相続が生じた際に、土地や建物が相続財産になることと同じように「私道」も不動産のひとつとして相続財産の対象となるために相続することになるのです。
道路には私道と公道とが存在しますが、いったい「私道」「公道」とはどのようなものであるのか、私道は不動産としてどういった価値や相続財産として認識されているのかについてを解説します。
目次
1. 私道とは?私道と認められる条件
道路には公道と私道の2種類が存在しており、公道は国・都道府県・市区町村によって維持管理されている道路で、管轄によって国道・県道・市道に分類されています。
私道は個人や法人が所有している土地に作られた道路で、土地の所有者によって維持管理されている道路を指しているのです。
道幅が4メートル以下である場合は建築基準法上、道路にならないため私道に該当します。
しかし、例外として道幅が4メートル以下であっても公道として扱われる「2項道路」とった特例があるため、必ず私道となるわけではないのです。道幅が4メートル超であれば私道と公道のどちらの可能性もあります。
私道の中には「位置指定道路」として市町村に、公道と同じ品質を持っている私道があるため、外見で公道と私道を見分けることは困難です。
2. 相続税の評価額と固定資産税評価の評価は異なる
固定資産税は固定資産が所在する市区町村が評価して課税されます。
一方で相続税は国税庁が定めた財産評価基本通達による評価額を用いて税額を定めるため、固定資産税評価と相続税評価の評価基準が異なる場合があるのです。
相続税評価と固定資産税評価とを混同している場合が多く見受けられますが、固定資産税評価額と相続税評価額はまったく違うものです。
私道の場合、定められた十分な条件が揃うと固定資産税評価額がゼロとなることがありますが、あくまでも固定資産税評価額であり、相続税評価額ではありませんので注意する必要があります。
2-1 私道にも相続税がかかる
私道は遺言書や遺産分割協議書から看過されやすい相続財産です。
その理由は固定資産税納税通知書をもとに作成されていますが、私道の固定資産税評価額がゼロであった際は固定資産税納税通知書に記載されない場合があるのです。
私道が「遺言書」から記載漏れしていた場合は、遺言書によって相続の手続きができないため、遺産分割協議書を個別に作成して法定相続人全員の同意と署名捺印が必要になります。
また私道が「遺産分割協議書」から記載漏れしていた場合も、もう一度遺産分割協議書を作成する必要があるのです。
2-2 公衆用道路は相続税がかかることに注意
登記地目が「公衆用道路」、固定資産税の課税地目も「公衆用道路」となっており、固定資産税が非課税となっている土地を相続した際に、固定資産税が非課税であるからといって、自動的に相続税も非課税となるわけではありません。
通り抜け私道でなければ評価額はゼロとはなりません。
ある基礎自治体の固定資産税課において、私道を「公衆用道路」として取り扱う大前提として、下記のいずれか一方の条件を充足することとしています。
- 実際の状況が公道から公道へ接続している私道で、慣例的使用についてまったく通行上の制限が設定されていないもの
- 財産評価基本通達24<私道の用に供されている宅地の評価>の「その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは、その私道の価額は評価しない。」と意義が同じであると考えられます。
- 登記地目が公衆用道路であり、かつ実際の状況も道路として使用されているもの
- 登記地目が「公衆用道路」であり、今もなお道路として利用されていれば、固定資産税評価上の地目は「公衆用道路」として認可され非課税となるようです。
3. 私道の相続税の計算時には土地の評価がポイント
「私道」とは個人や法人が所有・管理しているものであるため、原則として個人所有の「私道」は相続財産に含まれます。
しかし何もかも考え合わせてみると、多くの人々が使っている道路は私道であっても公共性が高いため、個人の土地であるからといって独自の判断で処分できないため相続評価はしなくてよいということです。
3-1 私道を不特定多数の人が利用している場合は評価しない
私道には世間一般に言われる通り抜け道として利用され不特定多数の人々が往来するものと、袋小路のように家族などの特定の人のみが往来するものがあります。
税法上においては「不特定多数の通行の用に供されている私道」について土地の価額は評価しません。では、具体的にどのような判断がされるのでしょうか。
公道から公道への通り抜けできる場合
公道と公道に連絡しており、不特定多数の人々が通行の用に供している世間一般に言われる通り抜け私道。
公園、公共施設、商店街等の集会場に通じる場合
行き止まりの私道となりますが、その私道を通行して不特定多数の人々が地域の公民館・地域センター・公園といった公共施設に出入りしている場合における私道。
公共バスの転回場や停留所などがある場合
私道の一部に公共バスの転回場・停留所が設置されており、不特定多数の人々が利用している場合の私道。
セットバックされている場合
セットバック部分は所有権を有していたとしても、建築基準法上の道路であるため建物を建築できないことから私道として評価されます。
これにより相続税を算出する際は、行き止まり私道に該当する場合には評価額の30%相当額となるのです。
3-2 私道を特定の人のみが利用している場合
袋小路・行き止まりの私道の場合
袋小路・行き止まりの形態をした私道である場合、登記地目・固定資産税評価地目が「公衆用道路」であったとしても、相続税評価においては「不特定多数の者の通行の用に供されている」とは認められないため、あくまでも「行き止まり私道」として下記の計算式によって評価されます。
- (修正後の正面路線価)✕(地積)✕30%
3-3 私道を所有者のみが利用している場合
所有者のみが利用している私道は、隣接した宅地と一緒に1画地として評価されるために隣接宅地と同様の評価がされることになります。
4. 路線価地域・倍率地域に属した私道の相続税評価額の計算方法
相続税の土地の評価額は「路線価方式」あるいは「倍率方式」で算定します。
路線価方式は道路毎に付与された1㎡あたりの路線価に土地の面積を掛け合わせたものが評価額に、倍率方式は主として路線価が定められていない地域において使用される計算方法で、宅地の固定資産税評価額に評価倍率表に基づいた倍率を掛け合わせたものが評価額となります。
路線価・評価倍率は毎年7月頃に発表される路線価図・評価倍率表はともに国税庁ホームページで閲覧して確かめられます。
4-1 路線価地域に属した私道の場合
路線価方式の基本となる計算式は、路線価✕土地面積(㎡)=評価額となります。最初に路線価図で土地に隣接している道路の路線価を調査します。
続いて、条件に当てはまる路線価に土地の面積を掛け合わせて計算するのですが、土地の形態や立地環境を念頭に置いて路線価に定められた補正率を掛け合わせて調整します。
その際に土地評価を減額すべき要所を見落とさないように十分な注意を向けることによって、本来支払わなくて良い相続税を支払うことのないように、慎重に実施する必要があるのです。
4-2 倍率地域に属した私道の場合
倍率方式の計算式は、固定資産税評価額✕倍率=評価額となります。倍率方式の場合は土地の固定資産税評価額に、区画された土地の区域ごとで定められている評価倍率を掛け合わせて評価額を求めます。
倍率方式においては、土地の形態や立地環境といった要素を含めてよく考えた調整をする必要はありません。
5. 私道の相続税には小規模宅地等の特例も活用可能
居住用の小規模宅地等の特例とは定められた必要な条件を基本として、自分の家の土地330㎡までの相続評価額を80%減らせる制度のことです。
減額できる割合が大きいため相続税を算出する際には必ず使われている制度となります。この居住用の小規模宅地等の特例ですが、定められた必要な条件で「私道」に対して適用することが可能です。
国税庁の質疑応答事例では、私道が宅地の維持管理・効用を成し遂げるために欠かすことのできないケースにおいては特例の対象になると書き記されています。
わかりやすく言うと、私道を通り抜けなければ自分の家への出入りできないといった、その私道がとても必要で欠かせないと容認される場合は、特例の対象になるということです。
「相続税評価額を70%減らせる私道」の場合においても、自宅の出入りに欠かすことのできない際は特例の対象になります。このことによって、70%減らしたうえに80%減らすことが可能となるのです。
でありながら、居住用の小規模宅地等の特例における上限は330㎡と定められているため、70%減額された私道で面積を利用してしまうと、小規模宅地等の特例において使えるものを存分に使えているとはいえません。
どういった土地において小規模宅地等の特例を受けたほうが、全体における相続税評価額を減らせるのかについて判断するためによく調べて考える必要があります。
私道の相続や相続税については税理士に相談
私道を評価する場合、不特定多数の者の通行の用に供されていると見なされることによって、評価額はゼロとなりますが、専ら特定の者の通行の用に供されていると見なされれば30%で評価されることになり、所有者のみの通行の用に供されている通路であると見なされれば100%で評価されることになります。
私道がどのように見なされるかによって、評価額に大きな変化が生じるのです。
実際には私道がどのように見なされるかを区切ることが困難であるケースも多いため、境界線の設定について誤って認識してしまうと、税務調査によって実際より少ない額を申告していることが指摘され追徴課税が課されたり、反対に高く評価してしまい税額も高くなってしまった場合は、もっと安くなることを税務署は進言してくれませんので、そのまま見過ごされてしまうといったことになってしまいます。
定められた基準をもとに私道の価値を判定することは、相続税に対する知識や経験が豊富である税理士に意見を求めることをおすすめします。
【関連記事】
相続税の土地評価額の計算方法とは?節税できる方法もご紹介します
小規模宅地等の特例で最大8割減税!対象土地ごとの要件と注意点
この記事の監修者:安井 貴生
税理士。大阪市内の税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、時代の流れもあり相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加している。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。