相続や遺贈によって遺産を取得した場合、相続税の申告と納税を行うことになっています。
その期限は、相続税法27条・33条で規定されており、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に金融機関や郵便局の窓口、税務署で行わなくてはいけません。
本記事では、相続税の申告・納税の期限、過ぎる場合の対処法や過ぎた場合のペナルティについて解説します。
目次
1. 相続税の申告・納税の期限は10ヶ月
遺産を相続や遺贈によって取得した人は、相続税の申告・納税の義務が生じます。
原則として、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行うこととなっていますが、その期限が延びることもあります。
どのような場合に期限が変更されるのでしょうか。
1-1 相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月目の日
まずは原則から解説させていただきます。
原則として、相続税の申告・納税は「相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」となります。
「相続があったことを知った日」とは、特殊な事情(被相続人が失踪宣告を受けたなど)がない限り、被相続人が亡くなった日となります。
具体的に見ていきましょう。
例えば、被相続人が5月10日に亡くなったとします。
この場合、相続があったことを知った日の翌日からですので、被相続人の亡くなった日である5月10日の翌日、11日から翌年の3月10日までとなります。
ですので、相続税の申告・納税は、3月10日までに済ませるようにしてください。
1-2 申告期限が土日祝・年末年始の場合は翌日が期限
相続税の申告・納税の期限である「相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月」に当たる日が、土日や祝日、年末年始の場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、翌日が期限となります。決して期限が土日の前の平日に前倒しになるわけではありません。
それでは、具体的に見ていきましょう。
①相続があったことを知った日の翌日が土日祝の場合
相続開始日(相続があったことを知った日の翌日):5月11日
10ヶ月後
5月10日(土) ➡ 土曜日のため期限に該当せず
5月11日(日) ➡ 日曜日のため期限に該当せず
5月12日(祝) ➡ 祝日のため期限に該当せず
5月13日(月) ➡ 期限到来
②相続があったことを知った日の翌日が年末年始の場合
相続開始日(相続があったことを知った日の翌日):3月1日
10ヶ月後
12月31日 ➡ 年末年始のため期限に該当せず
1月1日 ➡ 年末年始のため期限に該当せず
1月2日 ➡ 年末年始のため期限に該当せず
1月3日 ➡ 年末年始のため期限に該当せず
1月4日 ➡ 期限到来
以上のように、申告期限が土日や祝日、年末年始に該当する場合には相続税の申告期限がずれ込むことがあります。
ですが、大きく延びると言うことはありませんので、申告・納税には余裕を持って進めていくのをおすすめします。
2. 特殊な事情がある場合は最大2ヶ月の期限延長が認められる
相続税の申告期限は、特殊な事情がある場合にのみ、最大2ヶ月の期限延長が認められています。
特殊な事情として認められるのは以下のものがあります。
・相続税申告時に相続人としてみなされていた胎児が生まれた場合
・相続人の異動(認知や相続人の廃除など、相続人の人数に変動があった時)があった場合
・遺贈にかかわる新たな遺言書が見つかった場合
・遺贈の放棄や死亡退職金の支給が決定した場合
・自然災害が発生した場合
上記のような事情がある場合には、税務署に申請し、認められることで相続税の申告期限が2ヶ月延長されることになります。
期限延長を申請する場合は、相続人全員が申告期限延長の申請書を提出する必要があります。
相続人1人が提出したとしても、その他の相続人には期限の延長は認められません。
また、申告期限の延長を行うと、申告書の提出日が相続税納付の期限日となります。申告書の提出前に相続税は納付しておくようにしましょう。
3. 一次相続中に二次相続(数次相続)が発生した場合の申告期限
被相続人が亡くなった後、遺産分割協議が完了する前に遺産を相続する法定相続人が亡くなってしまうケースがあります。
このように連続して相続が発生することを数次相続と言います。
このような場合の相続税の申告期限はどう考えるのでしょうか。具体例で見ていきましょう。
例えば、被相続人である父が2021年7月11日に亡くなり、法定相続人の母、子A、子Bが遺産を相続するような場合を考えます。
父の遺産相続について、申告期限は2022年5月11日となります。父の遺産分割協議が完了しないうちに、母が2021年12月20日に亡くなると、母についての相続が開始されます。
この場合、延長規定が適用され、父の遺産相続について母に課される相続税の申告が2022年10月20日まで延長されます。
ここで注意してほしいのは、子A、子Bの、父の遺産相続についての相続税の申告期限は変わらず、2022年5月11日のままであるということです。
母と同時に申請を行うと、申請期限超過となります。
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4. 相続税の申告・納税が10ヶ月を過ぎたらどうなるの?
それでは、相続税の申告・納付の期限である10ヶ月を超過してしまった場合はどうなってしまうのでしょうか。
相続税の申告・納税期限を超過してしまった場合、追徴課税や特例が利用できなくなるなどのペナルティが課されてしまいますので、注意が必要です。
4-1 追徴課税される
相続税の申告・納税が期限を超過すると、追徴課税が課されることになります。
申告・納税の期限を超過した場合に課される追徴課税は、「延滞税」「無申告加算税」が考えられます。
延滞税
相続税の納付期限を超過した場合に課されます。
納付期限から2ヶ月以内に納付した場合は、原則として「年7.2%」が、納付期限から2ヶ月以上経過した場合は、「年14.6%」となります。
具体例
相続税額1000万円で、2ヶ月目に納付した場合
1000万円 × 7.2% × 62日 ÷ 365日 = 122,301円(1円未満は切り捨て)
相続税額1000万円で、3ヶ月経過後に納付した場合
1000万円 × 14.6% × 93日 ÷ 365日 = 372,000円
無申告加算税
正当な理由なく申告期限までに申告をしなかった場合に課されます。申告期限までに申告せず、自主的に期限後申告する場合は、5%が課されます。
税務調査後に期限後申告する場合、納税額のうち50万円までは15%、50万円を超える部分は20%が課されます。
具体例
相続税額500万円で、自主的に期限後申告する場合
500万円 × 5% = 250,000円
相続税額500万円で、税務調査後に期限後申告する場合
50万円 × 15% + (500万円 - 50万円) × 20% = 975,000円
以上のように、追徴課税額は決して小さい額ではありません。
相続税の申告・納付は期限までに行うようにしましょう。
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5. 相続税の申告・納税が10ヶ月を過ぎるとき、過ぎそうなときの対処法
もし、相続税の申告・納付が10ヶ月をどうしても過ぎてしまう場合、または過ぎてしまいそうな場合の対処法はないのでしょうか。
ここでは、そのような場合に行っておくべき対処方を2つご紹介させていただきます。
5-1 税務署に申請を行う
実際のところ、相続税の申告が間に合わない場合にその期限を延長してもらえるのでしょうか?
答えは、残念ながら原則として相続税の申告・納付の期限の延長は認められません。
前述しましたが、特別な事情がある場合は、2ヶ月間の延長が認められることになります。
この場合には、相続人全員で税務署へ期限延長の申請を行うことになります。
現在、新型コロナウイルス感染症による相続税の申告・納付期限延長の措置も取られています。
こちらも税務署へ申請を行うことで、相続税の申告・納付の期限が2ヶ月延長されることになっています。
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5-2 遺産分割が完了していない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する
遺産分割協議自体がなかなか完了せず、相続税の申請・納付の期限に間に合わないということがあります。遺産分割協議に法律上の期限はありません。
ですのが、遺産分割が完了していないことを理由として、相続税の申告期限延長は認められていません。
それでは、遺産分割が完了してない場合はどうすれば良いのでしょうか。この場合、概算で相続税を算出して申請書を提出します。
その際、申請書と一緒に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署へ提出します。
この書類は、申告期限から3年以内に遺産分割を完了させることを約し、特例の適用を認めてもらうことを目的としています。
これより、遺産分割が完了し次第、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の評価減の特例が利用できるようになりますし、追徴課税を課されることもありません。
6. 相続税の申告・納税を10ヶ月で完了させるためのポイント
それでは、相続税の申告・納税を10ヶ月以内で完了させるには、どのような準備をしておくと良いのでしょうか。
ここでは、相続税の申告・納税を10ヶ月以内に完了させるためのポイントを解説させていただきます。
ポイント① 相続人を把握する
被相続人が亡くなり相続が開始された場合、まず初めに相続人が誰で、何人いるかを把握してください。相続人になれる人物は法律で定まっており、法定相続人と呼ばれます。
法定相続人は、配偶者、子、父母や祖父母、被相続人の兄弟姉妹です。この法定相続人の中でも優先順位が決まっています。
配偶者は「必ず」相続人になります。「第一順位」は子、「第二順位」は父母や祖父母、「第三順位」が兄弟姉妹となります。
法定相続人は、全員が相続による遺産を取得できるわけではなく、配偶者と優先順位の高い相続人が相続していくことになります。
また、遺言書などで遺贈の受取人が指定されている場合は、その受取人(受遺者)が含まれることになります。
ポイント② 被相続人の遺産の把握と価値の計算をする
続いて、被相続人の財産を把握し、価値を計算しましょう。相続の際に相続税がかかる財産を、「本来の相続財産」と言います。本来の相続財産の代表的な例
としては、土地、建物、預貯金、有価証券などがあります。
また、みなし相続財産と呼ばれるものがあり、生命保険金や死亡時退職金を指します。これらの財産を分かりやすくまとめておくと良いでしょう。
相続税はすべての遺産を金銭に換算した額に課されることになっています。ですので、遺産の中でも土地や建物などは、路線価や固定資産税評価額を参考にして、算出しておくようにしましょう。
ポイント③ 税理士に依頼する
上記のポイントを押さえて相続税の申告書を作成していくのも良いですが、最初から税理士に依頼するのもポイントと言えます。
もちろん、相続税の申告書を作成し、税理士にチェックしてもらうのも良いのですが、その労力と手間を考えると相続が開始した時点で依頼するのがおすすめです。
相続に強い税理士であれば、相続税の減額についてのアドバイスも受けられますし、難しい相続税の計算もしてもらえます。
また、納税額が少なかった場合には追徴課税などが課されることもあるので、税理士に相談することでそれらのリスクも回避することができます。
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7. 相続税の申告・納税は10ヶ月の期限内に終わらせることが重要
以上見てきたように、相続税の申告・納税は期限を超過してしまった場合には、追徴課税や相続税の控除特例が使えなくなるなどのデメリットが大きくなります。
申告期限の10ヶ月は長いようで、あっという間に到来してしまいます。
気が付いたら期限を過ぎていたということがないように、早い段階から準備を進めていく、または税理士に相談するなどの対策を行っておきましょう。
この記事の監修者:安井 貴生
税理士。大阪市内の税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、時代の流れもあり相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加している。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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