遺族年金とは、家族を養っていた方が亡くなり、残された家族の生活を守るための国の給付制度で、大きく分けて遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。
ここでは、それぞれの受給資格や受給額の計算方法について解説します。
目次
遺族年金とはなにか
遺族年金とは、今まで家族を養ってきた方が亡くなった際に、残された家族の生活を守るために国が設けている給付制度の1つです。
遺族年金には、大きく分けて2種類あります。
1つは死亡した方の職業にかかわらず受けられる「遺族基礎年金」。
2つ目は、死亡した方がサラリーマンや公務員であった場合に受けられる「遺族厚生年金」です。
実際に受給できる年金については本人の職業、つまり加入している年金制度によって決まります。
職業ごとの加入年金と受けられる遺族年金の種類
加入している年金 | 受けることができる遺族年金 | |
自営業 | 国民年金 | 遺族基礎年金 |
会社員・公務員 | 厚生年金保険 | 遺族基礎年金 / 遺族厚生年金 |
なお、平成27年10月から公務員の方が加入していた共済年金は厚生年金保険に統合され、共済年金の職域年金部分は廃止されました。
ただし、平成27年9月までに共済年金の加入期間がある公務員の方については、厚生年金保険に統合された後に亡くなられた場合でも職域年金相当分が支給されます。
遺族年金を受け取るための条件
ここでは、遺族基礎年金、遺族厚生年金を受けるための要件、受けることができる人について解説していきます。
遺族基礎年金
遺族基礎年金を受給するための要件は以下の通りです(※参考: 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」)
- 被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある方が死亡したとき
- その際に、死亡した方の保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が加入期間の3分の2以上あること
- 令和8年4月1日前に死亡した場合には、死亡日に65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの保険料を納付しなければならない1年間に保険料の滞納がないこと
次に、遺族基礎年金を受けることができる人の要件ですが、死亡した人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」(なお、子については「18歳到達年度の年度末を経過していない子」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子」)に限ります。
遺族厚生年金
遺族厚生年金を受給するための要件は以下の通りです(※参考: 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)」)
- 被保険者が死亡したとき、または、被保険者期間中の傷病がもとで初診日から5年以内に死亡したとき(ただし、遺族基礎年金と同様、死亡した人について、死亡日の前日において保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が国民年金加入期間の3分の2以上あること)(※1)
- 老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある方が死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる方が死亡したとき
次に、遺族厚生年金を受けることができる人の要件は、死亡した人によって生計を維持されていた以下の方となります。
- 妻(※2 ※3)
- 子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない方、または、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の方)(※3)
- 55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金の受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる)
※3: 子のある配偶者、子(18歳到達年度の年度末を経過していない方、または、20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の人に限る)は、遺族基礎年金も併せて受けられます。
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遺族年金の計算方法
遺族年金の受給資格が確認できたところで、実際にどのくらいの遺族年金が受給できるのか、目安の額を確認しておきましょう。
遺族基礎年金の計算
遺族基礎年金の受給できる額は、一律で795,000円(令和5年4月以降)(※)となっています。
配偶者が受給する場合、これに加えて子が2人までは1人あたり228,700円、3人目以降は1人あたり76,200円の加算が行われることになっており、具体的な計算例は以下の通りです。
一方、子が遺族基礎年金を受給する場合、第2子以降で加算される点に注意しましょう。
子の人数 | 配偶者が受給する場合の受給総額 | 子が受給する場合の受給総額 |
1人 | 795,000円 + 228,700円 = 1,023,700円 | 795,000円 |
2人 | 795,000円 + 228,700円 × 2 = 1,231,500円 | 795,000円 + 228,700円 = 1,023,700円 |
3人 | 795,000円 + 228,700円 × 2 + 76,200円= 1,328,600円 | 795,000円 + 228,700円 + 76,200円= 1,099,900円 |
4人 | 795,000円 + 228,700円 × 2 + 76,200円 × 2= 1,404,800円 | 795,000円 + 228,700円 + 76,200円 × 2 = 1,176,100円 |
※昭和31年4月1日以前に生まれた方は792,600円です。
遺族厚生年金の計算
遺族厚生年金の年金額は、老齢厚生年金の3/4の金額で、下記の【1】の式によって算出した額となります。
なお、【1】の式によって算出した額が【2】の式によって算出した額を下回る場合には、【2】の算出額が報酬比例部分の年金額になります。
- 【1】報酬比例部分の年金額(本来水準)
[(平均標準報酬月額 × 7.125 / 1000 × 平成15年3月までの被保険者期間の月数) + (平均標準報酬額 × 5.481 / 1000 × 平成15年4月以後の被保険者期間の月数)]× 3 / 4
- 【2】報酬比例部分の年金額(従前額保障: 平成6年の水準で標準報酬を再評価し、年金額を計算したもの)
[(平均標準報酬月額 × 7.5 / 1000 × 平成15年3月までの被保険者期間の月数) + (平均標準報酬額 × 5.769 / 1000 × 平成15年4月以後の被保険者期間の月数)]× 1.002(※4) × 3 / 4
平均標準報酬月額とは、平成15年3月までの被保険者期間の各月の標準報酬月額の総額を、平成15年3月までの被保険者期間の月数で除して得た額です。
平均標準報酬額とは、平成15年4月以後の被保険者期間の各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以後の被保険者期間の月数で除して得た額(賞与を含めた平均月収)です。
これらの計算にあたり、過去の標準報酬月額と標準賞与額には、最近の賃金水準や物価水準で再評価するために「再評価率」を乗じます。
※ 前述した「遺族厚生年金を受給するための要件」の2に基づく遺族厚生年金の場合、計算式の1000分の7.125及び1000分の5.481については、死亡した方の生年月日に応じて経過措置があります。
この金額は、被保険者が受け取った給与や賞与の金額をもとに算出される平均標準報酬月額(賞与を含めない平均月収)と平均標準報酬額(賞与を含めた平均月収)などにより決まるため、亡くなる前の給与金額が高い方が遺族厚生年金の金額は多くなるといえます。
遺族厚生年金の年間支給額の目安(※厚生年金被保険者期間が平成15年4月以降の場合・計算方法は上記【1】を参照)
収入額(平均標準報酬額) | 厚生年金保険に加入していた期間 | |||
25年 | 30年 | 35年 | 40年 | |
30万円 | 369,968円 | 443,961円 | 517,955円 | 591,948円 |
40万円 | 493,290円 | 591,948円 | 690,606円 | 789,264円 |
50万円 | 616,613円 | 739,935円 | 863,258円 | 986,580円 |
なお、上記の遺族厚生年金を受けられる場合は、合わせて遺族基礎年金を受けられる場合があるので確認をしましょう。
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遺族厚生年金には加算制度がある
遺族厚生年金には「中高齢寡婦加算」「経過的寡婦加算」という加算給付があります。
それぞれについて見ていきましょう。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算とは、次のいずれかに該当する妻が受ける遺族厚生年金(※5)に、40歳から65歳になるまでの間、585,100円(年額)が加算される制度のことをいいます。
- 夫が亡くなったとき、40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子(※6)がいない妻
- 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻(※7)が、子が18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)等のため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき。
※6: 「子」とは次の人に限ります。
・18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
・20歳未満で障害等級1級または2級の障害の状態にある子
※7: 40歳に到達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けている妻
経過的寡婦加算
経過的寡婦加算とは、遺族厚生年金の加算給付の1つです。
次のいずれかに該当する場合に遺族厚生年金に経過的寡婦加算額が加算されます。
- 昭和31年4月1日以前生まれの妻に65歳以上で遺族厚生年金の受給権が発生したとき(上記2の支給要件に基づく場合は、死亡した夫の共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が20年以上(または40歳以降に15年以上)ある場合に限る)
- 中高齢の加算がされていた昭和31年4月1日以前生まれの遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳に達したとき
経過的寡婦加算の額は、昭和61年4月1日から60歳に達するまで国民年金に加入した場合の老齢基礎年金の額と合わせると、中高齢寡婦加算の額と同額になるよう決められています。
遺族年金が受け取れない場合はどうする?
遺族基礎年金は、子どもを育てるための年金ですので、子どもがすでに自立している場合や子どもがいない場合は受け取ることができません。
しかし、国民年金は国民全員が加入する制度なので、子どもが自立している場合や子どもがいない場合で夫が年金を受給する前に亡くなったら、保険料の払い損になってしまうのではないかと思ってしまいます。
その保険料の払い損を防ぐために、第1号被保険者のみへの救済として「寡婦年金」と「死亡一時金」という2つの制度があります。
ここでは、寡婦年金、死亡一時金について見ていきましょう。
寡婦年金とは?
寡婦年金とは、国民年金第1号被保険者独自の給付制度です。
第1号被保険者としての保険料納付期間と保険料免除期間が合わせて10年以上ある夫が亡くなったときに、その夫によって生計を維持され、かつ、夫との婚姻関係(事実婚を含む)が10年以上継続していた妻に対して夫への給付の代わりに支給される年金です。
受給期間は60歳~65歳までです。
このように、寡婦年金は受給できる期間が設けられている有期年金で、妻が自身の年金を受け取れるようになるまでの「つなぎの年金」とも呼ばれています。
寡婦年金まとめ
- 寡婦年金の年金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3になります。
- 亡くなった夫が障害基礎年金の受給権者であった場合、老齢基礎年金を受けたことがある場合には寡婦年金は支給されません。
- 妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けている場合は、寡婦年金は支給されません。
-
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死亡一時金とは?
死亡一時金とは、死亡日の前日において第1号被保険者として保険料を納めた月数(※8)が36月以上ある人が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受けないまま亡くなった時、その人によって生計を同じくしていた遺族(※9)に支給される制度です。
※9: 配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順番でその優先順位の高い方
死亡一時金まとめ
- 死亡一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて120,000円~320,000円です。
- 付加保険料を納めた月数が36月以上ある場合は、死亡一時金の額に8,500円が加算されます。
- 遺族が遺族基礎年金の支給を受けられるとき、死亡一時金は支給されません。
- 寡婦年金を受けられる場合は、寡婦年金か死亡一時金のどちらか一方を選択します。
- 死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から起算して2年です。
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まとめ
今回は、遺族年金、つまりは遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給資格や受給額の計算方法についてお伝えしました。
加えて、遺族厚生年金の加算制度や、遺族基礎年金の受給対象外となった場合に確認するべき他の給付制度も解説しましたので、対象の方は確認するようにしましょう。
山本 務
特定社会保険労務士。理系大学卒業後、プログラマー・SEを経て上場企業人事部で人事労務管理業務を約10年経験し、2016年に独立。独立後も2020年3月まで労働局の総合労働相談員として200件以上のあっせん事案に関与。労働相談は労働局の電話相談も含めて1,000件以上の対応実績あり。これまでの知識と経験を活かし、各種サイトでの人事労務関係に関する記事の執筆や監修も積極的に行っている。
オフィシャルサイト: やまもと社会保険労務士事務所