相続税は、被相続人から受け継いだ財産が一定の基準以上となった場合にかかる税金のことを言います。この相続税申告には期限があり、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月となっています。
申告期限を過ぎてしまった場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか。税理士が解説します。
最後に、コロナウイルスの影響での期限延長手続きについても解説します。
目次
1. 相続税の申告期限は?
相続税の申告には申告期限があります。
相続税の申告期限とは、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月となっており、例えば12月20日に死亡した場合には翌年10月20日が申告期限となります。
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2. 相続税の申告期限にはいくつか例外もある
原則的には相続税の申告期限は被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内とされていますが、中には例外パターンも存在します。
申告期限が例外となる場合は次のような場合です。
2-1 申告期限が土日祝の場合
死亡日の翌日から10ヶ月を経過する日が土曜日、日曜日、祝日である場合には申告期限はこれらの日の翌日となります。
2-2 死亡日と相続開始を知った日が異なる場合
被相続人が死亡したことを相続人全員がその日に知ることができない場合もまれに存在します。
相続人の1人が遠方に住んでいる、相続人が前妻の子である場合など、事情があって後日亡くなったことを聞かされる場合もあります。
申告期限は死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内ですから、相続人間で申告期限が異なることもあります。
例えば、死亡した日は12月20日であるが、それを知った日が翌年1月1日である場合のその相続人の申告期限は10月20日ではなく、11月1日となります。
2-3 孤独死などで死亡日が特定できない場合
孤独死などで死亡日が特定できない場合はどうでしょうか。
こういったケースでは、戸籍上の死亡日が「推定12月20日死亡」などの記載となっていることがあります。
このような場合にはその戸籍上の日が死亡日、つまり相続開始日となります。
2-4 相続人以外が相続する場合
法的に有効な遺言書が存在し、その中で相続人以外の人に対し財産を遺贈する旨の記載がされている場合があります。
この場合その遺贈を受ける人の相続税の申告期限は、その遺贈があることを知った日の翌日から10ヶ月以内となります。
死亡したことを知っていても遺贈があることが後日知った場合には、他の相続人と申告期限が異なることとなります。
2-5 特別な条件によって相続する場合(停止条件付の遺贈)
例えば「孫が20歳になったとき不動産を遺贈する」などと記載された遺言書があった場合、この孫の申告期限はどうなるでしょうか。
答えは、「実際に20歳になって遺贈の条件を満たした日の翌日から10ヶ月以内」となります。
3. 相続税の申告期限を過ぎるとどうなる?
相続税の申告期限を過ぎてしまうと、当然ながらペナルティがあります。
期限内にきっちり申告した人が損することとならないようにするためです。
3-1 控除や特例が適用できなくなる
相続税には、要件を満たせば相続税を軽減してくれる特例があります。
ただし、申告期限内に申告書を提出している、あるいは申告期限までに手続きをしておかなければ使えない特例があります。
申告期限内に何もせず、後からこれらの特例を使いたいと思っても使えないので、申告書は何としてでも期限内に提出しましょう。
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3-2 加算税が掛かる
110万円を超える財産をもらったにもかかわらず贈与税の申告・納付をしなかった場合には、ペナルティが課されます。
正しく期限までに申告・納付をした人が損することがあってはならないからです。
ペナルティとして罰金のような性質をもつ「加算税」といわれるものと、本来の納付期限から実際の納付日までの利息に相当する「延滞税」があります。
加算税には3種類あり、状況によって税率が変わってきます。
- 加算税
1: 過少申告加算税 原則10%
申告はしていたものの、本来より少ない額で申告していた場合は、過少申告加算税が課されます。税率は原則10%です。
2: 無申告加算税 原則15%
申告期限までに申告しなかった場合は無申告加算税が課されます。税率は原則15%です。
3: 重加算税 原則35%
申告期限までに申告しなかった上、仮装・隠蔽が伴い悪質であると判断された場合、重加算税が課されます。税率は原則35%です。
- 延滞税
納付が定められた期限に遅れると、法定納期限の翌日から完納する日までの延滞税を併せて納付する必要があります。
2020年の延滞税の割合は最初の2ヵ月は2.6%、2ヵ月超から8.9%となっています。
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4. 相続開始から相続税申告までの手順は?
相続税の申告は遅れるとデメリットが大きくなりますが、期限内に申告を終わらせるためには、死亡日から相続税申告までの手順を把握しておくのがポイントとなります。
一度に終わらせるのがベストですが、段取りを組んで、優先順位別に進める、時間がかかるものから進めていくのも一つの手段です。
4-1 3か月以内
- 遺産や債務の概要を把握: 遺産や債務の種類のほか、具体的にどこにどれくらいあるのかを把握します。
- 相続人の確認: 被相続人と相続人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せ、相続人を確定させます。
- 相続放棄や限定承認の確認: 相続放棄や限定承認をする場合には家庭裁判所へ申述する必要がありますので放棄や限定承認がないか早期の確認が必要です。
4-2 4か月以内
- 相続人の青色申告の届け出(被相続人の事業を引き継ぐ場合): 相続人が被相続人の事業を引き継ぐ場合には、たとえ被相続人が生前に青色申告していてもそれは引き継げず、その相続人が自身で新たに青色申告の承認申請書を税務署へ提出する必要があります。
- 所得税の申告と納付: 被相続人のその年1月1日から死亡日までの所得税について確定申告書を提出する必要があります。
なお申告書の提出は相続人代表が行ないます。
4-3 10か月以内
- 遺産や債務調査、評価: 遺産や債務の全てを漏れなく洗い出す必要があります。
さらに相続税の申告書の作成のために、その遺産や債務を1つひとう金額に置き換えていく作業が必要となります。(この作業を財産評価といいます) - 遺産分割協議書作成: どの相続人がどの財産を相続するのか話し合いをして、その結果として遺産分割協議書を作成します。
この遺産分割協議書には相続人全員の記名又は署名と実印での押印が必要となります。 - 相続税申告書作成: 全ての遺産や債務についての評価額にもとづいて相続税申告書を作成します。
- 遺産の名義変更: 遺産分割協議書にもとづいて、遺産の名義を順次相続人に変更していきます。
必ずしも10ヶ月以内というわけではありませんがいずれ名義変更手続きは必要となります。 - 相続税の申告・納付: 相続税の申告書提出だけでなく、納税期限も相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内となります。
5. 申告期限の延長は原則不可!
相続税の申告期限は、延長したくても原則として認めてもらえません。特殊な事情として以下の事情がある場合には最大2ヶ月の申告期限の延長が可能となります。
- 相続人の異動があった
- 遺留分の減殺請求があった
- 遺贈に係る遺言書が見つかった
- 相続人の人数に入っていた胎児が生まれた
とはいえ非常に稀なケースですので、申告期限の延長は原則無理であることは覚えておいてください。
6. 相続税の申告に遅れないようにするためにできること
相続税の申告は必要があることを知ってから10ヶ月の時間がありますが、長いようで10ヶ月というのはあっという間に過ぎてしまいます。
また、多くの書類収集や手続きがあり、想像以上に時間を要するものです。
申告期限内に申告・納付を確実に終わらすためにも、以下の事項をポイントとしてあげておきます。
6-1 相続税申告に遅れないようにできること①相続財産の総額を把握
相続財産総額をしっかりと把握しておきましょう。申告が必要かどうかは相続財産総額によって決まるため、まずは総額を把握して申告が必要なのかを確認します。
相続財産には課税財産と非課税財産があるので、課税される財産を把握することも大切です。
資産家の方であれば、できれば生前からこうした把握をしておきたいものです。
6-2 相続税申告に遅れないようにできること②相続税申告までの流れを把握
先ほど相続税申告までの手順を時期ごとに列挙しましたが、やるべきことは多く、場合によっては10ヶ月でも足らないくらいです。
日ごろから相続税申告までの手順を大まかであっても把握しておくことで、いざ相続が発生しても慌てずに作業を進めていくことができます。
「相続手続きには何があるのか」「いつまでにやらないといけないのか」「どのような作業でどのくらい時間がかかるのか」をすでにお話ししました手順を確認して把握しましょう。
6-3 相続税申告に遅れないようにできること③必要な資料の準備は早く
相続税の申告にあたっては実に多くの資料が必要となります。特に戸籍などは被相続人の本籍が遠方であったりして収集に時間もかかります。
必要となる資料にどんなものがあるのかを把握した上で、相続が始まれば早く収集するようにしましょう。
必要となる書類
①相続人・被相続人に関する書類
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
- 被相続人の住民票の除票
- 被相続人の戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 相続人の戸籍の附票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 各2通ずつ用意:税務署提出用1通、名義変更手続用1通
②土地を相続する場合に必要な書類
- 登記簿謄本(全部事項証明書)
- 地積測量図及び公図の写し
- 固定資産税評価証明書
- 住宅地図
- 名寄帳(固定資産課税台帳)
- 賃貸借契約書
- 貸地・借地がある場合に必要
- 農業委員会の証明書(他人の農地を小作している場合に必要)
③建物を相続する場合に必要な書類
- 登記簿謄本(全部事項証明書)
- 固定資産税評価証明書
- 売買契約書、間取り図等
- 名寄帳(固定資産課税台帳)
- 賃貸借契約書
④その他
- 銀行や証券会社の残高証明書
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6-4 相続税申告に遅れないようにできること④税理士などの相続に強い士業に相談
相続に関する手続きなどは専門知識を要することも多く、素人では対処しきれないケースもあります。
相続のことで分からないことや困ったことがあれば、相続に強い士業に相談することも1つの方法です。
6-5 ただし、新型コロナで期限延長も
新型コロナウイルスの影響で、相続税申告の期限延長が認められるケースがあります。
税務署で期限延長手続を行う必要があるので注意が必要です。また、相続人のうちの1人が新型コロナウイルスに感染し、必要な手続きに遅延が発生した場合も、相続税申告の期限延長が認められることがあります。
なお注意点としては、期限延長が認められるのは申請者のみで、申請を行っていない他の相続人の相続税申告は延長とはならない点です。
さらに簡易的に申請する方法もあり、申告書の右上に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請 」と書くだけで延長が認められます。
詳しくは国税庁サイト内ページを確認してください。
7. まとめ
相続税の申告期限は相続発生から10か月で、基本的には延長は認められません。
10か月といった限られた期間の中で、多くの手続きを進めていくのは非常に大変で、相続に強い士業のサポートを得ていくのも1つの手です。
期限内にスムーズな申告を行うためにも、早め早めの行動を心掛けましょう。
安井貴生
税理士。税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加中。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。