相続手続きでは、遺産の名義変更手続きから税申告までの各プロセスで、亡くなった人と相続人それぞれの「戸籍謄本」の提出が求められます。
謄本記載の親族関係(続柄)の証明情報から、「手続きの理由が相続である」と確認することが目的です。
提出が求められる戸籍謄本の数は、亡くなった人の経歴と相続人の数に応じて増えます。取得のため複数の市区町村役場に申請しなければならないことも多く、準備に手間取ることも少なくありません。
本記事では、戸籍謄本の役割と記載情報を解説した上で、戸籍謄本の取り寄せ方法を複数紹介します。
1. 戸籍謄本とは
「戸籍謄本」とは、特定の家族に起こった結婚・離婚・出生・死亡などの「親族関係の変更」に繋がる出来事を、役場で交付請求した時点まで記載した書面です。
夫婦とその未婚の子を1家族単位として作られている「戸籍簿」の写しにあたり(戸籍法第3条)、親族関係の確認や証明に使用されます。
なお、戸籍簿の保存期間は、明治式のものが80年・大正式のものが50年・昭和式のものが100年・平成式のものが150年間と定められています(戸籍法施行規則第5条の4)。
また、現在の書式(横書きでワープロ作成)になったのは平成6年以降です。同年の法改正より前に作られたものは、ほとんどが縦書きかつ手書きで作成されています。
こうした古い戸籍は読みづらく、記載事項の確認に手間取りがちです。
1-1 戸籍謄本の記載事項
取得した戸籍謄本には、下記4つの内容が記載されています。
【戸籍謄本の記載事項】
- 本籍地(戸籍のある住所)
- 戸籍筆頭者の氏名
- 戸籍の編製記録
- 戸籍内にいる各人の情報
戸籍内各人の情報には、①氏名、②生年月日、③父母の氏名、④戸籍筆頭者との続柄の他、身分事項として⑤出生の届出情報、⑥婚姻の届出情報の計6項目が記載されています。
出生・婚姻の届出を辿ってさらに戸籍謄本を取得すれば、孫以降の直系の家族や、配偶者の家系も調べられます。
1-2 戸籍簿の写しの種類
戸籍簿の写しには、記載情報の範囲ごとに「戸籍謄本」「戸籍抄本」の2種類があります。特定の相続人と亡くなった人との関係を証明するなら「戸籍抄本」で十分ですが、法定相続人全体の数と情報を調べて証明するなら「戸籍謄本」が必須です。
- 戸籍謄本(全部事項証明書): 戸籍内にいる全員分の情報を写したもの
- 戸籍抄本(個人事項証明書): 戸籍内にいる一部の人の情報を写したもの
なお、戸籍のデジタル化が進んでいる自治体では、「全部事項証明書」「個人事項証明書」という名称で交付請求を受け付けています。
2. 戸籍謄本が必要になる場面
相続手続きでは、「亡くなった人の相続人である」と証明するため、銀行・法務局・税務署などの各機関に戸籍謄本を提出しなければなりません。戸籍謄本が必要な場面を相続開始時(=死亡時点)から時系列に沿って大きく分類すると、以下の4つです。
2-1 相続人を調べたい時
相続事例のなかには「亡くなった人が独身時代に認知した子」「結婚した時に配偶者の実家と養子縁組して別の戸籍簿に移った子」など、把握できていない相続人が存在する場合があります。
上記のように相続人の数や個人情報がつかめそうにない場合でも、亡くなった人の戸籍謄本から親族関係を辿って調べられます。
2-2 相続財産の名義変更を行う時
亡くなった人の口座から預金を払い戻したり、あるいは不動産の相続登記を行おうとしたりする際は、手続きの理由が「相続」だと証明できる書類が必要です。
証明書類として、亡くなった人と相続人自身の戸籍謄本をそれぞれ取得し、セットで提出する必要があります。
2-3 死後事務を行う時
同じく、亡くなった人の携帯電話や賃貸契約を解約する際、契約者本人以外が手続きする理由を証明しなければなりません。
多くは葬儀案内状や死亡診断書を提示すれば対応してもらえますが、解約申請者の身元を確認するため「戸籍謄本のセット」を追加で求められる場合があります。
2-4 相続税の申告を行う時
相続税の金額は「法定相続人の数や続柄」に左右されます。そこで、税の申告書を提出する際は、課税額計算の根拠として戸籍謄本のセットを添付しなければなりません。
2-5 その他に戸籍謄本が必要になる場面
その他、相続に関連して戸籍謄本が必要になる場面として、「公正証書遺言(※)の作成」が挙げられます。
裁判所命令に匹敵する効力を持つ公正証書遺言は、記載ミスや曖昧な表現を避けて作成されるべきものです。
そこで作成の際は、遺言内容をまとめたメモのほかに「財産と相続人の一覧が分かる資料」を公証人に提出しなければなりません。
相続人の一覧が分かる資料として、親族関係の分かる戸籍謄本のセットを準備する必要があります。
3. 被相続人の戸籍謄本を取得する際の注意点
亡くなった人(=被相続人)の戸籍の写しを取得するのは、相続権のある人全員を洗い出して証明するためです。
つまり、その生涯で起こった親族関係の変更が全て分かるよう「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」を全て揃える必要があります。
3-1 亡くなった人の戸籍謄本を集める難しさ
そもそも、ある人の生涯が1つの戸籍簿に収まっているケースはほとんどありません。
結婚・養子縁組・父親の認知等のタイミングで戸籍を抜けて別の戸籍に入ったり、離婚や転籍届(※本人希望で本籍地を変更する届出)のタイミングで「除籍」が起こったりするからです。
こうした変化は、一般に「籍を抜ける・入る」「本籍を移動する」と呼ばれています。
つまり「出生から死亡まで」の戸籍簿の写しを取得しようとすると、現在の戸籍簿に対して謄本を請求し、そこから過去にさかのぼってさらに別の戸籍簿の分も謄本が必要になる可能性が高いのです。
また、複数の市区町村をまたいで戸籍を出入りしている経歴がある場合、新旧それぞれの本籍地役場で請求する必要があります。
【参考】戸籍簿の種類
戸籍の種類 | 詳細 |
現在戸籍 | 現在も構成員がいて、記録が続いている戸籍 |
除籍 | 戸籍構成員の全員が転出(もしくは死亡)し、誰もいなくなったため閉鎖された戸籍 |
改製原戸籍 | 戸籍法改正のタイミングで作り直され、同時に閉鎖された古い戸籍 |
戸籍の附票 | 戸籍構成員の住所変遷記録(写しは死亡証明や居住地証明に使用されることが多い) |
被相続人の戸籍を取得するのは、決して容易ではありません。離婚歴や養子縁組の履歴が多ければ、その分戸籍簿の数が増えて取得の手間がかかります。
戸籍謄本を取得する中で、現在の配偶者以外と子どもをもうけた記録が見つかれば、当時もうけた子の現在の家族構成も調べる必要があります。
以上のように、亡くなった人の戸籍簿の写しを揃える作業は、相続手続きにかかる書類収集で最も手間がかかる部分です。
3-2 相続人の戸籍謄本は「現在のもの」だけで可
相続人の戸籍の写しに関しては、相続手続きの時点で入っている戸籍簿の写し(現在戸籍の謄本または抄本)で構いません。
ただし、相続手続きに着手するまでに結婚・離婚・養子縁組を行って本籍地が変わっている場合は、被相続人の死亡から現在までの経歴が分かる戸籍謄本のセットが必要です。
当然ながら「存命の人に対して相続権のある人」を全員洗い出す必要はなく、単に亡くなった人との繋がりを確認・証明できれば十分だからです。
3-3 代襲相続があるケースで必要な戸籍謄本
代襲相続人(※)(亡くなった人の孫・甥・姪など)として相続手続きに臨む際は、本来の相続人である亡親の「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」を追加で取得しなければなりません。
把握できていない代襲相続人が他にも存在する可能性があり、それを確認・証明することが目的です。
4. 戸籍謄本を取り寄せる方法
【戸籍謄本の交付請求ができる人】参考:戸籍法第10条・同法第10条の2
取得したい戸籍謄本は「本籍地のある市区町村の役場」で交付請求でき、窓口・郵送・コンビニ交付のいずれかの方法が選べます。
なお、交付請求できる人は、戸籍法や自治体の条例で以下のいずれかと定められています。
- 戸籍簿に記載のある人(=本人)
- 本人の配偶者・子・孫・父母・祖父母
- 戸籍簿に記載のない法定相続人(※本人が亡くなっている場合)
- その他の親族(兄弟姉妹・おじ・おば・甥・姪・配偶者の両親)
交付請求にあたっては、必ず請求者の「本人確認書類」(身分証明書)が必要です。上記③または④にあたる人が戸籍謄本を請求する場合、本人確認書類の他に「代理人の持ち物」も準備しなければなりません。(詳細は後述)。
取得の際に必要な交付申請書は、役場窓口もしくは役場公式サイトから取得できます。申請書には、①請求者の情報、②戸籍簿の情報、③取得したい戸籍簿の写しの種類、④請求理由の4つを記入しましょう。
参考までに、東京都新宿区役所の「戸籍に関する証明書等請求書(窓口請求書)」がオフィシャルサイト内にPDF形式でありますので確認してください。
ここからは、交付請求の方法別に詳しく解説します。
4-1 本人が窓口請求する場合
本人もしくは配偶者・子・孫・父母・祖父母のいずれかが役場窓口で戸籍謄本を請求する場合、窓口で配布されている申請書に「本人確認書類」を添付するだけで構いません。
本人確認書類には、1点用意するだけでよいものと、いずれか2点を組み合わせることで申請に対応してくれるものがあります。
いずれか1点で本人確認できるもの
- 運転免許証・運転経歴証明書
- パスポート
- マイナンバーカード
- 写真付き住民基本台帳カード
- 身体障害者手帳・療育手帳
- 電気工事士免状・無線従事者免許証などの各種資格証など
いずれか2点を組み合わせて本人確認できるもの
- 各種健康保険証
- 年金手帳・年金証書
- 後期高齢者医療証・介護保険証
- 写真のない住民基本台帳カード
- 精神障害福祉保健手帳
- 写真付き学生証・法人が発行した写真付き身分証明書など
4-2 代理人が窓口請求する場合
代理人が役場窓口で戸籍謄本を取得しようとするときは、代理人自身の本人確認書類のほか、「本人から請求手続きを任されたことが分かる書類」が必要です。
準備する書類は、代理人の立場によって異なります。
- 法定相続人が請求する場合: 請求者の戸籍謄本(亡くなった人の名前が記載されており、相続関係にあると分かるもの)
- 親族が請求する場合: 本人が記入した委任状+親族関係が分かる戸籍謄本
- 後見人が請求する場合: 成年後見の登記事項証明書(または後見開始の審判書)
- 親権者が請求する場合: 親子関係が分かる書類(戸籍謄本や住民票など)
- 弁護士・司法書士等が請求する場合: 請求理由が分かる書類一式+資格者証+(弁護士法人または司法書士事務所の従業員が請求する場合)所属法人が作成した委任状
4-3 郵送で取り寄せる場合
役場窓口を訪れるのが難しい場合、本籍地役場の担当課に下記書類をセットで送付することで、郵送で戸籍謄本を取り寄せられます。
【戸籍謄本を郵送請求する際の書類】
- 記入済みの郵送請求書
- 請求者の本人確認書類のコピー(※)
- 郵便局で購入した為替証書(普通為替または定額小為替)
為替証書の金額は「役場指定の戸籍謄本発行手数料」と「戸籍謄本を返送してもらう際の郵便料金」の合計額です。
あらかじめ役場担当課に問い合わせ、送付する書類の内訳とともに為替証書の金額を確認しておくことをおすすめします。
4-4 コンビニで取り寄せる場合
本人が戸籍謄本を請求する場合、下記の3条件が整っていれば、コンビニのマルチコピー機で取得できます。
平日・土日祝問わずサービス対応時間内(6時30分~23時)であれば手続きでき、スケジュールの都合で窓口に向かうのが難しい人や、急ぎの人におすすめできます。
【コンビニで戸籍謄本を取得するための条件】
- マイナンバーカードを取得している
- 本籍地管轄の役場が「戸籍謄本のコンビニ交付サービス」に対応している
- 利用登録申請が済んでいる(※現住所が本籍地の市区町村とは異なる場合)
上記②については、コンビニ交付サービスの対応状況は役場によって異なります。本籍地以外に居住していても交付可能かどうかを含め、各役場の状況は下記ページで確認しましょう。
参考:コンビニ交付が利用できる市区町村(地方公共団体情報システム機構)
4-5 利用登録申請の方法
現住所が本籍地の市区町村とは異なる場合、パソコンかコンビニ設置の端末から「利用登録申請」が必要です。各端末での申請方法は下記の通りです。
- パソコンで申請する場合: マイナンバーカード対応のICカードリーダーを接続し、利用登録申請サイトでソフトウェアを設定して申請データを作成。作成したデータは、同じサイトから本籍地の市区町村役場に送信する。
- コンビニ設置の端末から手続きする場合: 端末の案内に従い、①本籍地の市区町村、②戸籍筆頭者氏名、③連絡先の電話番号、④マイナンバーカードの有効期限、⑤マイナンバーカードに記載されたセキュリティコードの5点を入力。その後、画面の指示に沿ってマイナンバーカードを端末にセットし、暗証番号を入力。
最寄りのコンビニに利用登録申請ができる端末が設置されているとは限りません。パソコンで申請する場合、請求者自身でマイナンバーカード用のICカードリーダー(2,000円~8,000円)を購入しなければならないのが難点です。
5. 戸籍謄本の交付手数料
戸籍簿の写しの交付手数料は「戸籍簿の種類」によって異なり、役場ごとに若干の違いがあります。手数料の目安として、下記で東京都新宿区が本籍地である場合の交付手数料を紹介します。
- 戸籍謄本・戸籍抄本: 各450円
- 除籍謄本・除籍抄本: 各750円
- 原戸籍謄本・原戸籍抄本: 各750円
- 戸籍の附票: 300円
6. まとめ
相続手続きでは、全体を通して「相続に関わる人の戸籍簿の写し一式」が欠かせません。
写し取得で最も手間がかかるのは、亡くなった人の「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」を集める場面です。
特に戸籍を辿るのが難しい事例として、離婚や養子縁組を何度も繰り返していたケースや、出生が明治・大正などの古い年代だったケースが挙げられます。そもそも、仕事や家庭の事情で本籍地役場に向かえない人にとって、現状の戸籍謄本の交付請求手続きはどれも不便です。
弁護士または司法書士に相続手続きを依頼するメリットとして、戸籍謄本の収集も任せられる点にあります。
個別ケースで「必要な戸籍の写しの種類」や「戸籍の辿り方」を判断するのは難しいため、できるだけ謄本収集に着手する前に相談することをおすすめします。
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遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。