相続税は、相続が発生したからといって必ず支払いが生じるわけではありません。なぜなら相続財産が基礎控除額の範囲内だと、相続税は課税されないためです。
本記事では、基礎控除の概要と相続税の基礎控除額の計算方法について解説します。計算する際の注意点も併せてご紹介するので、ぜひお役立てください。
目次
1. 基礎控除の範囲内なら相続税はかからない
先述した通り、相続税は相続財産が基礎控除の範囲内であれば、相続税は課税されません。税務署への申告も不要です。
実際に、相続財産があっても基礎控除内の範囲であったために、相続税を払わなかったというケースはめずらしくありません。
相続税の基礎控除は、相続が発生した人なら誰でも受けられる控除で、次に紹介する計算式を用いて算出できます。
この計算を間違えてしまうと「基礎控除の範囲内だから相続税の申告はしなくていい」と誤解するおそれがあるので、計算は慎重に行いましょう。
2. 相続税の基礎控除・税金を計算する方法を解説
ここまでの解説で「では、相続税の基礎控除額はいくらなのか」と気になる方もいらっしゃるでしょう。基礎控除額は次の計算式で算出します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続した財産の合計がこの計算式より低い場合は、相続税の申告は不要です。
例えば、法定相続人が1人の場合は3,000万円+600万円×1人=3,600万円、5人の場合は3,000万円+600万円×5人=6,000万円と、人数が多くなるほど基礎控除額も大きくなります。
法定相続人1~7人までの基礎控除額一覧表
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
6人 | 6,600万円 |
7人 | 7,200万円 |
2-1 相続税の基礎控除・税金を計算する手順1:法定相続人の人数を確定する
法定相続人とは法律上、亡くなった人の財産を相続する権利がある人のことです。
その中でも「配偶者相続人」と「血族相続人」があります。配偶者相続人とは配偶者のことで、法律上の婚姻関係があれば必ず相続人になります。
血族相続人は相続できる順位があり、第1順位は子およびその代襲相続人です。子は実子・養子の区別なく相続人になります。
子、および代襲相続人がいない場合、第2順位である直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母等)が相続します。
被相続人に父または母がいる場合には父母が、父母がおらず祖父母がいる場合は祖父母が、父母も祖父母もいない場合は曾祖父母が相続人です。
第1順位である子、第2順位である直系尊属もいない場合は、第3順位である被相続人の兄弟姉妹およびその代襲相続人(一代限り)が相続します。
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2-2 相続税の基礎控除・税金を計算する手順2:基礎控除額をもとめる
基礎控除額を算出します。例えば、父、母、子2人の家庭で父が亡くなった場合の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算するので、
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
このケースでは基礎控除額は4,800万円であるため、課税価格の総額がこの金額を超えなければ相続税はかかりません。
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2-3 相続税の基礎控除・税金を計算する手順3:相続財産を洗い出し、総額をもとめる
相続税を計算する場合は、相続財産をすべて洗い出さなければなりません。
すべて洗い出さなければ、相続税の金額を正しく計算できない上に、相続税申告後に新たな財産が見つかった場合、修正申告する手間がかかります。
相続財産は、被相続人の死亡時に所有していた財産のうち、経済的価値のあるものやお金に換算できるものがあれば、すべて相続財産として計上します。
預貯金、不動産、株式、自動車をはじめ、美術品、貴金属、未収金、船舶、ゴルフ会員権なども相続財産です。
また、死亡保険金や退職金のように、被相続人の死亡により相続人が財産を取得するのと同様の経済的効果があるものは「みなし相続財産」として、相続税の課税対象になります。
相続財産とみなし相続財産はプラスの財産ですが、借入金やローンといったマイナスの財産も相続財産です。
相続税の計算の際には、こうしたマイナスの財産のほか、葬儀費用や香典、遺族年金も相続財産から差し引くことができます。
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相続税の基礎控除・税金を計算する手順4:基礎控除額と比較し、相続税をもとめる
基礎控除額が相続財産の総額よりも大きければ相続税はかからず、相続税の申告も不要です。
反対に、相続財産が基礎控除額を上回っている場合は、相続税がかかるため、所定の税率を用いて税金を計算し、相続税の申告を行います。
かりに、相続財産が1億円、葬儀費用やローンの合計が1,000万円、基礎控除額が4,800万円だった場合、1億円-1,000万円-4,800万で残額は4,200万円になるので、4,200万円に対して相続税が課税される計算になります。
※特例などを利用しない場合
3. 相続税の基礎控除を計算する際の注意点
相続税の基礎控除を計算する際、生前に相続税対策をしていたり法定相続人の中に特殊な条件があったりする場合に注意しておくべきことがあります。
3-1 相続時精算課税制度を利用しているか
相続時精算課税制度とは、60歳以上の祖父母や親から20歳未満の子、孫に生前贈与をする場合、2,500万円までの特別控除がある制度です。
通常の贈与よりも税負担が軽減される代わりに、相続が発生したときに贈与財産も含めた相続税を計算する制度です。
つまり、祖父母や親が亡くなり相続が発生したときに、贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算し、その際すでに払った贈与税があれば相続税から差し引くことができます。なお、贈与税額の方が相続税額より多かった場合は還付を受けられます。
被相続人が死亡してから前3年に贈与が行われていないか
いわゆる生前贈与と呼ばれるもので、相続により財産を取得した人がその相続開始の3年以内に、被相続人から受贈した財産があれば、その贈与財産も相続財産に計上します。
なお、当該3年以内の贈与の際に贈与税が課税されている場合、その贈与税は相続の際に控除されるため、贈与税と相続税が二重に課税されることはありません。
3-2 一次相続・二次相続について知っておく
両親のいずれか一方が亡くなったときの相続を一次相続、その後残された配偶者も亡くなったときの相続を二次相続といいます。
一次相続の際、次の二次相続のことまで考えて遺産分割することが大切です。
なぜなら、一次相続で控除を受けられて相続税の負担を軽減できたのが、二次相続では思いのほか相続税が重くのしかかるためです。
例えば、配偶者控除は配偶者が法定相続分もしくは1億6,000万円のいずれか大きい額までの相続に対して相続税がかかりませんが、配偶者がいない二次相続ではこの控除を適用できません。
また、二次相続では基礎控除額が少なくなります。先述した例では、法定相続人が3人だったので基礎控除額は4,800万円でした。
しかし、二次相続の相続人は子2人だけになるので3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円となり、基礎控除額が600万円減少します。
3-3 法定相続人の中に、特殊な条件の人がいないか確認する
ここでいう「特殊な条件の人」とは、相続放棄をした人、代襲相続人、相続欠格などの対象者です。
法定相続人の中に相続放棄した人がいる場合、基礎控除額の計算上は法定相続人の人数にカウントして計算します。
先ほどの例で母と子2人の法定相続人のうち、子1人が相続放棄を申し出た場合も、法定相続人の人数は3人、基礎控除の額は4,800万円で変わりません。
代襲相続は、父が亡くなる前に子が亡くなっていた場合、その子の子(父からみて孫)が、亡くなった子が代襲相続人として相続権を引き継ぎます。
例えば、法定相続人に配偶者、子1人(すでに死亡)、孫2人がいる場合の法定相続人は3人です。
相続欠格は、故意に被相続人を殺害し刑に処せられたり、被相続人の遺言の妨害行為(破棄・隠匿・偽造等)をしたりした法定相続人に対して適用されます。
相続人から除外されるので、基礎控除額を計算する際にいないものとして相続税をもとめていきます。
4. 相続税が発生しなくても申告が必要なケースもある
相続税を計算した結果、相続財産が基礎控除額よりも低かった場合、相続税の申告は不要です。
ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった各種控除や特例を利用して相続税が0円だった場合、相続税の申告義務があります。
ほかにも、相続税が0円でも申告が必要な控除や特例があるため、確認しておきましょう。
・配偶者控除
・小規模宅地等の特例
・農地の納税猶予の特例
・特定計画山林の特例
・寄付金控除 など
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5. まとめ
相続税の基礎控除についてご紹介しました。相続財産が基礎控除額の範囲内なら相続税はかからず、申告手続きも不要です。
また、基礎控除額は法定相続人の人数で変わるので、正確な法定相続人の人数を確認しておきましょう。生前贈与や相続放棄など、特殊な事情がある場合は計算する際は注意が必要です。
最後に、相続財産が基礎控除内の範囲内であっても、特例や控除を利用する場合は相続税の申告が必要であることも覚えておいてください。
この記事の監修者:阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(税理士法51条1項に基づく国税局長への通知により、税理士業務も行う)。
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律・税務関連記事の執筆にも注力している。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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