万が一、夫が亡くなってしまった場合、残された家族は大きな悲しみを抱えるとともに経済的に困窮してしまう可能性も考えられます。
家族に不幸があった後でも、これまで通り仕事をこなすのは非常に難しくなってしまうこともあるでしょう。そのため、保険や年金などで備える必要があります。
年金の中でも、公的年金の給付として遺族年金をもらうことが可能です。遺族年金は、夫などの家族の生計を支えていた遺族の生活を保障するための年金です。
しかし、実際に妻はいくら遺族年金をもらえるのかわからない方も多いでしょう。遺族年金がどれだけもらえるかによって、備えておくべき保険などの金額も変わってきます。
そこで今回は、万が一生計を支える夫が亡くなってしまった場合に、妻はいくら遺族年金をもらえるのか解説していきます。
目次
1. 遺族年金の計算条件について
夫が亡くなった場合、夫が会社員であったか自営業者だったかによって加入する年金制度が変わり、もらえる遺族年金が異なります。
自営業の場合は国民年金への加入となっており、遺族基礎年金が適用されます。
一方で、夫が会社員の場合では遺族基礎年金と遺族厚生年金がもらえます。
ただし、子どもの有無、妻の年齢によって遺族年金の支給条件が変わります。
さらに、国民年金や厚生年金への加入期間によっても金額が変わってくるうえ、算定額算出の際に給与だけでなく賞与も加える(総報酬制)という複雑な制度が適用されます。
平成15年の4月からは総報酬制の適用となっています。
遺族厚生年金の計算式は以下の通りです。
受給年額=
{(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入月数)
+(平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入月数)}
×3/4(加入月数が300月未満である場合は、300月で計算される)
夫が死亡した際、30歳未満で子どもがいなかった場合には妻への遺族厚生年金には5年間の有限給付となります。
様々な計算条件のもと、遺族年金が給付されるのです。
2. 遺族年金を妻はいくらもらえるの?
計算条件や計算式を見ても、いまいちどのくらいもらえるのか分かりにくい部分もあります。
万が一に備えておく場合にも、妻は遺族年金をいくらもらえるのかを定期的に把握しておくことが大切です。
ここからは遺族年金を妻はいくらもらえるのか、遺族基礎年金と遺族厚生年金に分けて解説していきましょう。
2-1 受給額は遺族の状況によって異なる
遺族年金の受給額は、一概にいくらもらえるのかは算出できません。
なぜなら亡くなった時点の夫の年金加入状況によって、受給額が大きく異なってしまうためです。
遺族基礎年金の受給は、子どもがいる妻、もしくは子どもが対象となります。
遺族基礎年金を受給するためには、そもそも
・亡くなった夫が自営業などで国民年金に加入していた
・もしくは受給していたこと
が条件になります。
他の受給条件としては、
・保険料納付についての条件を満たしていること
・亡くなる前日までに国民年金を納めた(免除や猶予も含む)期間の合計が保険料を納めなければならない期間の2/3以上であること
・直近の1年間で保険料を滞納していないこと
が挙げられます。
ただし、子どもが18歳に到達する年度の末日(障害があれば20歳)を過ぎた場合、その子ども分の加算がなくなります。
そして、末子が18歳(もしくは20歳)以上となった場合には遺族基礎年金自体が受給できなくなります。
万が一、子どもが亡くなってしまったり、養子に出ていたりした場合にも同様です。
つまり、遺族基礎年金は遺族に子どもがいるかいないかで受給できるかが変わってくることになります。
さらに、子どもの人数や年齢によっても受給額が変わってしまうのです。
子どもがいない場合
国民年金に加入している夫が亡くなってしまった妻で子どもがいない場合、妻は遺族基礎年金を受給できません。
妻が60歳~65歳の場合
妻が60歳から65歳のあいだであり、亡くなった夫が死亡時において国民年金を10年以上納めており(免除されていても可)、生計を担っている、婚姻期間が10年以上であれば、寡婦年金が受給できます。
寡婦年金は、亡くなった夫が受給するはずだった老齢基礎年金額の3/4を65歳まで受け取れます。
また、亡くなった夫が国民年金を36ヶ月以上納め生計を担っている場合に、妻・子ども・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順に、死亡一時金が受給可能です。
死亡一時金の金額は、保険料を納めた月数によって12万円から32万円で増減します。
この2つの救済措置はどちらも受給することはできず、どちらか一方を選択しなければなりません。
2-2 遺族厚生年金は子どもがいると上乗せに
遺族厚生年金は、子どもがいれば遺族基礎年金に上乗せ、それ以外の遺族は単独で受給が可能です。
亡くなった夫が会社員で厚生年金保険に加入していた場合、子どもがいない場合やその他の親族でも遺族厚生年金だけを受給することができます。
受給できる金額は、亡くなった人が受けとっていた給与相当額(平均標準報酬額)や厚生年金に加入している期間によって異なりますが、この報酬比例部分の3/4と定められています。
平成27年10月から、公務員が対象となる共済年金は廃止され、厚生年金に統合されています。
遺族厚生年金と遺族共済年金は、いずれも遺族基礎年金と同じ条件を満たしていなければ給付されません。
条件とは、
・厚生年金に加入している、もしくは受給していること
・保険料の納付について亡くなる前日まで保険料を納付した期間が、保険料を納めなければならない期間の2/3あること
・直近の1年間で保険料を滞納していないこと
としています。
遺族共済年金についても厚生年金に同一化される以前は特に保険料納付の条件はありませんでしたが、厚生年金と同一化後は同じ条件となっています。
遺族厚生年金の受給可能な遺族は、妻・子どもの他に55歳以上の夫、父母、孫、祖父母と定められており、父母・祖父母の場合は60歳以上であれば受給可能です。
子ども・孫についても、受給できるのは18歳に到達する年度の末日まで、障害等級1級・2級の子どもは20歳まで受給できます。
受給期間は、遺族の条件に当てはまっていれば受給者本人が亡くなるまで受給できますが、30歳未満の妻の場合には5年間という期限が設けられます。
また、遺族である妻が65歳となった時に厚生年金や共済組合などへ加入歴が場合には、自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金を併せて受給することも可能です。
65歳になった妻が自身で老齢厚生年金を受給できる場合では、老齢基礎年金と併せて遺族厚生年金と老齢厚生年金の組み合わせを選べます。
遺族厚生年金と老齢厚生年金を選ぶ際には、受給額が高い方を選択できるようになっています。
ただし、2007年4月以降に遺族厚生年金を受給することになった人が65歳以上になった場合、65歳以降は自身の老齢年金を全額受給し、遺族厚生年金としては老齢厚生年金に相当する金額の支給がなくなります。
3. 遺族年金の受給額はいったいいくら?
ここまで、遺族基礎年金と遺族厚生年金(遺族共済年金)の計算条件や受給の条件・上乗せなどについて解説してきました。
亡くなった夫の遺族状況によって、遺族年金の受給額は変動しますが、遺族基礎年金の受給額は決められています。
ここからは、例を挙げながら遺族年金の受給額がいくらになるのかを解説していきましょう。
3-1 遺族基礎年金の場合
妻が受給できる年金額は、2023年度で
795,000円と定められています。
ここに、子どもが何人かで受給額が加算されていきます。
1人目・2人目では各228,700円、
3人目以降では76,200円加算します。
子どもは、18歳に到達する年の末日までとし、子どもに障害がある場合には20歳未満が加算の対象です。
妻がおらず、子どものみが受給する場合、
1人目で795,000円、
2人目で228,700円、
3人目以降で76,200円と定められています。
例として、子どもが2人いる妻の場合に受給できる遺族基礎年金を算出してみましょう。
今回算出する年金額は、2023年度の遺族基礎年金額となっており、毎年この金額が改定されているので必要となった場合には、自身で確認する必要があります。
妻が受給できる遺族基礎年金額は、 795,000円
+1人目228,700円
+2人目228,700円
=1,252,400円(年額)
となります。
3-2 遺族厚生年金の場合
遺族厚生年金の場合、妻が受給できる年金額は亡くなった夫の年金加入実績によって変動します。
老齢厚生年金なども遺族厚生年金と同様に、給与やこれまで納めてきた保険料によって受給額が変わってしまうのです。
例として挙げるのであれば、亡くなった夫の厚生年金加入期間を300月(25年もしくは25年未満の場合)として算出してみましょう。
夫の平均標準報酬(月収)が25万円だった場合、遺族基礎年金と遺族厚生年金の合計額で1,608,000円(月額約13.4万円)が受け取れることになります。
同じ条件で夫の平均標準報酬月額が35万円だった場合では、1,752,000円(月額約14.6万円)となります。
(年金計算はシミュレーションソフトを使った目安額です)
条件によって遺族厚生年金額が大きく異なることが分かります。
計算方法は冒頭でご紹介した通りなので、当てはめて計算してみましょう。
4. まとめ
今回は、万が一生計を担っている夫が亡くなった場合、妻への遺族年金がいくらになるのかを解説してきました。
遺族の状況や保険の加入状況によって、妻がもらえる遺族年金の金額は大きく異なってしまいます。
さらに、遺族基礎年金と遺族厚生年金では受給できる条件も異なるので、自営業の場合で子どもがいない妻が40歳未満の時には備えを十分にしておく必要があります。
今回ご紹介してきた2つの公的年金は、遺族が受け取れる権利です。
どのくらいもらえるのか気になった場合には、今回ご紹介した計算式で大まかにでも計算してみることをおすすめします。
遺族基礎年金については、毎年金額が改定されるので、計算する際には最新の遺族基礎年金額を調べてみてください。
「既に相続が発生しており、相続税申告が必要」「将来的に相続税の対象になるかもしれない」といった方はぜひご一読ください。
また、司法書士や行政書士など相続手続きの専門家に相談することも1つの方法です。
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この記事の監修者
工藤 崇(くどう たかし)
独立型ファイナンシャルプランナー。
WEBを中心にFP関連の執筆・監修多数。セミナー講師・個別相談のほか、「相続の第一歩に取り組む」ためのサービスを自社で開発・提供。
東京・北海道を拠点として事業展開。
株式会社FP-MYS代表。