相続税の申告および納税の必要があるにもかかわらず、「気付いたら申告期限が迫っていた…」というケースも多いのではないでしょうか。
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内となっています。
相続人が複数いる場合、その間に遺産分割協議をして、さらに決められた相続税額を納めなければなりません。
もし申告期限を過ぎると延滞税などのペナルティが課されるため、早めの準備が大切です。
この記事では、相続税の申告期限について詳しく解説していきます。
目次
1. 相続税には申告期限がある!
相続税が発生すると判明した場合、被相続人(亡くなった人)の死亡時の住所地を管轄する税務署への申告が必要であると同時に、申告期限にも注意しなければなりません。
まずは、相続税の申告期限について詳しく説明します。
1-1 申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内!
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを相続人が知った日の翌日から10カ月以内です。言い換えると、被相続人の死亡を相続人が知った日の翌日から10カ月以内となります。
この「死亡を知った日」というのがポイントです。
通常は「死亡を知った日=死亡日」が多いのですが、必ずしも死亡日と一致しないケースがあります。
たとえば、被相続人と相続人が疎遠で連絡が途絶えている場合や、海外で被相続人が亡くなってすぐに気付かなかった場合などが考えられるでしょう。
もし被相続人の死亡日を起点に申告期限を設定すると、相続があったことを知らないまま、期限を迎える相続人が出てくるかもしれません。
そのような理由から、相続人の公平性を踏まえて、「起算日は死亡を知った日の翌日」と定められているのです。
具体的な事例で見てみましょう。
被相続人である父と、相続人の子が疎遠のため、一定期間死亡の事実を知らなかったケース
被相続人の死亡日:2022年1月1日
被相続人の配偶者が死亡日を知った日:2022年1月1日(死亡日と同日)
被相続人の子どもが死亡日を知った日:2022年2月1日(死亡日より1カ月遅れ)
この事例における相続税の申告期限は以下の通りです。
被相続人の配偶者の申告期限:2022年11月1日(2022年1月1日の10カ月後)
被相続人の子どもの申告期限:2022年12月1日(2022年2月1日の10カ月後)
なお、申告書の提出者が2人以上の場合は共同で申告書を作成し、連署して出さなければなりません。
ただし相続人同士で揉めている場合や、相続人の中に行方不明者がいて連絡が取れない場合は個別での提出も可能です。
1-2 申告期限が土日・祝日だったらその翌日が期限
相続税の申告期限日が土日・祝日に当たるときは、翌日以降の最初の平日が申告期限となります。
土日の場合は月曜日(祝日以外)、祝日の場合は翌平日(祝日以外)です。
なお、年末年始(12月29日~翌年1月3日)は税務署が休みに入るので、申告期限は1月4日以降の最初の平日となります。
最新情報に関しては税務署のホームページなどで確認しましょう。
1-3 特別な事情がある場合は申告期限を2カ月延ばせる
たとえば相続人の一人が新型コロナウイルスに感染して申告できないなど、災害その他やむを得ない事情で期限内に申告できなかった場合は、その理由が止んだ日から2カ月以内に個別に申請を行うことで、申告期限などが延長されます。
ただし個別に申請することによって申告期限などが延長されるのは、申請を行った相続人のみです。
個別の申請を行わなかった相続人は、期限が延長されないので注意しましょう(申告書は個別に提出できるため、「災害その他やむを得ない理由がある」と認められる場合を除き、延長はできません)。
1-4 申告期限=納付期限!10カ月以内に相続税も納めよう
相続税の納付期限に関しても、申告期限と同じ10カ月以内に設定されています。
ただし納付期限についても猶予制度が設けられています。
たとえば新型コロナウイルス感染症の影響で資金繰りが悪化して相続税が納税できない場合、税務署に申請すれば原則1年間、納付が猶予され、猶予期間中の延滞税は軽減もしくは免除されます。
猶予制度には換価の猶予と納税の猶予があり、換価の猶予は相続税を納付することで事業の継続や生活が難しくなる場合に適用される制度です。
また納税の猶予は財産の損失などで一時に納付できない場合に適用される制度です。
税務署側も新型コロナウイルスの影響に配慮し、迅速かつ柔軟な対応を行うとともに、猶予申請と審査を簡素化しています。
令和4年の延滞税は、年8.7%の割合が年0.9%まで軽減されますが、猶予を受けるには申請が必要なので注意しましょう。
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2. もし申告期限&納付期限が過ぎたら?ペナルティが発生する!?
申告期限の10カ月を過ぎてしまった場合、延滞税と呼ばれる利息が発生します。期限までに納付しなければ、原則として法定納期限の翌日から納付日までの日数に応じて延滞税が課されます。
延滞税以外のペナルティとして、無申告者に課される無申告課税や少なく納付した場合の過少申告加算税、相続財産を意図的に隠した場合の重加算税があります。
それぞれ解説していきます。
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2-1 延滞税
延滞税は次のようなケースで課されます。
・申告などで確定した税額を納付期限までに完納しないとき
・期限後申告書や修正申告書で納付が必要な税金があるとき
・更正や決定の処分後に納付が必要な税金があるとき
つまり税金が期限までに納付されない場合などに課されるペナルティです。
令和3年1月1日以降の延滞税額は、納付期限の翌日から2カ月以内であれば原則「年7.3%」または「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合となっています。
令和4年1月1日から令和4年12月31日までの期間は年2.4%です。
納付期限の翌日から2カ月を経過した日以後は、原則として年「14.6%」か「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合となります。
令和4年1月1日から令和4年12月31日までの期間は年8.7%です。
延滞税は納付期限を1日でも過ぎたら課税され、2カ月以上を経過すると利率が約3倍以上にも跳ね上がります。遅れれば遅れるほど高額になるので注意しましょう。
2-2 無申告加算税
無申告加算税は、正当な理由もなく、相続税の申告を期限までに行わなかった場合に課されるペナルティです。
正当な理由として認められるのは、災害や交通・通信の途絶のような、やむを得ない事情があり、期限内に申告書を提出できなかった場合です。
単に相続人間の争いが原因で財産の内容を知らなかった、もしくは遺産分割協議を行うことができなかった、という場合は正当な理由として認められません。
無申告課税の額は、期限後に自主的に申告した場合(税務調査を受ける前)は追加納付した税金額の5%です。
税務調査によって相続税を申告していないことが判明し、期限後に申告した場合は追加納付した税金額の15%となります。
また、追加納付税額が50万円を超えると、超える部分に対しては20%が課税されるので注意しましょう。
ただし期限後の申告でも、次の要件を全て満たしていれば無申告課税は課されません。
・法定申告期限から1カ月以内に自主的に期限後申告を行うこと
・期限内申告の意思が認められる一定のケースに該当すること
一定のケースに該当するためには、以下の要件を満たしている必要があります。
・期限後申告の税額すべてを法定納期限までに納付していること
・過去5年間に無申告加算税や重加算税を課されたことがない
なお、期限までに申告も納税も行っていない場合は延滞税も課されるので注意が必要です。
2-3 過少申告加算税
過少申告加算税とは、申告書の納税額が実際よりも少ない場合に課されるペナルティです。
税務署に指摘されてから修正申告すると、追加納付した金額の10%が過少申告加算税として課されます。50万円を超えている場合は、超える部分に対しての15%です。
自主的に修正申告した場合は課されないので、申告書の誤りに気付いた場合は、可能な限り早めに修正申告を行いましょう。
期限後に申告すると、無申告加算税や延滞税が課される可能性もあります。
相続税が発生しているにもかかわらず、意図的に過小申告した場合は、後述する重加算税が課されるリスクもあるので注意が必要です。
2-4 重加算税
重加算税は、相続した財産を意図的に隠した場合に課されます。
たとえば次のようなケースです。
・相続人が帳簿・決算書類・契約書・請求書・領収書その他財産に関する書類について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄または隠匿していること
・相続人が課税財産を隠し、架空の債務をつくり、事実のねつ造によって課税財産価額を圧縮していること
・相続人が取引先などと通謀して帳簿書類を改ざん、偽造、破棄などを行わせていること
・相続人自ら虚偽の答弁や、取引先などに虚偽の答弁を行わせていること
・相続人が取得した財産を他人名義にする行為や、架空の債務を認識しながら申告しない行為、または債務として申告すること
重加算税の金額は、相続税の申告内容に隠蔽や偽装があれば、追加納付した税金額の35%です。意図的でないとみなされた場合は、過少申告加算税が課されます。
正当な理由があって申告できなった場合は無申告加算税が課されますが、意図的に申告していなければ追加納付した税額の40%が課されます。
同時に延滞税も支払えば、50%近いペナルティが課されるでしょう。
50%という金額は非常に重たいため、期限内申告は当然のこと、事前に課税財産や基礎控除額計算を正確に行うことが大切です。
自分では相続税がかからないと思っても、我々は税の専門家ではないため、実際には多額の相続税がかかる場合がありますし、税務署の調査で悪質と判断され、重加算税が課される可能性も否定できません。
配偶者に対する相続税額の軽減や、小規模宅地などの評価減といった制度もありますが、適用するには申告が必要ですし、利用条件も正しく把握する必要があります。
相続税の申告について、不安な場合は税理士のような専門家に相談すると良いでしょう。
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3. 相続税の時効は原則5年!悪意があると7年に延長される
日本の法律には「消滅時効」という制度があります。
正しくは「除斥期間(じょせききかん)」といいますが、相続税も例外ではなく、一定期間が過ぎると国は相続税を徴収する権利を失います。
消滅時効の起算日(時効のカウントを始める日)は、相続税の申告期限です。つまり相続の開始があったことを相続人が知った日の翌日から10カ月後となります。
その日から5年が経つと時効が成立しますが、支払い義務があることを認識していたのに、申告も納付もしなかった場合は悪意があるとみなされ7年に延長されます。
たとえば2022年1月20日に相続が開始された場合、その10カ月後の11月20日が申告期限となり、消滅時効は5年後の2027年11月20日、もしくは7年後の2029年11月20日になります。
ただし時効が成立するには、その期間(5年または7年)に税務署から通知などが届かないことが前提です。
全く通知がないまま期間が経過すれば時効が成立しますが、現実的には難しいでしょう。
その理由として、基本的に税務署は被相続人の収入や財産を把握しているからです。
主に以下のような情報を参考にしています。
・銀行口座
・証券会社の口座
・税務申告の情報
・不動産の売買歴
・法人税申告書
税務署はこのような情報を元に、相続税を支払う可能性がある相続人に対して、「相続についてのお尋ね」という書類を送付しています。
「相続についてのお尋ね」を無視すれば税務調査の可能性が高くなりますし、いずれにしても消滅時効の成立は難しいと考える必要があるでしょう。
なお、税金は自己破産しても免除になりません。
借金とは違うので、その辺りにも注意が必要です。
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4. 相続税は10カ月以内に申告を!期限が過ぎるとペナルティもある
この記事では、相続税の申告期限やペナルティ、時効について解説しました。
相続税は、期限内に申告や納税をしないと大きなペナルティを課されます。最悪の場合、重加算税を課されるリスクもあるでしょう。消滅時効を狙うのは現実的ではないので、相続税が発生している場合は正確に申告することが大切です。
もし10カ月以内に遺産分割協議がまとまらない場合は、とりあえず未分割のまま法定相続割合で計算した相続税を申告し、後日、遺産分割協議が成立してから修正(精算)するという方法もあります。
申告期限に間に合わないと思った場合は、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
この記事の監修者
新井智美/トータルマネーコンサルタント
・ファイナンシャルプランナー(CFP®)
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
・DC(確定拠出年金)プランナー
・住宅ローンアドバイザー
・証券外務員
コンサルタントとしての個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン・住宅購入のアドバイス)や、資産運用など上記相談内容にまつわるセミナー講師のほか、大手金融メディアへの執筆および監修にも携わっている。現在年間300本以上の執筆・監修をこなしており、これまでの執筆・監修実績 は2,000本を超える。