「建物・家屋を相続するとき、相続税はいくらになるの?」
「建物・家屋の相続でも節税は可能なの?」
故人が亡くなり相続が開始したとき、相続財産に建物・家屋が含まれていた場合に相続税はいくらになるのでしょうか?
預金と違って建物・家屋はすぐに値段が分かりません。しかし間違いなく資産ですので相続税がかかってきます。
それでは建物・家屋の相続税評価額はどのように計算をするのでしょうか?
この記事では建物・家屋の相続税評価額について、また相続の際の節税について、詳しくご紹介します。
目次
1. 建物・家屋の相続税評価額とは?時価になるって本当?
建物・家屋といった相続財産は、銀行口座に入っている預金と違い、一目でその価値がいくらなのかが分かりません。
しかし建物・家屋にももちろん価値があり、相続税がかかってきます。
それでは相続税を評価するための相続税評価額はどのようにして算出されるのでしょうか?
答えは、家屋の相続税評価額の計算は、固定資産税評価額に1.0を乗じて算出します。
つまり、相続税評価額は固定資産税評価額と同じ金額になります。
固定資産税評価額は市区町村役場から毎年送付される「固定資産税の課税明細書」に記載があり、金額の確認をすることができます。
また、市区町村役場の資産税課で「名寄帳」をもらう場合でも固定資産税評価額を確認することができます。
名寄帳とは、個人所有の不動産の明細を一覧で確認できるもので、非課税の不動産も記載されています。
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2. 【シーン別】建物・家屋の相続税評価額の計算方法
それではどのような場合でも建物・家屋の相続税評価額は一定なのでしょうか?
結論からいうと、建物・家屋の相続税評価額は状況によって変化します。
相続される家屋をどのように利用していたのか、また誰が利用しているのかといった違いで、評価額が調整されます。
それではどのような場合に相続税評価額は調整されるのでしょうか?シーン別に詳しくご説明いたします。
2-1 被相続人が利用していた建物の場合
被相続人が利用していた、つまり亡くなって相続の発生した故人が居住用や事業用の建物として利用していた建物・家屋のケースです。
基本的には固定資産税評価額に1.0を乗じて算出するので、固定資産税評価額と同額になります。
建物・家屋の相続税評価額=固定資産税評価額×1.0
また限度面積までの部分について、その評価額の一定割合を減額する「小規模宅地等の特例」という相続税の特例があります。
これは被相続人もしくは被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業用または居住用に使っていた宅地などのうち一定のものがある場合には、そのうち一定の面積までの部分について相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、定められている区分ごとにそれぞれに対応した定められた割合で減額がなされます。
ただし、この特例が適用されるのは土地もしくは土地の上に存在する権利についてで、建物に該当しません。
ですので所有しているものが建物のみの場合は適用できません。
この特例については後ほど別のトピックにて詳しく説明いたします。
2-2 第三者に貸していた建物の場合
賃貸されている建物・家屋については、権利関係に応じて評価額が調整されることになっています。
貸している建物・家屋の評価額は以下のように計算します。
建物・家屋の相続税評価額=建物の固定資産税評価額×(1ー借家権割合×賃貸割合)
借家権割合は、一般的に30%で計算されます。
賃貸割合とは、相続税が課税されるタイミング、つまり被相続人が亡くなった時、実際に賃貸されている貸家の割合を指します。建物を丸ごと賃貸している場合、賃貸割合は100%になります。
また、第三者に賃貸されている建物・家屋は、事業用に用いられていた場合でも「貸付事業用宅地等に該当する場合の小規模宅地等の特例」が適用される可能性があります。
この特例の要件を満たせば宅地の評価額を減額することが可能です。
ただしこの特例も適用できるのは宅地の評価額についてで、建物の評価額自体には適用されませんので注意が必要です。
2-3 賃貸マンション・アパートの場合
相続した建物・家屋が賃貸マンション・アパートとして貸し出されていた場合も、上記と同じ計算式を用いて算出します。
こちらも借地権割合の計算は一般的に30%で行います。
建物・家屋の相続税評価額=建物の固定資産税評価額×(1ー借家権割合×賃貸割合)
上記計算式の賃貸割合は、空室がない、つまり満室の時に100%となります。なので満室に近ければ近いほど、相続税評価額は低くなります。
また、マンションの相続税評価額は、一戸建て不動産と同じく「建物」と「土地(敷地)」に分けて計算をします。
建物・家屋の相続税評価額は建築代金の6〜7割といわれています。
そして賃貸に出している場合、自由な処分が制限されることから評価減があり、建物の相続税評価額は建築代金の6〜7割で評価されるといわれています。
そしてそこに貸家の評価減があるため、最終的には貸家の相続税評価額は建築代金の約50%が目安になります。
また、被相続人自身が賃貸している部屋があったという場合は、賃借権は相続人に相続されます。そしてその場合、解約するにも継続するにも手続きが必要になります。
そして賃借権は、その権利が権利金などの名称を持って取引される慣行のない地域にあるものについては評価しないことになっているので、ほとんどの場合相続税はかかってきません。
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建築途中の建物・家屋は、相続開始時点において固定資産税評価額が設定されていません。以下の計算式を用いて算出します。
建築中の家屋の評価 = 費用現価(建築代金の総額 × 工事進捗率)× 70%
この費用現価とは、家屋の建築が始まった時から相続の開始した日、つまり被相続人が亡くなった日までにかかった建築費を相続開始日の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。家屋の建築代金の総額に工事がどれだけ進んでいるかといった進捗率を乗じて算出します。
工事進捗率は建築工事を頼んだ業者に確認する必要があり、進捗割合の証明書の発行や建築工事の内訳明細書などでの金額の照会などを通して確認します。
2-4 相続直前にリフォームやリノベーションをしていた場合
建物・家屋は固定資産税評価額で相続税を計算すると前述していますが、増築を伴わないリフォームが施された家屋についてはリフォーム前後で固定資産税評価額が変わってきません。
しかしこれは反映されていないだけですので、固定資産税評価額に反映させるために下記の金額が建物・家屋の相続税評価額に加算されます。
(リフォーム費用ー相続開始日までの償却費)×70%
相続開始日までの償却費は以下のように計算します。
相続開始日までの償却費=再建築費用×90%×経過年数÷耐用年数
経過年数は1年未満の端数を切り上げ、耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定められる年数で計算します。
なおリフォームではなく通常の維持修繕の場合には、この計算は不要になります。例えば屋根の雨漏りを修理した場合などが通常の維持修繕に該当します。
2-5 建物に付属する庭園や外構などがある場合
一軒家のお家には家屋そのもの以外にも庭園や塀、門などの外構がついている場合がほとんどです。それらの外構などの設備のことを付属設備と呼びます。
家屋の付属設備は固定資産税の評価には含まれていません。そのため、個別に評価していく必要があります。
門、塀等の外構や庭園などの付属設備の評価額は、再建築価額に、建築時から課税時点までの償却費の総額または減価の額を引いた金額に70%をかけて求めます。
付属設備の相続税評価額=再建築価額ー新築時から課税時点までの償却額×70%
ただし一般的な家庭の庭の設備に対し相続税がかかることは稀です。
3. 建物・家屋の相続税評価額と固定資産税評価額の違い
土地価格には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」があります。
これらはそれぞれ「相続税路線価」は相続税評価額を求めるため、「固定資産税路線価」は固定資産税を求めるために存在します。
固定資産税は算出する際に固定資産税路線価を基準とします。このとき、価額は地価公示価格の約7割程度となるように設定されます。
公示価格とは、国が毎年評価している土地の単価のことをいい、土地の値段を決める際に参考にされる、とても重要な指針です。
こちらの評価主体は市町村、東京23区であれば東京都になります。価格評価は3年に1度行われ、価額は3年ごとに更新されます。
対して、相続税評価額を算出する際には相続税路線価を基準とします。相続税路線価は地価公示価格の約8割となるように設定されます。こちらの評価主体は国税庁になります。また、毎年評価されるため、価額は毎年更新されます。
相続税路線価は国税庁のホームページで確認できます。
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4. 建物・家屋が木造住宅や古い場合は相続税評価額が下がる?
建物・家屋の固定資産税評価額に影響するポイントとしては以下の2つが挙げられます。
①再建築費用
今ある建物と同じものを再度作ろうとした際にかかる費用のことです。実際の建築費の5〜6割といわれています。
②損耗の程度
経年劣化を考慮します。定められた経年減価率に沿って減額します。
固定資産税評価額はこの2点を掛け合わせて決定されるので、固定資産税評価額をもとに計算される相続税評価額にも影響があります。
木造住宅であれば経年劣化が早いことから早く減価がされますし、古い建物の場合も固定資産税評価額は逓減していくものなので新築のものより当然減価の幅が大きくなります。
なお、経年劣化のために固定資産税評価額は逓減していきますが、経年減価率には下限があるため、評価額が0になることはありません。
5. 建物・家屋の相続税評価額を下げる方法
相続税の負担を少しでも軽くしたいと考える方へ、いわゆる節税を行う方法について2つご紹介します。
相続税を抑えるために、そもそもの相続税評価額の額を小さくする必要があります。
5-1 第三者に建物を貸す
自分が住むのではなく第三者が利用するために貸すことで相続税評価額を下げることができます。
これは第三者が建物を利用していることで、建物の所有者である相続人がその建物を自由に処分することに制限がかかります。利用用途が限られると評価額は下がりますので、下がった結果、相続税もそれに対応する形で軽くなります。
貸家の相続税評価額=建物自体の固定資産税評価額×(1ー借家権割合×賃貸割合)
借家権割合は一般的に30%で計算されます。つまり、第三者に貸していることで、自分で利用する建物よりも30%も評価が低いということになります。
賃貸割合は前述していますが、入居率のことです。
5-2 賃貸の入居者を増やす・空室を減らす
相続税評価額は固定資産税評価額から評価減を差し引いて算出されます。
借家権割合はほとんど一定ですので、賃貸割合が増えれば評価額を下げることができるといえます。
賃貸割合は、賃貸の入居者を増やす、空室を減らすことで増やすことができます。賃貸割合を増やすことで結果的に相続税を軽くすることができます。
なお賃貸割合は相続開始時の状態で判断されますので、相続財産になるかもしれない賃貸マンション・アパートがある場合は相続開始前にチェックしておいた方がベターです。
ただ相続開始日から1日でもずれていたら空室とみなされるというようなものではなく、「一時的な空室」と認められる場合であれば賃貸しているものとして認められています。
またサブリースの場合は賃貸割合は空室の状況に関わらず100%とみなされます。
6. 建物・家屋の相続税評価額を計算するときの注意点
建物・家屋の相続税評価額を計算する際には留意すべき点がいくつかあります。
誤った認識のまま計算してしまうと申告する税を大きく誤ってしまう可能性もありますので、計算の際には注意が必要です。
6-1 土地がある場合は、建物と土地は別々に相続税評価額をする
土地は原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価することになっています。
建物・家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額が基準となりますが、宅地の相続税評価額は、「路線価×地積」が基準となります。
また宅地は地域に応じた2つの評価方式があります。
このように評価方式が違うことから、土地と建物・家屋は別々に相続税評価額を算出し、合計して全体の相続税評価額を計算します。
またマンションも、所有しているのが一部屋だけだったとしても、土地、つまり敷地権の価額と区分所有するマンション・アパート、つまり建物の価額の合計額により評価します。
具体的に説明すると、敷地権の価額についてはマンション・アパートの敷地全体の価額に対して、被相続人が区分所有する敷地権の割合を乗じて評価します
また、区分所有する建物の価額については固定資産税評価額により評価します。それらの合計が相続税評価額となります。
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6-2 建物には小規模宅地等の特例は活用できない
「小規模宅地等の特例」とは、個人が相続などで取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業又は居住に供されていた宅地等のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積まで、相続税計算時に区分ごとにそれぞれに対応する割合を減額するという制度です。
具体的な数字でいえば、被相続人と一緒に住んでいた土地を相続したのであれば330㎡までは80%減額され、また被相続人が所有していた賃貸用敷地については200㎡までの部分について評価額の50%を減額されるというものです。
この特例を適用するためには条件に該当していること、そして申告することが必要になります。
しかしこの小規模宅地等の特例の適用に建物は含まれていません。
そのため、建物の相続には小規模宅地等の特例は適用できず、建物自体の相続税は減額されませんので、注意が必要です。
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7. 建物・家屋の相続税評価額を計算する場合は税理士に相談
相続税の手続きは申告書の作成などいろいろな作業が必要となります。
また相続の手続きは相続税評価額の計算など専門性の高いものや難しい部分も多く、慣れない方が行うには大変な作業です。
その上、適切な申告を行わなければ、後々の税務調査で払わなくてもよかったはずの税金を払うことになってしまう可能性があります。
故人が残してくれた遺産をよりよい形で相続して受け継いでいくために、そしてご自身にとって一番良い形で税金を正しく納めるためにも、相続税申告に迷われた際には専門家である税理士にぜひご相談ください。
遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。