世間一般的には「相続税」は非常に高いというイメージがあるのではないでしょうか
例えば、「遺産のほとんどを取られてしまう」とか、「遺産を売却しないと払えない」などです。このように、世間でまことしやかにささやかれていることは、本当なのでしょうか。
本記事では、そんな「相続税」について徹底解説させていただき、不安を取り除ければと思います。
目次
1.遺産の相続にかかる税金は「相続税」と呼ばれる
相続とは、ある人物が亡くなった場合にその人物の財産(すべての権利や義務)を特定の人物が引き継ぐことを言います。簡単に言うと、亡くなった人の遺産を配偶者や子どもたちなどの関係者がもらい受けることです。
ある人が亡くなって相続が発生した場合、その人の遺産を受け継ぐことになった法定相続人(配偶者や子ども)は、その残された財産の分け方の相談を行います。
そして、その相談の決定を受けて一定期間内に税金を納めることになっています。このように法定相続人が受け継ぐことになった遺産に課される税金のことを「相続税」と言います。
2. 遺産の相続に税金(相続税)がかかる場合
次に、どのような遺産に相続税がかかるのでしょうか?
相続税のかかる財産というのは、簡潔に言うと、亡くなった日に被相続人が持っていた、「金銭」で見積もることができるすべての財産となります。土地や建物、現預金・株式などが挙げられます。
また、みなし相続財産と呼ばれるものがあり、被相続人が亡くなった場合に相続人が財産を受け取るケースがあります。例えば、生命保険金や死亡退職金(退職金をもらわない内に亡くなった場合に支払われる退職金)には、相続税がかかります。
更には、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産にも相続税はかかりますし、相続人以外の親族が被相続人の介護や看護を行った場合に請求できる「特別寄与料」にも相続税がかかります。
3. 遺産の相続に税金(相続税)がかからない場合
相続や遺贈によってもらった財産であっても、すべてに相続税がかかるわけではありません。相続税のかからない財産のことを「非課税財産」と言います。
これら非課税財産は、財産の性質や国民感情、社会政策的な面から相続税をかけないことになっています。
それでは、どのような財産が非課税となるのでしょうか。
まず、お墓や仏壇には相続税がかからないとされています。どれだけ立派で豪華なものであっても、お墓や仏壇は非課税となります。また、お墓や仏壇以外にも神棚、位牌、神具なども非課税となりますので、覚えておいてください。
次に、お葬式の時にもらう香典や花輪代も相続税がかかりません。これらは、遺族への弔意を表わすものとして慣習化しており、このようなものにまで相続税を課すのは不適当であると考えられています。
最後に、相続や遺贈によってもらいうけた財産を国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付した場合、その寄付した財産については非課税となっています。
4. 遺産相続にかかる税金(相続税)の計算方法
それでは、これから遺産相続にかかる相続税の計算方法を解説させていただきます。冒頭で記述したように、本当に相続した財産のほとんどを税金として支払わなくてはいけないのでしょうか。
遺産を売却しなくてはいけないほどの税金が課されてしまうのでしょうか。相続税の計算方法を理解することで、皆さんの心配は解決するのではないでしょうか。
4-1 STEP.1 課税遺産総額を計算する
まずは、課税遺産総額の計算を行います。課税遺産総額を計算するには、最初に相続人ごとの課税価格を出すことになります。
これは、法定相続人だけではなく、遺贈によって財産を取得する人(受遺者)も含みます。
課税価格は、「本来の相続財産」と生命保険金等の「みなし相続財産」を合算します。その合計額から債務(未払金や借入金)と一定の葬儀費用を債務控除として差し引きます。
ここで、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があればそれを加算します。この額が各相続人の課税価格になります。
そして、各人の課税価格を全員分合計し、そこから基礎控除額を引いたものが「課税遺産総額」となります。
4-2 STEP.2 基礎控除額を差し引き、相続分を計算する
それでは次に、相続分の計算の仕方を見ていきましょう。基礎控除額は、以下の式で算出されることになります。
3000万円+(600万円×法定相続人の数)
ここで注意しておきたいのが、「法定相続人の数」です。これは、民法と税法では考え方が違います。例えば、相続放棄をした相続人の取り扱いですが、民法上では「相続人ではない」とされます。ですが、税法上では「相続人である」として扱うことになります。
また養子に関しても、民法と税法で取り扱いに違いがあります。民法上、養子の人数は制限がありません。しかし、税法上では被相続人に実子がない場合は2人まで、実子がある場合は1人までと決まっています。
こうして、法定相続人の数が確定した後、上記の計算式に当てはめることで、相続分を計算していくことになります。
4-3 STEP.3 相続人ごとに相続できる遺産総額を計算する
①相続税の総額の計算
→遺産総額を法定相続分で相続したと仮定して各相続人の相続税を計算し、それを合計して相続税の総額を計算する。
②各相続人の相続税の計算
→相続税の総額を各相続人が相続した財産の価額に応じて按分して、各相続人の相続税を計算
4-4 STEP.4 特例や控除などを入れて納税額を計算する
各相続人の負担すべき相続税が決定すれば、特例や控除を入れて納税額を計算していきます。相続税の税額計算をする際には、一定の金額を控除できる特例があります。
相続税の税額控除には、以下の6つがあります。
・暦年課税分の贈与税額控除
・相続税の配偶者控除
・未成年者控除
・障害者控除
・相次相続控除
・外国税額控除
相続税の配偶者控除とは、配偶者だけが利用できる制度で「配偶者の税額軽減」とも呼ばれています。この制度を利用すれば、配偶者は1億6000万円か法定相続分のどちらか大きい金額まで相続税がかからないことになります。
利用できれば大きな軽減となりますが、申告期限までに遺産分割が完了していないと、使うことができませんのでご注意ください。
以下に相続税の早見表を掲載しますのでご参照ください。
5. 遺産相続の税金を計算する際に注意しておきたい6つのこと
遺産相続の税金を計算する際に、注意しておいていただきたいことがあります。前述させていただいたとおり、相続税には一定の金額を控除してもらえる制度があります。
また、遺産相続をした際には相続登記も必要となるため、注意してもらいたい点がいくつかあります。ここでは、その内容を解説させていただきます。
5-1 配偶者控除
被相続人の配偶者であった相続人は、「相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)」という制度が利用できます。この制度は、配偶者の財産形成への貢献や配偶者の生活保障が目的とされています。
配偶者控除を利用した際の相続税は、法定相続分相当額か1億6000万円のうち、いずれか大きい方の額を差し引いた額に課税されることになります。
ほとんどのご家庭では、この制度を利用することで配偶者である相続人の相続税は課税されないことになると思われます。
この制度は、婚姻期間に制限がありませんので、婚姻期間がたとえ1日であっても適用されることになります。ですが、申告期間内に遺産分割が完了していないと利用できないことになっています。
5-2 未成年者控除
相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者である相続人が本来納めるべき相続税額から一定の金額を控除することができます。
未成年者は多くの場合、収入がないことが多いと考えられます。ですので、未成年者の教育費などは相続財産に頼らざるを得ないと言えるでしょう。
そこで、未成年である相続人は、20歳(令和4年4月1日以降からは18歳)になるまでの年数によって計算した金額を相続税額から引くことになります。その金額は下記のとおりです。
相続人が20歳になるまでの年数×10万円(1年につき)
例えば、相続の開始が相続人が12歳6ヶ月の時だった場合、8年(1年未満は切り捨て)掛ける10万円となり、80万円となります。
未成年者控除を受けるには、相続開始日に未成年であり、日本国内に住所があり、法定相続人であることなどの要件があります。
5-3 障害者控除
相続人の中に85歳未満の障害者がいる場合には、相続税の障害者控除が適用されます。注意していただきたいのは、「被相続人が障害者ではない」という点です。
障害者控除は、相続人が85歳になるまでの年数によって計算されます。また、障害の区分によって控除される金額が変わってきます。
障害の区分は、「一般障害者」と「特別障害者」に分けられます。「一般障害者」とは、身体障害者手帳上の障害等級が3~6級、精神障害者保健福祉手帳上の障害等級が2級または3級の場合を言います。
「特別障害者」とは、身体障害者手帳上の障害等級が1級または2級、精神障害者保健福祉手帳上の障害等級が1級の場合を言います。
控除額の計算方法は、以下の計算式によります。
相続人が85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者の場合は20万円)
未成年者控除の場合と同様に、相続開始時に障害者であったことや日本国内に住所を有すること、法定相続人であることなどの要件が必要となります。
5-4 小規模宅地の特例
被相続人が居住用または事業用として使用していた宅地を相続した場合、一定の要件を満たすことで、評価額の最大80%(貸付事業用の場合は最大50%)減額されます。この制度を「小規模宅地等の評価減の特例」と言います。
この特例を受けるには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割が成立していることが必要になります。
また、宅地の種類ごとに限度面積が決められており、特定居住用宅地は330㎡、特定事業用宅地は400㎡、貸付事業用宅地は200㎡となっています。
更に、誰が相続したかも適用の要件となっています。特定居住用宅地を例に取ると、相続したのが配偶者であれば、無条件で適用されます。相続開始の直前に被相続人と同居していた親族の場合は、申告期限まで所有・居住の継続が必要です。
配偶者も同居親族もいない場合、持ち家のない親族が取得した場合は、申告期限までに所有することが条件となります。
5-5 贈与税額控除
相続や遺贈によって財産をもらった相続人が、相続開始の3年以内に被相続人から贈与によって財産をもらったとします。
その場合、被相続人から贈与によってもらった財産は、相続財産に加えて相続税を計算することになっています。つまり、生前3年以内に贈与を受けた財産は、課税価格に加算されるということになります。
その場合、生前の贈与の時には贈与税を支払い、相続の時は相続税を支払うという具合に同じ財産に二重に課税することになってしまいます。
そこで、生前に贈与された財産が課税価格に加算された相続人については、支払った贈与税額を相続税から控除することになっています。この制度のことを、贈与税額控除と言います。
5-6 登録免許税
本来、遺産相続や遺贈によって不動産を取得した場合、所有権移転登記を行い名義を変更する手続きがあります(将来的に義務化されることが決まりました)。その際に、納める登録免許税は不動産評価額の1000分の4と決まっています。
ですが、相続により土地の所有権を取得した人が、所有権移転登記を受ける前に亡くなった場合、令和4年3月31日までにその亡くなった人の土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については登録免許税が課されません。
また、令和4年3月31日までに、土地に関しては所有権保存または所有権移転を受ける場合、その土地が相続登記の促進を特に図る必要がある一定の土地かつ登録免許税の課税基準となる不動産の価格が10万円以下の場合、登録免許税が課せられません。
6. 相続した遺産は所得税がかかる?確定申告は必要?
相続や遺贈によって遺産を相続した場合、所得税は課せられるのでしょうか。結論から言いますと、所得税はかかりません。
というのも、贈与税額控除の説明でも触れさせていただきましたが、相続によって得た財産に相続税と所得税の二つが課せられると、二重課税となってしまいます。
ですので、相続や遺贈によって得た遺産には所得税がかかりませんので、確定申告の必要もありません。
以上が原則ではありますが、所得税がかかる場合もあります。
例えば、相続した遺産を売却した際、購入していた金額より高く売れた場合の売却益は、「譲渡所得税」として売却した翌年に確定申告をする必要があります。
また、生命保険金にも所得税がかかることがあります。
例えば、保険の契約者と受取人が同一人物である場合や、保険金を一括で受け取らず、年金型保険を継続して受け取る場合は所得税がかかり、確定申告が必要になります。
7. 相続税の納税方法・申告方法
ここでは、相続税の納税方法や申告方法を解説させていただきます。相続や遺贈によって遺産を取得した相続人もしくは受遺者は、相続開始の日の翌日から10ヶ月以内に、被相続人の住所地の所轄税務署に相続税の申告・納付をすることになっています。
申告の際に作成する申告書は被相続人1人につき1つ作成し、相続人が複数いる場合、原則として共同で1つ作成します。
また、申告書の他にも様々な添付書類が必要となってきます。その詳細は申告に必要な書類について書いているこちらをご覧ください。
相続税の納税方法は原則として、「現金一括払い」となっています。ですが、申告期限までに現金で納付できない事情があり、一定の条件を満たした場合に限って、申請書を提出したうえで延納の制度を利用することができます。
また相続税を金銭以外の相続財産で納付する「物納制度」もあります。
8. 相続税を減らす方法や、税金対策を行いたい場合は相続専門の税理士へ相談しましょう
以上のように、相続税の計算には土地や建物の価格が分からなかったり、遺産の総額が億単位になる場合は、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
自分でできそうだけど、ちょっと不安があるという方も是非、税理士へ相談してみてください。
相続税の見積だけでなく、ここまでに述べてきた相続税控除の特例等についても教えてもらえます。相続でお困りの際は、お一人で悩まずに一度税理士へ相談してみてください。
この記事の監修者:安井 貴生
税理士。大阪市内の税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、時代の流れもあり相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加している。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。