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廃止された今でも残る「家督相続」とは? 基本的な仕組みと利用される場面を解説

更新日:2021.02.05

廃止された今でも残る「家督相続」とは? 基本的な仕組みと利用される場面を解説

家督相続制とは、明治期~昭和期までの日本の相続制度で、長男の単独相続が原則という内容でした。家督相続制はすでに廃止されており、現在では性別や年齢に関わらず遺産分割を求める権利が認められています。しかし、手続き上どうしても家督相続の知識が必要になったり、当時の価値観にこだわる家族との間で相続トラブルに発展したりすることが未だあります。

代々家族のものだった土地建物を受け継ぐ人や、高齢者など昔ながらの慣習にこだわる家族を持つ人は、下記で紹介する家督相続の知識が後々役立つでしょう。

家督相続とは

家督相続とは、旧民法(明治31年7月16日~昭和22年5月2日)で相続の原則とされていた、戸主から特定の相続人が1人で全財産をもらい受ける制度です。ここで言う「戸主」とは、単なる戸籍の筆頭者ではなく、家名・家業・家族の財産の3つが一体となった「家督」を所有する人を指します。

上記のように「家の代表者から次の代表者へと単独相続させる制度」は、現代的な家族観や人権意識になじみません。そこで昭和22年、日本国憲法に沿って民法が大きく改正され、現在の「相続は死亡時のみ起こる」「一定の血縁関係にある人なら誰でも遺産分割を求められる」という2つの大原則が整えられました。同時に家督という考え方も解体され、今の民法では「個人が所有する財産的価値のあるもの」しか相続の対象にならないとされています。

とはいえ、家督相続の基本的な考え方は、現代でもまだ残っています。現在の制度下でも、家族の内の特定の人間が「家を継ぐ」と考え、他に相続人がいても単独相続するケースが少なくありません。

家督相続の仕組み

それでは、家督相続とは具体的にどんな仕組みだったのでしょうか。結論を言うと、兄弟姉妹やその他家族が何人いようと、長男が単独相続して「次の戸主」になるのが当時の原則です。また、現行民法の生前贈与にあたる制度として「隠居」もありました。下記では、家督相続の仕組みについて旧民法を元に解説します。

家督相続が開始される条件

家督相続制で遺産が相続人へと移るのは、以下3つのうちいずれかの条件が整ったときです。

  • 家督相続の開始条件1: 死亡

戸主の死亡または失踪宣告の際は、家督相続が発生します(旧民法第964条)。

 

  • 家督相続の開始条件2: 隠居

満60歳に達して隠居を届け出たり、病気などやむを得ない事情で家政をとれなくなったりした場合、生前のうちに家督相続が発生します(旧民法第752条・第964条)。

 

  • 家督相続の開始条件3: 戸籍の喪失

外国籍取得により日本国籍を失った時、あるいは婚姻または養子縁組の取消しでその家を去った場合も、生前のうちに家督相続が発生します。なお、女性が戸主の場合は、その「入り婿」が原則として家督相続し、新戸主になるとも定められていました(旧民法第964条)。

上記のうち、開始条件2・3は現在の民法から削除されています。削除された条件のうちどちらかを実現させるなら、契約自由の原則(当事者が自由に合意して法律上の効果を発生させられる原則)に沿って、財産を譲る人と譲り受ける人との間で「生前贈与」の合意をすることになります。

家督相続制で「長男の単独相続」になる仕組み

旧民法の「相続順位」は、現在の民法とは大きく異なります。まず、現在の民法では、配偶者が存命であれば最優先で相続できるものとし、配偶者がもらい受けた後の残りの遺産を①子 ②父母などの直系尊属 ③兄弟姉妹 の中から最も順位の高い人が相続できるものとされています。

一方の旧民法では、相続の第1順位を「子・孫のなどの直系卑属のうち最も親等が近い人」とし、さらに第1順位の中でも「男子」「年長者」「夫婦の婚姻中に生まれた嫡出子」のいずれかの条件に当てはまる人物が優先されます。そして、最も優先順位の高い家族が、家督の一部として全財産を相続するものとされていました(第970条)。

要約すると、新民法では性別も生まれた順も区別なく相続できますが、旧民法の家督相続制では「夫婦の間に生まれた長男」による単独相続が原則です。さらに、戸主が自由に家督相続人指定できるのは「相続人がいない場合」に限られました(第979条)。

 現代において家督相続されるケース

最初に触れたように、廃止された現在でも家督相続制が利用されるケースがあります。その代表例として、昔の相続手続きが済んでいない場合と、家業と個人所有の財産を切り離せない事情から「長男の単独相続」が必要になった場合の2つが挙げられます。

「数次登記」が必要になった場合

数次登記とは、前回の名義変更手続き(=相続登記)を済ませないまま所有者が亡くなってしまった土地建物を、直近で相続した人の名義に変えるための手続きです。手続きが必要になった場合は、最後に登記された代までさかのぼって調査し、「誰から誰へと相続が発生したのか」を細かく申請書に記入します。

ポイントになるのは、相続権や遺産の取得分には「亡くなった時点で施行されていた法律」が適用される点です。実のところ、相続した不動産の登記簿を取り寄せたところ、「明治期~昭和期の家族が登記名義人のまま」というものが少なくありません。このように民法が改正される前から登記されていないケースでは、数次登記を申請するため、当時の家督相続制に沿って相続人を調べる必要があります。

事業や土地を長男に継いでほしい場合

家督相続制を利用するもう1つのケースは、会社経営や不動産運用を「家業」としている場合です。上記の活動にはある程度のスキルが求められ、後継者育成にも相当の時間がかかります。また、自社株を持つことで企業のオーナーを兼ねる社長など、家業のための資産と個人資産を分離できないケースがほとんどです。

そこで家業の担い手の間では、親族を後継者に定めて育成し、将来は単独相続して家業を継げるよう生前対策するのが一般化しています。この場合、後継者として選ばれがちなのは、若い世代で主要な役割を果たすことの多い長男です。

以上のような経緯であれば、すでに廃止されている家督相続制を利用するのはやむを得ないように思えます。しかし、この後解説するように、長男以外の相続人の理解が得られず、トラブルになる可能性があることも無視できません。

家督相続はトラブルになりやすい

現行法の「性別や年齢に関わらず一定の血縁関係であれば遺産分割を求められる」とする価値観が広まっている現在、家督相続制の価値観を受け入れられる人は当然少なくなっています。一方で、旧民法が廃止されてから十分な時間が経っているとは言えず、昔ながらの制度にこだわる人がいることも確かです。上記のように家督相続制を支持する人が家族にいると、遺産分割時のもめ事は避けられません。

では、長男など特定の人に全財産を相続させる内容の遺言書が見つかったり、あるいは遺産の取得分について「長男が他の家族に優先してもらい受けるべき」と主張する人が現れたりしたときは、どう対処すればいいのでしょうか。

冷静に話し合う場を設ける

まず心がけたいのは、冷静にそれぞれの事情を話し合える場を設けることです。家督相続にこだわる側の人には、例えば「継いだ事業のため経営者個人の資産が必要」「生前の介護を負担した」などの考慮すべき事情があるかもしれません。これに対し他の相続人は、現行法の相続ルールを説明して、公平に遺産分割するためにどうすればいいのか提案することになります。

相続人同士の話し合いは、実のところ、努力しても感情的になってしまう場合がほとんどです。また、実務経験に基づく知識がないと、相手に間違いを指摘されて不利になる可能性もあります。話し合いでもめそうな時は、すぐ弁護士に相談し、双方の橋渡し役として交渉にあたってもらいましょう。

「遺留分侵害額請求」を行う

現行民法では、兄弟姉妹以外の相続人について、生活保障のための最低限の取得分である「遺留分」が認められています(第1042条各項)。また、万が一遺留分よりも少ない額しかもらえなくなった場合、補償のため金銭支払いを求めることのできる「遺留分侵害額請求権が発生します(民法第1046条)。なお、亡くなった人の遺言に沿って相続するケースでも、遺留分の請求は可能です。

特定の人だけが遺産の大半を独占することになった場合、まずは配達証明付きの内容証明郵便で遺留分を請求しましょう。口頭での請求では証拠が残らず、相手が無視し続けると遺留分侵害額請求権の時効(民法第1049条)が完成してしまうからです。

また、請求に応じなかった場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立て、調停委員の仲介で話し合いを続けられます。

まとめ

明治31年7月16日から昭和22年5月2日まで存在した「家督相続」の制度は、家名・家業・家族の財産の3つを長男が単独相続する仕組みでした。現代において廃止された家督相続に関する知識が必要になるのは、通常は数次登記など相続人をさかのぼる必要がある場合のみです。

しかし現代でも、事業用資産や運用中の土地などの生前対策をする時は、家業に詳しい親族を後継者にするため家督相続のような形をとることがあります。特に単独相続にこだわる必要がないケースでも、新旧それぞれの価値観を持つ家族が対立して相続トラブルに発展する可能性が考えられます。

「家督相続」の知識が必要になる場面は、いずれも通常の相続事例よりも対応が複雑です。知識があっても自己判断は控え、なるべく弁護士や司法書士などの相続に詳しい士業を頼りましょう。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

「つぐなび」の運営は、1970年創業の株式会社船井総研ホールディングス(東証1部上場、証券コード:9757)の経営コンサルティング事業を担う株式会社船井総合研究所が行っています。…もっと見る

船井総合研究所は、相続分野において700事務所にものぼる全国の弁護士・税理士・司法書士といった士業事務所のコンサルティングを行っており、その長年のノウハウをもとに「つぐなび」を2020年に開設いたしました。
現在、全国的に高齢人口の急速な増加を続けており、総人口は減少していく一方で、高齢者人口は2040年まで増え続けると予測されています。それに伴い、相続財産をめぐるトラブルも増加、複雑化していることが喫緊の課題となっており、さらに、問題を未然に防ぐための遺言や民事信託などの生前対策のニーズも年々高まっています。 「つぐなび」では、相続でお困りの皆様が、相続の”プロ”である専門家と一緒に相続の課題解決をしていけるようサポートいたします。

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