成年後見人による支援が必要になった場合、後見を開始する時の申立て費用として1万3千円程度、後見人への報酬として月額2万円~6万円程度かかります。
手続きを弁護士や司法書士に依頼したい場合は、さらに追加で最低でも10万円程度の専門家報酬が発生します。
成年後見制度の利用で注意したいのは、費用面ばかりではありません。後見人になるための資格や、被後見人になることで本人が受ける制限も、事前によく確認しておくべきです。
こうした制度のポイントも含めて「成年後見制度の費用感」をメインに解説します。
目次
1. 成年後見人は資格のない人でもなれる
成年後見人とは、認知症などで判断能力が低下した人のために、本人の生活のための手続きや財産管理を行う職です。
後見人にふさわしいとされるのは「本人の意志を尊重し、かつ心身の状態や生活状況に配慮しながら支援できる」ことであり(身上監護義務/民法第858条)、法律などの専門性の高い知識は必須ではありません。
つまり、本人と十分な信頼関係を築けているのであれば、特別な資格(弁護士や司法書士など)がない人でも、成年後見人として支援を開始できるのです。
1-1 成年後見人の欠格事由(不適格事由)
成年後見制度を定める法律では、後見人になれない条件として「欠格事由」(または不適格事由)を定めています。
下記いずれかの条件に当てはまる人は、たとえ本人(被後見人)が希望していても成年後見人になれません。
- 未成年者
- 法定代理人あるいは保佐人・補助人としての資格を剥奪されたことのある人
- 破産者(※破産手続き中でまだ債務の免除が確定していない人)
- 本人(被後見人)に対して訴訟を起こした人
- 4の配偶者や直系血族
- 行方が分からない人
参考: 民法第847条・任意後見契約法第4条1項
この場合、別の親族や専門職に後見人候補者になってくれるよう依頼する必要があります。
2. 後見人報酬の相場は利用する制度で異なる
後見人を選ぶ制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。どちらの場合でも、後見中はその仕事の対価として「後見人報酬」を原則支払います。2つの制度の基本的な違いは下記の通りです。
- 法定後見制度: 判断能力が低下が進んだ段階で、周囲の人が家庭裁判所に申立て、審判で後見人を選んで後見を開始する制度です。法定後見人は「全ての法律行為」を代理する立場になり、必要に応じて様々な支援を行います。
- 任意後見制度: 本人が健康なうちに後見人候補者と支援内容について合意し、判断能力の低下を進んだ時に支援を開始する制度です。任意後見人の権限は「本人と合意が成立した範囲」に限られ、あらかじめ決めた内容に沿って支援を行います。
後見人報酬の相場を比較すると、法定後見制度より任意後見制度のほうが低額です。
任意後見制度の報酬が安くなるのは、家裁の基準を使わず当事者の話し合いで金額を決められる上、支援の範囲が限られていることが理由です。
2-1 成年後見人の報酬の目安
後見人報酬は一律ではありません。個別に「支援の内容や量」を主な判断材料として金額を決めますが、後見を必要とするケースのほとんどは下記の範囲に収まります。
成年後見人の報酬目安は以下の通りです。
- 法定後見制度(法定後見人): 月額2万円から6万円の範囲
- 任意後見制度(任意後見人): 親族後見人は月額3万円以内、専門家後見人は月額3万円から5万円の範囲
また、後見人報酬は必ずしも発生するものとは限りません。同居家族や配偶者などが後見人を引き受ける場合、本人への好意や「もともと被後見人と生計を一緒にしている」等の理由で、報酬をゼロとすることも可能です。
2-2 任意後見制度は「後見監督人報酬」が原則としてかかる
成年後見制度では、後見人から定期報告を受けて仕事ぶりをチェックする職である「後見監督人」も設けられています。
後見監督人に対する報酬は1万円~3万円を目安で、後見人に支払うものとは別に負担しなければなりません。
法定後見制度では後見監督人をしないケースもありますが、任意後見制度では基本的に必ず監督人選任が行われます。
上記の点を踏まえて、後見中に支払うトータル報酬を比較すると、法定後見制度と任意後見制度のあいだにはあまり差がありません。
3. 後見人報酬や活動費用は被後見人負担
後見人報酬は被後見人、つまりサポートを受ける本人が支払わなくてはなりません(民法第862条)。家庭裁判所に報酬だけでなく「活動費用」も被後見人負担です。
活動費用とは「交通費」「電話料金」「預金を下ろすための必要書類を収集するときにかかった手数料」など、後見中にかかる実費を指します。
3-1 報酬や費用精算時は「収支報告」が必要
後見人報酬・活動費用ともに、本人(被後見人)が自分で財産管理できない以上、後見人自身で本人の財産を使って精算することになります。
精算の際は、家庭裁判所(もしくは後見監督人)へ収支報告しなければなりません。
また、法定後見人が報酬を得ようとする場合は、事前に管轄の家裁で「報酬付与の申立て」を行い、審判官の許可を得る必要があります。
3-2 被後見人の財産がゼロになった時は?
後見の事例の中には「本人の財産が不足し、後見人報酬や活動費用の精算ができなくなってしまった」というものが少なからずあります。この場合、後見人はどうやって精算すればよいのでしょうか。
結論として、被後見人の「扶養義務者」(民法877条各項)が代わって後見人に各種支払いを実施しなければなりません。
財産が無くなってしまった本人の代わりに、直系血族、兄弟姉妹、その他の三親等以内の親族が後見人から請求を受けることになるのです。
4. 成年後見を申し立てるときに掛かる費用は?
後見を始めようとする時は、法定後見制度では「後見開始の審判」を、任意後見制度では「任意後見監督人選任の審判」をそれぞれ申し立てます。
この際、審判の手数料や連絡用の郵便切手などを負担しなければなりません。
まずは申立て費用のモデル例を紹介し、各費用項目について詳しく解説します。
【一例】親族が成年後見人になる場合の申立て費用(※東京家庭裁判所の場合)
費用項目 | 法定後見制度(後見開始の審判) | 任意後見制度(任意後見監督人選任の審判) |
申立て手数料(印紙代) | 800円 | 800円 |
送達や送付用の切手代 | 3,270円 | 3,270円 |
登記手数料 | 2,600円 | 2,200円 |
医師の診断書 | 5,000円 | 5,000円 |
戸籍簿の写し(本人+後見人候補者の計2通) | 600円 | 600円 |
住民票or戸籍の附票(本人+後見人候補者の計2通) | 600円 | 600円 |
鑑定代 | なし | なし |
後見人候補者の商業登記簿 | なし | なし |
持ち家の登記事項証明書 | 600円 | 600円 |
持ち家の固定資産税証明書 | 300円 | 300円 |
合計 | 13,770円 | 13,370円 |
4-1 申立て手数料(印紙代)
後見を始める時の審判では、申立て手数料として1件につき800円かかります。なお、法定後見制度では、本人の判断能力の低下状況が中~軽度であれば「保佐人」あるいは「補助人」の選任を申し立てることができます。
これらの職には、法定後見人の3つの権利(代理権・同意権・取消権)が揃っていません。
先に保佐人や補助人として選任されており、新しく代理権などを付与したい時も、付与審判の申立て1件ごとに800円を負担します。
4-2 送達や送付用の切手代
印紙代の他には、審判中や審判終了後に家裁から連絡をもらうための切手代も必要です。費用は管轄裁判所ごとに異なりますが、3千円~4千円が目安です。
4-3 登記手数料
後見が始まると法務局に登記されるため、登記手数料としてあらかじめ下記費用を裁判所に納めます。
登記手数料は管轄裁判所ごとに異なりますが、2千円前後が目安です。
4-4 鑑定費用
後見を始める際の審判では、家庭裁判所の判断で「鑑定」が行われる場合があります。鑑定とは、医師が本人の心身の状態を診断し、その内容を後見が必要かどうかの判断材料にするための手続きです。
鑑定にかかる費用はケースによって異なりますが、目安として5万円~10万円程度がかかります。
平成27年に鑑定を実施したものは全体の約9.6%(成年後見制度の現状に関する資料より)で、実施割合はそれほど高くありません。
4-5 本人の戸籍謄本の交付手数料
後見を始めるときの申立書には、本人の情報を証明するため「現在の本籍地役場で取得できる戸籍簿の写し」を添付します。
戸籍簿の写しは「戸籍謄本」「戸籍抄本」「戸籍全部(個人)事項証明書」等の名称がありますが、いずれも1通450円で取得できます。
なお、2018年に裁判所手続きが改定されるまでは、戸籍上の世帯全員分を証明する「戸籍謄本」(戸籍全部事項証明書)の提出が義務付けられていました。
改定以降は、被後見人になる人の情報のみ証明する「戸籍抄本」(戸籍個人事項証明書)でも受理してもらえます。
4-6 本人の住所証明の交付手数料
被後見人になる人の住所を証明するため、戸籍簿の写し以外にも「現在の住民票の写し」もしくは「戸籍の附票の写し」が必要です。
住民票の写しは居住地の役場、戸籍の附票の写しは本籍地役場でそれぞれ取得でき、どちらも1通300円で交付してもらえます。
4-7 診断書の作成費用
申立書には、審判を受ける理由を証明するものとして「医師の診断書」が必要です。診断書の作成費用は病院により異なりますが、目安として5千円~7千円程度かかります。詳しくはかかりつけの医院に確認しましょう。
4-8 「後見登記がされていないことの証明書」の費用
後見開始の手続きが二重になってしまうことを防ぐため、申立て時には「後見登記がされていないことの証明書」も必要です。証明書交付は各地の法務局で行っており、1通につき300円の手数料がかかります。
4-9 「後見人候補者の住所証明」の費用
成年後見人候補者に関しても、住所証明として「現在の住民票の写し」もしくは「戸籍の附票の写し」が必要です。後見人本人と同じく、どちらも1通につき300円で交付手数料がかかります。
- 後見人候補者が法人の場合
後見人候補者が開業弁護士などの法人の場合、法人登記を証明できる「商業登記事項証明書」も必要です。証明書の交付手数料は1通につき480円~600円で、請求方法(オンライン申請か窓口申請か)により異なります。
4-10 「不動産の権利に関する証明書」の費用
後見を始める時の審判では、被相続人の資産状況を「財産目録」にまとめて提出しなければなりません。目録には、記載された資産の裏付け資料の添付が必須です。
被後見人名義の不動産があるケースでは、裏付け資料として「登記事項証明書」と「固定資産評価証明書」をセットで提出しなければなりません。交付手数料はそれぞれ下記の通りです。
- 登記事項証明書: 1通あたり480円~600円(法務局で交付)
- 固定資産評価証明書: 1通あたり300円(市区町村役場で交付)
5. 成年後見人のメリット・デメリット
認知症や高次脳機能障害などの影響である程度まで判断能力が低下すると、そうするつもりがないにも関わらず浪費してしまったり、悪質な勧誘に乗って財産を失ったりする恐れがあります。
後見されることで上記のリスクからは守られますが、一方で様々な制限を受けるのも事実です。
支援を開始するかどうか決める際は、費用面だけでなく、下記のメリットとデメリットも判断材料にしましょう。
5-1 成年後見人のメリット
成年後見人の最大のメリットは、本人の状況に関わらず「生活費を確保しながら身上の安全も守られる」点です。
具体例として、銀行口座からお金を下ろすケースが考えられます。
預かり資産の払い戻しは「口座名義人本人か代理権のある人」しか基本的に応じてもらえず、口座名義人の家族だと名乗るだけでは出金できません。
この時もしも後見人の資格があれば、その証明になるもの(後見の登記事項証明書など)を見せるだけで出金に応じてもらえます。
その他にも、心身に障害のある人には難しい手続きを健康な後見人の手で行ってもらえます。
- 老人ホームの入居手続き
- 携帯電話の契約・解約・プラン変更
- 持ち家のメンテナンス(※家庭裁判所の許可が必要)
- 1人で自宅にいる時に勧誘された訪問販売契約の取り消し
5-2 成年後見人のデメリット
一方で、後見が開始されると法律上「制限行為能力者」と呼ばれるようになり、一時的に体調が回復しても自由に契約を結べません。
また、会社役員や士業などの一定の職につけなくなります。
以下、成年後見制度を利用する上での制限の一例をまとめます。
- 成年後見人の同意なしでは会社の取締役になれない
- 弁護士や税理士などの一定の資格職につけない
- 相続税対策のための管理行為(不動産の売却など)ができない
- 成年後見人を解任したい場合は家裁の審判が必要になる
上記の他、すでに解説したように、後見人報酬や活動費用が本人負担になることもデメリットの1つです。
相続税対策や事業承継が必要な場合は、判断能力が低下する前に準備しなければなりません。
6. 成年後見人を専門家に依頼した場合の費用
成年後見制度を利用するために必要な手続きは、弁護士あるいは司法書士に任せられます。
本人が抱える「後見人候補者に心当たりがない」といった悩みや、周囲の人の「後見人にできることの範囲や支援の負担」に対する不安も、専門家から適切なアドバイスがもらえます。
依頼時にかかる専門家報酬の面では、弁護士と司法書士で若干異なります。下記では、弁護士から順に費用の目安を紹介します。
6-1 弁護士に依頼した場合の費用
弁護士に成年後見人を依頼した場合の費用目安は下記の通りです。法律問題全般を扱い、訴訟代理人や交渉役としても活動できる弁護士は「後見中のトラブル回避」から「相続対策」まであらゆる問題に対応できます。
【弁護士費用の目安①】法定後見制度の利用手続きを依頼する場合
- 相談料: 0円~5千円
- 後見開始審判の申立て代理報酬: 15万円~20万円+申立てにかかる実費
【弁護士費用の目安②】任意後見制度の利用手続きを依頼する場合
- 相談料: 0円~5千円
- 事前調査にかかる費用: 3万円程度
- 任意後見契約書の作成手数料: 15万円~20万円
6-2 司法書士に依頼した場合の費用
一方で、司法書士に成年後見人を依頼した場合の費用目安は下記の通りです。司法書士の職務は不動産登記をメインですが、後見や相続に関する専門的な知識を持っています。
本人や後見人の周囲にトラブルの可能性がないケースでは、弁護士にはできない「双方代理」(依頼人だけでなく他の当事者の代理人になること)を行い、当事者全員の相談に乗ることも可能です。
【司法書士費用の目安①】法定後見制度の利用手続きを依頼する場合
- 相談料: 0円~5千円
- 後見開始審判の申立て代理報酬: 10万円~15万円+申立てにかかる実費
【司法書士費用の目安②】任意後見制度の利用手続きを依頼する場合
- 相談料: 0円~5千円
- 事前調査にかかる費用: 3万円程度
- 任意後見契約書の作成手数料: 10万円~15万円
7. まとめ
成年後見制度を利用する時にかかる費用をまとめると、下記の通りです。
- 申立て時にかかる手数料: 1万3千円程度
- 後見人報酬: ~6万円(親族後見人であれば無償になる可能性が高い)
- 後見監督人報酬: 1万円~3万円
- 弁護士報酬: 15万円~23万円(利用する後見制度により異なる)
- 司法書士報酬: 10万円~18万円(利用する後見制度により異なる)
いったん後見が始まると職業や手続きに制限がかかるため、将来に向けた備えは早めが肝心です。認知症対策に詳しい専門家は、後見制度に関する簡単な質問だけでも快く応じてくれます。
「費用が心配」「親族に任せたいがきちんと後見事務をこなせるか不安」「相続対策も一緒にしておきたい」など、どんなことでも気軽に相談してみることをおすすめします。
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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