成年後見人とは、認知症などで判断能力が低下した場合に、財産管理や法律上の契約を本人に代わって行うために選任する人のことです。
判断能力低下時に利用できる「成年後見制度」では、成年後見人に報酬を支払う場合があります。
月額最大6万円程度ですが、後見人に選ばれた人の立場や、本人の資産状況、さらに後見人が実際に行う仕事の内容によって金額に違いが生じます。
判断能力が低下する前に「任意後見制度」で後見人を決めておきたい人や、これから認知症対策について検討したい人へ、後見人報酬の目安や金額の決め方について解説します。
目次
1. 成年後見人には2種類ある
成年後見人とは、「法定後見制度」や「任意後見制度」によって選ばれる人のことで、認知症などで判断能力が低下する時に選ばれ、財産管理や法律上の契約を本人に代わって行う人のことを言います。
「法定後見制度」と「任意後見制度」、どちらの制度を利用した場合でも、後見人への報酬が発生する可能性があります。
ここではまず、後見人報酬が必要になる事情が分かるよう、基本的な後見制度の仕組みから照会します。
1-1 成年後見人の仕事とは
成年後見人の仕事は様々です。重要な仕事の1つは、本人名義で銀行などに預け入れられている財産から、本人の生活費を確保することです。
また、勧誘された契約について「本人のためになるかどうか」を判断してから手続きすることも、本人の財産を守るための大切な仕事です。
以下、成年後見人の仕事(後見事務)の一例です。
- 本人の生活費として預金を下ろす
- 老人ホームの入居手続きを行う
- 本人と連絡がとれるよう携帯電話を契約する
- 本人がした訪問販売の契約を取り消す
上記を含む後見人の仕事全体を通して、後見人名義の財産を扱う時と同じ程度の注意を払うべき (民法第644条・第869条)とされています。
その責任は大きく、こなす必要のある仕事の量も一定ではありません。このような事情から、後見の状況によっては、仕事の負担に見合う報酬が必要になるのです。
1-2 成年後見人の種類
法定後見制度と任意後見制度、2つの成年後見制度の最も大きな違いは、後見人を選ぶタイミングと、本人が直接選べるかどうかの2点です。
知っておきたいポイントを押さえて制度の比較を行ったものが下記の表です。
比較項目 | 法定後見制度 | 任意後見制度 |
後見人が選ばれるタイミング | 判断能力が低下した時(後見開始の審判を申立てる) | 判断能力が低下する前(事前に任意後見契約を結ぶ) |
後見人を選ぶ人 | 家庭裁判所 | 本人 |
後見が始まるタイミング | 判断能力が低下した時 | 判断能力が低下した時 |
後見人の報酬 | 必要な場合は支払う(金額は家庭裁判所が決める) | 必要な場合は支払う(金額は契約時の話し合いで決める) |
法定後見制度では「後見人にやってほしいこと」を本人が決められる状態になく、周囲の人が本人の意志を汲めるかどうかもはっきりとしません。
そこで、報酬の有無や金額も含めて、後見の細かい条件は家庭裁判所が判断します。
一方の任意後見制度では、あらかじめ「どんな仕事を任せたいか」「任せたい仕事に対して報酬はどのくらいがいいのか」などといった細かい条件を、後見する人とされる人との間で自由に決められます。
以降では、制度ごとの成年後見人の報酬目安について具体的に紹介します。
2. 成年後見人の報酬
成年後見人の報酬は「後見人および被後見人の資力その他の事情」に応じて取り決め、かつ「被後見人の財産の中から」与えることができるとされています(民法第862条)。
報酬を決める時の判断材料になる事情とは、具体的に一例として以下のようなものを指します。
- 被後見人の資産状況(資産が多いほど報酬が増える)
- 後見人の資産状況(資産が少ないほど報酬が増える)
- 後見事務の内容(特殊な配慮が必要であれば報酬が増える)
2-1 家庭裁判所が提示する基本報酬
肝心の「後見人報酬の目安」を具体的に決める法律はありませんが、全国どのケースでも月額2万円から6万円の範囲に収まるのが一般的です。
2-2 法定後見人の報酬相場
2種類の後見制度を比較すると、報酬相場には若干の違いがあります。
まず法定後見制度では、紹介した「基本報酬」の範囲内で、被後見人の資産額に応じて報酬も上下します。
その他、後見人から報告を受けて仕事ぶりをチェックする「後見監督人」が選任されるケースでは、後見人報酬とは別に監督人に支払う報酬もかかります。
【表】法定後見制度の報酬相場
管理財産額(被後見人の資産額) | 月額報酬の目安※カッコ内は後見監督人が選任される場合の追加額 |
1千万円未満 | 2万円(+1万円~2万円) |
1千万円~5千万円 | 3万円~4万円(+1万円~2万円) |
5千万円超 | 5万円~6万円(+2万5千円~3万円) |
2-3 任意後見人の報酬相場
法定後見制度に比べ、任意後見制度の後見人報酬は安くなる傾向があります。
事前に取り決めを交わしておく分、本人が自分の考えを汲むことのできない状態で後見の条件を決める法定後見制度に比べ、後見事務が簡単になることが1つの理由です。
ただし、任意後見制度では「後見監督人」の選任が義務化されており、必ず追加で監督人報酬がかかる点に要注意です。
【表】任意後見制度の報酬相場
管理財産額(被後見人の資産額) | 親族後見人の月額報酬※カッコ内は任意後見監督人の報酬 | 専門家後見人の月額報酬※カッコ内は任意後見監督人の報酬 |
1千万円未満 | 0円~3万円(+1万円~2万円) | 3万円~5万円(+1万円~2万円) |
1千万円~5千万円 | 0円~3万円(+1万円~2万円) | 3万円~5万円(+1万円~2万円) |
5千万円超 | 0円~3万円(+2万5千円~3万円) | 3万円~5万円(+2万5千円~3万円) |
3. 成年後見人の報酬はどう決まる?
後見人報酬を決める手続きは利用する制度によって異なります。
また、手続きの違いは、これまで紹介した各制度の報酬相場の影響にも影響しています。以降では、法定後見制度から順に「報酬を決める手続き」について解説します。
3-1 法定後見人の報酬の決め方
法定後見制度で後見人が報酬を受け取るには、後見中に家庭裁判所で審判を申し立てる必要があります(家事事件手続法39条)。
審判の申立書には、報酬が必要になる根拠として「後見事務が複雑になった事情」を記入し、その裏付け資料として被後見人の資産状況をまとめた財産目録を添えます。
なお、報酬付与審判を申し立てるかどうかは、後見人の自由です。サポート意欲の高い人が後見事務を行うなら、審判を申し立てず無償にしても構いません。
3-2 任意後見人の報酬の決め方
任意後見制度の場合、初めに触れた通り「当事者である本人と後見人候補者の話し合い」で報酬を決めます。
合意した内容は「任意後見契約書」にまとめ、判断能力が低下した時に家庭裁判所に書面を提出することで、約束した報酬条件に沿って後見が開始されます。
任意後見人の報酬に関しても、合意が成立する限り無償化できます。
法定後見制度との大きな違いは、報酬を負担する人(=将来の被後見人)と後見人候補者との間でじっくりと話し合える点です。
お互いの資産状況を確認し、後見事務の負担について考えを共有しながら報酬を決められるからこそ、家裁の基本報酬よりも安く抑えられるのです。
4. 付加報酬が成立するケースも
後見中に特別難しい事務が発生した時は、月額で決められた通常の後見人報酬(=基本報酬)とは別に「付加報酬」が発生する場合もあります。
付加報酬の額は「基本報酬の50%が上限」とされていますが、基本報酬のように具体的な目安はされていません。
個別ケースでの付加報酬額は、報酬付与の審判や、任意後見人を決めるときの話し合いで、事情を総合的に判断して金額を取り決められています。
なお、東京弁護士会の資料では、付加報酬のモデルケースとして下記3つが紹介されています。
【例1】被後見人が受けた不法行為に関する訴訟に勝訴し、被後見人の管理財産額を1千万円増加させた場合
→付加報酬の目安は約80〜150万円
【例2】被後見人の配偶者が亡くなり、その際の遺産分割調停で2千万円の遺産を被後見人に取得させた場合
→付加報酬の目安は約55〜100万円
【例3】居住用の不動産を任意売却し、3千万円分の被支援者の療養看護費用を賄うことができた場合
→付加報酬の目安は約40〜70万
5. 成年後見人の報酬が無償になるケースとは
後見人や後見監督人の報酬を無償になる見込みが高いのは、配偶者やその他同居家族などの「身近な支援者」が後見人になるケースです。
これまでの関係を通じて被後見人に好意を抱いており、無償かつ後見監督人をつけなくても、本人にとってベストな後見事務を果たせる可能性が高いからです。
反対に「周囲に後見事務を務められそうな人がいない」「身寄りがない」といったケースでは、遠縁の親族や専門職(弁護士や司法書士)に有償で後見を任せることになります。
法定後見制度では、上記の専門職等による後見を「資産着服などの不正の可能性が高い」と判断し、後見監督人も選任されて報酬を追加で支払うことになるのが一般的です。
5-1 「身近な人だから無償で後見できる」とは限らない
無償で後見事務をまっとうできるのは、「個人的な好意」と「安定した生活基盤」があるからこそです。血縁が近いから、一緒に暮らしている人だからといって、必ずしも無償で後見人を務めてもらえるとは限りません。
親子や夫婦として長らく生活を共にした関係でも、過去のトラブルや長い別居期間が原因で、好意とともに後見に対する意欲が失われる場合があります。
また、後見する人自身の経済基盤が不安定だと、不正のきっかけになってしまいます。
あるいは、初めは無償で後見事務をまっとうする意欲があっても、後見開始から年数が経つにつれて事務の負担が大きくなり、やがて放棄してしまうかもしれません。
将来支援される立場にある人が任意後見契約を結ぼうとする時は、相手の状況を確認し、身近な支援者であっても有償契約にする可能性を視野に入れましょう。
法定後見制度を利用するケースでは、既に紹介した通り報酬付与の審判を起こすかどうかは後見人の気持ち次第であり、無償支援について事前の了解があっても有償になる可能性があると考えるべきです。
6. 成年後見人の報酬が支払えない場合
成年後見人の報酬がどうしても支払えない場合、全国の自治体で行われている「成年後見制度利用支援事業」の助成制度が利用できます。
本事業は、身寄りのない人や経済的に不安定な人に後見制度を普及させるため国が開始し、2012年には全国の自治体に事業開始が義務付けられました。
成年後見制度利用支援事業の助成制度では、所得などの要件を満たせば、成年後見人や後見監督人に支払う報酬の一部もしくは全部が自治体負担になります。
助成上限額や利用条件は自治体によって異なるため、被後見人の住む地域を管轄する役場の福祉担当窓口に相談してみましょう。
7. まとめ
成年後見人の報酬目安は月額2万円~6万円であり、この範囲内で後見される人の資産状況に合わせて増額されます。
事前に話し合って後見の条件を決められる「任意後見制度」なら、法定後見制度に比べて報酬が安くなる傾向があります。
また、後見人報酬は必須ではありません。配偶者や同居家族などの身近な支援者なら、無償で判断能力低下後の生活を支えてくれる見込みは十分あります。
成年後見人の報酬に関する注意点
ただし、下記3点については十分注意しましょう。
- 後見中に付加報酬がかかる場合がある
- 身近な支援者でも有償になる可能性はある
- 任意後見契約の場合、必ず追加で「後見監督人報酬」がかかる
後見人候補者を誰にするか考える時は、後見事務の内容・被後見人との関係・後見人自身の生活基盤などを考えて、有償になる可能性も視野に入れなければなりません。
どうしても報酬が支払えない場合、全国の自治体で助成してもらうことも可能です。
高齢者・障害者のサポートが必要になった時、あるいは認知症対策を始める時は、弁護士や司法書士に資産状況と家族関係を伝えてアドバイスをもらうと安心です。
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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