大切な家族が亡くなった際に、相続した遺産の総額によっては、相続税を支払う義務が生じる場合があります。
税務署へ相続税を申告するためには、数多くの書類の準備が必要です。
相続税申告に必要な書類は、相続した資産の種類等によって異なります。
正確な相続税申告を行うために、申告に必要となる書類についてあらかじめ把握しておきましょう。
相続税の申告をする必要がある人
相続が発生した場合にありとあらゆる人が相続税の申告をすることが求められているわけではありません。
課税遺産総額が相続税の基礎控除額以下の場合は、原則として相続税の申告は不要です。
反対に、課税遺産総額が相続税の基礎控除額を超過した場合には、相続税申告が必要です。
また、課税遺産総額が基礎控除以下の場合でも、以下のいずれかに当てはまる場合は、相続税の申告手続きをしなければなりません。
・小規模宅地等の特例を適用する ・配偶者の税額軽減を適用する ・相続時精算課税制度を利用する など
相続税の申告先は、被相続人の居住地がある区域を管轄している税務署です。ご自身の住まいの近くにある税務署とは限らない点に注意しましょう。
基礎控除を超える人
相続税の基礎控除とは、相続税の課税対象とならない財産の限度額を意味します。課税遺産総額が基礎控除額以下の場合、相続税は課税されず、相続税申告も原則として不要です。
まず、以下に挙げる財産の金額を合算して、課税対象財産の合計額を求めます。
・被相続人が死亡時に所有していた財産 ・被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産 ・相続時精算課税の適用を受けて贈与された財産 ・生命保険金 ・被相続人の死亡で支給された退職手当金 など
※ただし、以下の財産は相続税が非課税とされています。
・墓地・墓石、仏壇などの祭祀財産
・生命保険金(【500万円×法定相続人】までの部分)
・退職手当金(【500万円×法定相続人】までの部分)
など
※被相続人の債務や葬儀費用は、課税対象財産から控除します。
上記に従って積算した課税対象財産の合計額から、相続税の基礎控除額(※)を差し引きます。相続税の基礎控除額には、相続放棄をした法定相続人も含みます。
また養子については、実子がいる場合は1人までで、実子がいない場合は2人までカウントされます。
※3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
上記に従って計算した課税遺産総額が1円でも上回った場合、相続税申告が必要です。
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小規模宅地等の特例の適用を受ける人
小規模宅地等の特例とは、相続によって承継した自宅用・事業用の宅地等につき、課税価額を50%または80%減額できる制度です。
例えば、小規模宅地等の特例を適用できるのは、故人が居住として利用していた土地を、同居していた親族が相続してそのまま住み続ける場合などです。
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配偶者の税額軽減の適用を受ける人
被相続人と死別した配偶者の生活を保障するため、配偶者が承継した課税対象財産の総額が、「1億6,000万円」もしくは「配偶者の法定相続分」のどちらかが、大きな金額を超えない場合には、相続税が課税されません。
超過した場合でも、超過した分にのみ相続税が課されます。
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相続時精算課税制度の適用を受けている人
60歳以上の親・祖父母から20歳以上の子供・孫に贈与する際に相続時精算課税制度を利用できます。相続時精算課税制度を利用すると、最大2,500万円までの生前贈与について、贈与税が課税されなくなります。
ただし、相続発生時に相続税が課されるため、本質的に節税の効果を得られるとは限らないので注意しましょう。
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相続税の申告に必要な添付書類一覧
税務署に相続税申告をする際の必要書類は、大まかに以下の通り分類できます。
・全員提出する必要書類 ・遺言書または遺産分割に関する必要書類 ・不動産に関する必要書類 ・現金・預貯金に関する必要書類 ・株式や投資信託など有価証券に関する必要書類 ・生命保険金に関する必要書類 ・葬式費用や債務に関する必要書類 ・生前贈与に関する必要書類 ・特例や控除を適用する場合の必要書類 ・その他の財産に関する必要書類
全員提出する必要書類
被相続人や相続人の身分関係に関する書類や、申告者の本人確認書類などは、相続税申告の際に必ず提出しなければなりません。
特に、「被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本」については、結婚・離婚等によって変更が繰り返されている場合、取得に時間がかかる可能性があるので注意が必要です。
・身分関係に関する必要書類 ・被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本(相続開始の日から10日経過後に作成されたもの) ・相続人全員の戸籍謄本(相続開始の日から10日経過後に作成されたもの) ・申告者に関する必要書類 ・申告者の住民票 ・申告者のマイナンバー番号確認書類 ・申告者の身元確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポート・医療保険の被保険者証など)
遺言書または遺産分割に関する必要書類
遺言書がある場合には、相続税申告の際に以下の書類が必要です。
・遺言書に関する必要書類 ・遺言書の写し ・検認証明書(公正証書遺言・法務局で保管されている自筆証書遺言の場合は不要)
相続人間で遺産分割を行った場合、相続税申告の際に以下の書類が必要です。
・遺産分割に関する必要書類 ・遺産分割協議書の写し ・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印した印鑑のもの)
不動産に関する主な必要書類
土地や建物を相続した場合には、主に以下の書類が必要です。
・土地登記簿謄本(全部事項証明書)【入手先:法務局】 ・固定資産税評価証明書【入手先:市区町村役場(所)の資産税課、東京都は都税事務所】 ・名寄帳(固定資産課税台帳)【入手先:市区町村役場(所)の資産税課、東京都は都税事務所】 ・名寄帳には、所在地や地目、面積、固定資産税評価額、課税標準額などが記載されており、不動産を所有者別にまとめた一覧表 ・地積測量図または公図の写し【入手先:法務局】※地積測量図がない場合は不要 ・賃貸借契約書【入手先:自宅など】※貸地や借地があるときに必要となる ・借地契約書【入手先:自宅など】※土地の借地権を相続したときに必要となる ・農業委員会の証明書【入手先:各地域の農業委員会】※小作している他人の農地がある際に必要・建物登記簿謄本(全部事項証明書)【入手先:法務局】 ・固定資産税評価証明書【入手先:市区町村役場(所)の資産税課、東京都23区は都税事務所】 ・名寄帳(固定資産課税台帳)【入手先:市区町村役場(所)の資産税課、東京都は都税事務所】 ・所在地や地目、面積、固定資産税評価額、課税標準額などが記載されている賃貸借契約書【入手先:自宅など】※貸家がある際に必要となる
現金・預貯金に関する主な必要書類
現金・預貯金を相続した場合には、主に以下の書類が必要です。
・金融機関の預金残高証明書【入手先:取引している金融機関】 ・被相続人の過去5年分の通帳のコピー【入手先:自宅など】 ・定期預金の既経過利息計算書【入手先:取引している金融機関】 ・手元の現金残高が分かる書類(メモなど)
株式や投資信託など有価証券に関する主な必要書類
株式や投資信託など有価証券を相続した場合には、主に以下の書類が必要です。
上場株式
・証券会社の預り証明書(残高証明書)【入手先:契約している証券会社】 ・登録証明書(残高証明書)【入手先:保有していた上場株式の名簿管理人】 ・配当金の支払通知書【入手先:自宅など】 ・被相続人の最近3年間の取引明細【入手先:契約している証券会社】
非上場株式
・過去3期分の決算書(勘定内訳書などの添付書類を含む)【入手先:該当企業】 ・税務申告書(法人税・事業税・消費税)【入手先:該当企業】 ・法人所有の土地や有価証券の明細【入手先:該当企業】 ・株主名簿(親族関係が分かるもの)【入手先:該当企業】
投資信託
・証券会社の預り証明書(残高証明書)【入手先:契約している証券会社】
生命保険金に関する主な必要書類
被相続人の死亡により生命保険金を受け取った場合には、主に以下の書類が必要です。
・生命保険金支払通知書【入手先:契約している生命保険会社】 ・生命保険証書【入手先:自宅など】 ・解約返戻金のわかる書類【入手先:契約している生命保険会社】
葬式費用や債務に関する主な必要書類
被相続人が死亡時点で債務を負っていた場合や、相続財産から葬式費用を支出した場合には、主に以下の書類が必要です。
・借入残高証明書および返済予定表【入手先:契約している金融機関】 ・金銭消費貸借契約書および返済予定表【入手先:それぞれの借入先】 ・その他債務(未納租税公課、医療費、公共料金等)に関する書類 ・葬式費用【入手先:葬式に関する費用の領収書、ないものはメモでも可】
生前贈与に関する主な必要書類
生前贈与に関する資産を相続した場合には以下の書類が必要です。
・贈与税申告書【入手先:自宅など】 ・贈与契約書【入手先:自宅など】 相続時精算課税制度の適用を受けている場合 ・相続時精算課税制度選択届出書【入手先:自宅など】 ・贈与税申告書【入手先:自宅など】 ・贈与契約書【入手先:自宅など】 特例贈与の適用を受けている場合 ・贈与契約書・贈与税申告書・非課税申告書 └住宅取得等資金の贈与をしている場合【入手先:贈与を実施した年分の贈与税申告書】 └教育資金の一括贈与をしている場合【入手先:金融機関発行の教育資金非課税申告書】 └結婚子育て資金の一括贈与をしている場合【入手先:金融機関発行の結婚子育て資金非課税申告書】過去3年以内に贈与がある場合
その他の必要書類
以下の資産を相続した場合には書類提出が必要です。
・自動車 車検証のコピー ・退職金 支払通知書または源泉徴収票 ・ゴルフ会員権・リゾート会員権 預託金証書または証券のコピー ・貸付金、前払金等 金銭消費貸借契約書および残高がわかるもののコピー ・貴金属、書画、骨董等 金銭的価値があるものでは鑑定書など ・海外の財産 海外居住歴や海外財産がわかるもの ・認知症 医師の診断書 ・その他 未収の給与、地代、家賃、公租公課(所得税・国民健康保険料など)に関する書類 過去の相続税申告書 障害者手帳のコピー
特例や控除を適用する場合の主な必要書類
相続税の控除や特例を適用する場合には、それぞれに対応する書類が必要です。
ここでは特に適用される事例が多い小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減について、必要となる書類をピックアップします。
小規模宅地等の特例の適用を受ける場合の主な必要書類
・申告期限後3年以内の分割見込書【自身で作成】 ・相続人の戸籍の附票【入手先:市区町村役場(所)】 ・老人ホームの入居関係の資料(入居時の契約書や退去返還金の書類など)【入手先:自宅など】 ・被相続人の過去3年分の確定申告書等【入手先:自宅など】
配偶者の税額軽減の適用を受ける場合の必要書類
・申告期限後3年以内の分割見込書【自身で作成】
相続税申告書の入手方法
課税遺産総額が相続税の基礎控除額を超過している場合には、相続税申告の準備を進めましょう。
申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
期限までに申告ができないと、ペナルティとして延滞税が生じてしまうため、計画的に申告準備を行うことをお勧めいたします。
相続税の申告書は税務署か国税庁のホームページで入手可能です。
それぞれの書類は市区町村役場(所)・法務局・金融機関・証券会社・生命保険会社など、様々な機関から入手しなければなりません。
書類の入手に多くの時間を必要とする場合もあるため、早い段階から申請等に着手しましょう。
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相続税申告の必要書類の準備は専門家に頼るのも一つの選択肢
相続税の申告にあたっては、多種多様な書類を準備しなければならないため、想像以上に時間を取られてしまうものです。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と、一見余裕があるようにも思われます。
しかし、葬儀や法要、遺産分割協議などに忙殺されているうちに、気が付けば申告期限間近となってしまうケースもよくあります。
そのため、相続税申告の準備は、できる限り前倒して進めましょう。
相続税申告のやり方に不安がある場合や、期限が迫っていて急ぎの対応が必要な場合には、税理士に相談することを推奨します。書類の作成・取得等についてはもちろん、節税についても有益なアドバイスが期待できます。
後顧の憂いなく相続税の申告・納付を終えるためにも、税理士への相談をご検討下さい。
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この記事の監修者:阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(税理士法51条1項に基づく国税局長への通知により、税理士業務も行う)。
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律・税務関連記事の執筆にも注力している。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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