相続登記の義務化とは 罰則や過去の相続の扱いを解説

更新日:2024.06.21

相続登記の義務化とは  罰則や過去の相続の扱いを解説

2024年4月1日から、相続した不動産の名義を変更する手続きの相続登記が義務化されます。正当な理由がないのに相続登記をしないまま放置した場合、10万円以下のペナルティが科される可能性があります。また、施行前の2024年4月1日より前に相続した不動産も義務化の対象になります。今回は、新しく始まる相続登記の義務化の詳細な内容だけでなく、義務化に伴い新設される相続人申告登記の手続きについても解説します。この記事は司法書士法人グランツの松田卓也司法書士が監修しました。

1.相続登記とは 相続した不動産の名義変更

相続登記とは、相続した不動産の名義を変更することをいいます。相続登記は、相続財産の不動産を相続した人が、その不動産がある地域を管轄している法務局に、登記の申請書と相続や所有権を証明する必要書類を提出してすることができます。

不動産の所有権を証明するためには登記が必要であり、登記では土地や建物の所在、面積といった不動産の詳細な内容のほか、所有者の住所や氏名などを記録します。

登記は登記所で行います。登記所は登記業務を行う法務局や地方法務局などを指します。登記簿は一般公開されているので、誰でも不動産に関する記載事項について確認ができます。

登記には相続登記のほか、売買や譲渡などによる不動産の所有権移転登記、新たに不動産を登記する場合の所有権保存登記などがあり、これらの不動産登記によって不動産の権利関係を明確にし、円滑な不動産取引ができるようになります。

被相続人が亡くなって相続財産の不動産を相続した場合には、不動産の名義を相続人へと変更する相続登記の手続きが必要になります。これを相続登記といいます。

2.相続登記の義務化とは 2024年4月1日から開始

これまで、家族が亡くなって不動産を相続した人が、相続登記をせずに放置していても、売却などを検討しない限り、名義が亡くなった人のままになっていても固定資産税を支払ってさえいれば特に問題はありませんでした。また、登記をすべき期限も設けられていませんでした。

2024年4月1日からは土地や建物といった不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務になりました

また、これに先んじて相続した土地を国が引き取る制度である「相続土地国庫帰属制度」は2023年4月27日から開始しました。相続土地国庫帰属制度は、相続したが管理の負担や利用予定のない土地について、一定の要件を満たした場合に土地の所有権を手放して国庫に帰属させることができる制度です。

2-1.3年以内の登記が義務 義務化前の相続も対象に

相続人は、土地や建物といった不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなくてはなりません。なお、相続開始の時点からではなく、不動産を相続で取得した時点からという点に注意が必要です。

また、2024年4月1日より以前に相続した不動産についても、相続登記義務化の対象となるため注意が必要です。相続で不動産を取得したのに、まだ相続登記をしていない土地がある場合は、速やかに登記の専門家である司法書士へ相談することをお勧めします。

相続登記の義務化とは

遺産分割が済んでいない土地がある場合は、早めの遺産分割を行いましょう。

ただし、すぐに遺産分割ができないときは「相続人申告登記」を行うことでペナルティを受けずに済む場合があります。相続人申告登記については後述します。

2-2.登記しなかった場合、10万円以下の罰則

正当な理由なく期限内に相続登記をしなかった場合、10万円以下の過料が科される場合があります。過料とは、法令に違反した場合に制裁として科せられる行政上の秩序罰のことをいい、罰金といった刑事罰とは異なります。

期限内に相続登記ができないことの正当な理由としては、以下のようなケースが例として挙げられます。

  • 相続人の数が極めて多数となり、戸籍謄本などの登記手続に必要な書類の収集や相続人の把握に長い時間がかかる
  • 遺言の有効性や遺言の範囲などが争われている
  • 申請義務を負う相続人自身に申請を行うことができない重病などの事情がある

また、期限経過をしてしまった場合であっても、登記を管理する法務局からの催告に従い、相続登記の申請を行った際はペナルティを受けずに済む可能性がありますが、できるだけ早めの相続登記が安心です。

すぐに相続登記することが難しい場合は、相続人申告登記制度の利用や、専門家への相談を検討しましょう。

2-3.義務化されるのはいつの相続から? 以前の相続でも罰則の対象になる?

相続登記が義務になったのは2024年4月1日ですが、登記が義務になるのはこの日以降の相続だけではありません。施行日以前の相続も相続登記の義務化の対象になります。

施行日以降は、相続により不動産の取得を知った日から3年以内が相続登記の期限です。義務化になる前に相続した土地は、2027年3月31日までに相続登記をしなければなりません

ただし、義務化の施行日以降、遺産分割が完了したり、遺言が発見されたりして、新たに不動産の相続を知った場合は、知った時点から3年以内が期限となります。

過去の相続であっても、3年の猶予を超えて相続登記の義務を果たさなかった場合、10万円以下の過料のペナルティを受ける可能性があります。

3.相続登記をするメリット、放置するリスク

相続登記には登記を行うメリットが多くあり、また、相続登記をせず放置しておくことで発生するリスクが存在します。

所有者が不明な土地は、周辺地域の環境悪化や円滑な不動産取引、公共事業などを進める上での妨げになるなど、重大な社会問題となっています。また、社会的な問題だけでなく、相続人にとっても相続登記の放置はさまざまなデメリットがあるといえるでしょう。登記をするメリットと放置をするデメリット、放置によるリスクについて具体的に解説します。

3-1.メリット:不動産の権利が明確になる

相続登記を行い不動産の所有者を相続ごとに明確にすることで、数次相続による遺産分割協議の複雑化や、所有を巡る争いの防止ができるメリットが挙げられます。

数次相続とは、被相続人が亡くなって相続が発生後、遺産分割が完了しないうちに相続人が亡くなり、さらに次の相続が発生することをいいます。

遺産分割協議は相続人全員の同意が必要なため、権利に関わる人が増えると分割協議が難航してしまう可能性があります。誰が取得するか決まっていないまま数次相続が起こってしまうと、不動産の権利の所在についての話し合いはますます複雑化してしまうでしょう。

また、不動産の所有権について争いが起こった場合にも、登記があればスムーズに自身の権利を主張できます。ただし、相続登記の手続きは不動産の権利に関わる重要な手続きのため、必要書類も多く申請書も細かい法的ルールに従って作成する必要があり、煩雑であると言わざるを得ません。

そのため、個人で申請するにはハードルが高い手続きといえます。

相続登記が放置されてしまう背景として、遺産分割協議や登記申請の煩雑さといった手続きの負担の重さ、そして、施行前は登記の申請期限がなかったことが挙げられるでしょう。

3-2.メリット:不動産が売却できる

登記をしていれば不動産の所有権を証明できるため、不動産を売却したり担保に入れたりすることができます。反対に、実際の所有者であっても登記簿上の名義が異なっている場合、不動産の売却や譲渡はできません。

また、法定相続分以外の割合で相続登記をする場合には、ほかの相続人の同意が必要です。

そのため、相続人のうち1人が取得することになっていた不動産であっても、相続登記をしていなければ不動産の売却ができません。法定相続分以外の割合で相続登記をする場合には、相続人全員の同意が必要であることも、放置されてきた理由として挙げられるでしょう。

なお、法定相続分での相続登記は個人でもできますが、法定相続分での相続割合に従った所有権を取得するのみのため、不動産を売却する場合には共有している人の同意が必要になります

相続登記を放置した際のトラブルの例として、相続人のうち1人が取得するはずだった不動産について、別の相続人が勝手に法定相続分の相続登記を行い、その共有持分について売却してしまうケースが考えられます。この場合、第三者との権利争いに発展してしまう可能性があります。リスク回避のためにも、早めに相続登記を済ませましょう。

3-3.デメリット:借金があった場合、不動産を差し押さえられてしまう

相続登記をせず、放置していた場合、相続人のうち借金といった債務のある人がいたとき、相続人の持分で不動産を差し押さえられてしまうリスクがあります。相続登記をしていない不動産については、遺産分割協議が完了して相続人のうち個人で取得する人が決まっていたとしても、債権者は債務者である相続人を代理して法定相続分での相続登記を行い、持分について差し押さえすることができます。

差し押さえができるかどうかは登記がされているかによって判断されます。また、遺言書によって「不動産を相続させる」となっていた場合であっても、登記がないと法定相続分を超えて、所有権といった権利を主張できない点にも注意が必要です。

ただし、債務者である相続人が相続の放棄をしていた場合、相続人の立場を失っているため、相続財産である不動産の差し押さえはされません。

4.期限に間に合わない場合は「相続人申告登記」を

相続登記の申請期限内に相続登記が間に合わない場合は、「相続人申告登記」をすることでペナルティを受けずに義務を果たすことができます

相続人同士の話し合いが進まない、または一部の相続人が遠方にいるなどで遺産分割協議が難航している場合には、相続人申告登記制度の利用を検討しましょう。相続人申告登記は、相続登記の義務化に伴い新設された登記です。

4-1.相続登記の義務化との違い

相続登記の義務化は、相続登記によって不動産の所有者を明確にする目的があり、登記によって権利関係が確定します。また、期限内に相続登記がされない場合、10万円以下の過料が科されるペナルティが発生します。

一方、相続人申告登記は権利関係が確定していない場合でも申告ができ、また、相続人である旨の申告を行うことで期限内の義務の不履行によるペナルティを回避できます。

さらに、相続登記と異なり、相続人が複数いる場合でも相続人単独で申告が可能です。法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定も必要ありません。

相続登記では必要となる被相続人の出生から死亡までの戸籍がわかる書類の提出も相続人申告登記では不要であり、申出を行う相続人の相続関係が分かる書類のみで足ります。

ただし、相続人申告登記はとりあえずの申告であるため、遺産分割協議が完了次第、不動産を取得した人は3年の期限内に相続登記を行わなければなりません。その上、不動産の所有権を証明する登記ではないため、不動産を売却したり担保に入れたりすることもできない点に注意が必要です。

4-2.相続人申告登記をするのはどんな時か

不動産の相続が開始したが遺産分割協議が完了せず、3年の期限内に相続登記の義務が履行できない場合に相続人申告登記を行います。相続人申告登記を行っておくことで、相続登記の義務を履行したことになり、10万円以下の過料が科されるペナルティを回避できます。

ただし、相続人申告登記は単独で行うことができるため、相続人が複数人いるうち、申告を単独で行った人は義務を履行したことになりますが、申告を行っていない人は義務の不履行でペナルティが科される可能性があります。

ほかの相続人の分も含めた代理申出も可能なため、相続人申告登記をする場合は相続人間で共同して行うとよいでしょう。

4-3.相続人申告登記の手続方法

登記事務を行う法務局(登記官)に対し、対象の不動産を特定して、所有者である名義人が亡くなり相続が開始したこと、そして自身が相続人であることを申出して手続きを行います。

具体的には、申出書を作成し、相続の開始と相続人の地位を証明する公的書類を添付して提出することで手続きができると考えられます。

5.我が家は大丈夫? 相続登記を確認する方法と登記の手続

自身や家族の不動産の相続登記が完了しているかどうかわからない場合は、早めの確認をおすすめします。
また、もしも相続登記が完了しておらず、名義人が被相続人のままであったときは早急に対応が必要といえるでしょう。相続登記の手続き方法と併せて解説します。

5-1.相続登記を確認する方法

不動産について、名義人が誰か確認するためには登記事項証明書を取得する必要があります。
登記事項証明書は以下の方法で取得できます。

  1. 法務局の窓口で直接取得する
  2. 法務局へ申請書を郵送し、取得する
  3. オンラインで取得する

登記事項証明書の取得には手数料がかかり、取得方法によって1通あたり480円〜600円と金額が異なります。手数料は収入印紙を貼付し、納付します。

登記事項証明書の請求は、管轄の登記所以外の最寄りの登記所でも行うことができ、受け取り方法も郵送のほか、登記所での受け取りが選べます。オンライン上のみで登記事項を有料で確認する方法(登記情報提供サービス)もありますが、この場合、登記事項証明書は交付されません。また、オンラインでの手続きであっても利用時間が限られているため注意しましょう。

5-2.相続登記をする手続きの流れ

相続登記は以下のステップに沿って行います。

相続登記の申請の流れ

遺産分割協議を行わず、法定相続分で分割し相続する場合は、必要書類の取得後、登記申請書を作成します。

戸籍関係書類は、相続の開始を証明し、法定相続人を特定できる書類のことをいい、被相続人については出生から亡くなるまでの戸籍を取得する必要があります。これまで転籍などして本籍の所在地が変わっている場合は、本籍ごとに各市区町村へ請求しなくてはなりません。

また、遺産分割協議を行う場合は、協議した内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。遺産分割協議書を提出する場合は、相続人全員の印鑑証明も必要になる点に注意が必要です。必要書類を準備した後、登記申請書を作成します。

登記申請書は法務省の「登記・供託オンライン申請システム」の利用や、直接書面で作成して用意します。オンライン申請を行う場合は、添付書類について後日登記所へ持参、もしくは郵送する必要があります。

6.相続登記は司法書士に相談を

相続登記の手続きは煩雑であり、申請書の作成には専門知識が必要であることから、個人で行うにはハードルが高いものといえるでしょう。また、相続はさまざまな場合があり、相続登記といってもケースによって必要な添付書類や、すべき手続きの手順が異なることがあります。また、記載事項を誤ってしまえば、事実と異なる権利関係が登記されてしまう恐れも否定できません。

これまでの相続で取得した不動産があるものの、相続登記を怠ったままの不動産がある方や、相続登記の義務化について不安や心配ごとがある方は、登記の専門家である司法書士に一度相談してみましょう。

この記事の監修者:松田 卓也(まつだ・たくや)

司法書士法人グランツ

司法書士

司法書士法人グランツ松田卓也さん

2011年 駒澤大学法学部法律学科卒業
2013年 司法書士試験合格
2014年 行政書士試験合格、都内の大手司法書士事務所に勤務
2016年 相続中心の神奈川県内トップクラスの司法書士・行政書士事務所に勤務
2017年 武蔵小杉リーガル司法書士事務所を開設
2022年 司法書士法人グランツ設立(法人化)

私たちは、相続が単なる法的手続きではなく、故人の想いや家族の大切な財産を次の世代へ引き継ぎ、家族の絆を守るための重要なプロセスだと考えています。

相続の過程で生じる不安や悩みに寄り添い、一人ひとりの状況に合わせた最適な解決策を提供することが私たちの使命です。どんな小さな疑問でも親身にお答えし、お客様が安心して進められるよう全力でサポートいたします。家族の未来を守るために、心から信頼できるパートナーとしてお手伝いさせて頂きます。

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この記事の執筆者:つぐなび編集部

この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
2020年04月のオープン以降、専門家監修のコラムを提供しています。また、相続のどのような内容にも対応することができるように
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