亡くなった人への供養は葬儀が終えてからの日常生活の中で時間をかけて行われます。
家族は日々の生活の中で故人の冥福を祈り、ゆっくりと死別を受け入れていくのです。
日常的な供養のために用いられるのがお墓と仏壇ですが、核家族社会の昨今では、お墓や仏壇について詳しく知らないという人も数多くいます。
この記事では、葬儀社、仏壇店、墓石店に勤務する筆者が、お墓や仏壇についてわかりやすく解説いたします。
目次
お墓の種類と選び方
「お墓」は墓石以外に種類が
故人の遺骨はお墓の中に埋葬して供養します。お墓は言うなれば、亡き人の遺骨を土に還し、残された家族が故人に会うための場所です。
「お墓」と聞くと、私たちはついつい「墓石」のことを連想しますが、本来お墓という言葉は、埋葬と礼拝ができる場所の総称として用いられています。
ですから墓石以外にもさまざまなお墓があることをまずは理解しておきましょう。
- 墓石: 墓石は私たち日本人がもっとも多く用いてきたお墓の形です。墓石の下部には「カロート」と呼ばれる空間があり、その中に遺骨を埋葬します。礼拝は竿石(「◯◯家之墓」や「南無阿弥陀仏」と書かれた墓石)に向かって行われます。
- 納骨堂: 遺骨を納めるための納骨壇を備えた建物のことで、主に寺院の本堂や境内に設置されます。いわば「屋内型のお墓」なので、天候に左右されないのが人気の理由です。納骨堂には、ロッカー型、仏壇型、自動搬送型など、様々なタイプがあります。
- 樹木葬: 石ではなく樹木や草花を用いたお墓のことです。遺骨はカロートに埋葬し、礼拝は樹木に向かってなされます。もとは里山全体をお墓として、墓石やカロートなどの構造物を一切用いない自然の中での埋葬を樹木葬としており、いまでも里山型の樹木葬を行う寺院は一定数あります。
- 永代供養墓: 墓石の一種ですが、あととりや墓守のいなくなった人の遺骨をまとめて合祀するための石塔です。墓石、納骨堂、樹木葬、いずれの方法であれ、お参りの人がいなくなると、遺骨は最終的に永代供養墓にまとめられます。
墓地や霊園の種類
墓地や霊園は次の4種類に分けられます。
- 公営霊園: 公営霊園は、地方自治体が管理運営する墓地のことです。公益性が保障されているため、倒産や経営破綻の心配がなく、宗派や石材店の指定もありません。また、定期的な清掃や管理も行われ、常に清潔さが保たれているのが特徴です。そのため人気が高く、入手しづらいという側面もあります。
- 民営霊園: 宗教法人や公益法人が事業として営む墓地のことです。営業、販売、管理、施工などの面で民間業者と手を組んでいるケースが多く見られます。そのため石材店が指定されており、他の業者との比較検討ができません。公営霊園に比べて価格は高めですが、利用者のニーズに応えたお参りしやすい設計やサービスが特徴です。
- 寺院墓地: 寺院が檀家向けに提供している墓地のことです。お参りが便利なことに加えて、常に住職がそばにいてくれているという安心感があります。墓地の費用はお寺の方針次第です。檀家だからこそ安く提供するというお寺もあれば、高めに設定しているところもあります。新規でお墓を建てるのであれば、寺の檀家にならなければなりません。
- 共同墓地: 地域の自治会が管理する墓地のことです。地域住民のための墓地なので安価で、家から近い場所にお墓を持てるのが何よりの利点です。ただし、墓地の管理の質は自治会によって異なり、年に数回の清掃作業にも参加しなければなりません。
墓地や霊園を選ぶポイント
墓地や霊園は次に挙げる要素を総合的に判断して決めていきます。
- お墓の種類: 墓石、納骨堂、樹木葬など、お墓の種類を決めます。
- アクセス: 家からの距離だけでなく、走りやすい幹線道路があるか、駐車場が完備しているか、公共交通機関の利便性などから判断します
- 清掃・管理: 園内はきれいに清掃され、管理が行き届いているかを見極めます。
- 予算: 永代使用料や墓石の費用が予算の範囲内か、あるいは同一エリアの相場に適しているかを確認します。
- 雰囲気: お参りしたくなる環境か。日当たり、見晴らし、園内の雰囲気、周囲の環境など、現地で感じた直感を大切にしましょう。
墓石の選び方
墓地が決まれば次に墓石を決めていきます。墓石の価格はデザイン(=使用する石材の量)と石材の種類で大きく異なります。
- 巻石と石塔: 墓石のデザインは、石材店が区画にあったプランを用意してくれるので、それをたたき台に進めていくのがよいでしょう。墓石は主に、周囲を囲む「巻石」と、礼拝の対象となる「石塔」の組み合わせで作られます。巻石は、墓地の面積によって寸法が変わります。石塔は、和型、洋型など様々なデザインがあります。
- 墓石の種類: 墓石用の石材は国内外のものを合わせると100種類を超えます。国産が高く、海外産が安価な傾向にあり、石材によっては同じ形の墓石でも10倍の開きが出ます。中には高額な外国産の石材もあります。例えば国内ではなかなか採れない黒御影石などは、インド産のものがよく選ばれ、その希少性から高値がついています。
墓石の値段は、採石、運搬、加工のコスト、国内マーケットでの人気、需給バランス、硬さや吸水率などの石材のスペックなどによって決まります。
仏壇の種類と置き場所、選び方
仏壇の種類
仏壇では、その家の宗派の本尊と故人や先祖を祀ります。
お墓と並んで日常的に手を合わすことのできるとても大切な場所です。仏壇は、仕様と形状によって、次のように分けられます。
- 金仏壇: 漆と金箔が特徴で、主に浄土真宗の家で祀られます。浄土真宗では、阿弥陀如来が作られた極楽浄土に往生することを大切に考えます。真宗寺院の本堂では、まばゆい金箔、金具、彩色や蒔絵を用いて極楽浄土が再現されていますが、それを自宅用にしたのが金仏壇です。
- 唐木仏壇: 黒檀や紫檀などの銘木を用いた仏壇のことで、銘木の美しい木目を生かした作りが特徴です。東南アジアに銘木が多く、中国人を介して輸入していたことから「唐木」と呼ばれています。海外の木材だけでなく、日本で採れる木材(ケヤキ、エンジュ、クス、屋久杉など)も人気です。
- 家具調仏壇: 居間やリビングに合うモダンデザインの仏壇です。最近では仏間のない家が増えたため、伝統的な様式よりも使いやすさとデザイン性が重視され、家具調仏壇が多く選ばれるようになりました。家具でよく用いられるウォールナットやタモなどの木材、さらには漆塗りや象嵌細工、ガラスを用いた仏壇など、素材やデザインの自由度が高く、様々な個性的な仏壇が販売されています。
- 厨子型仏壇: 「ミニ仏壇」とも呼ばれ、本尊や位牌だけを納められるコンパクトな仏壇です。場所をとらず、安価に抑えられます。
宗派別のご本尊
仏壇内には、宗派によってそれぞれの本尊を祀ります。本尊は仏像、絵像(掛軸やスタンド)のいずれかが選ばれます。各宗派の本尊を下の表にまとめました。
仏壇を置く場所
もしも自宅に仏間があれば、仏間に設置するのがもっとも納まりが良いでしょう。
仏間がないのであれば、手を合わすときに一番心を落ち着けられる場所を選びましょう。
故人を身近に感じたいということでリビングに置く人もいれば、心静かに手を合わせたいことから和室に置く人もいます。
また、自宅で法要を行うのであれば、寺院や親戚が集まるときのことも想定して設置場所を決めるとよいでしょう。
位牌の選び方
位牌は故人そのものとして大切に祀られます。
仏壇がある場合は、先祖の位牌と比較しながら新しい位牌を選びましょう。
もしも仏壇がないのであれば、新しく迎える仏壇に合う位牌を選びましょう。
- 位牌を選ぶタイミング: 位牌は四十九日法要までに用意します。四十九法要を経て死者は祖先の仲間入りをするからです。この日を境に白木の仮位牌から本位牌に切り替えて、末長く祀っていきます。
- 位牌の種類: 位牌には、実に様々な種類があります。漆塗りと金箔が特徴の「塗り位牌」、表面に蒔絵をほどこした「蒔絵位牌」、黒檀や紫檀などの銘木で作られた「唐木位牌」、モダンなデザインの「モダン位牌」、複数の先祖の札板をまとめられる「回出(くりだし)位牌」などです。宗派による決まりなどは特になく、好みのものを選んで構いません。
- 位牌の大きさ: 新たに仏壇を購入する場合は、仏壇に合わせて位牌の大きさを決めます。適正寸法を仏壇店にアドバイスしてもらいましょう。もしもすでに家に仏壇があり、先祖の位牌が祀られているのであれば、新しい位牌が先祖の位牌よりも高くならないようにします。先祖の位牌と同等、あるいは一回り小さくします。
- 位牌の文字入れ: 位牌には、故人の戒名、命日、俗名、年齢を彫刻します。関東地方では表に戒名と命日、裏に俗名と年齢を、一方の関西地方では、表に戒名を、裏に命日を俗名と年齢を彫刻します。
また、宗派によって決められた文字を彫刻します。
例えば、真言宗では本尊の大日如来を表す梵字の「ア」、天台宗や浄土宗では阿弥陀如来を表す梵字の「キリーク」、日蓮宗では「妙法」などがあります。
三具足の選び方(香炉、花立、燭台)
三具足とは、香炉、花立、燭台のことで、3つの大切なお供え(香、花、灯)のための仏具です。
金仏壇や唐木仏壇のような伝統的な仏壇の場合、仏壇にあったものを仏壇店が用意してくれます。
仏壇内のスペースに余裕があれば、正式な形である五具足(花立と燭台が1対になる)で飾ることもあります。
家具調仏壇の場合は、三具足に湯呑と仏飯器を含めた5点セットで販売されているものが多いようです。
金属製、陶製、ガラス製など、デザイン性に富んだタイプなどもあり、仏壇に合わせた好みのものを自由にコーディネートします。
その他の仏具について
その他にも、仏壇の中には様々な仏具が飾られます。
- 吊灯篭: 天井から吊るされる灯りを灯すためのものです。火袋の中で電燈を灯します。
- 瓔珞: 天井から吊るされる金の装飾です。
- 常花: 蓮華をかたどったもので金属製や木製のものがあります。お花と同じ意味合いで本尊に飾られます。
- 茶湯器: お供えの水や湯を入れるための器です。
- 仏飯器: お供えのご飯を入れるための器です。
- 高坏(たかつき): お供え物を乗せるための足の長い器です。
- 経机: 仏壇の前に置く、経本を乗せるための机です。
- 線香差: 普段使う線香をすぐにとり出せるために指しておくものです。
- おリン: 礼拝を始めるときに「ちーん」打ち鳴らす梵音具です。
- 木魚: 僧侶が読経のときに打ち鳴らす木製の梵音具です。魚の彫刻が施されています。
- 過去帳: 先祖の戒名や命日などを書き記す帳面です。
- 打敷: 法事のときに用いられる金襴製の敷物です。浄土真宗は三角。それ以外の宗派は四角のものを用います。
- 御霊供膳: 法事のときに本尊や先祖に供えるためのお膳です。
仏壇の費用相場
仏壇の費用相場は形や大きさによって変わります。以下にまとめましたが、あくまでも一例として参考にして下さい。
- 厨子型仏壇: 数万円
- 上置き仏壇: 数万円~30万円程度
- 家具調仏壇: 20万円~50万円程度
- 唐木仏壇: 30万円~100万円程度
- 金仏壇: 50万円~200万円程度
線香の種類とあげ方
線香の種類
仏教において、本尊や先祖へのお供えとしてお香は欠かせないもので、その場の空気を清浄にする役割があります。
香を燃やして煙や香りを立てるものには、「焼香」「抹香」、さらには人を燃さずに香りで場を清める「塗香」「練香」などがありますが、棒状に加工した「線香」が私たちにもっともなじみ深いでしょう。
線香にも多くの種類があります。
材料による分類
線香には「匂い線香」と「杉線香」があります。
「匂い線香」はダブの木の樹皮を粉末にして、白檀や沈香などの香木、さらには多種多様な香料を混ぜて棒状に成形したものです。
伝統的な線香の香りの「香木系」と、煙を抑えて様々な花の香り付けをした「フレグランス系」に分けられます。
「杉線香」とは、杉の葉を粉末にして作った線香のことです。
匂い線香と比べて安価に製造でき、もくもくと煙が立つため、主に墓参りのときに使われます。
サイズや形状による分類
線香は、長さの違いによる、「短寸」や「長寸」、さらには寺院向けの長尺線香「中天香」や「大天香」などがあります。
その他、長時間使用できる「渦巻き型」や、火を用いずに線香の灯りを模した「電子線香」なども選ばれています。
線香のあげ方
線香の本数は宗派によって次のように定められています。
- 天台宗: 3本
- 真言宗: 3本
- 浄土宗: 1本〜3本
- 浄土真宗: 1本の線香を折って寝かす。火のついた先端を左に向ける。
- 臨済宗: 1本
- 曹洞宗: 1本
- 日蓮宗: 1本もしくは3本
火を灯して香炉に立てたら燃え尽きるまでそのままにしておきましょう。
ただし、どうしてもすぐに外出しなければならない、火事が心配だということであれば、すぐに消しても構いません。
いかがでしたでしょうか。お墓や仏壇があることで、私たちは亡くなった家族や先祖のことを思い出すことができます。
また、毎日を忙しく生活する現代人にとって、生活空間の中の祈りの場所は、ただ亡き人を供養するだけでなく、自分自身を見つめ直す上でもとても大切な場所ではないかと筆者は考えます。
もしもまだ家にお墓や仏壇がないという人は、小さいものでも構いませんので、「祈りの場所」を設けてみてもいいかもしれませんね。
玉川将人
1981年山口県生まれ。家族のたて続けの死をきっかけに、生涯を「弔い」に捧げる。葬儀社、仏壇店、墓石店に勤務して15年。会社員勤務の傍らでライターとして、死生、寺院、供養、終末医療などについて多数執筆。1級葬祭ディレクター、2級お墓ディレクター、2級グリーフケアカウンセラー。