生命保険に相続税はかかるのか?生命保険をうまく活用し相続税を軽減する方法

更新日:2023.12.20

生命保険に相続税はかかるのか?生命保険をうまく活用し相続税を軽減する方法

相続税対策の一環として、生命保険に加入したりすでに加入済みの生命保険の契約内容を見直したりする人は少なくありません。

生命保険をうまく活用すれば、相続税の課税対象財産を減らし、結果的に相続税を軽減できる可能性があるためです。

ここでは、生命保険に加入した場合の節税方法とメリット、注意点についてご紹介します。

どれくらいの相続税がかかるのか、具体例を用いたシミュレーションも行うので、ぜひ参考にしてみてください。

1. 生命保険金の受け取りで相続税が発生する?

生命保険は、被保険者が死亡したときに受取人に対してお金が支払われる保険です。

生命保険の死亡保険金は、亡くなった人(被相続人)の財産ではなく、受取人が取得する固有財産です。したがって生命保険金は、法律上の相続財産には含まれません

しかし、相続税の計算上は、被相続人が保険料を支出している場合には、生命保険金が「みなし相続財産」として課税対象となります。

生命保険の死亡保険金以外にも、以下の財産がみなし相続財産に該当し、相続税が課税される仕組みです。

・被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産

・死亡退職金(死亡後3年以内に支給が確定したものに限る)

・個人年金や定期金の受給権

など

2. 生命保険は契約内容によって税金の種類が異なる

生命保険の死亡保険金は、保険料を誰が支出したかによって発生する税金の種類が異なります。下記で詳しくご紹介します。

2-1 被相続人が保険料を支払っているなら相続税

亡くなった被相続人が保険料を支払った場合は、生命保険の死亡保険金について相続税が発生します

例えば、被保険者および保険料を支払う人が夫、受取人が妻と子という契約内容で保険に加入し、夫が死亡した場合、生命保険金がみなし相続財産の扱いになるので相続税が発生します。

法定相続人の順位とは

生命保険の死亡保険金の受取人は誰でもなれるのではなく、不正に支払われるのを防ぐために限定されています。

具体的には、配偶者、一親等(親、子)、二親等内(祖父母、兄弟姉妹、孫)が受取人に指定することが可能です。

二親等内の血族がいない場合は、三親等内の血族(叔父・叔母・甥姪など)を保険金受取人にできる保険会社もあります。

2-2 受取人が保険料を支払っているなら所得税・住民税

受取人が自ら保険料を支払っている場合、受け取った生命保険の死亡保険金と支払保険料の差額が一時所得となり、所得税・住民税が発生します。

夫が妻を被保険者として生命保険に加入させ、保険料を支払うのは夫、受け取るのも夫といったケースがこれにあたります。

2-3 第三者が保険料を支払っているなら贈与税

保険料を支払っているのが、被相続人・受取人以外の第三者である場合、支払われる生命保険の死亡保険金には贈与税がかかります。

例として、夫が妻を被保険者として生命保険に加入させ、保険料を支払うのが夫、保険金を受け取るのは子といったケースが挙げられます。

贈与税は110万円の基礎控除があるので、保険料から110万円を差し引いた金額に贈与税が課税される仕組みです。

3. 生命保険には非課税枠が設定されている

生命保険には非課税枠が設けられており、生命保険の死亡保険金額が非課税枠内に収まっていれば相続税は発生しません。非課税枠の金額は、法定相続人の数によって金額が異なります。

非課税枠の金額は500万円×法定相続人の数で計算します。

例えば、夫、妻、子2人の家庭で、生命保険の被保険者である夫が死亡した場合、法定相続人の数は妻と子2人の合計3人になるので、非課税枠は500万円×3人=1,500万円です。

受け取った生命保険金から1,500万円を差し引いた金額が、相続税の課税対象財産となります。

なお、法定相続人の数には、相続放棄をした人もカウントします。

また、法定相続人の数にカウントできる養子の人数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです(特別養子縁組をした養子は、実子として取り扱います)。

4.【具体例あり】生命保険の死亡保険金で税金が発生するケースとは

生命保険金が支払われる場合の相続税を計算する前に、基礎控除について解説します。

相続税は、被相続人から受け継いだ財産のすべてにかかるものではなく、基礎控除額の範囲内の課税対象財産は課税の対象外になります。

課税対象財産の合計額が基礎控除額の範囲内であれば、相続税は課税されず、原則として相続税申告もいりません

基礎控除額は法定相続人の数によって異なり、計算式は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。

例えば夫、妻、子2人の家庭で夫が死亡した場合、法定相続人は妻と子2人の合計3人です。この場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。

仮に夫が残した財産(みなし相続財産を含む)が1億円だった場合、基礎控除を差し引いて1億円-4,800万円=5,200万円に対して相続税が発生します。

もし課税対象財産の合計額が基礎控除4,800万円以下であれば、相続税は0円となり、原則として相続税申告も不要です。

下表では法定相続人の人数ごとに基礎控除額をまとめているので、参考にしてください。

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円
5人 6,000万円
6人 6,600万円
7人 7,200万円

このように、基礎控除は法定相続人が多ければ多いほど基礎控除が増える仕組みになっています。

4-1 法定相続人が配偶者・子ども2人の場合

では、先ほどの例で夫の遺産総額が5,000万円、死亡保険金が3,000万円(それ以外に課税対象財産はなし)だった場合、相続税はいくらになるのか計算してみましょう。

はじめに生命保険の非課税枠から計算します。先述したとおり、相続人は妻と子2人の合計3人なので、非課税となるのは500万円×3人=1,500万円です

死亡保険3,000万円から非課税枠である1,500万円を差し引きます。3,000万円-1,500万円=1,500万円となり、1,500万円が課税対象です。

この1,500万円を遺産総額5,000万円に加算します。1,500万円+5,000万円=6,500万円。この事例での課税対象財産の総額は6,500万円です。

そこから前述した基礎控除を差し引きます。法定相続人が3人の場合の基礎控除額は4,800万円なので6,500万円-4,800万円=1,700万円。

つまり、死亡保険金を含めたすべての課税対象財産のうち、1,700万円に対して相続税が発生する計算になります

なお、仮に遺産総額が3,000万円だった場合、死亡保険金の課税枠1,500万円を加算すると課税対象財産の総額は3,000万円+1,500万円=4,500万円となり、基礎控除額の4,800万円を下回っているので、相続税は発生しません。

【関連記事】相続税の基礎控除(生命保険の場合)についてもっと知りたい方におすすめ
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相続税の基礎控除は生命保険にも使える?生命保険の相続税対策をご紹介
>コラム:生命保険にも【相続税がかかる!?】|基礎控除・非課税枠を知ろう!

5. 注意:生命保険金でも、非課税枠が適用されない場合がある

生命保険から支払われる保険金の中で、非課税枠が適用されるのは死亡保険金のみです。

それ以外の給付金・保険金等については、生命保険から支払われるものであっても、非課税枠が適用されない点に注意しましょう。

5-1 入院給付金

入院給付金は、ケガや病気の治療費を捻出するために支出することを想定した給付金であり、生命保険金とは性質が異なります。

そのため、被保険者が死亡した際に還付される入院給付金は相続財産として扱われる一方で、生命保険金の非課税枠が適用されません

5-2 生存保険金

生存保険金は、生存している間に契約し満期を迎えるまでに支払われる保険金です。被相続人が生きている間に定期的に支払われていたものが死亡後になっても、保険金が支払われていることがあります。

この場合、生存保険金は相続財産として扱われる一方で、生命保険金の非課税枠の対象外となります

5-3 特約還付金

生命保険を契約する際、入院特約や収入保障特約など、さまざまな特約を付帯できます。この特約のお金が返ってくることがあり、これを特約還付金といいます。特約還付金も相続財産として扱われる一方で、生命保険金の非課税枠は適用されません

なお、まれに死亡保険金の支払い遅延があった場合に「遅延利息」が払われることがありますが、これは相続税の課税対象外となります

6. 生命保険で相続税対策をするメリットとは

生命保険を利用した相続税対策をするとどのようなメリットがあるかご紹介します。

6-1 メリット1:受取人が財産を活用しやすい

口座名義人である被相続人が亡くなると、金融機関は不正利用を防ぐために被相続人の口座を凍結するので、相続人は(一定額を除いて)出金ができなくなります。

最終的にすべての残高を引き出すためには、遺産分割の完了を待たなければなりません。

これに対して生命保険の死亡保険金は、手続きさえ完了すれば数日でお金を受け取れます。

支払われた死亡保険金は葬儀費用に充てることも、納税の費用に充てることもできます。貯蓄・資産運用・買い物などに回しても構いません。

このように、被相続人が生命保険に加入していると、受取人に対して速やかに現金が支払われ、スムーズに財産を活用できるメリットがあります。

6-2 メリット2:代償分割の際に便利

代償分割とは、相続人の中の1人または数人だけが不動産や株式などを取得した場合に、他の相続人に一定の代償金を支払う遺産分割の方法です

例えば、相続財産の大半が不動産で、預貯金や金銭がほとんどない場合、特定の相続人だけが不動産を取得して、他の相続人はほとんど何も相続できないのは不公平です。

この場合、一部の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払うことで、相続人間の公平を図ることができます。

代償分割を行う際に問題となるのが、代償金の支払い原資を確保できるかどうかという点です

この点、生命保険の死亡保険金が支払われれば、代償金の支払いに充てることができるため、代償分割を実現しやすくなります。

6-3 メリット3:商品によっては暦年贈与による節税が可能

生命保険商品の中には、受取人に対して毎年一定の生存給付金を暦年贈与できるプランを取り扱っているところがあります。贈与は毎年110万円までなら贈与税がかからないので、この非課税枠を活用すれば、一定の節税効果を期待できます

 6-4 メリット4:相続放棄をしても死亡保険金の受け取りは可能

相続放棄は、相続人が相続権の一切を放棄する意思表示です。

借入金やローンなど、マイナスの財産が多い時に相続放棄をすることがあり、相続開始から3か月以内に裁判所に申述し、受理されれば相続放棄ができます。

相続放棄をしても、生命保険の死亡保険金の受け取りは可能です。なぜなら生命保険金は被相続人の財産ではなく、保険金を受け取る人の固有財産にあたるからです。

特に、被相続人が多額の借金を抱えていて、相続放棄が濃厚なケースでも、生命保険に加入していれば、相続人に一定の財産を残せる可能性があります。

7. 生命保険で相続税対策をする場合のポイント

生命保険を利用した相続税対策に一定の効果があることはおわかりいただけたことでしょう。

ここでは、具体的にどのような生命保険を契約すればいいのかご紹介します。

ただし、具体的にどのような生命保険の活用方法が適しているかは、資産状況や相続人の人数などによって異なります。そのため、下記はあくまでも参考として、ご自身の状況を個別に分析したうえでご判断ください。

7-1 子ども・孫に生命保険をかける

相続税対策として考えた場合、死亡保険金の受取人は、配偶者よりも子や孫などにしておいた方が、高い節税効果を期待できます

配偶者については税額軽減が適用され、法定相続分か1億6,000万円のいずれか高い金額の範囲内の取得財産につき、相続税がかかりません

これに対して、子や孫にはそうした優遇措置がないため、配偶者よりも相続税の負担が重くなります

もし子や孫に財産を残したいならば、相続や遺贈よりも生命保険を利用した方が、非課税枠を活用できる分、税務上有利になることが多いです

7-2 一時払い終身保険を契約する

保険商品の中には契約時に保険料を一括払いする「一時払い終身保険」というものがあります。一時払い終身保険は保障が一生涯続き、貯蓄性もあることから節税対策に利用されることがあります。

ただ、デメリットとして通常なら月払い、年払いをするような保険料をまとめて一括で払うので、ある程度まとまった資金が必要な点が挙げられます

なぜ、一時払い終身保険は相続税対策になるのでしょうか。仮に相続人が配偶者と子2人の場合、生命保険の控除額は500万円×3人=1,500万円です。

1,500万円分の一時払い終身保険を契約していればそのまま全額が控除されます。

反対に、1,500万円を保険料に充てずに、預貯金として残していた場合、相続税の課税対象となるので、生命保険を活用した場合よりも相続税額が増えてしまうのです

まとまった資金を用意できる方は、一時払い終身保険の契約を検討してみてはいかがでしょうか。

8. まとめ

生命保険を利用した相続税対策についてご紹介しました。相続税は基礎控除だけでなく、生命保険の非課税枠も活用して節税対策ができます。

ただし、保険料を誰が支払っているかによって、課される税金の種類が変わってくるので注意が必要です。

生命保険を使った節税対策を検討している方は、相続に詳しい税理士などと相談しながら、自分に合った対策を選んでみましょう。

この記事の監修者:阿部 由羅

ゆら総合法律事務所・代表弁護士(税理士法51条1項に基づく国税局長への通知により、税理士業務も行う)。

西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。

ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

各種webメディアにおける法律・税務関連記事の執筆にも注力している。

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