身近な人が亡くなると、相続が開始されることになります。相続や遺贈によって被相続人から遺産を取得した場合、相続税を支払わなくてはいけません。
初めて相続を経験する方にとっては、相続税の支払い、申告について分からないことや不安に思うこともあると思います。実はそのような時には税務署に相談することができます。
本記事では、税務署に相談するメリットや注意点、事前に準備しておいた方が良いことを解説させていただきます。
目次
1. 相続税の申告は税務署で相談できる
普通に生活をしている中で、相続を何度も経験するのは非常に稀なことでしょう。相続を受けるのは初めてだという人が、ほとんどでしょうから分からないこと、不安に思うことが多いと思います。
専門家へ相談することも一つの方法ですが、実は税務署でも相談ができることをご存知でしょうか。ここではどの様な方法で相談が可能なのかをご紹介します。
1-1 窓口での直接相談も電話での相談も可能
相続税に関する質問は電話で相談することが可能です。電話相談の場合、2つの窓口が用意されています。それは「国税局電話相談センター」と「税務署の窓口」です。
「国税局電話相談センター」は相続税申告に関する一般的な税金についての相談、質問がある場合に利用するのが良いと思われます。
この窓口では、電話対応専門の職員が配置されているので、一般的なよくある相談であれば速やかな回答が得られる可能性が高くなっています。
税務署の窓口に相談する場合は、税務署から届いた書面に対する質問や、税金の納付が難しいなどの場合の方が良いかもしません。
と言うのも、税務署の職員は電話対応以外の業務も抱えているため、速やかな回答が得られない場合があるためです。
ご自身の抱えている相談内容に併せて、まずは所轄の税務署に電話をし、音声案内に従って番号を押して進めていってください。
2. 窓口での相談を希望する場合は予約していくことがおすすめ
個別の事例に関する相談や作成した相続税の申告書、添付書類の確認をしてもらいたい場合があると思います。そのような場合は、税務署まで出向いて税務職員に対面で相談するのが良いでしょう。
書類関係の相談は現物を見せながら行う方が、電話口で相談するよりもより理解しやすいですし、税務職員の方も説明がしやすいでしょう。
窓口での相談は、国税庁や国税局では行っていません。窓口相談は税務署で行うことになります。
相談内容によって担当する部門があり、一般的には申告に関する相談は、資産課税部門、納付に関する相談は徴収部門で受け付けています。
窓口での相談を希望する場合には、事前に予約することをお勧めします。と言うのも、税務職員は、前述したとおり相談業務以外にも業務を抱えているため、予約なしで相談に訪れても待ち時間が発生し、十分な相談時間が確保できなくなる可能性があります。
3. 相談の場合は申告する税務署でなくても基本的には可能
申告を行う税務署でなくても、基本的には相続税申告の相談は可能です。
例えば、被相続人の住んでいる場所が遠方にあった場合、申告する税務署は被相続人の住所地となります。
そうすると、分からないことがあった場合、平日に何度も遠方の税務署に足を運ばないといけないことになり、相続人の負担が大きくなってしまいます。
相続税を申告する税務署でなくても相談が可能であれば、その負担もなくなります。
このように利用者としては大変便利な制度なのですが、気を付けていただきたい点があります。
それは、相談内容によっては被相続人の住所を管轄する税務署でなければ答えられない場合もあるということです。
そうなると、2ヶ所の税務署に足を運ばざるを得なくなります。そうならないためにも、予約の際には相談内容と被相続人の住所地を伝えておくと良いでしょう。
4. 1〜3月の確定申告のシーズンは混み合っているので注意
このように、税務署では相続税申告に関する相談を電話と面談で行っています。この相談に関しては、平日の日中に限られますが、無料で受けることができます。
ですが、相談する際に注意しておいていただきたいのが、税務署が大変込み合う時期があるという点です。
それが、確定申告が行われる1~3月です。この時期は、税務署が大変に混み合い、予約自体が取りにくくなります。
相続税の申告期限は10ヶ月以内となっています。時間があるように思われますが、あっという間に期限は来てしまいます。申告期限が翌年になる場合でも、早めに相談することをおすすめします。
相続税の申告について税務署に相談するメリット
それでは、相続税の申告について税務署に相談するメリットは何でしょうか。以下のような点がメリットとして挙げられます。
①匿名での相談が可能
②相談する方法が選べる
③何度でも無料で相談可能
①について、国税局相談センターでは電話相談の際に、名前を名乗らなくても相談にのってくれます。名前を名乗ることで税金の申告や納付に不利になるのではと考える方もいるからです。
ですが匿名である、なしにかかわらず、そのようなことはありませんのでご心配いりません。
②については、上述してきたように、ご自身に適した相談が可能である点です。
税務署に出向く時間がないという方は電話で相談をすることが可能です。実際に申告書を作成した際に分からないことがあったり、添付書類について詳しく聞きたい場合は面談での相談ができます。
③についてですが、税務署の他にも税理士による無料相談もあります。
ですが、税理士への相談については、無料で受けられる時間が限られていたり、回数が限られていたりします。その点、税務署の相談は何度しても無料となっています。
以上のように、税務署への相談は気軽にできるため、ご自身で相続税の申告を済ませたいという方におすすめです。
5. 相続税の申告について税務署で相談するときの注意点
以上のように、相続税の申告については税務署に電話や窓口へ出向くなどの方法で、無料で相談することができます。
大変手軽で、相談しやすい方法ではありますが、相談内容によっては教えてもらえないこともあります。その注意点について解説させていただきます。
5-1 節税についてのアドバイスは期待できない
相続税の申告についての相談を受け付けている税務署ですが、アドバイスを受けられない相談があります。それが「節税についてのアドバイス」です。
おそらく、はじめての相続の場合、自分自身でネットの情報を調べることも多いと思います。その際に、節税のことを知り、もっと詳しく知りたいと思うのは不思議ではありません。
ですが、税務署では節税についてのアドバイスはしてもらえません。税務署が税の相談を受け付けているのは、納税者の皆さんに正しく納税をしていただくことを目的としているためです。
節税のアドバイスをしてしまうと、この目的からはずれてしまうことになります。
ですので、節税についてのアドバイスを受けたいと考えている方は、税理士への相談をおすすめします。
5-2 税務署の職員の回答が間違っていても責任はとってもらえない
次に注意しておいていただきたい点は、税務署の職員の回答が間違っている場合、その責任について税務署職員にとってもらえないということです。
税務署の職員の回答が間違うことがあるのだろうかと疑問に思われる方もいるでしょう。確かに、税務署は申告書の書き方や税金や税務について、詳しく相談にのってくれます。
ですが、相談に対応する税務職員の方が毎回違うため、その職員に応じて税に対する知識や対応にばらつきが出てしまいます。
新人の税務職員の方が対応する場合も多いようで、その差はベテランの職員さんとは大きくなることは否めません。
税務署は、実際に申告や納税された税金についてはチェックを行いますが、税務相談の内容までチェックはできません。
ですので、アドバイスのとおりに申告書を作成しても、修正を行わないといけない場合があるということを覚えておいてください。
6. 相続税の申告について税務署に相談するときに準備しておきたい3つのこと
気軽に相続税の申告について相談ができる税務署ですが、相続税についての一定の知識がないと困ってしまうことがあります。
それは、「正しい情報を伝える」ことができないと、「誤った情報」を伝えることになり、税務署からも「誤った回答」を得ることになってしまいます。
そこで、以下の3点についてはしっかりと理解しておきましょう。
6-1 相続税についての基礎知識の理解
まず一つ目に理解してほしいのは、相続税についての基礎知識です。
相続税とは、相続や遺贈によって財産を取得した場合に支払う税金のことです。相続税は、被相続人の財産(金銭や預貯金、株式や自動車、土地、建物など)に課されます。
これらの財産を金銭に換算し、遺産総額を算出します。
ここから基礎控除額と呼ばれる金額を減額していくのですが、この基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額 = 3000万円 + (600万円 × 相続人の数)
例としては、遺産総額4000万円の財産を法定相続人2人で相続する場合の基礎控除額は、
3000万円 + (600万円 × 2人) = 4200万円 > 4000万円(遺産総額)
となり、遺産総額を上回ります。その場合は、相続税はかかりませんし、申告も必要はありません。ただし、一定の特例が適用される場合は、申告が必要になることもあります。
相続税の申告と納付の期限は、相続開始があったことを知った日から10ヶ月となっています。
7. 相続人の人数・続柄
次に、相続人の人数や続柄が分かるものを準備しておきましょう。
上述のとおり、相続税の基礎控除額を算出するために相続人の人数が必要になります。
また、相続は民法に規定された相続人が相続すると定められており、その相続人のことを「法定相続人」と言います。
法定相続人になれる人物も規定されており、優先順位も決まっています。以下にまとめておきます。
法定相続人になれる人物
・配偶者(妻・夫)および被相続人の子や父母、兄弟姉妹などの血族
相続人の優先順位(配偶者は常に相続人になります)
第1順位:被相続人の子や孫(直系卑属)
第2順位:被相続人の父母や祖父母(直系尊属)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹
亡くなった方に子どもがいるか等によって、法定相続人が変わってきますので、被相続人を中心とした相続関係図を作成しておくと、相談もスムーズに進むものと思われます。
8. 遺産の内容などの事実関係の整理
相続によって取得する遺産について、相談内容に応じて整理しておくことも重要です。
例えば、土地や建物の評価額について相談したい場合は、土地・建物の所在地や面積が分かる、登記事項証明書や固定資産税課税明細書などが必要になります。
また、「小規模宅地等の評価減の特例」を利用したい場合には、土地の利用状況が分かるものを用意しておくことをおすすめします。
このように、相談内容に応じた書類を用意しておけば、税務職員の方から正確な回答を得ることができます。
また、遺言書がある場合には遺言書を、10年以内に発生した相続がある相続人がいる場合はその時の相続税申告書なども用意しておくことをおすすめします。
9. 相続税の節税についての相談は税理士がおすすめ
以上のように、税務署では相続税についての相談をすることができます。ですが、税の公平の観点から、節税についてのアドバイスを受けることはできません。
その点、相続に強い税理士に相談すると、相続税の節税に関するアドバイスを受けることができます。
また、相続税の計算や申告書の書き方は難しく、ひとりで行うには時間がかかります。
もし、お悩みの方がいらっしゃるなら、一度税理士にご相談することをおすすめします。
この記事の監修者:安井 貴生
税理士。大阪市内の税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、時代の流れもあり相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加している。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。