被相続人が死亡した後に受け取れる生命保険金(死亡保険金)は、通常の相続財産と同じく相続税の対象となります。
このように、本来の相続財産ではないものの、特に相続税の課税対象とされている財産のことを「みなし相続財産」といいます。
死亡保険金は、相続税の対象にはなりますが、一定の非課税枠が設けられており、うまく使うことで相続税を節税することができます。
この記事では、死亡保険金を含むみなし相続財産の概要や、死亡保険金の非課税枠の計算方法・計算例等について、詳しくご紹介します。
目次
生命保険は相続税の対象となる
被相続人が生命保険に加入していた場合、被相続人が死亡した際に、受取人に対して死亡保険金が支払われます。
死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税の課税の対象となります。
生命保険の相続税についてはこちらをご覧ください。
みなし相続財産とは?
みなし相続財産とは、本来の相続財産(被相続人が死亡時に所持していた財産)ではないものの、相続税法の規定により相続税課税の対象になるものを指します。
被相続人の死亡をきっかけに取得する財産や、課税逃れに利用されやすい財産などが、課税の公平等の観点からみなし相続財産に指定されています。
みなし相続財産として扱われる主な財産は、以下の通りです。
・死亡保険金
・死亡退職金
・生命保険契約に関する権利
・定期金に関する権利 など
死亡保険金には非課税枠がある
被相続人が死亡した際に支払われる死亡保険金は、相続税との関係でみなし相続財産ではあるものの、非課税枠が設定されています。
死亡保険金の非課税枠の計算式は以下の通りです。
非課税枠=500万円×法定相続人の数*
※相続放棄をした者も含みます。また養子については、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までカウントできます。
この法定相続人とは、民法で定められた相続人のことをいいます。被相続人が結婚しているか、子どもがいるかなど、家族状況により法定相続人の数・範囲は変わってきます。
例えば、法定相続人が5人いる場合ですと、死亡保険の非課税枠は2,500万円です。
500万円×5人=2,500万円
ただし、死亡保険金の非課税枠が適用されるのは、受取人が法定相続人の場合のみです。
法定相続人以外の者(相続放棄をした者を含む)が死亡保険金を受け取った場合には、非課税枠が適用されず、相続税額が上がってしまうので注意しましょう。
死亡保険金が非課税になるケースは2パターン
死亡保険金が非課税になるケースとしては、以下の2パターンがあります。
・死亡保険金の非課税枠に収まる
・課税遺産総額が基礎控除額以下になる
前述の通り、死亡保険金の非課税枠は、500万円×法定相続人の数です。この金額の範囲内に死亡保険金の額が収まる場合、全額が非課税となり、相続税は課税されません。
また、課税遺産総額が基礎控除額以下の場合には、相続税が0円となるため、死亡保険金への相続税課税も発生しません。
相続税の基礎控除については、次の項目でご説明します。
相続税の基礎控除
相続税の基礎控除とは、相続税の課税対象とならない財産の限度額を意味します。
基礎控除額の計算式は以下の通りです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数*
※相続放棄をした者も含みます。また養子については、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までカウントできます。
例えば、法定相続人の数が5人だとすると、基礎控除額は3,000万円+600万円×5人=6,000万円となります。
つまりこの場合、課税遺産総額が6,000万円以下であれば、相続税は課税されません。
なお、平成27年の税制改正により、相続税の基礎控除額が5,000万円から3,000万円に引き下げられ、より多くの方が相続税の課税・相続税申告の対象になりました。
基礎控除・非課税枠についてはこちらをご覧ください。
相続税額が0円であれば、相続税の申告は不要
課税遺産総額が基礎控除額以下であった場合等、相続税額が0円となる場合には、基本的に相続税の申告は不要です。
ただし、課税遺産総額が基礎控除額以下でも、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用を受ける場合や、相続時精算課税の適用を受けている場合などには、相続税の申告が必要となります。
死亡保険金の非課税金額の計算例
それでは実際どのように死亡保険金の非課税金額を計算するのか例を挙げて説明します。
・生命保険の契約者・被保険者である夫が死亡
・死亡保険金は3,000万円
・保険金受取人は妻
・法定相続人は3人(妻・長女・次女)
・その他の課税対象財産額は7,000万円
まず、生命保険の非課税枠の計算をします。
法定相続人は3人なので、この場合の非課税枠は1,500万円です。
非課税枠=500万円×法定相続人の数=500万円×3人=1,500万円
死亡保険金の総額から非課税枠を控除すると、死亡保険金のうち課税対象となるのは1,500万円です。
死亡保険金の課税対象額=3,000万円ー1,500万円=1,500万円
これをその他の課税対象財産額と合算すると、全体としての課税対象財産額は8,500万円となります。
課税遺産総額=7,000万円+1,500万円=8,500万円
この事例の場合、相続税の基礎控除額は4,800万円です。
基礎控除額
=3,000万円+600万円×法定相続人の数
=3,000万円+600万円×3人
=4,800万円
全体としての課税対象財産額から、相続税の基礎控除額を控除すると、課税遺産総額は3,700万円となります。
課税遺産総額=8,500万円-4,800万円=3,700万円
保険金受取人が複数人の場合の非課税枠の配分
生命保険の死亡保険金の受取人は複数人設定することも可能です。
この場合、死亡保険金の非課税額は、実際に受け取った死亡保険金の額に応じて按分されて割り当てられます。
上記の事例で、例えば死亡保険金を妻が1,500万円、長女が900万円、次女が600万円受け取ったとします。
死亡保険金は3,000万円で、非課税枠は1,500万円です。
この場合、各受取人の死亡保険金の非課税枠は、以下の式で計算します。
各受取人の非課税枠=非課税枠の合計額×受け取った死亡保険金額÷死亡保険金の合計額
したがって、妻・長女・次女の非課税枠と、課税対象となる死亡保険金額は、それぞれ以下の通りです。
妻:
非課税枠=1,500万円×1,500万円÷3,000万円=750万円
課税対象となる死亡保険金額=
1,500万円(受け取った死亡保険金額)ー750万円(非課税枠)=750万円
長女:
非課税枠=1,500万円×900万円÷3,000万円=450万円
課税対象となる死亡保険金額=900万円(受け取った死亡保険金額)ー450万円(配分された非課税枠)=450万円
次女:
非課税枠=1,500万円×600万円÷3,000万円=300万円
課税対象となる死亡保険金額=600万円(受け取った死亡保険金額)ー300万円(配分された非課税枠)=300万円
法定相続人 | 死亡保険金 | 非課税額 | 相続税課税対象額 |
全体の金額 | 3,000万円 | 1,500万円 | 1,500万円 |
妻 | 1,500万円 | 750万円 | 750万円 |
長女 | 900万円 | 450万円 | 450万円 |
次女 | 600万円 | 300万円 | 300万円 |
生命保険の契約内容によって課される税金が異なる
死亡保険金は、誰が保険料(掛け金)を負担していたかによって、課税される税金の種類が異なります。
課税される税金の種類には以下のパターンがあります。
・相続税
・所得税
・贈与税
相続税が発生する場合
相続税が発生するのは、生命保険の掛け金を亡くなった本人が支払っていた場合です。
相続税が発生する保険で代表的なものは、定期死亡保険金があります。
また個人年金保険なども同じく、掛け金を亡くなった被相続人が支払っていた場合には相続税が発生します。
被保険者(名義) | 契約者(掛け金支払い) | 受取人 | 課税される税金の種類 |
被相続人 | 被相続人 | 誰でも可 | 相続税 |
所得税が発生する場合
所得税が発生するのは、受取人が自分で保険料を負担していた場合です。
この場合、実際に受け取った保険金額から、掛け金の総額を控除した利益分について、所得税が課税されます。
被保険者(名義) | 契約者(掛け金支払い) | 受取人 | 課税される税金の種類 |
被相続人 | 被相続人以外の者 | 契約者と同じ | 所得税 |
贈与税が発生する場合
贈与税が発生するのは、被相続人・受取人以外の者が保険料を負担していた場合です。
この場合、支払われる保険金全額について贈与税が課税されます(基礎控除等を除く)。
被保険者(名義) | 契約者(掛け金支払い) | 受取人 | 課税される税金の種類 |
被相続人 | 被相続人以外の者 | 被相続人・契約者以外の者 | 贈与税 |
相続について生命保険を活用するメリット
相続について、生命保険を活用するメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
・節税対策になる
・相続放棄をしても受け取れる
生命保険で受け取れる死亡保険金はみなし相続財産ではありますが、民法上の相続財産ではないので、ほかの相続財産とは扱いが少し異なります。
節税対策になる
生命保険の掛け金を支払うことで、相続財産を減らすことができます。
死亡保険金もみなし相続財産となるものの、一定の非課税枠が認められるため、現金でそのまま同じ額を残すよりも相続税の負担を軽減できます。
相続放棄をしても受け取れる
被相続人の借金が大きいことなどを理由には、相続放棄を選択した場合でも、死亡保険金については受け取ることが可能です。
ただし、相続放棄をしたことによって相続人ではなくなるため、死亡保険金の非課税枠は使えませんので注意が必要です。
解約返戻金は非課税枠を使えないことに注意
契約者が被相続人で被保険者が配偶者や子どもなど別の人であった場合は注意が必要です。
被相続人が契約者で掛け金を支払っていた場合、被相続人が亡くなったときに契約していた保険の解約をすることがあります。
このとき、亡くなったのは契約者のため死亡保険金は受け取れませんが、解約返戻金が受け取れる場合があります。
この解約返戻金に係る債権は、元々契約者である被相続人のものなので、相続財産となります。
しかし、解約返戻金は死亡保険金ではないため、非課税枠は使えませんので注意してください。
生命保険の非課税枠をうまく活用するには、専門家に相談を
死亡保険金の非課税枠を活用して、相続税を節税したい場合には、非課税枠に関するルールを正しく理解する必要があります。
相続税対策のやり方によっては、期待していた節税効果が得られないこともあるので注意が必要です。
生命保険を活用した相続税対策について、少しでも不安な点や疑問点がある場合は、税理士などのの専門家に相談することをおすすめします。
つぐなびでは、相続に強い全国の士業の専門家を探すことができます。
また、お悩み別にどの士業に相談できるかも検討できますので、ご自身の悩み・不安を解決するためにぴったりな士業を探せます。
また、それぞれの士業の実績や利用者の評判、料金なども確認できます。
生命保険の活用や保険金の非課税などについて疑問・不安のある方、相談されたい方は、ぜひ下記より相続に強い税理士をお探しください。
この記事の監修者:阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(税理士法51条1項に基づく国税局長への通知により、税理士業務も行う)。
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。
各種webメディアにおける法律・税務関連記事の執筆にも注力している。
この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
2020年04月のオープン以降、専門家監修のコラムを提供しています。また、相続のどのような内容にも対応することができるように
ご希望でエリアで司法書士・行政書士、税理士、弁護士を探すことができます。