土地の相続税を減額できる制度として「小規模宅地等の特例」というものがあります。
この特例には要件があり、すべてのケースで使えるわけではありません。
土地を相続する予定がある人は、この特例の要件に当てはまるか事前にチェックしておくことが大切です。
本記事では小規模宅地等の特例について、メリットや要件などをわかりやすく解説します。
目次
1. 小規模宅地等の特例とは
最初に、小規模宅地等の特例の概要や誕生した背景、メリットなど基本的な情報をご紹介します。
1-1 概要
小規模宅地等の特例は、亡くなった人(被相続人)が所有していた土地を相続する際、一定の要件を満たす場合に相続税評価額が減額される制度です。
相続税評価額が減額される割合は80%または50%で、土地の利用区分によって減額される割合が決まります。
1-2 特例が誕生した背景
立地や面積によっては、土地の相続税評価額がきわめて高額になることもあります。
もし相続した土地に対して相続税が満額かかってしまうと、税負担が大きくなってしまい、せっかく相続した土地を手放さざるを得なくなってしまう可能性もあります。
このような事態を防ぐために設けられたのが、小規模宅地等の特例です。
1-3 特例を適用した場合のメリット
小規模宅地等の特例のメリットは、相続した土地の相続税額を大幅に抑えられることです。
たとえば土地の相続税評価額が2,000万円であった場合、この特例を使うことで、相続税評価額を400万円(減額割合が80%の場合)まで減らせます。
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2. 小規模宅地等の特例の適用対象となる土地とは
小規模宅地等の特例は、土地の利用区分によって減額される割合や限度面積が決められています。
対象となる土地は大きく分けて以下の3種類です。それぞれの要件についてチェックしていきましょう。
・特定居住用宅地等
・特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等
・貸付事業用宅地等
2-1 特定居住用宅地等
亡くなった人(被相続人)、または亡くなった人と生計を一にしていた親族が住んでいた土地で、小規模宅地等の特例の対象となるものを「特定居住用宅地等」といいます。
生計を一にしていた親族とは、たとえば【亡くなった人が所有していたマンションに一人暮らししており、亡くなった人から仕送りを受けていた子ども】などが該当します。
また亡くなった人と別居していても、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例の適用を受けられる、通称「家なき子特例」というものがあります。
特定居住用宅地等に係る、相続税評価額の減額割合と限度面積は以下のとおりです。
・減額割合:80%
・限度面積:330㎡まで
特定居住用宅地等の要件1:被相続人が住宅としていた土地
亡くなった人(被相続人)が住んでいた土地について小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、以下の「取得者の要件」と「取得者等ごとの要件」を満たす必要があります。
特定居住用宅地等の要件1
取得者の要件 | 取得者等ごとの要件 |
亡くなった人の配偶者 | なし |
亡くなった人が住んでいた一棟の建物に住んでいた親族 | 相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に住み、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで所有していること |
上記以外の親族 (家なき子) |
次の(1)から(6)の要件をすべて満たすこと (1) 居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。 (2) 被相続人に配偶者がいないこと。 (3) 相続開始の直前において被相続人が住んでいた家屋に同居していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。 (4) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人が住んでいた家屋を除きます)に住んだことがないこと。 (5) 相続開始時に、取得者が住んでいる家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。 (6) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで所有していること。 |
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
同居していた親族と家なき子については取得者等ごとの要件がありますが、配偶者には取得者等ごとの要件がありません。
たとえば亡くなった人の妻が被相続人の住んでいた土地を相続した後、相続税の申告期限まで対象の土地に住み続けていなくても、小規模宅地等の特例を受けられるのです。
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特定居住用宅地等の要件2:被相続人と生計が同一の親族が住宅としていた土地
「亡くなった人と生計をともにしていた親族」が住んでいた土地について小規模宅地等の特例の適用を受ける際も、「取得者の要件」と「取得者等ごとの要件」が定められており、これらをいずれも満たす必要があります。
特定居住用宅地等の要件2
取得者の要件 | 取得者等ごとの要件 |
亡くなった人の配偶者 | なし |
亡くなった人と生計を一にしていた親族 | 相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に住み、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで所有していること |
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
配偶者については、亡くなった人が住んでいた土地と同様、取得者ごとの要件はありません。
一方、亡くなった人と生計を一にしていた親族(子どもなど)が土地を取得する場合は、相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に住み、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで所有している必要があります。
2-2特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等
亡くなった人や、その人と生計を一にしていた親族が事業をしていた土地で、小規模宅地等の特例の対象となるものを「特定事業用宅地等」といいます。
また、亡くなった人の同族会社の事業(貸付事業を除く)で使われていた土地も小規模宅地等の特例の対象となり、これを「特定同族会社事業用宅地等」といいます。
特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等につき、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、それぞれ以下の要件を満たす必要があります。
特定事業用宅地等の要件
区分 | 事業承継要件 | 保有継続要件 |
亡くなった人の事業用の土地 | その土地でおこなっていた事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を継続していること | その土地を相続税の申告期限まで所有していること |
亡くなった人と生計をともにしていた親族の事業用の土地 | 相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その土地上で事業をおこなっていること | 同上 |
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
特定同族会社事業用宅地の要件
法人役員要件 | 保有継続要件 |
土地を取得した親族が相続税の申告期限においてその法人の役員であること | その土地を相続税の申告期限まで所有していること |
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地に係る、相続税評価額の減額割合と限度面積は、ともに以下のとおりです。
・減額割合:80%
・限度面積:400㎡まで
ただし、相続開始前3年以内に事業用(一定の規模以上の事業等を除く)に使われ始めた土地は、小規模宅地等の特例の対象外となります。
2-3 貸付事業用宅地等
亡くなった人、またはその人と生計を一にしていた親族が貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業*)の用に供していた土地も、小規模宅地等の特例の対象です。
このような土地を「貸付事業用宅地等」といいます。
*準事業:事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で、相当の対価を得て継続的に行うもの
貸付事業用宅地等について、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、以下の事業承継要件と保有継続要件を満たす必要があります。
貸付事業用宅地等の要件
区分 | 事業承継要件 | 保有継続要件 |
亡くなった人の貸付事業用の土地 | その土地でおこなっていた貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつその申告期限までその貸付事業を継続していること | その土地を相続税の申告期限まで所有していること |
亡くなった人と生計を一にしていた親族の貸付事業用の土地 | 相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その土地で貸付事業をおこなっていること | 同上 |
参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
貸付事業用宅地等に係る、相続税評価額の減額割合と限度面積は以下のとおりです。
・減額割合:50%
・限度面積:200㎡
また、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等と同様、貸付事業用宅地等についても、相続開始前3年以内に貸付事業用に使われ始めた土地は、小規模宅地等の特例の対象外となります。
3. 小規模宅地等の特例の計算方法
小規模宅地等の特例の利用区分の限度面積・減額割合と、相続税評価額の計算方法を紹介します。
相続する予定の土地について、小規模宅地等の特例がどのように適用されるのか確認しましょう。
3-1 利用区分別に定められた限度面積・減額割合を確認する
下表は、前述した利用区分ごとの限度面積と減額割合をまとめたものです。
表1:小規模宅地等の限度面積と減額割合
出典:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
特定居住用宅地等・特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等は減額割合が80%と大きいのに対して、貸付事業用の土地は減額割合が50%に止まります。
相続税評価額の減額対象となる限度面積は、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等がもっとも大きく、次いで特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等の順となっています。
相続する土地の利用区分に応じて、限度面積と減額割合が異なるので、対象の土地がどれに該当するか確認しておきましょう。
3-2 特例を併用する場合における限度面積の求め方
複数の土地について小規模宅地等の特例を併用する場合は、限度面積について以下の制限が適用される点に注意が必要です。
(1)貸付事業用宅地等がない場合
ア.特定居住用宅地等の限度面積は、合計330㎡以下
イ.特定事業用宅地等と特定同族会社事業用宅地等の限度面積は、両者を併せて合計400㎡以下
※アとイは完全併用可(限度面積は合計730㎡以下)
(2)貸付事業用宅地等がある場合
以下の計算式を満たすように、各土地の限度面積を調整して適用
A:特定居住用宅地等の限度面積
B:特定事業用宅地等の限度面積
C:特定同族会社事業用宅地等の限度面積
D:貸付事業用宅地等の限度面積
A×200/330+(B+C)×200/400+D≦200㎡
貸付事業用宅地等がある場合とない場合で、限度面積の求め方が異なります。
たとえば、親が住んでいた土地(特定居住用宅地等)と事業で使っていた土地(特定事業用宅地等)の2つを相続するケースで計算してみましょう。
特定居住用宅地等の面積が400㎡、特定事業用宅地等が500㎡なら、特定居住用宅地等について330㎡まで、特定事業用宅地等について400㎡まで、それぞれ相続税評価額の80%減額を受けられます。
一方、親が住んでいた土地(特定居住用宅地等)と貸付事業で使っていた土地(貸付事業用宅地等)を相続するケースを検討してみましょう。
特定居住用宅地等の面積が165㎡、貸付事業用宅地等が200㎡あったとします。
もし特定居住用宅地等の165㎡全部について、相続税評価額の80%減額を受ける場合、貸付事業用宅地等の限度面積は100㎡(=200㎡-165㎡×200/330)となります。
反対に、貸付事業用宅地等の200㎡全部について、相続税評価額の50%減額を受ける場合、特定居住用宅地等については、小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
このように、貸付事業用宅地等を含めて小規模宅地等の特例の適用を受ける場合、どの土地への適用を優先するかによって、トータルの相続税評価額が変化します。
4. 小規模宅地等の特例を適用する場合の注意点
ここでは小規模宅地等の特例を利用する際の注意点をご紹介します。
4-1 居住用の場合、適用対象は土地だけ
小規模宅地等の特例は、土地のみが対象です。相続した土地に建っている建物は、小規模宅地等の特例の対象になりません。
4-2 被相続人が老人ホームに入居していた場合は、所定の要件を満たす必要がある
亡くなった人(被相続人)が住んでいた土地について小規模宅地等の特例の適用を受ける場合、原則として、相続の直前までその土地に住んでいることが必要です。
ただし所定の要件を満たしていれば、亡くなった人が老人ホームなどに入居していた場合でも、小規模宅地等の特例を利用できます。
具体的には、亡くなった人が要介護認定や要支援認定を受けていて、以下の施設に入居しており、かつ従前居住していた持ち家を事業用などに利用していない場合には、小規模宅地等の特例の適用を受けられます。
・認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居
・各種老人ホーム(養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホームなど)
・介護老人保健施設や介護医療院
・サービス付き高齢者向け住宅
・障害者支援施設
5. 小規模宅地等の特例の手続きに必要な書類・提出方法
小規模宅地等の特例を利用するためには、相続税の申告期限までに手続きが必要です。
必要書類を相続税の申告書に添付しましょう。
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必ず添付が必要な書類
・全ての相続人を明らかにする戸籍謄本、または法定相続情報一覧図の写し
・遺言書の写し、または遺産分割協議書の写し
・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
5-1必要に応じて提出が求められる書類
上記のほかに、必要に応じて提出しなければならない書類もあります。
たとえば相続直前に老人ホームに入居していた人の自宅(特定居住用宅地等)を相続する場合は、介護保険証の写しや老人ホームの入居契約書などが求められます。
準備する書類がよくわからない場合は、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
5-2 提出方法
小規模宅地等の特例の必要書類は、相続税の申告書類とともに提出します。
相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に、相続税申告の手続きをおこないましょう。
相続税がかからない場合は、原則として相続税申告は不要ですが、小規模宅地等の特例を受ける場合は相続税の申告が必要です。
たとえ相続税が0であっても、忘れずに相続税申告をおこないましょう。
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6. 参考:小規模宅地等の特例の改正内容とは
小規模宅地等の特例には、平成30年度以降立て続けに改正がありました。
過去の相続で小規模宅地等の特例の適用を受けたことがある人でも、今後の相続では同じ要件で特例が使えない場合があるのでチェックしておきましょう。
6-1 平成30年度の改正内容
平成30年度の改正では、相続開始前3年以内に貸付事業用として使われ始めた土地(貸付事業用宅地等)は特例の対象外となりました。
この改正は、平成30年4月1日以後に貸付事業用として使われ始めた土地が対象です。
平成30年3月31日以前から貸付事業用として使っていた土地は、相続開始前3年以内に供用開始された場合でも、引き続き小規模宅地等の特例の対象となります。
また平成30年度改正では、「家なき子特例」の要件も厳格化されています。
6-2 平成31年度の改正内容
平成31年度からは、貸付事業用に加えて、相続開始前3年以内に使われ始めたそれ以外の事業用の土地(特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等)も、小規模宅地等の特例の対象外となりました。
ただし、土地の上にある建物や付属設備、構築物、事業用の減価償却資産の合計価額が、相続開始時の土地価額の15%以上である場合は「一定の規模以上の事業」とみなされます。
相続開始前3年以内に供用開始された場合でも、引き続き小規模宅地等の特例の対象です。
この改正は、平成31年4月1日以後に事業の用に供された土地が対象です。
平成31年3月31日以前から事業で使われていた土地は、引き続き小規模宅地等の特例の対象となります。
7. 相続税の負担を抑えられる小規模宅地等の特例を賢く活用しよう
相続する土地の面積や立地によっては、相続税の負担が重くなる場合があります。
その場合は、土地の相続税負担を抑える効果がある「小規模宅地等の特例」を上手に活用しましょう。
小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、所定の要件を満たす必要があります。
土地を相続する予定がある人は、小規模宅地等の特例の要件を満たしているか事前に確認しておくとよいでしょう。
平成30年度、31年度に改正があったので、過去の相続で小規模宅地等の特例の適用を受けたことがある人でも、最新の税法をふまえて取り扱いを確認しておくことをおすすめします。
小規模宅地等の特例の要件を満たしているかどうか、ご自身で判断することが難しい場合は、税理士などの専門家に相談してみるのも一案です。
相続に関する疑問点や不安があれば、専門家に相談して早めに解消しておきましょう。
この記事の監修者:阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(税理士法51条1項に基づく国税局長への通知により、税理士業務も行う)。
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律・税務関連記事の執筆にも注力している。