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配偶者居住権は2種類! 遺言で成立させる方法や登記手続きを解説

更新日:2020.11.30

配偶者居住権は2種類! 遺言で成立させる方法や登記手続きを解説

夫婦のうち一方が亡くなると、存命のもう一方は「住む家を維持できるか」が問題になります。相続財産の状況によっては、子や孫たちの取り分に配慮するため、住み慣れた家の所有権を諦めなくてはなりません。こんな状況に配慮し、少なくとも配偶者が家に住み続けられるように制定されたのが「配偶者居住権」です。

本記事では、配偶者居住権の詳しい成立要件や使い方を解説し、権利を設定する時やその後の注意点も紹介します。

配偶者居住権とはなにか

配偶者居住権とは、亡くなった人の配偶者が住む家について、新所有者の名義に関わらず「居住」や「第三者への貸し付け」を引き続き配偶者が自由に行えるようにする権利です。従来は法律上存在しなかった権利ですが、遺産分割に伴って配偶者が住む場所を失うケースがあることから、2020年4月施行の改正民法で認められるようになりました。

配偶者居住権で状況が変わる典型的な例は、持ち家と生活資金以外に目立った相続財産がないケースです。例として、評価額1千万円の家と同額の現金が遺されており、配偶者と子1人の合計2人で遺産分割するケースを考えてみましょう。法律で決められた相続割合(法定相続分)は50%ずつであることから、遺産の取り分は各人1千万円になります。

ここで問題になるのは、遺産分割の方法です。

 

【旧民法の場合】上記例での遺産分割方法

  1. 家は配偶者が取得し、現金は子が取得する場合: 配偶者は「住む家を確保できても生活費がない」といった事態に陥ります。
  2. 家は子が取得し、現金は配偶者が取得する場合: 配偶者は「生活費を確保できても住む家がない」といった事態に陥ります。

民法改正後の上記例では、②と同じように子が家を取得しても「配偶者居住権」を設定することで解決できます。こうすることで、配偶者は住む家と生活費の両方を確保でき、遺産分割による生活困窮を避けられるのです。

配偶者居住権には2種類ある

個別の相続ケースで「配偶者居住権」を認めるかどうかは、あくまでも亡くなった人自身や配偶者以外の相続人次第です。配偶者居住権に反対する相続人がいると、結局のところ住む場所の保証は失われてしまいます。

この問題を解決するため、改正民法では「配偶者居住権」とは別の種類の権利である「配偶者短期居住権」も制定されています。2つの権利の違いを解説するため、それぞれの成立要件について簡単に触れます。

配偶者居住権

相続で「配偶者居住権」を成立させるには、亡くなった人の遺言もしくは共同相続人の同意が必要です(民法第1028条本文の1・2)。また、成立した配偶者居住権は特に取り決めがない限り配偶者が生きている限り継続しますが、共同相続人との話し合いが家庭裁判所の審判へと発展していた場合は「一定期間で効力が消滅する」と指定されてしまう可能性があります。

以上のように、民法の規定にある「配偶者居住権」には強制力がなく、他の相続人の同意や家庭裁判所での審判が必要となります。

配偶者短期居住権

一方の「配偶者短期居住権」は強制的に成立し、遺言や共同相続人の同意は不要です。ただし効力の及ぶ期間については原則として6カ月後であり、遅くとも遺産分割によって家の次の所有者が決まれば消滅します。

以上のように、配偶者短期居住権は「少なくとも新所有者が決まるまで住まいを保障するルール」に過ぎません。終身あるいは老人ホーム等入居までの住まいを確保するには、遺産分割協議で他の相続人に同意してもらい「配偶者居住権」を成立させる必要があるのです。

配偶者居住権の要件

改正民法に基づいて配偶者が住まいを確保するためには、具体的にどんな状況が整っていればよいのでしょうか。ここからは「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」について、成立要件を詳しく解説します。

比較項目 配偶者居住権 配偶者短期居住権
成立要件 遺言もしくは共同相続人の同意 なし(自動的に成立)
登記 必要 不要
効力が継続する期間 終身もしくは一定期間 相続開始から6か月(原則)
効力が及ぶ範囲 建物全体 無償で居住していた部分のみ
第三者への貸付 できる できない

配偶者居住権

配偶者居住権について「遺言もしくは共同相続人の同意」が必要であることは説明した通りですが、さらに法務局で登記しなければならない点にも要注意です。

 

【配偶者居住権の成立要件】(民法 第1028条本文の1・第1031条の本文)

  1. 所有者が亡くなった時点で、対象の建物に配偶者が居住している
  2. 所有者が亡くなった時点で、対象の建物が配偶者以外の誰とも共有状態にない
  3. 亡所有者の遺言書で「配偶者居住権の遺贈」が指定されている、遺言書がない場合は共同相続人の話し合い(=遺産分割協議)で合意している
  4. 対象の建物の新しい所有者が、配偶者居住権を法務局に登記する

配偶者居住権の効力が継続する期間

成立した配偶者居住権の効力は、すでに触れた通り「原則として終身」継続します。なお、効力を必ずしも「終身」とする必要はなく、成立要件と同じく遺言書や遺産分割協議で「〇年」とのように一定期間で区切ることもできます(民法第1030条)。

配偶者居住権の効力が及ぶ範囲

配偶者居住権の効力は「対象の建物の全部」に及びます(民法第1028条本文)。つまり「自宅兼店舗」とのように元々居住スペースが限られていたケースでも、建物全体を配偶者の住居にできるのです。

配偶者短期居住権

配偶者短期居住権が「遺言や共同相続人の同意なしで成立する」ことは既に説明した通りです。

成立要件は配偶者居住権の要件①だけとシンプルですが、注意すべきは要件①に「無償で居住している」との条件が追加される点ですあまり考えられませんが、例えば「亡夫に対して妻が賃料を払っている」といったケースでは、配偶者短期居住権は成立しません。

【配偶者短期居住権の成立要件】(民法 第1037条本文)

所有者が亡くなった時点で、対象の建物に配偶者が無償で居住している

配偶者短期居住権の効力が継続する期間

すでに触れましたが、配偶者短期居住権の効力は「相続開始から6カ月を経過する日」と「遺産分割によりその建物の帰属が確定した日」のいずれか遅い方とされています(民法第1037条本文1・2)。

つまり、遺言や共同相続人の同意がなくても、家の所有者が亡くなってから6カ月間は配偶者の居住が認められます。6カ月経過後に関しては、共同相続人の話し合いで家の新所有者が決まり次第、配偶者は退去しなければなりません。もちろん、共同相続人が前章の「配偶者居住権」に同意すれば、退去せずに住み続けられます。

配偶者短期居住権の効力が及ぶ範囲

配偶者短期居住権の効力は限定的であり、生前から相続開始まで「無償で使用していた部分」にしか及びません。

例えば、自宅兼店舗として使っていた建物のうち「店舗経営者である妻が夫に賃料を払っていた」というケースでは、店舗部分にあたる部分を居住用として使うことはできないのです。

配偶者居住権を使うには

配偶者居住権を使って住まいを確保する際は、「生前のうちに遺言書で指示しておく方法」と「遺産分割協議で同意を得る方法」のいずれかの方法があります。ここまで解説した成立要件をもとに、以下で詳しく紹介します。

遺言書で成立させる場合

家の所有者自身で遺言書を作成して権利成立させる場合、文言を「遺贈する」とする点がポイントです。

「相続する」と記載した場合、死後になって配偶者が居住権を必要としなくなったケース(すでに老人ホームに入居している等)では、現金等の他の取得分ごと放棄しなければなりません。「遺贈する」と書いておけば、配偶者居住権の取得だけ辞退し、現金などの他の相続財産は受け取れます。

以降では、遺言書で配偶者居住権を成立させる際の具体的な流れを紹介します。

 

遺言書作成

  1. 文例:「遺言者○○は、遺言者の有する次の建物の配偶者所有権を、遺言者の妻○○に遺贈する」※併せて、建物の登記情報(所在・家屋番号・種類・構造・床面積など)を記載する必要があります。
  2. 相続開始(配偶者短期居住権の成立): 無償で居住できていたスペースにつき、所有者が亡くなってから最低6カ月間は居住権を確保できます。
  3. 法務局への登記: 登記申請書に遺言書等を添付して「配偶者居住権」を設定します。
  4. 相続税の申告: 配偶者居住権は課税対象になるため、他に遺産を得ていなくても相続税申告が必要です。

遺産分割協議で成立させる場合

遺言書を作らないまま家の所有者が亡くなってしまったケースでは、遺産分割協議で相続財産の取得分を決める際に「配偶者居住権」を設定します。法務局で登記申請する際、相続人の話し合いで合意した内容を書面にした「遺産分割協議書」が必要になるため、必ず準備しましょう。

  1. 相続開始(配偶者短期居住権の成立): 無償で居住できていたスペースにつき、所有者が亡くなってから最低6カ月間は居住権を確保できます。
  2. 遺産分割協議: 家の取得者や配偶者居住権について話し合い、遺産分割協議書を作成します。
  3. 法務局への登記: 登記申請書に遺産分割協議書を添付して「配偶者居住権」を設定します。
  4. 相続税の申告: 配偶者居住権は課税対象になるため、他に遺産を得ていなくても相続税申告が必要です。

配偶者居住権の注意点

配偶者居住権を設定する場合、特に相続トラブルに注意しなければなりません。また、一度成立した権利を第三者に譲ることはできない点にも留意しましょう。

譲渡や売却をしてはいけない

配偶者居住権は第三者に売却することはできません(民法第1032条の2)。例えば「不要になった自宅を元手に老人ホーム入居費を確保したい」と考えても、できるのは家の所有者の同意のもと入居者を募って賃料を得ることだけなのです。

家の所有者(子どもなど)の名義で売ろうとしても、売却市場では配偶者居住権が「買い手による建物活用に制限をかけるもの」とネガティブにとらえられてしまいます。売却に不利な条件を解消し、買い手に興味を持ってもらうには、配偶者居住権の「権利抹消登記」が必要です。また、配偶者居住権の存続期間中に権利抹消登記を行うには、前もって居住権を持つ人と所有者との間で合意しておかなければなりません。

改築・増築・賃貸経営は所有者の同意が必須

譲渡や売却ができないことに加え、下記行為をする時は家の所有者の同意が必要です (民法第1032条の3)。

  • 改築・増築
  • 第三者へ使用させること(有償or無償は問わない)

これまでの解説で「入居者を募って賃料を得る」ことが可能と紹介しましたが、あくまでも所有者の同意が前提になる点に注意しましょう。

土地の所有権を誰に持たせるのかよく考える

第二に、実際に住まいを確保する上では、家の建つ土地を誰の所有にするのか考える必要があります。

法律上、配偶者居住権の効力は「建物」にしか及ばず、その「土地」まで自由に使用収益できるというわけではありません。配偶者の居住に反対する相続人が土地を取得してしまうと、その相続人の一存で土地の売却や改良が決まってしまい、居住権があるにも関わらず退去しなければなりません可能性があります。

再婚者や子が2人以上いる場合に注意

第三に、家族構成によっては相続トラブルが起きる可能性があります。

例えば、離婚・再婚歴のある亡所有者の連れ子がいる場合、義理の親にあたる再婚相手(=配偶者居住権を得る人)やその子との関係性が問題です。家の所有権が亡所有者の連れ子に渡ったなら、再婚相手の子から不満が出るでしょう。再婚相手の子が家の所有者になる場合、亡所有者の連れ子が帰るべき実家を失うことになりかねません。

家の亡所有者が初婚である例にしても、子が2人以上いる場合「どの子が所有者になるのか」でもめる可能性があります。

【配偶者居住権FAQ】こんなときはどうする?

最後に、配偶者居住権を設定する場合に悩みがちな「共有名義の家」や「権利成立後の費用負担」などの3つの疑問に答えます。

建物の権利が夫婦の共有だった場合は?

建物の権利(=登記名義)が夫婦で共有していた場合でも、要件で紹介した通り「配偶者居住権」は成立します。

亡くなった人の持分を配偶者以外の相続人(子や孫など)が取得するケースでは、遺言または遺産分割協議の上で権利を登記しておくと良いでしょう。

建物の権利が親子の共有だった場合は?

では、建物の権利(=登記名義)が亡所有者と子が共有していた場合はどうでしょうか。

結論として、この場合「配偶者居住権」は成立しません。同じく要件で紹介した通り、子に限らず「配偶者以外の人と共有状態の建物」は権利設定できないと法律で定められています。

上記ケースでどうしても配偶者の住まいを確保したい場合、ひとまず配偶者短期居住権で退去までの時間を稼ぎ、亡所有者の持分を配偶者に取得させるなどの方法を考える必要があります。

建物維持にかかる費用は?

居住用かそうでないかに関わらず、不動産には維持コストや税金がかかります。成立した配偶者居住権に基づいて住み続ける場合、継続的にかかる費用はいったい誰が負担するのでしょうか。

結論として、法律の解釈上「固定資産税」や「現状維持に必要な費用」は配偶者が負担しなければなりません。

今回新しく制定された配偶者居住権は、法改正前からあった「使用貸借契約」(モノや土地を無償で貸し付ける契約)の一種と解釈されています。使用貸借契約では、条文で「通常の必要費」と呼ばれる費用は借主負担です(民法第595条)。ここで言う借主とは、配偶者居住権の場合は配偶者自身のことを指しています。

通常の必要費とは具体的にどんな費用なのか、実のところ法律ではっきりと決められているわけではありません。判例では、固定資産税や建物がある土地の賃料のことだと解釈されています(最高裁判決昭和36年1月27日など)。

まとめ

2020年4月の法改正以降、亡くなった人の家に住む配偶者には、少なくとも6カ月間の居住継続が認められます。遺言書または遺産分割協議での合意があれば、終身もしくは一定期間に渡って住み続けられる「配偶者居住権」も獲得できるようになりました。

実際に配偶者居住権を使うにあたっては、以降まとめているポイントに留意しましょう。

配偶者居住権のポイント

  • 法務局への登記が必須
  • 遺言書で指定するときは文言を「遺贈」にする
  • 権利が及ぶのは「建物」だけ(土地には及ばない)
  • 配偶者以外の人と共有名義になっている建物は権利設定できない

上記の他、相続トラブルの可能性には十分注意し、維持費負担に関しても法律解釈を踏まえて考える必要があります。

個別ケースでの権利設定に伴う問題点は、法改正前から多数の相続事例を扱ってきた専門家に分析してもらうと良いでしょう。早まらず、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

「つぐなび」の運営は、1970年創業の株式会社船井総研ホールディングス(東証1部上場、証券コード:9757)の経営コンサルティング事業を担う株式会社船井総合研究所が行っています。…もっと見る

船井総合研究所は、相続分野において700事務所にものぼる全国の弁護士・税理士・司法書士といった士業事務所のコンサルティングを行っており、その長年のノウハウをもとに「つぐなび」を2020年に開設いたしました。
現在、全国的に高齢人口の急速な増加を続けており、総人口は減少していく一方で、高齢者人口は2040年まで増え続けると予測されています。それに伴い、相続財産をめぐるトラブルも増加、複雑化していることが喫緊の課題となっており、さらに、問題を未然に防ぐための遺言や民事信託などの生前対策のニーズも年々高まっています。 「つぐなび」では、相続でお困りの皆様が、相続の”プロ”である専門家と一緒に相続の課題解決をしていけるようサポートいたします。

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