相続税には申告期限があります。正当な理由なく申告期限内に相続税申告及び納付をしなかった場合、申告をしなかったペナルティとして「無申告加算税」が課されます。
無申告加算税とはどのようなものなのでしょうか?また税のペナルティには「重加算税」というものも存在しますが、重加算税との違いはどのようなものなのでしょうか?
目次
1. 相続税の期限内申告をしていなかった場合「無申告加算税」が課税される
相続税の無申告加算税とは、期限内に申告書を提出しなかった相続人につき、ルールを守らなかったことに対するペナルティとして課される税です。
そうは言っても「自己申告制である以上、無申告でも税務署には知られないのではないのか?」と思う方もいるでしょう。
実際のところ、ひとたび要調査対象と判断されれば、税務署の権限で少額の資金移動に至るまでチェックされてしまいます。そのため、申告が必要な場合は、きちんと期限内に書類を提出しなければなりません。
本記事では、無申告加算税がかかる条件、そして税率や金額について、理解すべき点を整理します。
2. そもそも相続税の申告期限はいつ?
相続税の申告期限は、相続人などが被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内となっています。例えば、2022年1月10日に被相続人が死亡した場合には、2022年11月10日が相続税の申告期限となります。
なお、この期限が土曜日・日曜日・祝日などにあたる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
3. 相続税の追徴課税「無申告加算税」の内容
無申告加算税が課税されるのは、実際には相続財産の状況と課税額を届け出なければならないにも関わらず、上記の申告期限内にやらなかった場合です。正確には、以下のような場合です。
▼無申告加算税が課税される要件
①正当な理由なく期限内申告しなかった場合
②申告したものの、その時点で法定申告期限から1か月が経過している時
簡単に言えば、無申告加算税は「特に事情なく申告せず、そのまま1か月超経過した場合」に課税されます。それでは、回避する方法や税率はどうなっているのでしょうか。
3-1 正当な理由だと認められる理由
無申告加算税を免除されるには、期限内申告できない正当な理由が必要前述しました。
この正当な理由として、以下のようなものが例として挙げられます。
・震災に遭い、どうしても申告期限までに申告書を作成して提出することが困難である。
・申告期限の直前に有効な遺書が見つかり、その中で認知があったために相続人が増え、申告期限までに申告書を作成して提出することが困難である。
つまり、天災や相続トラブル等の不可抗力があるのなら、期限内申告できなくても仕方ないと見なされます。
国税庁長官の事務運営指針では、通則法第66条を適用する場合「災害、交通・通信の途絶その他期限内に申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない事由があると認められるとき」が正当な理由にあたると示されています。
3-2 遺産分割が完了していないことは正当な理由とはならない
正当な理由に「遺産分割が完了していないこと」は含まれていません。遺産分割が完了しないのは、相続人の責めに帰することができない事情とは考えてもらえないのです。
以上の見解は、紹介した事務運営指針に「相続人間に争いがある等の理由により、相続財産の全容を知り得なかったこと又は遺産分割協議が行えなかったことは、正当な理由に当たらない。」と記載されています。
3-3 遺産分割が完了していないときの申告方法
相続税申告は、期限内に遺産の取り分が決まらないとしても、期限内に済ませなければなりません。問題は各人の取り分を記載しなければならない点ですが、結論として、仮に「法定相続したもの」と考えます。
つまり、民法の規定を確認し、そこで決められている割合でそれぞれ遺産をもらったものとして、課税額の計算と申告書への記入を行うのです。
この仮の申告は、相続税の特例である配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用させることができませんので注意が必要です。
これらの控除や特例は、遺産分割が完了した際に改めて申告し直す際に適用させることができるものもあります。
改めて申告し直す際は、修正申告又は更正の請求を行います。
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4. 無申告加算税として相続税に課税される金額
無申告加算税はどのくらいの金額になるかというと、追加で納付した税金の5%〜最大20%の額を支払わなくてはなりません。
これは期限後ではあるが自主的に申告した場合や、税務調査が行われる旨の通知の前後、また税務調査が行われた場合などによって税額に対する割合が変わります。
5. 無申告加算税として相続税に課税される税金の計算方法
相続税評価額が基礎控除額を上回り相続税がかかる場合で、申告期限内に申告を行わなければ無申告加算税が課されます。無申告加算税は、申告のタイミングや財産を隠していたかどうかなどによって税率が増減します。
期限後申告の状況 | 50万円までの部分 | 50万円を超える部分 |
税務調査前の自主申告 | 5% | 5% |
調査の事前通知を受けた自主申告※ | 10% | 15% |
税務調査後の申告または決定 | 15% | 20% |
※正確には、事前通知後かつ「税務署による課税額の決定を予知する前」です。
相続税額が300万円の相続があったと仮定して、下記の見出しで実際に計算をしてみましょう。
5-1 1年間無申告の後、自主的に申告をした場合
相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った時から10か月です。期限から1か月を過ぎても申告(期限後申告)をしない場合、無申告加算税がかかります。
1年間ということは12か月なので、このケースは1か月以内の期限後申告も行っていないため、無申告加算税が課されます。ただし税務調査前に申告を行ったので、税率は5%となります。
相続税額は300万円ですので、以下の計算になります。
3,000,000(円)×5(%)=150,000(円)
よってこの場合の無申告加算税の額は15万円となります。
5-2 1年間無申告で税務署から指摘、財産は隠していない場合
こちらの場合も申告期限から1か月を過ぎても申告をしていないため、無申告加算がかかります。
また税務署から指摘があり、税務調査についての事前通知がされているため、50万円までの税率は10%、50万円を超える部分については税率15%になります。
相続税額は300万円ですので、以下の計算になります。
(A)50万円までの無申告加算税の額
500,000(円)×10(%)=50,000(円)
(B)50万円を超える部分の無申告加算税の額
2,500,000(円)×15(%)=375,000(円)
この場合の無申告加算税の額
(A)+(B)=425,000(円)
よってこの場合の無申告加算税の額は42万5千円となります。
5-3 1年間無申告で税務署から指摘、財産を隠していた場合
財産を隠していた場合は無申告加算税ではなく、より税率の高い重加算税が課せられます。
申告書の申告内容について隠ぺいや偽装があった場合の税率は35%となり、相続税申告を意図的に行っていなかったとみなされる場合は税率が40%となります。
この場合は無申告で、申告書の中で財産を隠していたわけではないので、1番税率が重くなる相続税申告を意図的に行っていなかった場合に該当します。
よって、相続税額を300万円として、以下の計算になります。
3,000,000(円)×40(%)=1,200,000(円)
6. 相続税が無申告だと発生するその他の追徴課税
上記で無申告加算税について説明しましたが、ペナルティは他にも種類があります。
無申告加算税と併せて課税されるものもあれば、無申告加算税に代わって課税されるものもあります。
6-1 重加算税
意図的な仮装、隠ぺいなど、、悪質だと認められる場合に課せられます。特に悪質な場合は、刑事事件として立件され、強制調査の上で罰金や懲役が科されることもあります。
重加算税は無申告加算税や過少申告加算税に代わって課せられるもので、同時に他の種類の加算税がかかることはありません。
意図的な仮装、隠ぺいなどによる過少申告の場合の税率は35%、無申告の場合の税率は40%となります。これらの税は無申告加算税と同じく、追加納付する税金に対して課されます。
6-2 延滞税
いわゆる利息にあたります。税金の納付が遅れたことに対するペナルティですので、申告期限の翌日から加算されます。つまり、納税が遅れれば遅れるほど課される金額が大きくなります。
延滞税の税率は2段階あり、以下のようになります。
・期限の翌日から2か月を経過する日までの税率:年率2.6%
・期限の翌日から2か月を経過した日以後の税率:年率8.9%
延滞税は、無申告加算税や重加算税と併せて課されます。
6-3 過少申告課税
無申告ではなく、申告書を提出したものの金額が足りなかった場合に課せられます。
また、修正申告で税金を追加納付する場合や、税務署から更生を受けて追加納付する場合にも課税されます。税率は無申告加算税と同じくタイミングにより変わります。
50万円までの部分 | 50万円を超える部分 | |
税務調査前の自主申告 | なし | なし |
調査の事前通知を受けた自主申告 | 5% | 10% |
税務調査後の申告または決定 | 10% | 15% |
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7. 相続税の支払いがゼロ円でも申告が必要なケースもあるので注意
相続税申告は課税額ゼロなら不要と考えられがちですが、例外もあります。確実に申告不要になると言えるのは、遺産の価額が基礎控除額を下回っているケースです。基礎控除額は以下の計算式で算出します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、相続財産の総額が1億円、相続人が配偶者と子供が1人の場合を考えます。
この場合の基礎控除額は、以下のように計算します。
30,000,000(円)+6,000,000(円)×2(人)=42,000,000(円)
基礎控除額は4,200万円なので、相続財産の総額からこの分を控除し、相続税がかかるのは5,800万円ということが分かります。
7-1 申告が必要な特例や控除
相続税の基礎控除は申告しなくても適用されますが、その他の控除や税額軽減に繋がる特例は、個別に判断する必要があります。
税申告しないと適用されない控除・特例を使うにも関わらず「課税額はゼロになるから」と何もせずにいると、後になって無申告扱いになってしまいます。
申告の要否について具体例を挙げると、以下の通りです。
▼相続税申告しなくても適用されるもの
障害者控除、未成年者控除、相次相続控除、相続時精算課税を選択した生前贈与(相続財産に加算しても基礎控除額に収まる場合)、等
▼相続税申告が必要になるもの
配偶者の税額の軽減、小規模宅地等の特例、農地の納税猶予の特例、等
7-2 申告をしていなかった場合特例や控除が使えなくなることもある
申告が必要な特例・控除の中には、期限後申告だと適用できないものがあります。
他には、遺産分割が長引いて「仮に法定相続したもの」として申告する場合が挙げられますが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付すれば、通常の期限内申告と同じように制度利用作成し提出しましょう。
申告期限後3年以内の分割見込書は相続税の仮申告の際に一緒に税務署へ提出します。
なお、配偶者の税額の軽減は、隠ぺい又は仮装されていた財産は対象の財産となりません。
8. 相続税の申告をしていない場合時効まで逃れることはできる?
相続税の無申告加算税は、調査も指摘も一切受けないまま一定期間が経つと、基礎部分になる相続税額ごと将来に渡って課税されなくなります。上記の決まりが、いわゆる「相続税の消滅時効」です。
それでは、実際に相続税を支払わずに、時効を待つことは可能なのでしょうか。
8-1 相続税の時効
相続税の時効は5年または7年です。5年が適用されるのは、相続税の課税について「善意」、つまり遺産隠しの意図がなかった場合です。
7年が適用されるのは、相続税の課税につき「悪意」、つまり課税について知りながら不正に免れようとした場合です。
5年で時効が完成するのは、税務署からの手紙や連絡が何もなく、自分で申告の必要性に気付く機会がなかったと認められるような状況です。
実際には、家族が亡くなってしばらく経った人を対象に、広範囲でアンケートのような形式の書類が届くことがあります。
気を付けたいのは、悪意があるとして7年が適用された場合、無申告加算税よりも税率が高い重加算税が課される可能性がある点です。
8-2 時効まで税務調査から逃れることは難しい
税務署は死亡通知の情報も受け取っており、管轄内の納税者記録から資産状況も把握しています。
税申告の不正も常時監視しており、怪しいと思ったケースについては、概ね申告期限の翌年~翌々年に実地調査できるように動き出します。
そして、いったん実地調査に入られると、もう遺産の存在は誤魔化せません。
申告もせず、相続税の納付もせず知らないふりをしていても、結局重加算税を加算された上で相続税を納付することになるのです。
また、特に悪質なケースは捜査権を用いた「強制調査」が行われ、最終的には罰金または懲役刑に処される場合があります。
時効を狙って脱税行為をすることはリスクでしかなく、またほぼ不可能に近いです。無申告加算税や重加算税を課されてから納税するのと比べれば、申告期限内に特例や控除を使ってきちんと相続税を納めた方がずっと少額で済みます。
脱税行為はせずに、早めの申告を心がけましょう。
8-3 申告後期限後でも自己申告をすることがおすすめ
これまでの説明でも触れているように、相続税の申告はたとえ申告期限から過ぎてしまったとしても、なるべく早めに自己申告することをおすすめします。
放置すればするだけ加算税とは別に延滞税がかかり、加算税の税率も高くなります。できるだけ早めに済ませてしまえばその分支払う税金も少なくなります。
相続税の申告書の作成に不安のある方は、ぜひ一度専門家である税理士に相談されることをおすすめします。
9. 相続税や無申告加算税から逃れる・軽減するための方法
相続税の課税額の判断には、専門知識が必要です。自力で正しく計算して申告書を作成するのは不可能ではないものの、難しすぎて挫折しかねません。
また、日々を忙しく過ごしているうちに申告期限を過ぎてしまったということもあるでしょう。
しかし、相続税申告は、必要なら期限を守って正確に行わなければなりません。
余分な税金を課されないためにも、以下の項目に気を付けて、早めの申告を心がけましょう。
9-1 期限内に申告できるように早めに手続きを行う
まず相続税の期限をきちんと把握することが肝要です。被相続人が死亡し、相続により財産を取得した者が相続が開始されたことを知った翌日から10か月以内に申告しなくてはいけません。
いつが申告期限なのかを把握した上で、遺産分割協議など、申告のために必要な手続きを進めていきましょう。
9-2 相続税の支払いがなくても申告が必要ではないか確認する
「相続財産についてあまり多くないだろうと予想して申告書の形式に沿った計算をせず放置していたら、実際は相続税がかかってしまい無申告加算税を取られてしまった」
「配偶者控除について知っていたので相続税の支払いはないと思って申告せずにいたら、適用されなかった」
上記のようなことは意外と多いです。また、土地など相続時に明確に金額がわからないものは、価値が変動し、被相続人が財産取得したときよりもずっと価値が高くなっている可能性もあります。
相続財産がある場合は、本当に相続税はかからないのか、また申告は必要になるのか、きちんと確認することが肝要です。
9-3 無申告の場合はできるだけすぐに申告をする
期限の把握ができていず、知らぬ間に期限を過ぎてしまうこともあるかもしれません。
その場合はできるだけ早い段階で申告を行いましょう。遺産分割協議が調っていない場合も、各種税額軽減に繋がる制度を問題なく利用できるよう対処しつつ、いったんは期限内申告すべきです。
9-4 税理士に依頼をする
相続税は高度な知識が必要であるのは、既に説明した通りです。仮に知識があっても、制度に対する誤解や焦りから、申告書の記載でミスする可能性が大きいと言わざるを得ません。
また、仕事や家事がある中で慣れない作業を行うことは、心身に強い負担がかかることでしょう。
何か面倒ごとや、不安に思う部分がある方は、一度プロである税理士に相談してみるのがベターです。
10. 相続税や無申告加算税のお悩みは税理士に相談
相続税の手続きは申告書の作成について計算や書類を揃えることなど、いろいろな作業が必要となります。慣れない方が行うには大変な作業です。
また適切な申告を行わなければ、後々の税務調査で払わなくてもよかったはずの税金を払うことになってしまうかもしれません。
故人が残してくれた遺産をよりよい形で相続して受け継いでいくために、そしてご自身にとって一番良い形で税金を正しく納めるためにも、専門家である税理士にぜひ一度ご相談ください。
遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。