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家族信託契約書はなぜ重要? 書き方のポイント

更新日:2020.09.15

家族信託契約書はなぜ重要? 書き方のポイント

認知症対策や相続手続きの一環として、生前から信頼できる家族に財産を委ねる「家族信託」が広まりつつあります。家族信託を実際に活用する上では、当初合意した通りに財産管理が行われるよう、適切な方法で信託契約書を作成しておかなければなりません。この記事では、家族信託の概要を紹介した上で、契約書作成の方法やポイントを解説します。

家族信託とは

「家族信託」とは、財産の一部または全部を信頼できる家族(配偶者や子)に委ね、指定した方法で管理処分を行ってもらうための契約です。信託契約を交わすことで、所有者本人の健康状態に左右されない適切な財産管理の他、法定相続による遺産の散逸を防ぐ効果も期待できます。

家族信託の概要としくみ

家族信託を始める際は、管理を委ねたい財産を「信託財産」としてピックアップし、委託者・受託者・受益者の3者を設定します。契約が発効すると、受託者はあらかじめ決めておいた内容に沿って、財産管理や受益者への給付を行います。

発効した信託契約は委託者の死後も効力を維持し、受益者が死亡した時にその権利を存命の家族へと移転させる「受益者連続型信託」とすることも可能です。

 

【家族信託の例】

高齢期に入った両親と一人息子の3人家族。父が財産管理できなくなった時を想定し、息子に母の扶養を任せたい。

→父を委託者兼受益者、母を第二受益者、息子を受託者として家族信託を契約。

 

【上記例に沿った信託契約後の流れ】

  1. 父の生前…父が息子から毎月一定額を受給
  2. 父の死後…母に受給権が移転し、引き続き息子が財産管理を行う。
  3. 両親の死後…信託契約を終了し、信託財産の残余分を息子が承継する。

家族信託契約書について

所有者ではない人物が慣習で財産管理している家庭は少なからず存在しますが、家族信託と呼べるのは「信託契約書」を交わしているケースのみです。

家族信託と契約書の関係

そもそも「家族信託」は、長期間かつ委託者の死後に渡って合意事項が守られることを前提とします。しかしこの前提は、契約書の作成が必須です。口約束だけで信託を開始してしまったケースでのトラブルとして、次のようなものが考えられます。

  • 父(委託者)の健康状態が悪化した時に母(受益者)を経済的に支えてもらう約束だったのに、息子(受託者)が信託財産を独占してしまった。
  • 長男(受託者)以外の相続人が不満を抱き、当初の約束通り財産管理を継続するのが難しくなった。

以上のようなトラブルを防ぐため、あらかじめ信託内容や目的を法的に示しておく必要があります。その手段こそ「家族信託契約書」です。

家族信託契約書の書き方

信託契約書の作成に入る前に、まずは家族で話し合って信託スキーム(信託の仕組み)を検討しなければなりません。信託スキームは多種多様で、契約書に反映させるべき内容や書き方もケースバイケースです。以下では、契約書作成についてごく一般的な方法論を紹介します。

家族信託契約書の作成者とは

信託契約書を作成するのは、原則として委託者本人です。加えて、既に高齢期に差し掛かって健康状態に不安がある場合、契約書作成は早めに行う必要があります。認知症発症等の理由で制限行為能力者(自力でできる法律行為に一定の制限がある人)になると、信託契約を含む取引全体に制限がかかってしまうからです。

家族信託契約書に盛り込むべき内容

信託契約書には最低限必要な記載事項があります(下記参照)。

  • 契約の趣旨: 信託スキームを大まかに指定し、どんな契約か概観できるようにする項目
  • 信託の目的: 家族信託に踏み切る目的を記載し、委託者が何を意図しているのか分かるようにする項目
  • 信託財産の詳細: 受託者に委ねる財産を列記し、管理処分の対象を明確化する項目
  • 当事者情報: 委託者・受託者・受益者の情報を明らかにし、当事者を特定する項目

認知症対策としての家族信託契約書サンプル

家族信託にあたっての合意事項は、条文に分け、順序だてて契約書文面に反映させなければなりません。ここでは家族信託の目的として最も多い「認知症への備え」を想定し、以下で信託契約書のサンプル(冒頭部分)を紹介します。

【例】父の認知症発症に備え、父を委託者兼受益者・母を第二受益者・息子を受託者として契約(先に紹介した例と同じ)

信託契約書

第1条 契約の趣旨

委託者甲は、受託者乙に対し、次条記載の信託の目的を達成するため、第3条記載の財産を信託財産として運用、管理、処分及びその他当該目的達成のために必要な行為をすることを信託し、受託者乙はこれを引き受けた。

第2条 信託の目的 

本信託は、受託者による適切な財産の運用、管理、保全を通じ、委託者甲の判断能力低下あるいは死亡後においても、受益者の生活の安定に寄与することを目的とする。また、本信託を通じ、資産の円滑な承継をはかることを目的とする。

第3条 信託財産 

本契約で定める信託財産は以下のものとする

信託財産の部分は、登記簿・預金通帳を作成者の手元に準備し、財産を特定できる情報を漏れなく記載しましょう。細則の部分には、以下のように合意事項を具体的に示す内容を列挙します。

細則

  • 受託者と受益者の情報: 両親と子の氏名・職業・生年月日を記載。
  • 信託財産の管理と処分の方法: 信託財産から管理処分に必要な事務手数料を差し引き、金額と期日を指定して給付内容(生活費・医療費・介護費・老人ホーム入居費など)を記載。
  • 受託者の任務終了: 信託法第56条第1項記載の任務終了条件である「受託者の死亡」「受託者の後見開始または補佐開始の審判」「受託者の破産手続開始決定」を列挙。
  • 信託の期間: 信託法第163条各項を準用しながら「第一受益者と第二受益者が共に亡くなった日の翌日」とする。

上記のほか「信託事務を弁護士等の代理人に任せても良いのか」「信託事務手数料が信託財産を上回った時に誰が支出するのか」等、ケース毎に適宜合意事項を記載しなければなりません。

家族信託契約書は公正証書に

家族信託契約書は、特段の理由がない限り「公正証書」(※1)で作成すべきです。契約内容の真正が公的機関によって保証され、公正証書の原本・正本がそのまま執行力(公権力で約束を実現し得る効力)となることで、合意事項が確実に達成されるからです。

※1公正証書: 契約当事者や事実関係を証明したい人から依頼を受け、法曹職経験者であり法務大臣に任命された「公証人」が作成する書面を指します。法的効力が担保され、会社の定款(運営ルールを定めたもの)や離婚時の財産分与の合意書面など、様々な約束事に活用されています。

家族信託契約書と預貯金

認知症対策としての家族信託では、生活費等の代理出金を可能にする狙いで「預金口座の残高」を信託財産化するのが一般的です。しかしこの場合、下記のような注意点があります。

信託財産目録に預貯金がある場合

信託財産に預貯金を含める場合、信託契約書では「現金○○円」と財産を指示します。「○○銀行○○支店の預貯金」のように口座情報で指示するのは誤りです。

そもそも、たとえ信託契約があったとしても、それを根拠に委託者名義の口座から出金することはできません。どの金融機関でも「預貯金債権の譲渡禁止特約」を設けており、本特約に沿って預金口座の信託そのものが認められないからです。

したがって、預貯金を信託しようとする際は、専用口座を開設して信託分の資金移動を行う必要があります。その上で、信託契約書には専用口座内に移動した金額を「現金」として記載しなければなりません。

自分で家族信託契約書を作成するリスク

家族信託契約書を作成する際は、信託スキームを法的表現へと適切に換言する必要があるほか、信託法に沿った内容を心がけなければなりません。知識も実務経験もないまま作成すると、次のような失敗に見舞われます。

自分で家族信託契約書を作成した場合の具体的なリスクとは

  • 記載内容が曖昧で効力が生じない
  • 信託法から逸脱した条項のせいで無効になる
  • 「家族で合意した内容」と「実際に契約した信託スキーム」に相違がある

信託法には、「信託の30年ルール」があります。信託法91条では、受益者連続型信託その効力は信託がされたときから最大30年としています。上記の点から、後継ぎを直系卑属に集中させるため受益権を親世代・子世代・孫世代……と移転させようとしても、孫以降の世代に関しては断念しなければならない可能性が高いと言えます。以上の点を考慮し、独力で行うのは「信託のイメージを固めるための家族会議」までとしましょう。信託開始にあたってのスキーム構築や契約書の作成は、専門家に任せるべき分野です。

家族信託契約書を専門家に依頼する場合

家族信託について受任できるのは、弁護士と司法書士です。受任契約後は、専門家報酬として次の費用がかかります。

 

【専門家報酬】

  • 信託スキームのコンサルティング費用
  • 信託契約書の作成報酬
  • 登記代行手数料(信託財産に不動産を含める場合)
  • 監督費用(受益者のため信託監督を任せる場合)
  • 信託契約書の変更費用(後日変更がある場合)

その他、依頼人の負担分として以下の費用がかかります。

 

【依頼人負担の実費】

  • 公正証書の作成手数料(5,000円~/信託財産の評価額に応じて上昇)
  • 信託設定時の登録免許税(土地は評価額の0.3%/建物は評価額の0.4%・参考:租税特別措置法第72条、登録免許税法第9条別表第一)

弁護士に依頼する場合

弁護士は法律問題を解決するエキスパートであり、相続について広範な知識を持っています。最も得意とするのは、遺言の代替手段として家族信託を利用したいケースです。相続人と資産の各構成からトラブル発生の可能性を分析し、最適な信託スキームを提案できます。その他、認知症対策から事業承継への備えまで、多種多様なケースでの依頼に適しています。

 

【参考】家族信託における弁護士費用の目安

  • コンサルティング費用: 信託評価額の0.1%~1%(※2)
  • 信託契約書の作成報酬: 10万円~15万円
  • 監督費用: 月額1万円~2万円
  • 信託契約書の変更費用: 5万円~10万円

※2コンサルティング費用は同一事務所でも一定額ではなく、信託評価額に応じて段階的に引き下げられます。

司法書士に依頼する場合

司法書士は登記手続きを主な業務としており、不動産を信託財産に含めるケースを得意とします。双方代理(特定の契約について当事者双方の代理人になること)ができるのも、家族信託の性質とマッチしています。

信託契約を通じて賃貸経営を後継者に引き継ぎたい場合や、現在共有名義となっている不動産を相続人に単独承継させて活用しやすくしたい場合などでは、弁護士よりもむしろ司法書士が適しています。

 

【参考】家族信託における司法書士費用の目安

  • コンサルティング費用: 信託評価額の0.5%~1%(※3)
  • 信託契約書の作成報酬: 10万円前後
  • 登記代行手数料: 8万円~15万円
  • 監督費用: 月額1万円~2万円
  • 信託契約書の変更費用: 5万円前後

※3弁護士と同じく、信託評価額に応じて段階的に引き下げられる場合がほとんどです。

家族信託契約書の保管場所

公正証書で作成した家族信託契約書(原本)は、そのまま公証役場で安全に保管されます。受託者の任務(財産管理と運用)中に契約書の提示を求められたときは、同役場で交付される「正本」を活用します。

注意しなければならないのは、正本の再交付は原則不可能である点です。細心の注意を払って保管するか、信託手続きを依頼した弁護士または司法書士に預けておきましょう。

まとめ

死後まで長期間にわたって「家族信託」による財産管理を維持する上で、信託契約書の作成は不可欠です。信託契約書の書き方はケースバイケースであり、受託者の任務が達成できるよう、法令や信託財産の指示の仕方について十分検討しなければなりません。

イメージする信託目的が達成されるよう、契約書作成も含めて専門家の全面的な支援を得ることをおすすめします。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

「つぐなび」の運営は、1970年創業の株式会社船井総研ホールディングス(東証1部上場、証券コード:9757)の経営コンサルティング事業を担う株式会社船井総合研究所が行っています。…もっと見る

船井総合研究所は、相続分野において700事務所にものぼる全国の弁護士・税理士・司法書士といった士業事務所のコンサルティングを行っており、その長年のノウハウをもとに「つぐなび」を2020年に開設いたしました。
現在、全国的に高齢人口の急速な増加を続けており、総人口は減少していく一方で、高齢者人口は2040年まで増え続けると予測されています。それに伴い、相続財産をめぐるトラブルも増加、複雑化していることが喫緊の課題となっており、さらに、問題を未然に防ぐための遺言や民事信託などの生前対策のニーズも年々高まっています。 「つぐなび」では、相続でお困りの皆様が、相続の”プロ”である専門家と一緒に相続の課題解決をしていけるようサポートいたします。

・本記事は一般的な情報のみを掲載するものであり、法務助言・税務助言を目的とするものではなく、個別具体的な案件については弁護士、税理士、司法書士等の専門家にご相談し、助言を求めていただく必要がございます。
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