被相続人の相続財産を相続人が承継するためには、その遺産を分割し、各相続人に分配を行う必要があります。ここでは、その遺産の分割、分配に関して説明します。
遺産分割と遺産分割協議について
遺産分割とは、被相続人の相続財産を各相続人に分配し、その相続人の固有財産とすることをいいます。
遺産分割をしないと相続財産は相続人たちの共有状況のままであり、その状態で処分等することは困難です。
相続財産は遺産分割をすることで、相続人が自己の財産として処分等することができるようになるわけです。
相続人は話し合いにより、相続人中の誰が、どの相続財産を、どれだけ相続するかを確定することができます。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割全体の流れ
被相続人の相続が開始したら、まず「相続人」と「相続財産」を確定し、それから遺産分割を行います。遺産分割の際には、各相続人の法定相続分を確認しておくことも必要です。
なお、被相続人が遺言書を作成していて、その遺言書で全ての遺産分割が完了する場合には遺産分割協議は必要ありませんが、そうではないときは、相続人による遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、被相続人の全ての相続人により、遺産分割についての話し合いを行うことをいいます。
遺産分割協議をするには、全ての相続人がその話し合いに参加しなければなりません。一部の相続人を除いた話し合いをしても、遺産分割協議としては「無効」です。
その点、くれぐれもご注意ください。なお、遺産分割協議は、原則として期限はありません。いつでも協議することができます。
また、相続財産の一部について遺産分割協議を行うこともできます。
ただし、相続税や被相続人の準確定申告を行う場合には、申告・納付期限前に遺産分割協議を済ませておくべき場合があります。
相続税の申告・納付期限は、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内です。
準確定申告の申告・納付期限は、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から4カ月以内となっています。
相続財産が多い場合には相続税が発生する可能性があり、被相続人が所得を得ていた場合には準確定申告が必要となる場合があります。
ですから、それらの期限を考慮して、遺産分割協議を行う必要があるのです。
遺産分割について
遺産分割協議をしないとどうなる?
遺産分割協議が必要なケースでありながら遺産分割協議をしないと、相続財産は相続人たちの共有状態のままとなります。
この場合、被相続人名義から各相続人名義への変更手続きなどを行うことができません。
例えば、預貯金などが被相続人の死亡により金融機関において凍結された場合は、原則として相続手続きを行わないと凍結を解除できません。
凍結された預貯金は入金も出金もできなくなるのです(ただし、例外として民法909条の2の規定あり)。
また、遺産分割前に一部の相続人が相続財産を処分した場合、その処分を行った相続人が他の相続人から損害賠償請求をされる、といったことがあり得ます。
遺産分割で各相続人へ分配がされない限り、共有状態にある相続財産を勝手に処分することはできないからです。
さらには、一部の相続人が遺産分割協議前に、相続財産中の不動産を善意の第三者に売却し、その第三者が登記を備えてしまったときは、その第三者に対して不動産の返還を求めることはできません(この場合、売却をした相続人に対して、損害賠償請求をすることしかできません)。
これらの問題が発生し得るため、遺産分割協議が必要な場合には、放置することなく的確に遺産分割協議を行うべきであるといえます。
遺産分割の3つの種類
遺産分割には3つの種類があります。
- 遺言書がある場合の遺言書による遺産の分割: 被相続人の遺言書があり、その遺言書に相続財産の全てに関する遺産分割の方法が定められている場合には、それに従って遺産分割を行います。よって、この場合には、相続人による遺産分割協議は必要ありません。
- 遺産分割協議による遺産の分割: 遺言書がない場合には、相続人全員の話し合いにより遺産の分割を協議して決定します。
- 裁判所等で行う遺産分割調停・審判による遺産の分割: 相続人同士での話し合いが成立しない場合や、一部の相続人が話し合いを拒否している場合などには、家庭裁判所に遺産分割調停もしくは審判の申し立てをすることができます。家庭裁判所が間に入ることで、円滑な話し合いがなされる可能性があります。なお、遺産分割の調停は、裁判所以外にも、弁護士会や司法書士会が行う調停機関(ADR)で行うこともできます。
土地などの不動産が含まれていた場合の遺産分割方法4つ
土地などの不動産が相続財産に含まれていた場合には、①現物分割②代償分割③換価分割④共有分割の4つの分割方法が考えられます。
- 現物分割: 現物分割とは、相続財産中の現物をそのまま分割する方法です。例えば相続財産中に等価値のA土地とB土地とがあり、相続人が二人である場合は、一人がA土地を、もう一人がB土地を相続する、という分割方法です。もしも相続財産がA土地一つだけの場合には、A土地をa土地とb土地の二つに分筆(土地を法的に分割すること)し、一人がa土地を、もう一人がb土地を相続することになります。
- 代償分割: 代償分割とは、相続人の一人に法定相続分をこえる額の財産を取得させ、他の相続人に対して債務を負担させるという分割方法です。例えば、相続人が甲と乙の二人で、相続財産が4000万円相当のA土地だけであった場合、相続人甲がA土地を相続し、甲が乙に対して2000万円を支払う、という方法です。
- 換価分割: 換価分割とは、相続財産を売却してお金に換えた後、そのお金を分配する方法です。例えば、相続人が甲と乙の二人で、相続財産がA土地だけであった場合、A土地を売却し、売却経費を差し引いて残った現金を、甲と乙とが半分ずつ取得するという方法です。
- 共有分割: 共有分割とは、遺産を相続人同士が共有して取得する、という分割方法です。例えば、相続人が甲と乙の二人で、相続財産がA土地だけであった場合、甲と乙とがA土地を持分1/2ずつ取得する、という方法です。この共有分割を行う場合には注意が必要です。不動産などを相続人同士で「共有」すると、それを売却したり担保に入れたりする場合には、他の共有者全員の同意が必要になるからです。自分の持分だけを処分することは、理論上は可能な場合があっても、現実的には難しいといえます。共有分割をすると、将来問題が発生し得る、ということは認識しておくと良いでしょう。
遺産分割協議を円滑に進めるためにまずすべきこと
遺産分割協議を円滑に進めるためには、次のことを順次行っていくとよいでしょう。
- 相続人の確定:遺産分割を行う前提として、まず被相続人の戸籍を調査して相続人の確定を行います。
- 相続財産の確定: 相続人が確定したら、相続財産を調査して、相続財産を確定します。
- 財産目録の作成: 相続財産が確定し次第、相続財産目録を作成し内容を確認します。
- 相続人全員の同意のもと遺産分割協議書を作成する: 正確な相続財産目録が作成できたら、相続人全員で誰が何を取得するかを協議し、相続人全員の同意のもとで、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議ステップ解説
遺産分割協議書を作成するメリット
相続人同士の話し合いで遺産分割協議をした場合、それを書面として残しておかないと、後日の争いの種になりかねません。
また、法定相続分と異なる分割をした場合には、金融機関等の相続手続や不動産の登記手続等を行う際に、遺産分割協議書が必要になります。
なお、遺言書で全ての相続財産に関する分割方法が定められている場合には遺産分割協議は不要ですが、遺言書に相続財産の一部についてのみ分割方法が定められているような場合は、定められていない相続財産について遺産分割協議が必要になります。
遺言書の記載について不明点があれば、弁護士・司法書士等の専門家に確認してください。
遺産分割協議の際に考慮すべき点
遺産分割をする際、相続人の中に被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした者がいる場合には、その特別の貢献をした相続人に対し、特別な貢献をした分だけ相続財産を多く相続させる制度を「寄与分」といいます(民法904条の2)。
逆に、相続人の中に被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした者がいる場合には、その受けた遺贈などを特別な受益とみなし、特別な受益を受けた相続人の相続分を、受けた特別な受益分だけ減らす制度を「特別受益」といいます(民法903条)。
相続人間で遺産分割協議をする際には、これら寄与分、特別受益を考慮する必要があるでしょう。
もっとも、寄与分者、また特別受益者を含む全ての相続人が理解し納得をした上であれば、寄与分や特別受益を考慮せずに遺産分割協議をすることも可能です。
遺産分割協議書の書き方のポイント
遺産分割協議書は、手書きで作成することも可能ですが、できればパソコンを用いるといいでしょう。加筆・修正等が容易だからです。
ただし、パソコンで遺産分割協議書を作成した場合には、遺産分割協議書に調印する相続人の住所・氏名だけは、本人が手書きで記入するようにした方が良いでしょう。
住所・氏名を本人が記入するのは、「誰かが勝手に遺産分割協議書を作成したわけではない」ということを証明するためです。
遺産分割協議書には、相続人による押印が必要です。この遺産分割協議書を不動産登記手続きに用いる場合には、この押印は必ず市区町村長で登録した「実印」で押印する必要があります。
不動産登記手続きに用いない場合にも、とても重要な書面ですので、なるべく実印で押印すべきでしょう。
遺産分割協議書には、全ての相続人が協議に参加したことを記載しなければなりません。一部の相続人が参加していない遺産分割協議は無効となるからです。
そして、遺産分割協議書には、被相続人の氏名、死亡年月日、本籍、住所を記載し、その被相続人の相続財産に関する遺産分割協議であることを記載します。
そのうえで、誰がどの遺産を取得するのかを明確に記載します。遺産については、不動産の登記事項証明書や通帳、有価証券の証書などを参照して、正確に記載します。
正確な記載がなされていないと、登記手続き等に用いることができない遺産分割協議書になってしまう可能性がありますので、ご注意ください。
遺産分割協議書を書く時の細かな注意事項
遺産分割協議書は、被相続人の記載や相続財産の内容等を正確に記載することが重要ですが、それ以外にも注意すべき点があります。
それは、押印についてです。全ての相続人が遺産分割協議書に押印をしなければなりませんが、遺産分割協議書が数枚になる場合には、それらをホチキス止めしたうえで、契印をしなければなりません。
また、登記手続き等でその遺産分割協議書を用いる場合には、捨印も押しておくと良いでしょう。軽微な誤字脱字などがあった場合、捨印があれば適宜修正ができるからです。
なお、押印は、不動産登記手続きを要する場合には必ず実印によらなければならないことを前述しましたが、この場合、各相続人は印鑑証明書も用意しなければなりません。
押印した印鑑が実印であるかどうかを確認するために、印鑑証明書を添付するのです。
しかし、海外に在住しているなど、日本に住民票がない相続人がいる場合には、印鑑証明書を取得することができません。
この場合には、その相続人が在住する国の日本大使館や日本領事館などでサイン証明(署名証明))手続きをとることになります。
相続人の中に海外在住者がいる場合には、サイン証明の手続きに関し、早めに確認しておくとよいでしょう。
遺産分割協議書を公正証書にするメリット、デメリット、費用
公証役場において、遺産分割協議書を公正証書にすることもできます。公正証書にすることで証明力があがりますので、相続人間に争いがある場合には、公正証書にすることを考えてもいいでしょう。
ただし、公正証書にするためには費用が掛かります。相続人間に特に争いが無ければ公正証書にする必要はありませんが、争いがある場合には、公証役場で費用等を確認の上、考えてみてはいかがでしょうか。
遺産分割協議がまとまらないなら調停
相続人同士での遺産分割協議ができない場合、家庭裁判所に申し立てることで、遺産分割協議の調停を行うことができます。
裁判官と調停委員とが間に入り、話し合いをサポートしてくれます。調停でまとまらない場合には、家庭裁判所による審判の手続きに入ります。
審判とは、裁判のように裁判官が遺産分割協議の結論を出すものです。この審判に対して相続人が不服を申し立てると(即時抗告)裁判所での審理に移行します。
相続トラブルについて
相続トラブルの傾向
家庭裁判所の司法統計をみると、全国の家庭裁判所における遺産分割事件は、平成12年は8,889件、平成17年は9,581件、平成22年は10,849件、平成27年は12,615件、そして平成30年は13,040件となっています。
つまり、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割調停事件は年々増加傾向にある、とみることができそうです。これは、相続トラブルが増加傾向にあるため、といえるでしょう。
遺産分割のもめやすいパターン
被相続人に前妻の子供や認知した子供がいる場合や、内縁の妻がいる場合など、他の相続人との関係が希薄な相続人がいる場合に、遺産分割がもめてしまうことがあります。
また、生前の被相続人と同居して介護をした相続人と、別居のため介護をほとんどしなかった相続人がいる場合なども、もめるケースに発展しやすいでしょう。
その他、相続人間で不平等な遺言書が遺された場合や、第三者に対して遺贈する旨の記載がある遺言書がある場合、遺言書の真偽が不明な場合なども、遺産分割がもめる原因となり得ます。
専門家に依頼する場合
相続人同士に争いがあり遺産分割協議ができない場合や、争いがなくても相続人同士が疎遠なため遺産分割協議を始めることができないといった場合には、専門家である弁護士に依頼してみると良いでしょう。
遺産分割手続きで弁護士にしてもらえること
弁護士に相談すると、まず相続人の確定や相続財産の確定、寄与分や特別受益などの相談に乗ってもらえるでしょう。
さらに、依頼すれば弁護士が代理人として、遺産分割協議の手続きや調停手続等を進めてくれるでしょう。
遺産分割協議が成立すれば、適正な遺産分割協議書の作成も行ってくれるはずです。
遺産分割を弁護士に依頼するメリット
遺産分割を弁護士に依頼するメリットとしては、依頼人の権利を正確に把握した上で、代理人としてその要求を相手方に伝えてくれますので、法律上のミスを回避でき、精神的にも楽になるでしょう。
また、もしも相手方相続人が強硬な姿勢を示してきても、家庭裁判所における調停や審判等を代理人として進めてくれるので安心できます。
被相続人の相続財産を承継するには遺産分割をしなければなりませんが、そのためには相続人の調査、相続財産の調査、遺言書の有無の確認など、適正な手続きを踏まなければなりません。
遺言書がなく相続人同士で遺産分割協議を行う場合には、その後の登記手続きなどに使用できる適正な遺産分割協議書を作成する必要があります。
また、相続税の申告などを要する場合には、適正な期間内に遺産分割協議を済ませる必要があります。
さらに、相続人同士での協議ができない場合には、家庭裁判所への調停申し立てなどを行う必要が出てくる可能性もあります。
このように、遺産分割は法律、登記、税務など様々な専門知識を要する手続きです。
時には専門家を有効に活用しながら、適正な遺産分割を行い、被相続人の財産をスムーズに承継していただければと思います。