「終活」という言葉をご存じでしょうか。今までに一度くらいは、耳にされたことがあるのではないかと思います。
近年注目を集めている終活ですが、具体的に何を行えばよいかという点では「よくわからない」という人も多いのではないでしょうか。
ここでは、終活でしておいたほうがよいことや「エンディングノート」に記載すべき内容を解説します。
目次
よく耳にする終活、その意味と意義とは
「終活」という言葉をご存じでしょうか。今までに一度くらいは、耳にされたことがあるのではないかと思います。
「終活」とは、「自分の人生を見詰め直し、より良き終焉を迎えるための準備活動」といった意味に捉えることができます。
自身の生き方を総括していくことで、その後の人生をより深くより積極的なものにしていく、そういったことにも繋がり得るものです。
人生の節目節目で自身の生き方を問い、そこから得た想いを再認識して形にしていくこと、それこそが「終活」であるといえそうです。
いつから始めればいい?
「いつから終活は始めるべきか」。
その問いに対する答えは様々です。
定年退職を迎えた時、大病を患った時、大切な人との死別に向き合った時。そのきっかけは人により様々でしょう。
自らの人生を見詰め直し、更に充実した人生を目指してそれを形にしていくことが「終活」であるなら、「思い立った時」から始める、ということでもよいのかもしれません。
慌てる必要はありませんが、誰であっても終焉は訪れるものです。
少しずつ準備してみてはいかがでしょうか。
大切なことはエンディングノートに
「エンディングノート」というものをご存知でしょうか。
「エンディングノート」とは、自分の想いや希望を残された人に伝えるためのノートです。
後述する「遺言書」とは違い、作成方法は自由です。
大切な人達に自分の想いを確実に伝えるために、自分の言葉で詳細に記述していくとよいでしょう。
「エンディングノート」は、販売されているものも数多くあります。それらを活用してみてもよいでしょう。
一度に作り上げようとせず、少しずつ考えをまとめながら、じっくりと取り組んでみていただければと思います。
自分の情報
「エンディングノート」には、まず自分自身の情報を記載していきましょう。
氏名・住所・本籍・生年月日など。また、自身の親族等の氏名・住所・続柄・連絡先なども記載します。
その他、年金手帳・健康保険証・介護保険証・マイナンバーカードに関する情報やその保管場所等も、記載しておくとよいでしょう。
友人知人の連絡先
自分が逝去した時、必ず連絡をしてほしい友人・知人・縁者に関する情報を記載します。
氏名・住所・自分との関係(例:「大学時代の友人」など)、電話番号やEメールアドレスなどの連絡先をできるだけ詳細に記載しましょう。
身の回りのものについて
形見分けとして、特定の物品を特定の人に分けたい時に記載します。
第三者が見ても分かるように、物品を特定するための名称・色・形状・大きさ・番号などを詳細に記載し、明確に分かるようにしなければなりません。
写真などを貼って特定することも有効です。
なお、特定の物品を特定の人に分けたい場合には、後述する「遺言書」にも、そのことを記載しておく必要がありますので、ご留意下さい。
その他、廃棄などの処分をして欲しいものについては、その対象物と処分方法を記しておきましょう。
預貯金や保険証券など、資産に関すること
不動産や預貯金、キャッシュカード、株式、有価証券や保険などの資産に関する情報です。
まず「何が、どこに、どれだけあるのか」を記載します。
次に、それらの財産をどのように処分したいのかを記載します。
財産に関する記載は正確な表記が必要ですので、不動産であれば登記事項証明書、預貯金は通帳、有価証券や保険であれば証書・証券等をみながら、正確にその情報を記載しましょう。
貸しているお金があれば、誰に・いつ・いくら・どのような内容で貸しているのか、その証書はどこにあるのかなどを記載します。
通帳や印鑑、キャッシュカード、証券等の保管場所についても記載しておくべきでしょう。
なお、財産の処分に関しては、後述する「遺言書」にも、そのことを記載しておく必要がありますことをご留意下さい。
また、ローンや借金などマイナスの資産がある場合にも、その内容や状況、証書の保管場所等を詳細に記載し、残された方が的確に対処できるようにしておきましょう。
自分が病気になった時のこと
自分が病気になってしまった場合などに備え、かかりつけの病院・主治医・常備薬・既往歴・血液型・アレルギーなどについて記載します。
また、延命措置や終末期医療に関する希望、認知症になってしまった場合の希望等を記載します。
お葬式やお墓などのこと
自分のお葬式やお墓に関する希望などを記載します。
菩提寺・葬儀の形式や費用・喪主をお願いしたい人・葬儀の時に連絡して欲しい親族や友人・希望する埋葬方法や場所・お墓の費用などを記載します。
お墓がすでに用意されている場合には、その所在地や連絡先、資料の保管場所などを記載しましょう。
終活でしておくこと
終活でしておくべきことは、「エンディングノート」を作成することだけではありません。
作成した「エンディングノート」の保管場所を決めることも大切です。
その他、身の回りの物について残しておくものと処分するものとの選別、不用品の処理、住所変更や各種手続等が済んでいないものについての着手、葬儀や墓地の選定、遺影の準備などが考えられます。
また、先に記載した「遺言書」の作成も重要です。順を追って見ていきましょう。
身の回りの整理
身の回りの物について、必要のないものは順次処分していくと良いでしょう。
しかしそうとはいっても、なかなか簡単には処分できるものではありません。
まずは、「今必要なもの」「今は必要ないが将来必ず必要となるもの」「どちらともいえないもの」「いらないもの」の4つくらいに分ける、という作業をしてみてはいかがでしょうか。
その上で、「いらないもの」を処分し、「どちらともいえないもの」をどうするか、時間を掛けながら考えてみるという方法でも良いかもしれません。
お葬式の準備
葬儀の形式などの希望が定まっている場合には、パンフレット等を取り寄せ、その内容や費用を確認しておきましょう。
自分が逝去した際の手続きの流れや連絡先などについて「エンディングノート」に記載するとともに、パンフレットに付箋を貼っておくなどして、遺族がスムーズに手続きをとれるよう準備しておいてあげるとよいでしょう。
お墓の準備
お墓に関しても、パンフレットを取り寄せて費用や要件などを確認した上で、可能であれば現地を見学しておくと良いでしょう。
そして、自分の希望を「エンディングノート」に記載し、パンフレットとともに残しておくと、残された親族は安心してお墓の手続きを進めることができるかと思います。
遺言書の作成
「エンディングノート」に詳細な情報や自身の希望などを記載しても、それだけでは万全ではありません。
「エンディングノート」には、遺族を法的に拘束するほどの強い力はないためです。
財産処分などに関し、自分の希望を確実に実行してもらいたい場合には、必ず「遺言書」を作成しておきましょう。
なお、「遺言書」を作成しない場合には、自身の死後、相続人らによる「遺産分割協議」が必要となります。
しかし、遺産分割協議を行うためには全相続人が集まって協議しなければならず、協議が成立するまでにかなりの時間が掛かってしまうことが往々にしてあります。
ところが、亡くなった方の銀行口座が凍結された場合、その凍結を解くには、遺言書もしくは遺産分割協議書が必要となるのです。
銀行口座が凍結されたままだと、未払いの施設費、治療費、入院費、介護費用などがある場合、これらの費用をその口座から支払うことができません。
このような事態を避けるためにも、遺言書を作成しておくことはとても有効です。
遺言書の作成
遺言書には、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」とがあります(その他、「秘密証書遺言」もありますが、これは特殊な遺言であり通常あまり使われませんので、ここではご説明を割愛)。
「公正証書遺言」は、公証役場において作成してもらう遺言です。
それに対して「自筆証書遺言」は、自分自身で作成する遺言です。
それぞれ、作成方法等をご説明いたします。
公正証書遺言
「公正証書遺言」は、公証役場において公証人の面前で遺言内容を話し、それに基づき公証人が文章を記述して遺言書を作成するものです。
実際には、事前にファックスやEメールで希望する遺言内容や財産内容を連絡しておき、ある程度のたたき台を作ったうえで作業を進めることが多いでしょう。
なお、「公正証書遺言」を作成する場合には、証人が2名必要となります。
次の者は「公正証書遺言」作成のための証人にはなれませんのでご注意ください。
- 未成年者
- 遺言者の推定相続人、受遺者、その配偶者や直系血族
- 成年被後見人など、意思能力に問題がある人
- 公証人の関係者
もしも証人を用意できない場合には、公証役場で手配してもらえますので、公証役場に相談してみるとよいでしょう。
また、「公正証書遺言」を作成する場合には、次のような書類・資料等を用意して、公証役場に持参する必要があります(怪我や病気により公証役場へ出向くことができない場合は、公証人が出張してくれます。ただし、この場合には別途の費用が掛かりますのでご注意ください)。
- 遺言者の実印と印鑑証明書等
- 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
- 相続人以外の者に遺贈する場合は、その者の住民票
- 財産に不動産がある場合には、不動産の登記事項証明書、及び固定資産評価証明書(または納税通知書)
- 証人の氏名・住所・生年月日・職業が確認できる資料
- 遺言執行者を定める場合には、遺言執行者の氏名・住所・生年月日・職業が確認できる資料
そして「公正証書遺言」を作成する場合には、公証役場に遺言書作成費用を支払う必要があります。
この費用は、財産の金額や相続の内容(相続人の人数や遺贈する者の人数等)により金額が異なってきます。
やや複雑な計算になりますので、公証役場に問い合わせて、どの程度の費用が発生するのか確認するとよいでしょう。
その他「公正証書遺言」の詳細については、「日本公証人連合会」サイトを参照してみて下さい。
自筆証書遺言
「自筆証書遺言」は、自ら作成する遺言書です。公正証書遺言のように、公証役場に対する多額の費用等は発生しません。
しかし、「自筆証書遺言」の作成に関しては厳密なルールが定められており、このルールを守らないと遺言が無効になってしまうので注意が必要です。
「自筆証書遺言」を作成するにあたり、必ず守らなくてはならないルールは、次の4つです。
- 全文を自分で書かなければならない(ただし、「目録」(※)については自筆でなくてもよい)。
- 日付を記載しなければならない。
- 氏名を記載しなければならない。
- 押印をしなければならない。
※目録: 目録とは、不動産の記載や金融機関口座の記載、有価証券の記載などを表記したものです。「目録」については自筆でなくとも、パソコンなどで「一覧表」として作成しても良く、不動産の登記事項証明書のコピーや通帳のコピーなどをそのまま用いても構いません。ただし、「目録」には必ず遺言者自身が、その各ページに署名と押印をしなければなりません。その点ご注意ください。
上記4つのルールを守れば、「自筆証書遺言」として効力を生じることになります。
ただし、「自筆証書遺言」の場合には、遺言者の死亡後その相続人によって、家庭裁判所における「検認」の手続きをしなければなりません。
「検認」とは、上記4つのルールを満たした遺言書となっているかどうか、家庭裁判所で確認する手続きです。
これに関して、2020年7月10日から始まった法務局での「自筆証書遺言書保管制度」を利用した場合には、「検認」の手続きが不要となるという取り扱いになりました。
「自筆証書遺言書保管制度」とは、管轄法務局において「自筆証書遺言」を保管してもらえる制度です。
これを利用すると、法務局で上記4つのルールを満たしているかどうかの確認を事前にしてくれるため、遺言者の死後、その遺言が形式違反のために無効になってしまう、といったことを回避できることになります
(ただし、あくまでも「形式の確認」までであり、「内容の確認」まではしてくれないため、内容の法律違反等による無効等は回避できません)。
また、法務局で保管してくれるため、遺言者の死亡後、相続人がその遺言書の存在を確認することが容易になります。
この「自筆証書遺言書保管制度」は有料ですが、公証役場における費用と比べればかなり安価であるため、積極的に検討することをおすすめします。
その他、「自筆証書遺言書保管制度」の詳細に関しては、お近くの司法書士にお問い合わせるか、法務局オフィシャルサイト内ページを確認しましょう。
時には子どもに協力してもらう
「終活」は、必ずしも自分1人だけで全てを抱え込む必要はありません。
弁護士や司法書士といった専門家に相談することも有用ですし、身近な親族や同居人などにも時には相談してみると良いでしょう。
特に子どもをはじめとした自分が逝去した後の相続人となる者がいる場合には、可能な範囲で色々と話し合い、協力を求めるなどしてみてはいかがでしょうか。
例えば、身辺整理や不用品の処分などをする場合、捨てて良いかの判断が自分だけでは付かないような場合には、子どもに手伝って頂いてはどうでしょうか。
時には「子どもにとっての大切な思い出の品」というケースもあり得ますし、むしろ廃棄することに背中を押してもらえることもあるでしょう。
また、将来に備えて介護施設や葬儀社を選ぶ場合も、その情報収集などをお願いしてはかがでしょうか。
特に介護施設に入所する際には、身元引受人となる親族の情報を求められることが多々あります。
このような施設の選定については、子どもの意見を参考にした方が良い場合があります。
「終活」を通じて親族等とじっくり語らい、互いの気持ちを確認し合う事が、その後の人生をより一層有意義なものへ導くことになるのかもしれません。
自身の人生を見詰め直し、自身の想いを伝えていくためにも、ぜひ「終活」を上手に活用していただければと思います。