くなった方と遺族にそれぞれ条件があります。
亡くなった方の条件
死亡当時の条件は下記のいずれかです。
- 厚生年金の被保険者であること
- 老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上であること
- 1・2級の障がい厚生年金を受け取る資格があること
「死亡時に厚生年金に加入している」とは、会社勤めをしており、給与から保険料が天引きされている人を指します。
もし、会社勤めをしていてもパートタイムやアルバイト勤務で年金加入していない方は対象外です。
しかし、退職後であっても被保険者として認めるケースもあります。
それは、被保険者期間中の怪我や病気が原因で死亡し、かつ初診から5年以内の場合になります。
遺族の条件
条件は、遺族基礎年金と同様です。
(1) 納付者の死亡時に、その収入で生活をしていたこと
(2) 同居していること
別居中であっても仕送りを受けている、または健康保険の扶養内家族であれば可。
(3) 前年の収入支給額が850万円未満であること
しかし、受け取れる対象が変わります。亡くなった日時点での、亡くなった方の配偶者や子どもの他に、両親や祖父母、孫も受け取り資格を持ちます。
追加の条件
亡くなった人の関係性によっていくつか制限があります。
(1) 妻
年齢の定めもなく受け取れます。
しかし、子どもがおらず妻の年齢が30歳未満の場合には5年間の有限受給です。
また、事実婚の場合には生計維持関係など条件確認のうえで受け取れます。
(2) 子ども・孫
18歳になった年度の3月31日までの子どもか、20歳未満で障害等級1級または2級を持つ子どもに限ります。
(3)夫、両親、祖父母
亡くなった時点で55歳以上の人のみが受け取れます。
なお、死亡してすぐに受け取れるのではなく支給開始は60歳以降です。
しかし、夫が遺族基礎年金の受給者である場合には、60歳未満であっても遺族基礎年金が受け取れます。
受け取りの優先度は以下のようになります。
①子どもを持つ妻、または子どもを持つ55歳以上の夫
②子ども
③子どものいない妻
④55歳以上の夫
⑤55以上の両親
⑥孫
⑦55歳以上の祖父母
同じ子どもの両親であっても、遺族が「妻」か「夫」どちらなのかで条件は変わってくるので注意しましょう。
3. 遺族年金の受給額はどれくらい?
実際に遺族年金はどのくらい受け取れるのでしょうか。ここからは遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給額について解説していきます。
3-1 遺族基礎年金はいくら?
2023年時点では、一律で795,000円とし、子ども1人につき228,700円が追加で支給されます。
また、子どもが3人以上いる場合には1人につき76,200円が加算されます。
【子ども1人の場合】
配偶者が受け取るケース
795,000+228,700円 = 1,023,700円
子どもが受け取るケース(配偶者分はなし)
795,000円
【子ども2人の場合】
配偶者が受け取るケース
795,000+228,700円 × 2 =1,252,400円
子どもが受け取るケース
795,000+228,700円 =1,023,700円
3-2 遺族厚生年金はいくら?
受給額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4です。加入者の収入や期間によって定められるので人によって金額は異なります。
下記の計算式は、2021年度における金額となります。
{(平均標準報酬月額×7.125 / 1000×平成15年3月までの加入月)+(平均標準報酬額×5.481 / 1000×平均15年4月以降の加入月)} ×3/4 = 1年の受給額
平均標準報酬月額が30万円で、加入期間を300ヶ月とした場合の年金額は約40万円となります。
また、50万円の場合は約65万円です。
人によって金額は上下するので、参考程度に留めておくと良いでしょう。
4. 遺族年金がもらえないケースもある
亡くなった際には必ずもらえると思われがちですが、中には受け取れないケースもあります。
どんな人が資格対象外なのかを解説しましょう。
4-1 保険料未納もしくは滞納している人
被保険者が保険料を納付していない、または滞納している場合には資格はありません。
残された遺族にとって、受け取れなければ経済的負担は大きくなります。
未納分がある場合には2年分さかのぼって納付できるので、残された家族のためにも自分が滞納していないかどうかを確認するのが良いでしょう。
4-2 受給権がない人
遺族基礎年金は、子どもやその子どもを持つ配偶者のためのお金です。そのため、支給対象者が資格を失うと受け取れません。
【資格損失するケース】
・18歳の年度末を過ぎた
・結婚、再婚した
・死亡した
・養子入り
・配偶者と別居、生計が別になった
これらの理由より、子どもか配偶者のどちらかが資格を失うと支払いはされません。
4-3 年齢制限がある
遺族厚生年金の場合は受給範囲が広いですが、人によっては年齢の制限があるので注意しましょう。
夫や両親、祖父母の場合には、被保険者の死亡時に55歳以上の人しか受け取れません。
また、先ほども話した通り実際の受給は60歳以降から受け取れます。
妻に関しては年齢に関する指定はないので、何歳であっても可能です。
しかし、夫が亡くなった時点で妻が30歳未満であり、子どもがいない場合については5年の期間が定められています。
4-4 支給が打ち切られるパターン
遺族基礎年金はずっと受けられるわけではなく、打ち切りとなるパターンもあります。
18歳未満の子どもを持つ配偶者と子どもをサポートするためものなので、対象の子どもが18歳になった年度の末日を過ぎると支給はストップします。
突然支給がなくなると焦ってしまうので、事前に覚えておきましょう。
5. 遺族年金がもらえない時は?
亡くなった方や遺族次第では年金がもらえないこともあるでしょう。しかし、何ももらえなければ経済的ダメージは大きいです。
そこで、遺族が問題なく生活できるように2つの制度が用意されています。
5-1 死亡一時金
妻が遺族基礎年金も寡婦年金も受け取れない場合に利用できるのが「死亡一時金」です。
死亡一時金も受け取るには以下の条件を満たさなければなりません。
・年金受給前に死去し、生計が一緒であること
・36ヶ月以上国民年金を納付していること
・老齢基礎年金と障がい基礎年金を受給していないこと
5-2 寡婦年金
妻が60~65歳の間、亡くなった夫の老齢基礎年金の3/4を支給しています。
受給するためには、夫側と妻側でそれぞれ条件を満たしている必要があります。
【夫側の条件】
・老齢基礎年金の受給資格を持つこと
・老齢年金や障がい年金の受給歴がないこと
【妻側の条件】
・結婚して10年以上経っていること
・被保険者と生計を一にしていたこと・死亡時に妻が65歳未満であること
・遺族基礎年金の受給中ではない
寡婦年金についてもっと知りたい方におすすめは下記を参考にしてください。
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6. まとめ
今回は、遺族年金の条件や受給資格についてご紹介しました。
遺族年金には種類が2つあり、それぞれ受給できる人や金額が異なります。
配偶者が元気なうちに遺族年金のことを考えるのは心苦しいですが、いざという時に困らないためにも確認しておくのがおすすめです。
もし、未納や滞納がある場合には、最悪受け取れないことも想定されるので、早急に確認・納付しておきましょう。
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この記事の監修者
工藤 崇(くどう たかし)
独立型ファイナンシャルプランナー。
WEBを中心にFP関連の執筆・監修多数。セミナー講師・個別相談のほか、「相続の第一歩に取り組む」ためのサービスを自社で開発・提供。
東京・北海道を拠点として事業展開。
株式会社FP-MYS代表。