死の直前、自分で意思決定できるのは約3割–「ACP」を考える

更新日:2023.11.28

死の直前、自分で意思決定できるのは約3割–「ACP」を考える

皆さんは、自分が最期に受けたい医療やケアについて真剣に考えたことはありますか。

自分が迎えたい最期の形を希望通りに叶えるためには、事前にアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning; ACP)を行っておくことが重要です。

ここでは、ACPについて解説します。

ACPとは

ACPとはアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)のことで、自分の意思決定能力が低下する前に、家族や医療チームを交えて将来どのような医療ケアを望むのか、またどのような最期を過ごしたいかを話し合うプロセスのことをさします(※1)。

皆さんの中には、「もし急な病気や事故などで突然意識が回復する見込みが無いという状態に陥ってしまったとしたら、無理な延命はしたくない」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。

しかしもし突然倒れたとして、周囲の人にその考え方を伝えていなければ、誰にも本人が延命を望んでいないことは分かりません。

本人の意思に反して、回復の見込みが薄くても長期間にわたって延命治療が行われる可能性があるのです。

これは急な病気や事故など以外、例えばがんなどの比較的ゆっくり進行する病気であっても同様です。

このような状況下でも、自分が迎えたい最期の形を希望通りに叶えるために事前にACPを行っておくことが大切となっています。

日本では「人生会議」

平成30年に厚生労働省はACPの愛称を「人生会議」定め、国民への啓発が進められています。

啓発ポスターを目にした覚えのある方もいらっしゃるかもしれません(※2)。

ここでは、最期まで自分らしく生きる上で重要なACPの必要性や、実際にACPを行う際の流れについて解説します。

ACPの必要性

病気やけがに対する治療方針や、受けたいケアについては、本人の意思が最も尊重されるべきでしょう。

一方で、実際に生命の危機状態に迫った方の約70%は自身で意思決定ができないため、希望を伝えることが困難であるといわれています(※3)。

急な病状の悪化や事故などの場合に、自分の意思を伝えることができる状況かどうかは誰しも予測ができませんし、もっとゆっくり進行する病気でも、突然状態が悪くなることもあります。

そのため前もって自分の希望を周囲に伝えておくことが重要なのです。

また年齢を重ねたり、個人の状況に変化が生じたりすれば、人の考え方は変わるものですので、一度決めた方針が変わる可能性も大いにあります。

ACPは繰り返し行うことが可能ですので、考えが変わった際には、その都度新たに     話し合いを行いましょう。

ACPを実際にしている人はあまり多くない

厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関する意識調査」によると、「死が近い場合に受けたい医療・療養や受けたくない医療・療養に対して話し合いをすること」に賛成している人の割合は約6割

しかし、実際に家族と一応話し合ったことがある人の割合は全体の約4割、詳しく話し合ったことがある人の割合は約0.3割であった、という結果が報告されています(※4)。

このことから、ACPを行うことに賛成していても、実際に実施した経験のある人はまだまだ少ないということがわかります。

ACPを行っていない理由としては、「話し合うきっかけがない」「話し合う必要性を感じていないから」といった意見が挙げられています。

話し合う内容は「痛みや苦しみを少しでも和らげたい」「意識がないなら延命治療は避けてほしい」など、簡単な思いでもかまいません。

今後の生き方を前向きにするために、まずは些細なことであっても自分の人生の価値観について、信頼のおける人と話し合うことが大切です。

話し合いをする流れ

ACPを行う基本的な流れは以下の通りです。

ACPのプロセス1: 自分自身の希望や思いについて考える

自身の価値観や人生観、希望する医療措置やケアについて考えることで、将来ご家族があなたの思いを汲み取って判断を下す際に役立ちます。

ACPのプロセス2: 医療やケアについて学ぶ

医療者に相談しながら意思決定するために、知識をつけておく必要があります。    

医療の知識が不十分だと正しい判断ができないこともあるため、きちんとした情報源から必要な知識を学ぶことが重要です。

その際に、正しく自分の病気や見通しについて把握できているのか、自分がどこまで医療やケアについて知識があるのかを知っておくことも重要です。

わからないことがある時は、遠慮なく主治医や通院している医療機関の医療従事者等に声をかけてください。

ACPのプロセス3: 自分の代わりに、医療者に自分の意思を伝えてくれる人を選択する

自分の意思が伝えられなくなるタイミングがいつ訪れるかは、誰もがわかりません。

そのため、あらかじめ自分の意思を尊重してくれる人を選んでおくことが重要です。

代弁者は法的な親族関係だけではなく、親しい友人等でも可能です。また、複数人選ぶことも可能です。

ACPのプロセス4: 希望や思いについて周囲と話し合う

実際に希望や考えを医療者や代弁者に伝えることで、理解が深まります。また、足りていなかった知識を確認するきっかけにもなります。

ACPのプロセス5: 自分の考えを紙などに記載する

自分の意思が医療やケアに反映されるように、話し合ったことを文章として残します。

自分の考えが変わったときには、改めて考え直し、いざという時に自分が望む医療やケアが受けられるように備えておくことが重要です。

ここまで、ACPの必要性や流れについて紹介してきました。

ACPは本人の人生観や価値観を尊重するだけでなく、家族や友人など身近な人にとっても、「亡くなった方の考えや生き方を最期まで大切にできた」と感じられるようにするための、重要なプロセスでもあります。

ACPを行うことで、人生の終盤における考え方について周囲の人と一緒に整理し、最期まで自分らしい生き方を実現することを目指しましょう。

参考文献

※1: 公益社団法人東京都医師会「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)-人生会議-」(閲覧日2020年10月5日)

※2: 厚生労働省「人生会議」してみませんか ( 閲覧日2020年10月29日)

※3: The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE「死亡前の事前指示書と代理人による意思決定の結果」(閲覧日2020年10月5日)

※4: 厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調(報告書閲覧日2020年10月5日)

執筆者プロフィール
大島 華
看護師 兼 医療ライター。
慶應義塾大学看護医療学部卒業後、大学病院の内科混合病棟に従事。学生時代に「国際医療」をテーマに勉強会を開催するなど、医療系イベントの主催を行う。実際に医療現場で働く中で、人生観、死生観について考えていくことが大切だと感じる。医療の現状について、多くの人に伝えていきたいと考え、医療ライターとしても活動中。

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