「財産分与」と「遺産分割」。この言葉の違いをご存じですか。今回は、相続分野からの目線でこの2つの言葉を解説します。
目次
財産分与と遺産分割の違い
財産分与と遺産分割は、いずれも財産(遺産)を分ける手続きの際に用いられる言葉ですが、その使用場面が全く異なっています。
財産分与とは、夫婦が離婚した場合に、その一方が、婚姻中に形成した財産を清算するためにその分与を求めることをいいます(民法776条1項、771条)。
夫婦間では、婚姻中に形成した財産(共有財産)をどちらか一方の名義にしていることが多いため、このような手続きが必要となります。
そのため、財産分与は、離婚の際に用いられる用語で、遺産相続の場合に、遺産を「財産分与する」とはいいません。この記事では、遺産分割について基本的な概念から具体的な相続分まで説明します。
遺産分割とはなにか
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)の財産を相続人で分配する手続きのことをいいます。
被相続人が死亡した場合、残された財産(遺産)は、相続人の中で共有状態になっています。
この遺産共有の状態は暫定的なものです。そのため、相続人間で遺産の所有を確定させなければなりません。この遺産の所有を確定するために、遺産分割が必要となります。
相続財産はどうやって分ける?
では、相続財産をどのように分けるのかを説明します。遺産分割自体の方法としては、以下の3つの方法があります。
- 被相続人の遺言による遺産分割の指定
- 遺産分割協議
- 家庭裁判所による遺産分割の調停、審判
①の被相続人の遺言による遺産分割の指定があれば、まずはこれが優先されます。
次に、遺言等が無い場合は②遺産分割協議により遺産を分割します。
最後に、遺産分割協議がまとまらない場合は③家庭裁判所による遺産分割の調停、審判で分割することになります。
遺産の分割方法
遺産の具体的な分割方法としては、現物分割、代償分割、換価分割があります。
ここではわかりやすく解説するために例として、父親が甲土地と乙土地を残して死亡し、長男、次男が相続人である場合を想定します。
遺産の分割方法①現物分割
現物分割とは、現物それ自体を分割する方法になります。上記の例ですと、長男が甲土地を取得し、次男が乙土地を取得する場合がこれにあたります。
また、甲土地、乙土地をそれぞれが2分の1として権利を持つこともできます。この場合は共有という状態になっています。
遺産の分割方法②代償分割
代償分割とは、現物を特定の相続人が取得する代わりに他の相続人にその相続分に応じた金銭を支払う方法のことをいいます。
上記の例ですと、長男が甲土地乙土地のいずれも取得する代わりに、次男に対して甲土地乙土地の評価額の半額を支払う場合がこれにあたります。
遺産の分割方法③換価分割
換価分割とは、遺産を金銭に換えて分割をする方法のことをいいます。上記の例ですと、甲土地乙土地を売却してその代金を長男と次男で分ける場合がこれにあたります。
法定相続人と法定相続分
法定相続人とは、民法上、相続人と定められている人のことをいいます。
そして、相続人となり得るのは、①被相続人の配偶者、②被相続人と法律上、血のつながりのある者(血族)です。
被相続人がこれ以外の者を相続人に指定することは、できません。以下詳しく説明します。
法定相続人の順位
まず、被相続人の配偶者は、常に相続人となります(890条)。
そのため、血族相続人(上記②)がいる場合はその者と一緒に、いなければ単独で相続人となります。
そして、血族相続人には順位があり、先順位の血族相続人がいない場合にはじめて、後順位の血族相続人が相続権をもつことになります。その順位は以下のとおりになります。
- 第1順位: 子及びその代襲者
- 第2順位: 直系尊属(父母など自分よりも前の世代で、直系の親族のこと)
- 第3順位: 被相続人の兄弟姉妹およびその代襲者である甥、姪
法定相続分の割合
法定相続分とは、遺産を相続するにあたり、各相続人の取り分として法律上定められた割合をいいます。
法定相続分では、配偶者は常に相続人になりますが、配偶者と第何順位の血族相続人が相続人になるかによって、以下のように相続分が異なります。
なお、同順位の血族相続人が複数いる場合は、各共同相続人の相続分は原則として均等と定められています(900条4号)。
- 配偶者と第1順位の場合: 配偶者と第1順位の子供がいる場合は、法定相続分はそれぞれが2分の1ずつになります(900条1号)。子供が複数いる場合は、子供全員について相続分である2分の1を均等に分けます。そのため、子供が2人いる場合は、子供1人の相続分は、2分の1×2分の1で4分の1となります。
- 配偶者と第2順位の血族相続人の場合: 配偶者と第2順位の相続人(直系尊属)がいる場合は、相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1となります(900条2号)。直系尊属が複数いる場合は、直系尊属についての相続分である3分の1を均等に分けます。そのため、配偶者と直系尊属2人の場合、直系尊属1人の相続分は、3分の1×2分の1で6分の1となります。
- 配偶者と第3順位の血族相続人の場合: 配偶者と第3順位の血族相続人(兄弟姉妹)の場合は、相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります(900条3号)。兄弟姉妹が数人いる場合は、兄弟姉妹の相続分である4分の1を均等に分けます。そのため、例えば配偶者と兄弟姉妹2名の場合、兄弟姉妹1人の相続分は、4分の1×2分の1で8分の1となります。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1なります(900条4号但書)。
- 血族相続人がいない場合: この場合は、配偶者の単独相続となります。
- 配偶者がいない場合: この場合は、血族相続人のうち、順位が高い法定相続人のみが相続人となります。同順位の血族相続人が複数いるときは、均等に分けることになります。
代襲相続人とはなにか
代襲相続とは、推定相続人が相続開始以前に死亡したこと等により、推定相続人たる地位を失った場合において、その子が親の受けるべきであった相続分を代わりに相続する制度のことをいいます。
この制度は、子がたまたま親より先に死亡した場合に、孫がその財産を承継できなくなるという不都合を避けるために規定されています。
遺産分割協議をする場合はどうしたらいい?
では、遺産分割協議の流れについて、説明をします。遺産分割協議をするためには、以下のように相続人や相続財産を確定する必要があります。
相続人の確定、その必要性
相続人を確定するためには、必ず相続人の調査が必要となります。相続人を把握していると考えている場合も、思わぬ相続人が判明することもあります。
そして後述のように、相続人が遺産分割後に判明した場合は遺産分割協議そのものをやり直さなければいけない可能性もあるため、しっかりとした調査が必要になります。
相続人の調査方法
相続人の調査方法としては、戸籍謄本を取り寄せる事になります。そして相続人を全て把握するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。
戸籍は、婚姻等があれば新しい戸籍に移転をするのですが、新戸籍には、除籍された人や一定の身分事項(離婚等)が記載されないようになっています。
そのため、被相続人の出生までさかのぼり、数通の戸籍全ての謄本を確認しないと、法定相続人の確定ができません。
相続財産を決定する
次に、相続財産を確定する必要があります。相続財産には、預金や不動産、保険、債権、負債など様々なものがあります。その全ての調査をしなければ、遺産分割協議はできません。
- 預金について: まずは、被相続人の預金通帳を確認します。金融機関からの手紙などがある場合は、その金融口座についても確認をします。被相続人が使っていたにもかかわらず通帳などが無い場合は、その銀行に問い合わせをし、取引履歴などの開示を受けなければなりません。
- 不動産について: 不動産の調査については、固定資産税通知書などを見て、法務局より不動産登記事項証明書を取得することが考えられます。また、市町村役場から名寄帳の取得をすることも考えられます。名寄帳には、その役所の管轄内の課税不動産の全てが記載されるため、被相続人の不動産を把握することができます。名寄帳は、原則として納税義務者の閲覧のみと規定されていますが(地方税法387条3項)、相続人からの請求であれば開示してもらえることが通常です。不動産の評価額が分からない場合は、市町村役場から固定資産評価証明書を取得しましょう。
- 動産: 被相続人の預金や不動産の調査が終わったら、動産の調査を行います。動産とは不動産以外の物を指しますが、特に問題となるのは、宝石などの高価品や自動車などです。これらは被相続人宅を実際に確認するしかないのですが、自動車については、運輸支局への調査が考えられます。
- 債務: 被相続人の相続財産を調査する上で大切なのは、マイナス財産の把握です。まずは通帳の記載に、消費者金融や銀行からの借り入れがないか確認をしましょう。また、郵便配達も確認をし、催促状などが無いか確認をしなければなりません。加えて、KSC、CIC、JICCといった信用情報機構に問い合わせを行い、債務の調査を行うことが考えられます。
遺産分割について話し合い
相続財産と相続人が確定したら、相続人間で話し合いを行います。話し合いの方法について法律の定めはありません。そのため、実際に会わずに手紙だけでやりとりをすることも可能です。
話し合いの際には、きちんと協議書を作成しないと、後で揉める危険性があります。そのため、話し合った内容は、書面を作成し、それぞれの相続人に署名及び押印をしてもらうようにしましょう。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議がまとまりましたら、遺産分割協議書を作成する必要があります。以下、遺産分割協議書の形式や内容について説明します。
遺産分割協議書の内容は?
形式について
遺産分割協議は、共同相続人全員の合意があれば成立します。共同相続人間での財産額は、前述した法定相続分に対応をさせる必要はなく、共同相続人間で自由に分割をすることができます。
当事者が複数人いるにもかかわらず、一部を除外してなされた分割協議は、無効になると考えられています(最高裁判例昭和54年3月23日)。
そのため、せっかく遺産分割協議書を作成しても、あとから相続人の存在が発覚した場合などは分割協議をやり直さなければなりません。
ただし、相続開始後に死後認知や遺言認知によって新たに共同相続人になった者が遺産の分割を請求した場合、既に遺産分割がされている時は価格による支払請求権を有するのみで(民法910条)、新たに遺産分割を請求することはできません。
また、遺産分割協議書の作成に関して、以下の点に気をつける必要があります。
- 住所については、印鑑証明書に記載されているとおりに記載をする
- 遺産に不動産がある場合は、登記事項証明書に記載がされているとおりに記載をする
- 相続人が全員署名、押印をし、印鑑証明書を添付する。押印をする際は、印鑑証明を受けた実印で行う
- 遺産分割協議書は、各相続人分作成し、それぞれが一通ずつ保持する
- 遺産分割協議書が複数頁にわたるときは、相続人全員の割印を押す
協議書で定めておいたほうがよいこと
協議書の中には、最低でも以下のことを定めて下さい。
- 相続財産を明らかにし、どの相続人がどの割合で取得するかをはっきりとさせること
- 代襲分割や換価分割を定める際には、誰がいつまでに支払をするのかの記載
- 相続人以外の者に遺贈がある場合は、誰がどの程度負担をし、どのように処理をするかを決めること
遺言があった場合の相続はどうするか
被相続人に遺言がある場合は、遺言が法定相続分よりも優先されます。そのため被相続人は、法定相続分の規定にかかわらず、相続人の一人に全ての財産を渡すなどと定めることもできます(ただし、後に述べるように遺留分減殺請求との関係に注意)。
遺言制度は、遺言者の最終意思を尊重するために規定された制度であり、自己の財産を死んだ後も自由に処分することを認めているともいえます。
加えて遺言では、財産処分の他、遺言執行人の指定、遺産分割の方法を指定することもできます。
遺留分減殺請求とはなにか
遺留分減殺請求について
前述の通り、遺言では法定相続分にかかわらず自由に遺産を処分することができます。
遺留分とは、法定相続人の保護の観点から決められた「法定相続人には最低限の遺産取得分」のことをいいます。
また、遺留分減殺請求とは、遺留分が侵害された場合に、侵害された額を取り戻す請求のことをいいます。
遺留分権利者
遺留分権利者としては、①配偶者、②子、③直系尊属が挙げられています。
法定相続人では、被相続人の兄弟姉妹が挙げられていたところ、遺留分権利者には挙げられていません。
遺留分の割合について
遺留分の割合については、直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合は、被相続人の財産の2分の1を遺留分とすると規定されています(1042条1項)。
そのため、例えば妻と子供2人の場合だと、以下のようになります。
妻の個別的遺留分率=2分の1(法定相続分)×2分の1(遺留分率)=4分の1
子各人の個別的遺留分率=4分の1(法定相続分)×2分の1(遺留分率)=8分の1
相続放棄もできる
相続放棄とは?
相続放棄とは、法定相続人が、被相続人の債務を一切放棄する際に用いられる手続きのことをいいます。
被相続人には当然ながら、プラスの財産が多い方だけでは無くマイナスの財産(負債)が多い方もいます。
その際、相続人が被相続人のマイナス財産を相続しないために定められた規定となります。
被相続人の遺産を調査した際、マイナス財産が多いと分かった場合には、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄の要件
相続放棄は、法定相続人の中だけで決めればよいというものではなく、相続放棄をする旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(938条)。
また、その申述期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にする必要があります(915条1項)。
相続放棄の効果
相続放棄をすると、その相続に関してはじめから相続人でなかったものとみなされます(939条)。
相続人でなかったものとみなされますので、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も相続することはできません。
また相続放棄をした場合、法定相続人の順位は、次の順位の人に移ることになります。
財産に不動産があるときは注意
遺産分割の難しさ
今まで述べた通り、遺産分割には法定相続分の定めがあり、遺言によって被相続人が自由に財産を処分することができます。
そのため、これらの法律の定めに従えば、争いが起こらないと思われがちです。
しかし実際には、遺産分割の際にトラブルが生じることが多々あります。
その中でも、特に遺産に不動産がある場合は、分割が難しくトラブルになりやすいといえます。
不動産分割の注意点
遺産に不動産がある場合、その価値が多額に及ぶことが多くなります。
そして不動産は、相続人のうちの一人が、その不動産に居住することが考えられます。
その際、相続人が代償分割で支払う代償金を保有していない場合があります。また、不動産は、所有する限り固定資産税、修繕費等がかかります。
この固定資産税は、通常は遺産の中から支払をすることになりますが、遺産が少ない場合は、相続人の代表者が立替払いをしておかねばなりません。
これらが背景にあり、不動産の分割はトラブルに発展することが多くなります。
法定相続人と法定相続分の実際の例
最後に、パターン別の法定相続人と法定相続分を紹介します。
配偶者と子供2人の場合
配偶者=2分の1
各子供=4分の1
配偶者と子供1人、孫1人の場合
この場合、子供が生きている場合は孫は相続人ではありません。そのため、以下のようになります。
配偶者=2分の1
子供 =2分の1
次に、被相続人が死亡した後、子供が既に死んでおり、その子供の子供(孫)がいる場合は、代襲相続が生じるため、孫も相続人となります。
配偶者=2分の1
孫 =2分の1
子供3人の場合
子供等の相続分は均等になりますので、
子供2人(1人は認知した子供)の場合
まず、前提として、婚姻関係のある母親(妻)から生まれた子を嫡出である子(嫡出子・婚内子)といいます。
逆に、婚姻していない母から生まれた子を嫡出でない子(非嫡出子、婚外子)といいます。
嫡出でない子と父親は、父子関係を決定することができませんので、認知という方法で父子関係を決定することになります。
そして、被相続人に認知した子供がいる場合、認知した子供も法定相続人となります。そして、子供らの相続割合は嫡出の有無にかかわらず、1対1となります。
従前は、嫡出の有無で法定相続分が異なる扱いがされていましたが、法改正により、現在では均等割合となっています。そこで、以下のようになります。
嫡出子=2分の1
非嫡出子=2分の1
配偶者と姉弟2人がいる場合
配偶者=4分の3
各姉弟=8分の1
配偶者と姉1人、姪が1人いる場合
この場合、姪に代襲相続が生じるかどうかにより異なります。
配偶者=4分の3
姪 =4分の1
となります。
姉が生きている場合には姪に代襲相続が生じず、以下のようになります。
配偶者=4分の3
姉 =4分の1
まとめ
いかがでしたでしょうか。財産分与と遺産分割の言葉の意味は大きく異なり、また遺産分割や遺留分減殺請求についてもかなり複雑となっています。
これらの分野で悩んでいる人は弁護士をはじめとした相続の専門家に一度相談することをおすすめします。
執筆者プロフィール
末安陸斗
弁護士。小倉南法律事務所所属。九州大学大学院を卒業後、北九州市で弁護士として活動。いわゆる街弁として、相続、離婚などの家事事件、労働事件、刑事事件を多く担当。法律記事の作成・監修も行っている。