【限定承認】のメリットとデメリット|相続放棄や単純承認との違いも解説

更新日:2023.11.29

【限定承認】のメリットとデメリット|相続放棄や単純承認との違いも解説

「限定承認」という相続の方法をご存じですか。借金は相続したくないもののどうしても引き継ぎたい財産がある場合や、亡くなった人(被相続人)が事業展開をしていた等で財産が把握しきれないケースに検討するとよい相続方法です。

ここでは、弁護士が限定承認について詳しく解説します。

限定承認とはなにか

限定承認とは、相続人による相続財産の承継方法の一つで、相続人が被相続人(亡くなった人)の有したプラスの財産の限度で、借金などといったマイナスの財産を引き継ぐことを言います。

相続放棄との違い

限定承認と同じように、被相続人に借金などの負債がある場面で検討される手続として相続放棄があります。

相続放棄とは、相続人が被相続人の有した権利義務の一切を受け継がないこととする手続です。

相続放棄をした場合には、相続人は被相続人のマイナスの財産である借金などの負債を支払う必要はなくなりますが、同時に預貯金や不動産などのプラスの財産も受け継ぐことはできなくなります。

相続放棄は、被相続人のプラスの財産がほとんどない一方で多額の負債があると見込まれるケースで選択されます。限定承認と比較すると、相続放棄の手続はそれほど難しくはありません

このため、どうしても残したい財産が無いような場合には実務上は相続放棄を行うことが多いといえます。

相続放棄を行う場合は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申述をする必要があります。

相続の方法は2種類

被相続人が死亡した後の被相続人の選択肢としては、相続をする場合と相続を一切しない場合があります。相続を一切しない場合が相続放棄です。

これに対し、相続をする場合として、単純承認と限定承認の2種類があります。

単純承認

単純承認とは、相続人が被相続人の不動産や預貯金などプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もあわせてすべての財産を受け継ぐものです。

したがって、相続開始時には知らなかった被相続人の借金が後から発覚したという場合であっても、相続人は借金を返済する義務を負います。

単純承認をするための特別の手続は必要ありません。相続人が、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に相続放棄や、次に説明する限定承認の手続を行わなければ単純承認をしたことになります。

注意しなければならないのは、相続人本人が単純承認の意思を有していたか否かにかかわらず、一定の行為があった場合には相続人が単純承認されたとみなされる制度があることです。

これを、法定単純承認といい、具体的な行為は民法921条各号に定められています。

第921条

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二  相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

例えば、被相続人のスーツ、毛皮、コート、靴、絨毯など財産的価値を有する遺品のほとんどすべてを自宅に持ち帰る行為については民法921条3号が定める相続財産の「隠匿」にあたると判断した裁判例があり(東京地判平成12年3月21日)、「単純承認をした」とみなされることになるでしょう。

限定承認

限定承認とは、前述の通り被相続人から相続するプラスの財産を限度として、マイナスの財産を相続するものです。

例えば、被相続人の借金が1000万円であり、預貯金が800万円であったという場合には、限定承認をすることで相続人は、プラスの財産である800万円分だけ借金を返済すれば足りることになります。

限定承認を選択すると、相続人は被相続人の負債を自分自身の財産から支払わなければならないという事態が発生しません。

このため、被相続人の借金がどの程度あるのかわからないといった場合には限定承認が適していることになります。

ただし、後でも説明するように限定承認をするためには非常に煩雑な手続が必要です。

このせいもあって、限定承認は実際のところ年間700件程度しか利用されていません。単純承認が年間20万件程度行われていることからすると限定承認が選択されるケースは限られているのが実情です。

限定承認をすることのメリットとデメリット

相続の場面において限定承認が選択されることは多くはありませんが、限定承認を選択した方が良いケースも存在します。

そこで、以下では限定承認のメリットとデメリットについて説明します。

限定承認のメリット

限定承認のメリットとしては、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を負担すればよいので、相続人自身の持ち出しとなるリスクがないことが挙げられます。

また、最終的にプラスの財産の方が多い場合には、相続人が相続財産を取得できる可能性があります。

このほか、先買権の制度があるのも限定承認のメリットの一つです。先買権とは、相続人が相続財産のうち特定の財産について、家庭裁判所の選任した鑑定人による評価額を支払った場合には、その財産を取得できるという制度です。

限定承認のデメリット

限定承認のデメリットは、手続が極めて煩雑であることです。例えば、限定承認は相続人全員によって行う必要があるため、相続人のうち誰か一人でも反対した場合には限定承認が利用できません

また、後で詳しく説明するように、限定承認の申述をするため数多くの書類を準備する必要があります。

さらに、限定承認の申述が受理された後も裁判所を通じた競売手続など、手間と時間のかかる手続が多数あります。

限定承認にしたほうがいいのはどんなときか

単にマイナスの財産を受け継ぎたくないという場合には、手続の簡単な相続放棄を利用した方が良いことが多いでしょう。

これに対し、限定承認とするメリットが大きいのは次のようなケースです。

財産が全部でどのくらいあるかが不明な場合

被相続人が手広く事業を行っていた場合など、プラスの財産も相当程度あるが負債額もあり、相続人が全容を把握できていない場合には限定承認とするメリットがあります。

明らかにマイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合には相続放棄をすればよいのですが、プラスの財産を上回るか否かが分からないという場合には、限定承認としておけば負債が想定より少ないとき相続人は財産を取得することができます

家業を受け継ぐ場合

被相続人が個人事業主として家業を行っており個人で多額の負債を抱えていたという場合、相続人の一人が家業を受け継ぐ予定であれば限定承認をすることも一つの方法です。

限定承認により被相続人が事業上抱えていた債務を、いったん整理して借金の無い状態に戻すことができるためです。

ただし、相続人が限定承認をすることで債権者にとっては債権の一部が回収不能となる可能性があります。

このため、債権者の中に重要な取引先がある場合には今後の関係も考えて、限定承認をすべきか慎重に判断する必要があります。

財産の中に家宝がある場合

限定承認には、先買権という相続人が特定の財産を優先的に買い受けることのできる制度があります。

このため、マイナスの財産は相続したくないが、先祖代々の家宝だけは何としても確保したいという場合には、先買権の行使ができる限定承認を選択するメリットが大きいといえます。

限定承認の申立てはどうするか

実際に相続人が限定承認をする場合に必要となる手続について、以下で説明します。

誰が申立人になるか

限定承認を行う場合、相続人全員が共同して行う必要があります。この点は、各相続人が単独でできる相続放棄と異なる点です。

したがって、相続人が複数いる場合に限定承認を検討しているのであれば、早めに他の相続人にも限定承認をすることの相談をしておいた方がよいでしょう。

申立の期限は??

限定承認の申述は、原則として相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にする必要があります。この期間制限は相続放棄と同様であり、「熟慮期間」と呼ばれます。

熟慮期間内に判断できない事情がある場合には、後で説明するように期間の伸長手続を行う必要があります。

申立先はどこか

限定承認の申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。どの裁判所が管轄となるかは、「裁判所」公式サイト内ページで確認します。

申立の費用は??

限定承認の申述の費用としては、相続人一人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要です。

収入印紙代は変更されることがありますので、必ず管轄の裁判所に事前に確認して最新の情報を入手してください。

また、郵便切手は、裁判所にもよりますが申述をする人が指定された切手を用意して裁判所に納めることが通常です。

必要となる郵便切手の種類や枚数は、裁判所ごとに異なりますので、こちらも事前に管轄の裁判所に確認しておいた方がよいでしょう。

必要書類

限定承認の申述に必要な書類は、相続の限定承認の申述書と申立添付書類です。申述書は、「裁判所」公式サイト内ページに書式が掲載されています。

申立添付書類としては、次のようなものがあります。

まず、すべての相続人について必要となる書類は以下の通りです。

  • 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  • 申述人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

これに加え、申述人が、被相続人の配偶者と父母・祖父母等の直系尊属である場合には以下の書類が必要です。

  • 被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る)がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

また、申述人が、被相続人の配偶者のみの場合、又は被相続人の配偶者と兄弟姉妹及びその代襲者(甥や姪)の場合には以下の書類が必要です。

  • 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の兄弟姉妹で死亡している人がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  • 代襲者としての甥又は姪に死亡している人がいる場合、その甥又は姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

期限内に申立できない場合は伸長手続きを

熟慮期間内に相続放棄、限定承認、単純承認のいずれを選択するか判断できない事情がある場合には、熟慮期間内に家庭裁判所に対して相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをすれば、期間を伸長できる可能性があります

限定承認が受理されてからの手続きは?

限定承認の申述が受理された後は、相続財産の清算手続を行う必要があります。

清算手続を行うのは、限定承認者又は相続人相続財産管理人です。相続財産管理人は、相続人が複数の場合に限定承認の申述と同時に選任されます。

以下では、限定承認における相続財産の清算手続の流れを詳しく説明します。

公告する

限定承認の申述が受理されたらまず行う必要があるのが、限定承認をしたこと及び債権の請求をすべき旨の官報公告です。

公告は、相続財産の清算手続を行うのが限定承認者である場合には5日以内に、相続財産管理人である場合には選任後10日以内に行います。

官報公告以外にも、既に相続人が把握している債権者がいる場合にはその債権者宛てに連絡をします。

官報公告は、全国各地にある「官報販売所」を通じて申し込みをすることができます。

申込方法は、FAXや郵送のほか、全国官報販売協同組合のWEBサイト上でも申し込みが可能です。官報公告の申込みをしてから実際に官報に掲載されるまでは、おおむね5営業日程度です。

したがって、限定承認の申述が受理されたらすぐに官報公告の申込みができるように準備しておく必要があります

売却する

官報公告が完了した後に、相続財産を売却して換価する手続が必要となります。

相続財産の換価手続は、民法上、判所を通じた競売によって行わなければならないことが定められています。

競売によるべきとされているのは、債権者が回収できる金額が売却価格により左右されるため、当事者の恣意の入らない裁判所を通じた競売手続により売却することで債権者を保護する趣旨に基づくものです。

ただし、先買権の行使により相続人が特定の相続財産について、家庭裁判所が選任した鑑定人による評価額を支払ってその財産を取得する場合には、競売手続による換価は行われません。

債権者へ弁済する

官報公告等に基づいて申し出のあった債権者に対しては、相続財産の売却価格に相当する金額を支払うことになります

すべての債権者に全額の支払いができない場合には、債権者の有する債権の額に応じて案分した金額をそれぞれの債権者に対して支払うことで足ります

債権者への支払いが完了したら、限定承認の手続は終わりです。

債権者にすべての負債を支払ってもなお相続財産が残る場合には、限定承認をした相続人が財産を取得し、相続人が複数の場合には通常の遺産分割協議を行うことになります。

まとめ

限定承認と相続放棄の違いや限定承認のメリット・デメリット、加えて限定承認の手続きの流れを解説しました。

相続放棄と比較すると手続きが難しくなるため、専門家への依頼も検討するのがおすすめです。限定承認の専門家は、弁護士もしくは司法書士となります。

限定承認を検討している場合は、お近くの弁護士や司法書士に相談してみてはいかがでしょうか。

執筆者プロフィール

弁護士 松浦 絢子


松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、男女問題など幅広い相談に対応している。

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