数次相続と代襲相続を《わかりやすく》解説|数次相続(二次相続)も紹介

更新日:2023.12.08

数次相続と代襲相続を《わかりやすく》解説|数次相続(二次相続)も紹介

「数次相続」とは、相続の手続き中に相続人のうちの一部が死亡し、新たな相続が開始することを意味します。混同されがちな用語の中に、「代襲相続」がありますが、似て非なるものです。

ここでは、数次相続の基本概念や代襲相続との違い、相続放棄が発生した場合などを解説します。

数次相続の場合、遺産分割協議書や相続登記時には注意が必要で、その点も詳解します。

1. 数次相続とは

「数次相続」とは、被相続人の死亡により開始した相続手続きが未了のうちに、相続人の一部が死亡して新たな相続が発生してしまうことをいいます。

例えば、Aが死亡し、その相続人がBとCであったとき、亡Aの相続手続きをしていないうちにBが死亡してしまった、というようなケースです。

この場合、亡Aの相続手続きを行うためには、Cは亡Bの相続人Dとともに、亡Aに関する相続手続きを行う必要が出てくるのです。

相続手続きは、相続人の調査や遺産分割協議の調整など、往々にして時間が掛かるものです。長期に渡って手続きを先延ばしにしていると、この数次相続が発生してしまう可能性があります。

数次相続が発生すると、相続人の人数が増える傾向にあります。

また、予期しない者が相続人となることもあります。このことにより、遺産分割協議がよりまとまりにくくなる可能性が出てきます。

例えば、Aが死亡し、その相続人がBとCであったとき、亡Aの相続手続きをしている最中にBが死亡してしまった、というようなケースを考えてみましょう。

亡Bの相続人がDとEとFであった場合、CはDとEとFとの間で遺産分割協議をしなければなりません。

協議がまとまらないうちにさらにCが亡くなり、その相続人がGとHとIであれば、今度はD、E、Fと、G、H、Iとの間で遺産分割協議が必要となるのです。

数次相続が発生すると登場人物が増加し、また、相続人間の関係性がより疎遠なものへとなる傾向があります。

そうなると、遺産分割協議がよりまとまりにくいものへとなる可能性が高くなるわけです。

1-1 代襲相続との違い

数次相続と似て非なるものに「代襲相続」というものがあります。

代襲相続とは、被相続人による相続が開始したときに、その被相続人の相続人となるべき者が被相続人よりも「前」に死亡していたとき等に発生するものをいいます。

この「代襲相続」が発生すると、被相続人より「前」に死亡した者の子などが、死亡した者に代わって相続人となります。

数次相続と代襲相続とを比較するために、具体例を示してみます。

例えば、父A、その子B、Bの子C(CはAの孫)がいたとします。

Aが死亡し、亡Aの相続手続き中、すなわちAよりも「後」にBが死亡した場合、亡Aの相続手続きは亡Bの相続人であるCが行うことになります。このケースは数次相続です。

これに対して、Aが死亡する「前」にBが死亡しており、その後にAが死亡した時、亡Bに代わってCがAの相続人となるのが代襲相続です。

つまり、父A、子B、孫Cがいたとき、中間者であるBがAよりも「後」に死亡した時は数次相続、Aよりも「前」に死亡した時は代襲相続となります。

1-2 相次相続との違い

税法上の概念に「相次相続」というものがあり、これには「相次相続控除」という制度があります。

相次相続控除とは、例えば両親が立て続けに亡くなってしまった場合、短い期間に二度も相続税の負担を受けることになるため、その負担を軽減させる制度です。

最初の相続開始から次の相続が発生するまでの期間が10年以内であり、最初の相続に関する相続税が納付済みであるとき、次の相続時において相次相続控除の適用があり得ます。

詳しくは税理士にご確認ください。

2. 数次相続における相続権の考え方

まず、具体例を挙げてみます。

父A、母B、その子どもがC、D、Eだとします。父Aが死亡しその遺産分割協議がなされないうちに母Bが死亡してしまい、子どものC、D、Eが相続手続きを行う、というケースを考えてみます。

なお、父Aが死亡した際に発生する相続を「一次相続」といい、その後の母Bが死亡した際に発生する相続を「二次相続」といいます。

父Aが死亡した際の一次相続では、母Bと、子どもC、D、Eが相続人となります。この時の法定相続分は、配偶者である母Bが2分の1、子どもたちはそれぞれ6分の1((2分の1×3分の1))となります。

全体の半分を配偶者が、残った半分を子どもたちが三等分するのでこの割合になるわけです。

次に、母Bが死亡した際の二次相続では、子どもC、D、Eが相続人となります。この時の法定相続分は、三人の子どもたちが均等の割合となりますので、それぞれ3分の1ずつとなります。

つまり、父Aの遺産に関する子どもC、D、Eの取得分は、一次相続で6分の1ずつ、二次相続でも6分の1ずつとなります。

二次相続の取得分は、母Bが一次相続で取得した父Aの遺産に対する2分の1の法定相続分に対するものですので、その2分の1に対する各自の法定相続分を掛けた持分(2分の1×3分の1)、すなわち6分の1ずつが取得分となるのです。

よって、結果的に子どもC、D、Eは、父Aの遺産に対し、それぞれ3分の1(6分の1+6分の1)ずつの法定相続分を有することになります。

2-1 連れ子がいる場合の数次相続

例えば、父A、母B、その子どものC、D、Eに加え、母Bの連れ子のFがいたとします。

FはAとの間で養子縁組をしておらず、Aの相続人とはならない、というケースです。Aが死亡しその遺産分割協議がなされないうちにBが死亡したとき、相続手続きは誰が行うべきでしょうか。

まず、Aが死亡した際の一次相続では、Bと、子どもC、D、Eが相続人となります。Bの連れ子のFは、Aと養子縁組をしていないため、Aが死亡した際の一次相続では相続人とはなりません。

この時の法定相続分は、配偶者であるBが2分の1、子どもたちはそれぞれ6分の1(2分の1×3分の1)となります。

次に、Bが死亡した際の二次相続では、子どもC、D、Eに加え、Bの連れ子Fも相続人となります。

BとFとの間には親子関係があるため、FはBの相続人となります。この時C、D、E及びFの法定相続分は、みなBの「子」であるので均等の割合となります。

そのため、その法定相続分はそれぞれ4分の1ずつです。一次相続でBが相続したとされるAの遺産に関する法定相続分2分の1について、C、D、E及びFが均等の割合で相続することになります。

その結果、Aの相続財産に関し、Aの実子であるC、D、Eは一次相続で法定相続分6分の1ずつを、二次相続(Bが取得したAの財産に対する2分の1の法定相続分に対する相続)では、2分の1に対する法定相続分4分の1、すなわち8分の1ずつを、合計24分の7(6分の1+8分の1)を取得します。

一方、Bの連れ子であるFは、Aの相続財産に対し、Bが取得したAの財産に対する2分の1の法定相続分に対して4分の1の法定相続分を有するため、8分の1(2分の1×4分の1)を取得します。

よって、亡Aの相続財産は、C、D、Eが24分の7ずつ、Eが8分の1(24分の3)を取得するのです。

【関連記事】連れ後に相続権はある!?こちらもご覧ください。
>コラム:再婚の【連れ子に相続権はない!?】|財産を継父や継母から相続できる?

3. 相続放棄をするには

数次相続が発生することにより、自分が相続人となってしまった場合でも、その相続財産を承継したくない場合には、相続放棄をすることができます。

相続放棄は、家庭裁判所に対して手続きをとる必要があることに加え、下記の要件を満たさなくてはなりません。

  • 相続放棄をするための要件
  1. 単純承認、または限定承認をしていないこと。
  2. 自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所へ申述すること。

①でいう「単純承認」とは、相続人が相続財産を処分したり、相続財産を隠し自ら消費したり、悪意で相続財産目録中に記載をしなかったりした場合に、法律上当然に被相続人の権利義務を承継することになるというものです。

「限定承認」とは、相続により得た財産の範囲で被相続人の負債を弁済する手続きをとることをいい、家庭裁判所において行う手続きです。単純承認となることを行ってしまったり、限定承認の手続きを行ったりした場合には、相続放棄はできなくなります。

②に関しては、原則としてこの期間内に家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行う必要があります。期間を過ぎてしまうと相続放棄はできなくなります。

ただし例外として、家庭裁判所に「期間伸長」の申し立てをして、これが認められれば、申述する期間を延ばして貰えることになります。

なお、この「期間伸長」の申し立ては、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に対して申し立てをしなければなりませんので、その点ご注意ください。

4. 数次相続の手続き方法

数次相続では、一次相続と二次相続など、複数の相続が発生していることになります。

よって、例えば遺産分割協議を作成する場合は、一次相続と二次相続の両方についての記載が必要となります。

4-1 一次相続の遺産分割協議書

遺産分割協議書には、被相続人を特定するために、その氏名、死亡年月日、本籍、住所を記載することになります。

そして、相続人が相続財産をどのように分割したのかといった協議内容を記載します。そして最後に、全相続人が住所氏名を自書し、実印で押印します。

数次相続における一次相続の遺産分割協議書は、相続人中に死亡者がいるため、工夫を要します。

その死亡した者を「相続人兼被相続人」と記載し、その死亡した者の相続人(二次相続における相続人)を「相続人兼被相続人の相続人」と記載します。

「相続人兼被相続人」は、その氏名、死亡年月日、本籍、住所を記載します。そして最後に、一次相続における全相続人と共に、二次相続における「相続人兼被相続人の相続人」が、住所氏名を自書し、実印での押印をすることになります。

一次相続における遺産分割協議書の具体例を、以下に示してみます。

遺産分割協議書

 

被相続人  丸山丸夫(2020年1月11日死亡)

本籍地   ●県●市●●1丁目1番地1

最後の住所 ●県●市●●1丁目1番1号

 

相続人兼被相続人 丸山太郎(2020年6月6日死亡)

本籍地   ●県●市●●1丁目2番地3

最後の住所 ●県●市●●1丁目2番3号

 

上記被相続人丸山丸夫に関する相続につき、相続人丸山次郎、

相続人丸山三郎、相続人兼被相続人丸山太郎の相続人丸山孫太が、

本日、遺産分割協議の結果、以下の通り分割した。

 

― 略 ―

 

●県●市●●2丁目2番2号

相続人 丸山次郎         印

 

●県●市●●3丁目3番3号

相続人 丸山三郎         印

 

●県●市●●1丁目2番3号

相続人兼被相続人丸山太郎の相続人 丸山孫太    印

4-2 二次相続の遺産分割協議書

二次相続における遺産分割協議書は、通常の遺産分割協議書の記載方法で構いません

つまり、二次相続における被相続人の氏名、死亡年月日、本籍、住所を記載し、相続人が二次相続における相続財産をどのように分割したのかといった内容を記載して、最後に二次相続における全相続人が住所氏名を自書し、実印で押印することになります。

 

4-3 相続登記の注意点

数次相続における相続登記は、通常の相続登記に比べると、少し複雑になります。

これは、一定の条件を満たしている場合、一次相続における相続と、二次相続における相続とをまとめて一つの登記として申請できるケースがあるからです。

まとめて一つの登記で申請できれば、登録免許税が大幅に削減できます。

もっとも、要件を満たしていなければ、1つの登記にまとめることはできず、一次相続における相続登記と、二次相続における相続登記とを別に出さなければなりません。

以下、まとめて一つの登記で申請できる条件を示します。

  • 数次相続をまとめて一つの登記で申請するための条件
  1. 一次相続における相続人が、単独(一人だけ)である場合
  2. 一次相続における相続人が複数いるが、一人を除き他の相続人が相続放棄し、単独となった場合
  3. 一次相続における相続人が複数いるが、遺産分割協議により一人だけが単独で相続した場合

上記①~③のいずれかの条件を満たし一次相続の相続人が一人だけとなっている場合で、その者に二次相続人がいる場合、一次相続における被相続人名義の不動産を、二次相続における相続人に対して直接移転することができます。

例えば、次のようなケースです。

被相続人A名義の不動産があり、Aには相続人BとCがいる。遺産分割協議前にBが死亡してしまい、Bの相続人はDである。CとDとが遺産分割協議を行い、DがA名義の不動産を取得することになった。

この場合は、Bの二次相続人Dが単独で取得するため、一次相続においては亡Bが単独で相続するものと考えます。そのため、被相続人A名義の不動産を、直接Dに移転することができます。

AからB、BからDと二つの申請をすることなく、一つの申請でAからDに移転できるのです。

  • 数次相続をまとめて一つの登記で申請できないケース

一次相続における相続人が、結果的に複数人となる場合は、まとめて一つの登記で申請することはできません。

例えば、次のようなケースです。

被相続人A名義の不動産があり、Aには相続人BとCがいる。遺産分割協議でBとCとが2分の1ずつ取得することになり、その手続きをする前にBが死亡してしまった。Bの相続人はDであり、DがBの取得した2分の1を承継した。

この場合、一次相続で取得する相続人は亡BとCの二人です。一次相続における相続人は単独ではありません。そのため、A名義の不動産を一つの申請でCとDへ移転することはできません。

第一の申請でA名義の不動産を亡B2分の1及びC2分の1にし、第二の申請で亡Bが持つ2分の1分の名義をDに移転する、ということになります。

以上のように、数次相続がからむ相続登記はかなり複雑です。司法書士等の専門家にご相談することをお勧めいたします。

5. まとめ

数次相続は、代襲相続と混同されがちですが、実際は全く異なるものだとお分かりいただけましたか。また、数次相続における遺産分割協議書の作成や相続登記には、注意も必要です。

司法書士や弁護士といった専門家に相談しながら進めていくのが確実と言えるでしょう。

執筆者プロフィール
山下晋広
司法書士。2000年、司法書士試験合格。2004年、司法書士事務所を開業。所属する東京司法書士会では、調停センター運営委員、広報委員を担当。大学では文学部にて東洋哲学を学び、博物館学芸員を志しつつも、諸事情にて転身。現在、司法書士として研鑽を積む。主な業務は相続手続・不動産登記手続・企業法務・成年後見業務。

相続コラムを探す×
カテゴリを選ぶ
お近くで相続に強い専門家をお探しの方は おすすめ検索
専門家を
お選びください
地域を
お選びください
相談内容を
お選びください

「つぐなび」の運営は、1970年創業の株式会社船井総研ホールディングス(東証1部上場、証券コード:9757)の経営コンサルティング事業を担う株式会社船井総合研究所が行っています。…もっと見る

船井総合研究所は、相続分野において700事務所にものぼる全国の弁護士・税理士・司法書士といった士業事務所のコンサルティングを行っており、その長年のノウハウをもとに「つぐなび」を2020年に開設いたしました。
現在、全国的に高齢人口の急速な増加を続けており、総人口は減少していく一方で、高齢者人口は2040年まで増え続けると予測されています。それに伴い、相続財産をめぐるトラブルも増加、複雑化していることが喫緊の課題となっており、さらに、問題を未然に防ぐための遺言や民事信託などの生前対策のニーズも年々高まっています。 「つぐなび」では、相続でお困りの皆様が、相続の”プロ”である専門家と一緒に相続の課題解決をしていけるようサポートいたします。

・本記事は一般的な情報のみを掲載するものであり、法務助言・税務助言を目的とするものではなく、個別具体的な案件については弁護士、税理士、司法書士等の専門家にご相談し、助言を求めていただく必要がございます。
・本記事は、本記事執筆時点における法令(別段の言及がある場合を除き日本国におけるものをいいます)を前提として記載するものあり、本記事執筆後の改正等を反映するものではありません。
・本記事を含むコンテンツ(情報、資料、画像、レイアウト、デザイン等)の著作権は、本サイトの運営者、監修者又は執筆者に帰属します。法令で認められた場合を除き、本サイトの運営者に無断で複製、転用、販売、放送、公衆送信、翻訳、貸与等の二次利用はできません。
・本記事の正確性・妥当性等については注意を払っておりますが、その保証をするものではなく、本記事の情報の利用によって利用者等に何等かの損害が発生したとしても、かかる損害について一切の責任を負うことはできません。
・本サイトの運営者は、本記事の執筆者、監修者のご紹介、斡旋等は行いません。
・情報収集モジュール等に関する通知・公表
当社は、本サービスの提供にあたり、利用者の端末に保存された情報を外部サーバーに送信するクッキー、コード、又はプログラム等(以下総称して「情報収集モジュール等」といいます。)を利用します。
当社が利用する情報収集モジュール等の詳細は、以下の通りです。

【情報収集モジュール等の名称】
TETORI
【送信される情報の内容】
https://adm.tetori.link/manual/view/realtime_user
【情報送信先となる者の名称】
グルービーモバイル株式会社
【当社の情報の利用目的】
サイト分析
【送信先での情報の利用目的】
https://www.groovy-m.com/privacy

…閉じる

お近くで相続に強い専門家をお探しの方は おすすめ検索
専門家を
お選びください
地域を
お選びください
相談内容を
お選びください

閉じる

閉じる

早期解決や相談先のヒントに! 解決事例検索
テーマを
お選びください

閉じる

閉じる

相続について広く理解を深めたい方は コラム検索
カテゴリを
お選びください

閉じる

閉じる