相続税の障害者控除とは、法定相続人が85歳未満の障害者である場合に、年齢に応じた金額を差し引く制度です。
適用条件を満たせそうな人でも、具体的にどんな手続きをすればいいのか、控除額はいくらになるのかがわからないという方も多いでしょう。
そこで、相続税の障害者控除の控除額をどのように計算すればよいのか、また、適用される要件や押さえておきたい重要なポイントについて紹介します。
目次
1. 相続税の障害者控除は平成25年に改正され控除額が拡大している
相続税の障害者控除は、毎年行われる税制改正で、金額につき随時見直しされています。
最近変更があったのは平成25年では、控除額の基礎となる金額につき、1年あたり6万円だったのが改正後は10万円(特別障害者控除は12万円→20万円)とのように、ほぼ倍額に引き上げられています。
参考:相続税の改正に関する資料(財務省)
2. 相続税の障害者控除を申告できる人の3つの要件
相続税の障害者控除を受けるためには、要件をすべて満たさなければなりません。
そこで、主な3つの要件について確認していきましょう。
要件1. 相続で財産を取得した人が法定相続人であること
相続税の障害者控除を適用するための第1の条件は、障がいを持つ人につき、法律で相続権が認められている(=法定相続人である)ことです。
内縁の配偶者、もしくは遠縁の親類など、元々権利のない人が遺言で財産をもらい受けることになったような場合は、障害者控除が適用されません。
また、相続放棄した場合は、その放棄がなかったものとして扱います。
要件2. 相続で財産を取得した際に日本国内に住所があること
相続税の障害者控除の第2の適用要件は、日本国内に住所があることです。
国内に住所があると言っても、税法上の「一時居住者」に該当する場合は扱いが変わります。
一時居住者とは、在留資格を持つ外国人で、相続開始前15年以内において国内に住所を持った期間のが合計10年以下である場合です。
障害を持つ相続人が上記の「一時居住者」であっても、亡くなった人=被相続人がずっと国内に済んでいる日本人なら、障害者控除は適用できます。
障害を持つ一時居住者のうち控除してもらえないのは、被相続人につき、①在留外国人であった場合、②相続開始前10年以内に国籍取得の上での居住歴がない場合です。
要件3. 相続で財産を取得した際に相続人本人が障害者であること
相続税の障害者控除を適用するための第3の要件は、その法定相続人につき、市区町村役場等で「障がいのある人」と認められている人です。
具体的には、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳が交付されていたり、要介護認定を受けている人が当てはまります。
高齢者については、戦傷病者手帳の交付をうけていたり、原子爆弾の傷害に起因する疾病等と厚労大臣の認定を受けている人も当てはまります。
3. 相続税の障害者控除額の計算方法
税法においては、障害の大きさによって一般障害者と特別障害者に分けられています。特に重い症状を負っているとされる場合は特別障害者に区分され、控除額も大きくなります。
上記のどちらの区分であっても、個別の控除額の算定方法は同じです。
3-1 一般障害者の場合
【一般障害者の要件】※どれか1つに当てはまること
- 身体障害者手帳上の障害等級が3級以下
- 精神障害者保健福祉手帳上の障害等級が2級以下
- 戦傷病者手帳の交付を受けている
- 65歳以上で精神または身体に障害がある(市区町村等の認定がある)
【一般障害者の計算方法】
10万円×(85歳-相続開始時点の年齢)
3-2 特別障害者の場合
【特別障害者の要件】※どれか1つに当てはまること
- 身体障害者手帳上の障害等級が1級もしくは2級
- 精神障害者保健福祉手帳上の障害等級が1級
- 65歳以上で市区町村の認定があり、上記に順ずる障害と認められている
- 原子爆弾被爆者である(厚労大臣の認定がある)
- 寝たきりで複雑な介護を要する状態である
特別障害者のについては障害が重く、控除額も高くなることが特徴です。一般障害者と特別障害者は税法で区別されているため、どちらに当てはまるのか要件を確認しておきましょう。
【特別障害者の計算方法】
20万円×(85歳-相続開始時点の年齢)
いずれの場合も、上記の計算式で算出された金額を、相続税から控除して納付額を算出します。障害者控除を計算するうえで重要なのは、85歳までの年齢の数え方です。
年齢の数え方を誤ると、正しい納付税額が算出されないため注意しましょう。
85歳までの年齢の数え方は、85歳から相続を開始した時の満年齢を引いて算出します。
例えば、相続人が55歳と3か月だった場合は、満年齢は55歳です。
そのため、85歳から55歳を引いて30年と計算されます。
そして、一般障害者だった場合には、10万円×30年で300万円が障害者控除額です。
特別障害者の場合は20万円×30年で、600万円が障害者控除額だと判断できます。
4. 相続税の障害者控除の適用で控除額が余った場合は扶養義務者から控除可能
障害者控除額が相続税額よりも高く、控除額を全額使用できないケースがあるでしょう。
この場合、控除額のうち余った部分については、その障害者の扶養義務者の相続税額から控除できます。
4-1 扶養義務者とは
扶養義務者は配偶者、子供、父母、祖父母、兄弟や姉妹、孫または叔父や叔母といった3親等以内の親族であり、家庭裁判所から認められた人です。
民法に規定された親族とは、直系血族、兄弟、姉妹、家庭裁判所が認めた扶養義務を負う3親等以内の親族です。
そのため、「3親等以内の親族は生計を一にしていたとしても家庭裁判所が認めないと扶養義務者ではない」と読み取れるでしょう。
しかし、なかには叔父や叔母が甥や姪の生活をサポートするといったケースもあります。
そこで、相続税基本通達では「3親等以内の親族で生計を一にしている場合、家庭裁判所が認めていなかったとしても扶養義務者に該当する」といった記載があります。
扶養義務者が2人以上いる場合には、全員で遺産の取り分を決めた時と同じように控除額についても話し合い、自由に配分できます。
扶養義務者から障害者控除額を控除した場合でも残るのであれば、二次相続で残すことも可能です。
相続税法で定められた扶養義務者は、「民法で規定された親族と配偶者が対象とされる」といった記載がされており、年齢や生活費のサポートの有無などは定められていません。
4-2 扶養義務者が複数人いる場合の計算方法
扶養義務者が複数人いる場合にはどのように計算されるのか例を参考に見てみましょう。
【例】
- 被相続人…母(父は既に死亡)
- 法定相続人…兄と弟の2名
- 障害者控除の適用対象者…弟(40歳)
- 控除の区分…特別障害者
- 相続税の課税額(控除前)は各500万円
特別障害者の弟が相続できる金額は、障碍者控除が適用されるため(85歳-40歳)×20万円=900万円、相続税額500万円-障害者控除額900万円=400万円の差額となります。
相続税額より控除額が大きく、弟は相続税がかかりません。
重要なポイントは、弟が使用しなかった控除額です。
通常は、兄は相続税500万円を納めなければなりませんが、障害者控除が適用される弟の扶養義務者のため、相続税額500万円から弟が控除しなかった400万円を控除できます。
兄の相続税納付額は、相続税額500万円-弟が控除しきれなかった400万円=100万円になるのです。障害者控除額で控除しきれなかった金額は、扶養義務者と分け合うようにして計算できます。
5. 相続税に障害者控除を適用する場合相続税の申告は必要?
相続税に障害者控除を適用する際に、相続税を申告しなければならないケースと、申告が不要なケースがあります。どちらに該当するのかを確認し正しく申告しましょう。
障害者控除を適用して、相続税が0円になった場合は申告不要
障害者控除が適用された場合は、相続税の納付額が0円になることがあります。納税額が0円の場合は、申告書の提出は不要です(相続税法第27条)。
また、障害者控除が適用されることにより、相続人全員の相続税が0円になることもあります。
障害者控除の適用要件には相続税申告書の提出は含まれていないため、相続人全員の相続税が0円の場合も、申告は不要です。
5-1 障害者控除を適用して、法定相続人に相続税が発生する場合は申告が必要
障害者控除が適用され一部相続人の相続税額0円になったものの、ほかの相続人のなかに相続税額が0円にならない人がいた場合には、相続税額が0円ではない方だけが申告をする必要があります。
例えば、3人兄弟で長男が障害者だった場合、長男と次男は相続税が0円でも、三男の相続税額が0円でないと、三男のみ相続税額を申告しなければなりません。
しかし、兄弟のうち1人だけ相続税が0円ではなかったというケースでは、実際には申告が必要ない相続人についても基本的には相続税の申告をします。
6. 相続税の障害者控除を受けるときに必要な添付書類
相続税の基礎控除以内で相続税が収まっており、相続税の申告をする必要がないのであれば障害者控除に関する手続きは不要です。
相続税の申告を行う際に、障害者控除は申告書の第6表で計算しなければならない部分があります。
第6表を作って税務署に相続税の申告をする場合には、障害者であることと、障害者の要件を満たしていることを証明する書類を添付しなければなりません。
障害者の要件を満たしていることを証明する書類としては、障害者手帳のコピーまたはその他障害者であることを証明できる書類のコピーを添付します。
7. 相続税の障害者控除について追加で知っておきたい3つのこと
相続税の障害者控除について、計算方法や適用要件など以外にも注意したいことや知っておくべきポイントがあります。
そこで、控除額の制限や適用可能な要件など3つのポイントを見ていきましょう。
7-1 二次相続時(2回目の相続)の控除額は制限される
過去に相続税の障害者控除を適用した人は、今回の相続で控除額が制限されます。過去の相続で既に全額控除されていると、2回目の障害者控除は受けられません。
控除されていない金額が残っている方は、2回目の控除額と比較して少ないほうが障害者控除額として判断されます。
例えば、過去の相続で障害者控除の算定額が600万円となり、これに対し、控除前の課税額が扶養義務者を含めて400万円だったとしましょう。
すると、今回の相続で控除できる金額は、当時余った200万円だけとなります。
7-2 未分割の場合でも適用可能
未分割でも、障害者控除は適用されます。相続税の申告は相続が発生した日から10か月間と定められています。しかし、親族の間で遺産の分割に関して話し合いが長引き、10か月以内に申告できないこともあるでしょう。
相続発生日から10か月以内に申告できない場合には、一度法定相続割合で遺産を分けて相続税の申告や納付を行う必要があります。
同時に、障害者控除の申請も行いましょう。遺産の分割を行った後、修正や更正請求で再度相続税を分割する必要があるため注意が必要です。
7-3 修正申告・期限後申告・更正の請求時にも適用可能
障害者控除についてよく知らないまま相続税申告を終えると、自分で計算・申告した金額と実際の課税額に違いが生じます。その場合には、以下の手段で申告額を修正することも可能です。
修正申告:正しい申告書を提出し、実際の課税額との差を納付する
更正の請求:過大申告していたと税務署に伝え、差額を還付してもらう
期限後申告:提出不要と勘違いしていた分につき、後から申告書を作って出す
8. 相続税の障害者控除に迷った場合は税理士に相談
相続税の障害者控除が適用されれば、障害がある相続人や扶養義務者の相続税額がなくなることもあり、相続税の申告が必要ないケースもあります。
しかし、障害者控除を受けるためには3つの要件を満たさなければならず、相続税の申告をするのかどうか判断が難しいことも多いです。
また、2回目の相続をする場合には少なくなります。
障害者控除を受ける際には、相続に詳しい税理士に相談する方法が有効です。相続税に関する申告は複雑であり、万が一間違えるとペナルティが大きいため、税理士にサポートをしてもらいましょう。
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遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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