実家の相続は相続税がかからないって本当? 土地の評価額を8割下げられる特例とは

更新日:2024.06.21

実家の相続は相続税がかからないって本当? 土地の評価額を8割下げられる特例とは

相続を機に自宅の土地と建物を相続する場合がありますが、相続税の支払いが心配になる人も多いでしょう。不動産は財産のなかでも価値の高い財産のため、相続税の支払いに不安を感じるのは自然です。そんな不安に答えるべく、今回は自宅を相続した際の、相続税の計算の流れについて解説します。

目次

1. 相続した実家は特例が適用すれば評価額が大幅に下げられる

自宅(持ち家)などの不動産は、一般的に価値が高いため、相続財産に不動産が含まれていると相続税の評価額は高めになりがちです。ただ、自宅は相続税を軽減できる「小規模宅地等の特例」が適用される可能性が高く、結果として相続税がかからなくなるケースもあります。小規模宅地等の特例(特定居住用宅地)が適用されると、敷地の相続税評価額が最大80%もダウンします。

加えて、相続税には基礎控除の存在があります。相続税の基礎控除は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算できます。

基礎控除のインパクトは大きく、相続税の支払い対象となるには相続人が1人の場合でも3,600万円以上の相続財産を保有している必要があります。この基礎控除のみならず小規模宅地等の特例を適用することで相続財産の評価額が小さくなるので、相続税がかかる家庭は未だ少ないのが現状です。

とはいえ基礎控除の枠が以前よりも小さくなったため、相続税の課税対象となる家庭がかつてより増えたのも事実です。

1-1 自宅の相続税評価額を確認する方法

相続税の計算には相続する自宅の評価額をまず知る必要があります。正確に計算しようとすると専門的な知識や複雑な計算式の理解が求められます。

しかし概算で足りるのであれば難しくありません。なお、計算には「固定資産税通知書」があると便利です。

1-2 土地と家屋は別々で評価を行うことに注意

土地と家屋(人が住むための建物)は別々の不動産です。土地と家屋はセットで販売される機会が多いので普段は意識しないですが、土地と家屋は別の不動産、つまり別々の財産です。

別々の財産である以上、財産の評価額も個別に評価します。それゆえ自宅の相続税評価額を計算するにあたっても土地と家屋は別々に計算します。

計算式も土地と家屋で計算方法が変わります。

家屋の評価額の計算は簡単ですが、土地評価額の計算はやや複雑です。土地と家屋、いずれの場合も固定資産税通知書があると計算が楽になります。

自宅の相続税評価額が気になる方は手元に固定資産税通知書を用意することをおすすめします。

1-3 家屋の相続税評価額の計算方法

家屋の相続税評価額は簡単に計算できます。固定資産税通知書をお持ちの方は「固定資産税評価額」の欄を見てみましょう。

そこに記載されている金額がそのまま家屋の相続税評価額になります。固定資産税評価額が600万円なら相続税評価額も600万円です。計算式で表すと「固定資産税評価額×1.0」になります。

なお今回の例はあくまで自宅として利用される家屋に当てはまる話です。第三者に賃貸等で貸し出す用の家屋はまた別の計算方法になります。混同しないようにしましょう。

家屋の相続税評価額の計算方法

1-4 土地の相続税評価額の計算方法

自宅の土地の相続税評価額を計算してみましょう。路線価方式と倍率方式、ふたつの方法があります。

地域によるものの路線価での計算が一般的です。路線価で計算するには路線価と土地面積を知る必要があります。路線価は国税庁のHPにある路線図を、土地の面積は固定資産税通知書の地積を使います。

路線価が見当たらない地域は倍率方式で計算します。

土地の相続税評価額の計算方法

路線価方式

路線価は国税庁のHPでわかります。自宅の土地の路線価を調べてみましょう。

190Dと記載されているなら、190に千円を掛けた19万円が路線価です(アルファベットのDは無視して構いません)。

あとは路線価に自宅の敷地の面積を掛けるだけです。自宅の敷地の面積は固定資産税通知書に記載されているはずです。現状地積に100㎡の記載があるなら19万円×100の、1900万円が概算の相続税評価額です。

なお、今回紹介している計算方法は、あくまで概算を求めるための計算方法です。敷地の正確な評価額を割りだすには土地の形や周辺環境も影響します。
詳細な計算結果をお求めの場合は税理士への相談をおすすめします。

倍率方式

お住まいの地域によっては路線価が記載されていないケースもあります。その場合は倍率方式で計算します。倍率方式の計算はとても簡単で、固定資産税通知書記載の(敷地の)固定資産税評価額に倍率を掛けるだけです。

倍率は路線価図と同じく国税庁のHP記載の倍率表にて確認できます。固定資産税評価額が1,000万円で倍率が1.1なら、1,100万円が自宅の敷地の相続税評価額です。

中心部から離れた郊外では路線価が付されていない傾向にあります。その場合は路線価方式ではなく倍率方式で計算しましょう。

【関連記事】相続税の土地評価額についてもっと知りたい方におすすめ
コラム:相続税の土地評価額の計算方法とは?節税できる方法もご紹介します

2. 実家の相続で税金の軽減ができる「小規模宅地等の特例」とは? 適用条件を確認

小規模宅地等の特例は敷地の相続税評価額を最大で80%までカットできる特例で、相続税の軽減には欠かせない制度です。自宅(実家)を相続するにあたり、必ず検討すべきなのが小規模宅地等の特例です。

小規模宅地等の特例は宅地の用途により4つの種類に分類され、おのおの細かい要件が設けられています。

念のため4つ内容をそれぞれ紹介しますが、一般的な自宅の相続ならほぼ特定居住用宅地が該当します。被相続人が事業を営んでいる等でなければ、特定居住用宅地の内容を確認するだけでも充分です。

適用条件を満たす主体(相続人)は限られていますので、主体条件には注意しましょう。

小規模宅地の特例

適用条件1. 被相続人の居住用の宅地であること

小規模宅地等の特例は対象となる土地が「事業の用又は居住の用に供されていた宅地等」であることを適用の条件にしています。

では「事業の用又は居住の用に供されていた宅地等」は、具体的にどんな土地を指すのでしょう。

ぜんぶで4種類あります。一つずつ確認していきましょう。

特定居住用宅地(自宅)

特定居住用宅地は「居住の用に供されていた土地」に該当し、要するに自宅の敷地です。小規模宅地等の特例のなかでも、もっとも使用される頻度が高いのでぜひ押さえておきましょう。

特定居住用宅地として特例対象になると、敷地面積の330㎡まで80%の評価額減になります。

330㎡以下の1億の評価額の土地なら、2,000万円まで評価額が下がります。効果は大きいです。

適用条件でたびたび問題になるのは、被相続人が死亡の直前まで老人ホームで生活していた場合です。被相続人が老人ホームに入所して生活を送っていた場合「居住の用に供されていた」には該当しないようにも思えます。

しかし一定の条件を満たす限り、死亡の直前まで老人ホームで生活していても小規模宅地等の特例の対象になる扱いがされています。

特定事業用宅地

特定事業用宅地の適用条件を満たすと、敷地面積の400㎡まで80%の評価額減になります。400㎡以下の1億の評価額の土地なら、2,000万円まで評価額が下がります。

宅地の限度面積が広いのが特徴で、評価額も80%減まで期待できるため、親族を事業の後継者にしたい経営者にとっては助かる特例です。この特例では事業の後継者は相続税の申告期限まで事業を引き継ぎ、かつその事業を継続して営んでいる必要があります。

(ただし相続開始前3年以内に新たに事業用に使用された宅地は、その宅地に一定の規模がある場合をのぞき、適用条を満たしません)

特定同族会社事業用宅地

基本的な構造は特定事業用宅地と同じで、事業の継続をしやすくするのが狙いです。適用条件を満たすと、敷地面積の400㎡まで80%の評価額減になります。特定事業用宅地と根本的に違うのは敷地を使用していた主体です。

当該敷地で事業を継続していた主体が個人ではく法人で、かつ法人の大株主ら(保有している株式数が合計で50%超)が被相続人および被相続人の親族で構成されている条件下で、この特例の適用が問題になります。

相続税の申告期限まで役員の地位につき、該当する宅地を所有していることも適用条件になっています。

少し難しいですが、同族会社が事業で使っている敷地が相続財産に含まれる場合も小規模宅地等の特例になり得ると覚えておきましょう。

貸付事業用宅地

貸付事業用宅地の事業には不動産貸付事業や駐車場業が含まれます。親族が取得して、かつ相続税の申告期限まで宅地を所有し貸付事業等を継続していることが適用条件です(ただし相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された場合をのぞく)。

貸付事業用宅地として特例の対象になれば、敷地面積の200㎡まで50%の評価額減になります。200㎡以下の1億の評価額の土地なら5,000万円まで評価額が下がります。

相続税対策の一貫として、更地にマンションを建て土地の評価額のマイナスを狙う方法があります。

その場合も親族が賃貸業務を引き継ぐことで、貸付事業用宅地に該当し小規模宅地等の特例の恩恵を受けられます。うまくいくと大規模な相続税評価額の低下が期待できます。

適用条件2. 対象の宅地に同居している配偶者や親族であること

主に特定居住用宅地(自宅の敷地)で問題になる主体の適用条件です。特定居住用宅地で小規模宅地等の特例が認められるには、自宅の敷地を取得する人が次のいずれかに該当する必要があります。

  • 配偶者
  • 同居の親族
  • 別居親族

配偶者はほぼ無条件で適用条件を満たします。配偶者は仮に被相続人と別居していたとしても条件を満たします。同居の親族もそれほど適用条件のハードルは高くありません。

ただし同居には実態を伴う必要があります。

住民票が被相続人と同一でも、実際に同じ屋根の下で生活していないと適用条件は満たしません。なお、同居期間に明確な定めはなく、短い期間でも同居の実態さえともなえば条件を満たす可能性はあります。最後の別居親族が一番ハードルが高いです。いわゆる「家なき子」と呼ばれるパターンです。こちらは、3-3で後述します。

適用条件3. 遺産分割が確定した上で、相続税申告書を提出すること

小規模宅地等の特例は遺産分割が確定した上で申告してはじめて適用が確定します。条件を満たしているとしても書類を揃えて税務署に提出しない以上、敷地の相続税評価額は下がりません。

小規模宅地等の特例で評価額が80%減になると相続税の納付額がゼロになることもよくあります。納付額がゼロなのだから申告する必要はないだろうと思うかもしれません。

しかし相続税の世界で特例や控除の適用を受けるには、原則として書類を提出し条件を満たす旨を証明する必要があります。基礎控除で申告が不要になるケースと混同しないようにしましょう。

特例を受けるにあたっての基本的な必要書類は次のとおりです。

  • 遺産分割協議書の写しまたは遺言書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本

このほかにも宅地の種類により個別の書類を揃える必要があります。

3. その他自宅の相続に使える控除・特例

小規模宅地等の特例のほかにも、自宅の相続に使える控除や特例を紹介します。すべて理解する必要はありません。軽く目を通し、使えそうだなと感じたものをピックアップしまていきましょう。特に基礎控除と配偶者の税額軽減は使う頻度も高いので、優先して押さえましょう。

2020年に始まった新制度の配偶者居住権にも注目です。

3-1 基礎控除 「3,000万円+600万円×法定相続人の数」

いかなる相続にも無条件で適用される控除です。相続財産の合計額が算出できたら機械的に基礎控除額をマイナスしましょう。基礎控除できる額は法定相続人の数によって左右され「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。

相続人が配偶者と子どもふたりの計3人の場合の基礎控除額は「3,000万円  +(600万円×3人)=4,800万円」で、基礎控除は4,800万円です。相続財産評価額(相続財産の合計)が5,000万円なら、そこから基礎控除額をマイナスした200万円に課税される流れです。

相続財産評価額が4,000万円なら課税対象になる財産が存在しないことになり、相続税はゼロです。

つまり相続税の申告は不要です。なお、基礎控除はその他の控除や特例と違って、基礎控除を使って計算した場合でも別段申告する必要はありません。

3-2 配偶者居住権

配偶者居住権は2020年4月に始まった新しい制度です。配偶者居住権は夫に先立たれた妻の住居と生活資金を保証する制度としてとらえると理解しやすいです。

夫の遺産が3,000万円の現金と3,000万円の自宅があった場合、妻は自宅の所有権を相続して住居を確保できます。

しかし、3,000万円の不動産を単独で手にした代わりに、残りの3,000万円の現金は他の相続人の手に渡る可能性が高くなります。つまり、自宅不動産の相続と引き換えに生活資金を失う恐れがあるのです。これでは老後の資金が心配です。

そこで配偶者居住権は、「自宅に居住する権利」と「自宅の所有権」の分離を認めました。

妻は不動産の所有権をあえて他の相続人へ譲り、居住する権利は自宅不動産そのものよりも価値は下がります。例えば、この自宅の居住権を1,500万円と計算した場合、妻は自宅に住む権利に加え、現金を相続することできるのです。居住権のみ相続して住まいは確保しつつ、さらに1,500万円ほどの現金も手にすれば老後も安心して暮らせるのではないでしょうか。

不動産を所有権と居住権に分離し、あえて不動産の評価額を下げるのが配偶者居住権の制度です。

3-3 小規模宅地等の特例の「家なき子特例」

家なき子特例とは、被相続人と別居していた親族が小規模宅地等の特例(特定居住用宅地)の適用を受ける場合の呼び名です。要するに小規模宅地等の特例を指すのですが、配偶者や同居の親族に比べて適用条件がより厳しいのが特徴です。

(3年以上)持ち家に住んでいない別居親族だけが適用条件を満たすため、家なき子なる言葉が使われます。

いわゆる家なき子と違うのは、自分の持ち家を所有する親族も家なき子に該当する点です。ややこしい部分ですが、持ち家を所有して「住んで」いる場合はこの特例の適用はできませんが、持ち家を所有しているだけだったらセーフで適用できるということです。

ほかにも家なき子特例には配偶者名義の家に住んでいてはダメなどの、さまざまな細かい適用条件があります。

3-4 配偶者の税額軽減「配偶者控除」

亡くなった方の配偶者が相続人の場合、配偶者の税額軽減が使えます。配偶者の税額軽減は小規模宅地等の特例と並び、もっとも非課税枠の大きい特例のひとつです。

配偶者であるという理由のみで法定相続分までの金額、又は1億6000万円の非課税枠が与えられます。

配偶者の取得した財産の課税価額が1億6,000万円以内であれば、配偶者が払う相続税はゼロになります。また取得した課税価額が1億6,000万円を超える場合であっても、相続財産全体における配偶者の法定相続分以下の金額であれば、やはり無税の扱いになります。

取得財産が1億6,000万円以上で、かつ配偶者の法定相続分を超えていても、すべてに課税されるわけではなく、法定相続分を超えた部分に対してのみ課税されます。

いずれにせよ大幅な節税効果が期待できるのです。

【関連記事】配偶者控除の必要要件についてさらに詳しく知りたい方はこちら
コラム:相続税の配偶者控除とは?1億6千万円まで抑えられる必要要件や制度内容を解説

3-5 おしどり贈与

贈与税の特例の一つに、「おしどり贈与」と呼ばれる特例があります。婚姻期間が20年以上で、不動産あるいは不動産の購入を目的とした資金の贈与であれば、最高で2,000万円まで贈与税が非課税になります。

おしどり贈与は控除の枠が大きく、かつ年間110万円までの控除を認める暦年贈与と並行して使用できます。

控除額が大きいのは確かに魅力です。

しかし、相続税の世界ではおしどり贈与のほかにも、先に説明した相続税の配偶者の税額軽減などの大胆な控除や特例が認められています。本当におしどり贈与がベストな選択かどうかは他の特例や控除との兼ね合いで比較判断するのがいいでしょう。

というのも、おしどり贈与は税金負担の観点から不利な側面もあります。

おしどり贈与は不動産を動かすので、贈与税は免れるとしても、ほかに不動産取得税や登記の登録免許税の支払いが生じるのです。

(贈与ではなく)相続を原因とする不動産の所有権移転なら、不動産取得税はかかりませんし、登記の登録免許税も贈与にくらべて安いです。おしどり贈与導入の検討にはやや慎重になるべきでしょう。利用を検討する場合には税理士への相談は欠かせません。

3-6 未成年者控除

未成年の相続人がいる場合には、未成年者控除が使えます。控除できる金額は当該未成年者が20歳に到達するまでの残り年数に比例し、1年につき10万円控除される仕組みです。

相続人が13歳なら18歳に達するまで5年ありますので、50万円(10万円×5年)が相続税から控除されます。なお、使いきれなかった控除分がある場合には、未成年者の扶養義務者(通常は親)の相続税から控除できます。

3-7 相次相続控除(二次相続)

相次相続は、相続が相次いで発生したときに適用される控除です。祖父が死亡して直後に子である父も死亡したとしましょう。

相続税は納める納付額も高額になる傾向がありますが、相続が連続して発生すると相続税の支払いも連続します。納税者にとっては酷です。

同一財産を対象に連続して課税するのは国家としても望ましい態度ではないのでしょう。10年間の間に相続が相次いで発生したときは、前の(1回目の)相続からの経過年数に応じて一定の納税額が控除されます。

計算式はやや複雑です。気になる方は税理士への相談をおすすめします。

3-8 贈与税額控除

贈与税額控除は税金の二重払いが起きたときに、二重払いとなったの贈与税の控除を認める制度です。主に暦年贈与と相続時精算課税が利用されたときに適用となります。

相続時精算課税を例にしてみましょう。

3,000万円の贈与で相続時精算課税が適用されたとします。贈与を受けた者は、2,500万円の非課税枠を超えた500万円に対し、100万円の贈与税を支払います。

その後、相続時にはもう一度贈与対象となった3,000万円に課税されるのが相続税のルールです。

しかし3,000万円のうち500万円については贈与時に一度贈与税を支払っているはずです。にもかかわらず500万円に対してさらに相続税をかけるのは二重課税に当たります。

そこで国は支払い済みの贈与税100万円を相続税から差し引くことでバランスを取りました。これが贈与税額控除の一例です。

3-9 その他の控除

その他の控除として障害者控除があります。未成年者控除と似ている部分があり、相続開始時の年齢から85歳に到達するまでの残存年数によって控除額が決定します。

控除額は障害者の等級にもよりますが、1年につき10万円が原則です。

ほかに馴染みのない特例として農地の納税猶予を紹介しましょう。農地を相続するも相続税が原因で農地を手放し農家を廃業する相続人がいます。
これでは農業離れに拍車がかかりますね。

そこで一定の条件下で、農地にかかる納税の猶予を認めたのが農地の納税猶予の特例です。農業を促すための特例なので、途中で農業を廃止したり農地を宅地に転用すると納税の猶予は停止し、相続税の支払いを求められます。

4. 自宅の相続税がいくらかかるのか計算する方法

STEP1
自宅の相続税評価額
土地は路線価図で計算 / 建物は固定資産評価額とイコール

STEP2
小規模宅地等の特例

敷地面積の330㎡まで80%の評価額減
STEP3
自宅以外の相続財産
現金、預貯金、株式、生命保険金、死亡退職金等をプラス

STEP4
債務控除する

相続財産評価額の合計から債務や葬式費用を差し引く

STEP5
基礎控除を差し引く

基礎控除 = 3,000万円+600万円×法定相続人の数

STEP6
相続人ごとの相続税額

相続税率の表を使い4つの手順で相続人ごとの納税額を計算

STEP7
特例や控除を適用

配偶者の税額軽減など個別の事情に応じて特例や控除を適用

相続税率の表は国税庁のHPを参照

STEP7までの流れに沿って、次の具体例をもとに相続税の計算の流れを確認していきましょう。

・被相続人:父

・相続人:母親(配偶者)、長男、長女

・父の残した財産       

  • 土地 5,000万円(敷地面積300㎡)
  • 建物 2,000万円 
  • 預貯金 4,000万円 
  • 債務および葬式費用 なし

・遺産分割の結果

  • 現金は母親と子供ふたりで、2:1:1の割合で取得する
  • 自宅の土地と建物は母親が相続し今後も住み続ける

cf 小規模宅地等の特例(特定居住用宅地)の適用条件は満たすものとする

STEP1. 自宅の相続税評価額を計算する

相続税の計算は財産の評価額を知ることからスタートします。財産のなかでも高額になりがちな自宅の相続税評価額を最初に計算しましょう。
相続税の評価では土地と建物を別々に評価するのでしたね。

事例では、土地の評価額が5,000万円、建物の評価額が2,000万円とありますので、合計額の7,000万円が自宅の評価額です。

土地の相続税評価額は路線価に土地面積を掛けて計算します(路線価がないときは倍率を掛ける)。建物は固定資産税評価額をそのまま建物の相続税評価額として扱います。

このあたりの計算は省きますが、忘れてしまったひとは、先ほどの「自宅の相続税評価額を確認する方法」に戻って確認しましょう。

STEP2. 小規模宅地等の特例を適用する

土地(自宅の敷地)に小規模宅地等の特例特定居住用宅地)を適用します。

土地の評価額を80%減で評価しますので1,000万円(5,000万円×0.2)ですね。特例を適用した結果、自宅の評価額は3,000万円(土地1,000万円+建物2,000万円)に修正されます。

今回は適用条件を満たす前提で進めますが、条件を本当に満たすかについては詳細な検討の必要があります。

特に主体要件には注意です。今回は配偶者の母親が住む予定なので問題ないですが、別居の親族が住むのであればいわゆる家なき子特例に該当します。

適用条件のハードルはぐっと上がります。また小規模宅地等の特例は申告してはじめて効果が発生するので、申告は怠らないようにしましょう。

STEP3. 不動産以外の課税される遺産の総額を計算する

自宅の評価額が判明したら、次は現金、預貯金、株式、生命保険金、死亡退職金など、不動産以外の財産の価額を合計します。事例では現金4,000万円のみが該当しますので、4,000万円を課税価格にプラスします。

今回は関係ありませんが、生命保険金は一般の家庭でもよく見られる相続財産(みなし相続財産)です。生命保険金には「法定相続人×500万円」の非課税枠がありますので忘れないでおきましょう。

STEP4. 債務や葬式費用などを遺産総額から引き、課税価格を計算する

相続財産評価額の合計から債務や葬式費用をマイナスします(債務控除)。経費みたいなものですね。

債務の代表例は被相続人の残した借金ですが、未払い代金などもこれに含まれます。今回の事例では債務や葬式費用はなしの設定なので、計算には影響しません。

ですが、もし仮に被相続人に1,000万円の借金があるのなら、課税価格は次のように計算されます。

7,000万円(自宅と現金の合計) – 1,000万円(債務および葬式費用)=  6,000万円 

今回は債務や葬式費用は0円の設定で話を進めます。課税価格は依然として7,000万円のままです。

STEP5. 基礎控除額を差し引く

先ほど計算した課税価格から基礎控除額ぶんを差し引きます。

課税価格7,000万円 – 基礎控除額4,800万円 = 2,200万円

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数(今回は3人)= 4,800万円」で計算できます。

課税価格から基礎控除額を差し引いた金額を課税遺産総額といいます。よって事例の課税遺産総額は2,200万円です。

STEP6. 相続税の総額計算の後、相続人ごとの相続税を計算する

相続税の計算は、まず遺産を法定相続分で相続したと仮定し全体の相続税を計算した後、各相続人が実際に相続した財産金額の割合で負担させます。

課税遺産総額を法定相続分で分割

  • 分割後の課税価格に相続率を掛ける(国税庁のHP参照)
  • 各人の相続税額を合計
  • 取得した課税価格に応じて相続人ごとの納税額を計算

・課税遺産総額を法定相続分で分割

課税遺産総額2,200万円を法定相続分で割ります。

母親:1,100万円(4分の2)
長男:550万円(4分の1)
長女:550万円(4分の1)

・分割後の課税遺産総額に相続率を掛ける

母親:1,100万円×15% – 50万円 = 115万円
長男:550万円×10% = 55万円
長女:550万円×10% = 55万円

相続税率は国税庁のHPを参照してください。

母親は1,000万以上3,000万円以下に該当し、長男・長女は1,000万円以下に該当します。

・各人の相続税額を合計

各人の相続税額の合計は225万円です。計算式は次のとおりです。

115万円+55万円+55万円 = 225万円

相続人らの納税額の合計が225万円だとわかりました。

・取得した課税価格に応じて相続人ごとの納税額を計算

母親:225万円×5,000万円 / 7,000万円 = 約161万円
長男:225万円×1,000万円 / 7,000万円 = 約32万円
長女:225万円×1,000万円 / 7,000万円 = 約32万円

4つの手順で相続人ごとの納税負担額を計算できました。あとは各相続人の個別事情に応じて特例や控除を適用するだけです。

STEP7. 特例や控除などを差し引き、最終的な納税額を計算する

各相続人の相続税額に個別の事情に応じた特例や控除を適用し、最終的な納税額を計算します。今回は相続人に配偶者が含まれていますので、少なくとも配偶者に対する相続税額の軽減が適用できそうです。

配偶者の税額軽減を使うと母親に最低1億6,000万円までの非課税枠が与えられます。

事例では母親の取得金額は5,000万円なので、税額軽減により母親の納税額はゼロになりました。さらに長男や長女がまだ学生なら未成年者控除も使えそうです。

妻 = 0円
長男 = 32万円
長女 = 32万円

5. 自宅を相続する場合の相続税の申告手続き方法

自宅を相続する場合、小規模宅地等の特例を検討する家庭は多いです。小規模宅地等の特例は節税の効果がとても大きいので、それだけで相続税の支払いが不要という結論もありえます。

しかし注意したいのが申告忘れです。特例や控除は税務署に申告し、必要書類とともに証明してはじめて効果が期待できるのです。

5-1 小規模宅地等の特例を適用したら、相続税がかからなくても申告は必要

相続税はかからなくても申告は必要です。小規模宅地等の特例は非課税の規模が大きいため、特例を使うことで相続税の納付が不要になるケースはよくあります。

しかし申告自体は必要です。特例を適用したあとに納める相続税がゼロになるとしてもです。

一般論として、特例や控除は必要書類を揃え必要条件を満たしている事実を証明してはじめて効果が認められます。基礎控除の適用のみで相続税がゼロになる場合は申告が不要ですが、あくまで例外です。

特例や控除は書類を提出し証明してはじめて効果が生まれることを忘れないでおきましょう。

5-2 税務署への相続税申告書の第11表に記入

申告書の作成において、自宅は相続税がかかる財産の明細書(11表)に書き込みます。自宅の敷地を記入する際には小規模宅地等の特例適用後の金額を記載しましょう。

小規模宅地等の特例を利用するにはさまざまな要件をクリアする必要があります。

それゆえ要件を満たす旨を証明するため、第11表にくわえて別表の提出まで求められます。専用の申告書類に記入する必要があるのです。

 

6. 自宅を相続するときに知っておきたい3つのこと

自宅を相続するときに知っておきたい3つを紹介します。前提として頭に入れておいてほしいのが、不動産の共有はのちにトラブルを巻き起こす可能性が高いという事実です。

専門家がたびたび指摘するポイントです。相続人間での自宅共有はできるだけ避けるべきという基本を念頭に、自宅を売却するのか、残すのか、被相続人も含めての生前からの話し合いが大切です。

6-1 一軒家の場合は財産を分割をするか、売却するかを検討

相続財産に一軒家が含まれていた場合、遺産分割には注意を払う度合いが高いです。

まず一軒家を売却するか残すかを決めなければなりません。一軒家を売却してしまえば現金化しますので、相続人間で分割するのは容易になります。その意味で売却はもっとも公平な不動産処理の方法ともいえます。

ところが相続人に配偶者が含まれる場合や、長男が自宅で家業を継ぐ場合など、売却のハードルが高いケースもあります。

自宅が売却されると残された配偶者は住処を失います。高齢になってからの引越しは避けたいでしょう。また自宅で家業を営んでいる家庭だと、拠点になる建物と土地を売ってしまうのは痛手です。

時として、一軒家は事情により売却せず残す必要があります。

となると一軒家は誰かが相続する運びとなりますが、誰かひとりが単独で相続すると遺産分割の公平・不公平の問題がでてくるのは常です。

結局のところ、遺産分割がまとまらず相続人間で不動産共有する結果に落ち着くケースも多いです。しかし共有はのちのちのトラブルにつながりやすく、できるだけ避けるのが正解です。

6-2 生前に自宅の相続について親や配偶者と話し合う

誰が自宅を相続するかについて、生前から話し合っておくと遺産分割でトラブルに発展する可能性が低くなります。例えば妻の住居を確保するため、妻に自宅を相続させるとします。

しかし妻に所有権まで相続させる必要があるのかは、配偶者同士で話し合ったほうがいいでしょう。

状況によっては配偶者居住権の制度を活用し、居住権のみ相続させるほうが妻の生活保証に適しているかもしれません。

あるいは長男に自宅を単独で引き継がせるのも、生前から親と子供を含めた話し合いをしていれば、トラブルにならず安易に不動産共有をせずに済みます。

話し合いなどせずとも遺言を残しておけば揉め事にならないという考えもあります。しかし遺言で分割方法を定めても、相続後に遺留分の行使によって遺言の内容がくつがえる事態だってあるのです。

シンプルな方法ですが、生前からの話し合いは効果ありです。

6-3 共有名義にすると後ほどトラブルになるケースも多い

不動産の共有名義はできる限り避けるのがマストです。共有状態はトラブルの火種になりやすいからです。被相続人にこれといった財産がなく、自宅(実家)が唯一の相続財産であるケースはよくあります。

この場合、みんな公平にわけましょうの精神で自宅の名義を共有にしがちです。

しかし先ほど触れたとおり、不動産の共有名義はできる限り避けるべきです。不動産はかかわる人間が増えれば増えるほど爆弾の火薬庫と化します。

共有不動産は、自宅を改築したり売却するにあたり共有者全員の同意が必要になります。その際に共有だと、改築するしない、売る売らないで揉めるのです。

共有者の全員が仲が良いから問題ないと安心するのは早計です。共有者のひとりが死亡すると相続により登場人物が雪だるま式に増えていきます。
今日の共有者は明日の共有者とは限りません。

将来的に仲のよろしくない同士が自宅の共有名義人として名を連ねる可能性も視野に入れましょう。できるなら単独所有の状態に持っていくのが理想です。

7. 自宅の相続に悩んだときには税理士に相談

自宅の相続では、小規模宅地等の特例や配偶者居住権などさまざまな特例や制度の適用が想定できます。

しかし、いろいろな制度が絡みあうぶん選択の選別も難しいのが自宅の相続の特徴です。にもかかわらず不動産は評価額も大きいので判断を間違うと痛いです。

本来使える特例を見逃したり、状況に相応しくない特例を使ってしまうと、不要な相続税を支払う結果にもなります。

相続時に不動産の処理を間違ってしまうと、金銭面で痛手を負うばかりか下手をすると相続人間のトラブルにも発展します。

不動産共有のリスクは最たる例でしょう。税金面と人間関係の双方のバランスを同時に考えつつ、各種の控除や特例を使いこなすのは経験のある税理士に頼るのが一番です。

考えるのが面倒くさいからとりあえず自宅は共有にしておこうというスタンスは、のちのトラブルを生みやすいです。自宅の相続処理に不安があるのなら税理士への相談をおすすめします。

8. まとめ

自宅を相続する場合の相続税をテーマにお話させていただきました。いかがだったでしょうか。相続税にはたくさんの制度や特例があり、評価額の計算も複雑なものが含まれます。すべてを理解し使いこなすのは税理士でないと難しいのが現実です。

まずはSTEP別による相続の計算の流れを押さえたうえで、

  • 自宅の相続税評価額
  • 基礎控除
  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者の税額軽減

といった基本事項のもと、自宅を相続した場合の相続税を計算しましょう。

税理士はさまざまな控除や特例を使いこなすのに慣れています。税理士への相談の結果、相続税の支払いを免れるケースもあります。特例が使えるかどうか不安に感じる、計算してみたけど相続税が発生してしまうかも、といった場合には、積極的に税理士に相談しましょう。

この記事の監修者:安井 貴生

税理士。大阪市内の税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、時代の流れもあり相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加している。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。

この記事の執筆者:つぐなび編集部

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