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「相続分譲渡証明書」が必要になるケースとは? 相続分譲渡のメリットと注意点も詳しく解説

更新日:2021.02.03

「相続分譲渡証明書」が必要になるケースとは? 相続分譲渡のメリットと注意点も詳しく解説

相続人同士で争っているなどの理由で「遺産をもらい受ける手続きが面倒」と感じた時は、自分の相続分を共同相続人やその他の第三者に譲渡できます。「相続分譲渡証明書」とは、自分の相続分を他の人に譲渡した時に、その証明となるものです。本記事では、そもそも相続分の譲渡とは何かを中心に、譲渡する際の必要書類も解説します。

相続分譲渡証明書とは

相続分譲渡証明書とは、自分が得る予定の相続分は、他の人へ譲り渡した時に「相続分を譲り渡した」と証明するためのものです。

契約の原則上、相続分に限らず、モノ・お金・何らかの権利などの譲渡は口頭で成立します。しかし譲渡の当事者以外から証明を求められた場合、単に約束したと主張するだけでは足りません。また、万が一後になって相手方が「そんな約束はしていない」と主張し始めた場合、その主張を覆すような証拠がないと不利です。そこで、譲渡した旨を文書にした相続分譲渡証明書が必要になります。

相続分譲渡証明書の用途

相続分譲渡証明書を作成する目的として、具体的な用途から下記のようなものが一例として挙げられます。

  • 当事者間のトラブル防止策として
  • 譲渡人が遺産分割調停への呼び出されることがないよう、家庭裁判所に提出するため
  • 譲受人が所有権移転登記をする時、登記原因証明として添付するため(相続分に土地建物が含まれているケース)

では、そもそも「相続分の譲渡」とはどんな意味を持つ手続きなのでしょうか。証明書の作成方法を解説する前に、手続きの特徴やメリットを紹介します。

そもそも「相続分の譲渡」とは

相続分の譲渡とは、未分割の遺産に対する「相続人の持分」を他の人へ譲り渡す手続きです。相続分をもらい受けた人は、遺産分割協議(共同相続人全員でそれぞれの取得分を決める時の話し合い)に参加できるようになり、その場で「持分を自分の単独名義に変更したい」と主張できるようになります。また、まだ分割できていない遺産について管理手続きや売却処分などが必要になった場合、共有者として同意あるいは拒否することもできるようになります。

反対に、相続分を譲り渡した人は「遺産分割協議に参加する権利」も「未分割遺産の共有者としての権利」も失われます。

法律上、相続分を譲渡できるかどうかに関して、明確に定める条文はありません。しかし、民法第905条の条文には「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したとき(後略)」とあります。この点から、相続人が自分の持分を他人に譲り渡すことは可能だと解釈されています。

相続分の譲渡の特徴

相続分譲渡の基本的な特徴は以下の3つです。

  • 譲渡人と譲受人が合意すれば成立する
  • 譲渡人は「相続人でない第三者」でも構わない
  • 譲渡の対価は自由に設定できる(有償でも無償でもOK)

第1に、相続分の譲渡は、当事者の合意で成立する契約の一種です。つまり、譲る人ともらう人のどちらか一方だけの意志では成立せず、必ず契約の詳細(譲渡する持分の内容や引き渡し時期など)について話し合いながら決める必要があります。

第2の特徴は、相続分を譲り渡す相手は、血縁関係がまったくない第三者の人でも構わない点です。あくまでも想定に過ぎませんが、ご近所の友人に声をかけて相続分をあげることも出来ます。

第3挙げる相続分譲渡の特徴としては、有償でも無償でも自由に対価を設定できる点です。当然、有償の場合はその金額も細かく決められます。

「相続分の譲渡」はタイミングに注意

相続分を譲渡できるのは「遺産がまだ分割されていない時」だけです。

遺産分割協議が済んでいるケースでは、もらい受ける財産を譲渡人の名義に変更してから、贈与契約(有償の場合は売買契約)を結ばなくてはなりません。名義変更が必要となると、相続分譲渡の「面倒な相続手続きに関わらずに済む」というメリットが失われてしまいます(詳しくは後述この後解説します)。

相続分を誰かに譲りたい事情がある時は、でき出来るだけ死後すぐ譲渡契約に向けて手続きを進めましょう。

相続分を譲渡する時の必要書類とは

相続分譲渡に合意できた時は、少なくとも下記2点の書類を譲渡人(=相続分を譲る人)の手で作成する必要があります。譲受人(=相続分をもらう人)に押印してもらい、その後コピーをとって渡しましょう。

必要書類1: 相続分譲渡証書

「相続分譲渡証書」とは、譲受人に相続分を渡す意思を伝えるための文書で、譲渡する人が作成するものです。書式は自由ですが、少なくとも下記の内容は揃えましょう。

  • 被相続人(=亡くなった人)の情報: 「最後の本籍地」+「氏名」+「死亡日」の3点を記載します。
  • 相続分を渡す旨の一文: 文例「私○○は、上記被相続人の相続について、○○に自己の相続分を○○円で譲渡します。」
  • 日付と署名: まずは「譲渡に合意した日」を記載します。ここまでの内容を譲受人に確認してもらい、問題なければ譲渡人と譲受人がそれぞれ自筆で署名して押印することで、書面に効力が生まれます。印鑑は実印を使い、それぞれの印鑑証明書を添付しましょう。

なお、遺産分割調停中に譲渡する場合、証書の書式を家庭裁判所で用意してくれる場合があります(参考: 相続分の譲渡について/京都家庭裁判所 ・4ページ目の「相続分譲渡証書」が用意された証明書の書式です)。

必要書類2: 相続分譲渡通知書

「相続分譲渡通知書」とは、譲渡人から他の相続人に「譲渡した」と伝えるための文書です。

相続分を譲る際、共同相続人の同意を得る必要はありません。そのため、当事者でない人は譲渡の事実を知らないままになってしまう可能性があります。共同相続人を混乱させないよう、譲渡した時は必ず通知書を作成して送付しなければなりません。

【相続分譲渡通知書のテンプレート】

 

相続分の譲渡のメリットとデメリット

相続分を譲渡する主な理由は「面倒な相続手続きから解放されたい」というものです。一方、よく考えずに譲渡したことが原因でトラブルが起き、家族だけでなく周囲の人まで巻き込んでしまうケースも少なからずあります。

ここでは「相続分を本当に譲渡すべきなのか」「誰に対して譲るべきか」を考える時のヒントになる、譲渡のメリットとデメリットを紹介します。

相続分の譲渡のメリットとは

相続とは、本来なら遺された家族に利益と安心を与える制度です。しかし実際には「遺産分割の手続きに参加しても思うような結果にならない」とあらかじめ分かっているケースがあることも否めません。こんな時、相続分の譲渡という手があります。譲渡の具体的なメリットとしては、下記2点が挙げられます。

メリット1: 面倒な相続手続きからすぐ離脱できる

相続分を譲渡する何よりのメリットは、遺産をもらい受けるための面倒な手続きからすぐ解放されることです。

亡くなった人の財産を新しい所有者の名義になるまでの間は、戸籍謄本などの交付請求、遺産分割協議などのための予定調整、さらに法務局や銀行などの各機関での手続きなどに追われます。これらは到底、数日程度では終わりません。

最も厄介なのは、遺産分割協議でもめる可能性があるケースです。意見がまとまらず家庭裁判所で調停が申し立てられると、数ヶ月から年単位で手続きがストップしてしまいます。

もし「体調が悪く相続手続きを円滑に進められそうにない」「家族仲が悪化していて相続トラブルになる可能性がある」等の事情がある場合、相続分をいっそ譲渡してしまう手が考えられます。譲渡すると遺産は一切もらい受けられなくなりますが、同時に面倒な手続きに関わる必要も一切なくなるのです。

メリット2:有償譲渡ならすぐ現金が手に入る

さらに、有償譲渡に合意できそうなケースでは、遺産の状況に関わらずすぐ現金を入手できる点がメリットです。

相続人になれば、「もらい受けた遺産をすぐ相続人の生活に役立てられるのか」が一番気になるでしょう。この視点で考えれば、ある程度まとまった額の現金を遺してくれるのが理想的です。

しかし、期待に反して不動産や家財などの「いったん売却しなければ現金がもらえない」性質の資産ばかりもらい受けることになるとどうでしょうか。この場合、査定と買い手探しのため現金化に時間がかかるのが普通です。地方圏に所在する土地建物や、ほとんど需要のない家財類に関しては、期待に反してまったく値段が付かない可能性すらあります。

このように換価性の低い資産ばかり相続することになった場合、速やかに現金を手に入れるため、相続分の有償譲渡に合意してくれる人を探す手段が考えられます。

相続分の譲渡のデメリットとは

譲り渡す側にとってはメリットしか見えなくなることが多い「相続分の譲渡」ですが、かえって大きな混乱を招いてしまう可能性がある点に注意しましょう。具体的な相続分の譲渡のデメリットとしては、下記2点が挙げられます。

デメリット1: 第三者への譲渡は遺産分割協議を混乱させやすい

相続分を譲り受けた人は、遺産分割協議に参加するなど、今後は譲渡人以外の相続人と一緒に手続き対応していくことになります。ここで問題になるのが、譲渡の相手が「家庭事情などまったく知らない第三者」だった場合です。

突然知らない人が家族の話し合いに入ってくれば、当然混乱は避けられません。家族だけで話し合えば円満にまとまるはずだった遺産分割協議も、ただ自分の権利だけ主張する第三者が入ってくることで、法的トラブルに発展する可能性があります。

以上のデメリットを考えると、むやみに第三者に譲渡してしまうのは考え物です。譲渡の相手を選ぶ時は、なるべく「他の相続人」や「相続権はないが家族のことをよく知る親類」を候補にしましょう。

デメリット2: 譲渡分には債務も含まれる

遺産とは「債務を含めた財産的価値があるものの総体」です。相続人の持分は、この総体に対する相続権の割合で決定されます。つまり、亡くなった人に借金や損害賠償義務が残っていると、それが譲渡する相続分に含まれた状態で譲り受ける人へと移ります

上記の仕組みを理解しないまま、あるいは債務があると知らないまま譲渡契約を結んでしまうと、譲り受けた側に損失を被らせてしまいます。もし債務から免れることが目的であれば、譲渡ではなく「相続放棄」の手続きを進めましょう(詳細は後述)。

相続分譲渡証明書の書式

相続分譲渡をした時は、その証明になる「相続分譲渡証明書」が必要だと紹介しました。本書面も、他の必要書類と同じように譲渡人が作成します。

証明書に決まった書式はありませんが、法的効力のある内容にする必要があります。以下のテンプレートのように「誰が誰に譲渡するのか」「誰の遺産に関する譲渡なのか」「譲渡の条件は何なのか」がはっきりと分かるよう文面にしましょう。完成した書面には実印を使って手書きで署名捺印し、忘れずに印鑑証明書も添付します。

【相続分譲渡証明書のテンプレート】

債務がある場合は「相続放棄」の検討を

遺産をもらい受ける権利をあえて手放したい理由は様々ですが、もしも債務から免れたいのであれば「相続放棄」を検討しましょう。

相続分を譲渡しても、債務を果たす義務がなくなるわけではありません。他人に譲れるのは「未分割遺産に対する自分の持分」だけであり、対外的な相続人としての地位はそのまま譲渡人に残るだからです。

つまり、相続とは無関係の第三者的立場である債権者は、相続分譲渡があったかどうかに関わらず、もともと遺産を得る権利を持っていた人に督促しても構いません。「亡くなった人に借金や損害賠償義務が残っていると、それが譲渡する相続分に含まれた状態で譲り受ける人へと移る」と前述しましたが、債務を果たす義務が完全に譲り受けた人に引き継がれる訳ではないのです。過去の判例でも、「相続分の譲渡人と譲受人は連帯債務者になる」との結論が出ています(東京地裁平成28年5月12日判決)。

一方の相続放棄は、家庭裁判所を通すことで「相続人としての地位」を含めて遺産の持分を手放す手続きです。相続放棄したことが家裁の事件記録に残ると、その時点で対外的な効果が生まれます。したがって、債権者から督促されても、正当な理由で返済を拒めるようになるのです。

相続分を譲り受ける時に損をしないためのポイント

ここまでは相続分を譲り渡す立場の人に向けて解説しました。それでは、もう一方である譲り受ける側の人は、譲渡契約の際にどのような点に気を付ければいいのでしょうか。下記では、譲受人が損をしないためのポイントを2つ紹介します。

「マイナスの財産」の額に注目する

譲り受ける相続分には「プラスの財産」と「マイナス財産」の両方が含まれます。一般的には不動産や預貯金などの「プラスの財産」に目が向きがちですが、銀行や消費者金融に対する債務、未払いの税金、損害賠償義務などの「マイナスの財産」がないかよく確認しましょう。その金額がプラスの財産を上回ってしまっている場合、もちろん相続分譲渡を受けるべきではありません。

難しいのは、相続人でないとマイナスの債務に関する調査が難しい点です。遠縁の親類や第三者として譲り受ける場合、しっかりと財産調査されていることを確認してから合意を進めるのがベストです。

譲渡人の相続分以上に特別受益がある場合

譲り受けようとする相続人の持分は、本来の量より減っている場合があります。

その原因は、個々の事情により持分を減らす制度である「特別受益」(民法第903条)です。特別受益が考慮される事情としては、具体的に下記のようなものが挙げられます。

  • 相続人の結婚資金を亡くなった人が支援した
  • 相続人が事業を立ち上げる際、その運転資金を亡くなった人が支援した
  • 相続人が配偶者の実家と養子縁組する時、実親である亡くなった人が持参金を出した
  • 相続人はたびたび生活に困っており、住む場所や生活費を亡くなった人が支援していた

民法では、以上のように生前得た支援を「特別受益」と考え、亡くなった人の財産に戻す(=持ち戻し)必要があると考えます。この考えに沿い、特別受益分がある時の持分は以下の計算式で減らされます。

特別受益者の持分=(遺産全体の額+特別受益分)×相続権の割合-特別受益分

特別受益による持分減額がある場合の問題は、やはり身近な家族でないと「減額される事情」をなかなか知ることが出来ない点です。譲渡人の生い立ちなどについてよく知らない時は、本人とよく話し合い、必要だと感じた時は周囲の人とも話してみるべきでしょう。

まとめ

相続事例の中には「相続人同士が争っている」「現金化しにくい財産ばかりもらい受けることになった」などの理由で、遺産をもらい受ける手続きをしてもあまり利益にならないケースがあります。このような場合、いっそ相続分を譲渡してしまうことで、面倒な手続きや遺産分割調停への呼び出しから解放されます。

ただし、あまり考えずに自分の遺産の持分を譲ってしまうのは禁物です。下記のポイントに注意して慎重に判断しましょう。

  • 見ず知らずの第三者に譲渡するのはNG
  • 譲受人は「亡くなった人の債務」も負う
  • 譲渡人が債権者から督促されないようにするには「相続放棄」が必須
  • 債務額や特別受益の有無によっては、譲受人が損をする場合もある。

これから自分の相続分を譲渡しようとする人は「相続分譲渡証明書」「相続分譲渡証書」「相続分譲渡証明書」の3点の書類を必ず作成しましょう。これらの書類は、証明する事項に注意しながら文面を考える必要があるため、契約文書の作成に長けた弁護士や司法書士に任せるのが確実です。

そもそも相続分譲渡してよいものかどうかを含め、なるべく事前に専門士業に相談しましょう。

 

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

「つぐなび」の運営は、1970年創業の株式会社船井総研ホールディングス(東証1部上場、証券コード:9757)の経営コンサルティング事業を担う株式会社船井総合研究所が行っています。…もっと見る

船井総合研究所は、相続分野において700事務所にものぼる全国の弁護士・税理士・司法書士といった士業事務所のコンサルティングを行っており、その長年のノウハウをもとに「つぐなび」を2020年に開設いたしました。
現在、全国的に高齢人口の急速な増加を続けており、総人口は減少していく一方で、高齢者人口は2040年まで増え続けると予測されています。それに伴い、相続財産をめぐるトラブルも増加、複雑化していることが喫緊の課題となっており、さらに、問題を未然に防ぐための遺言や民事信託などの生前対策のニーズも年々高まっています。 「つぐなび」では、相続でお困りの皆様が、相続の”プロ”である専門家と一緒に相続の課題解決をしていけるようサポートいたします。

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