被相続人が株券や証券口座を持っていた場合、相続の対象になります。
しかし、相続人が株式運用の経験がない場合、どのように扱ったらいいのか分からないと困惑してしまうケースも多いです。
投資に関する知識がなければ、少しでも早く換金したいと考えるケースもあるでしょう。
そこで今回は、株や証券口座を相続した場合の名義変更手続きなどについて解説していきます。
目次
1. 株を相続する方法とは?
被相続人が株や投資信託による金融資産を所有している場合、これらは相続財産に含まれます。
ただし、被相続人名義の口座だと売買や換金はできないので名義変更の手続きが必要です。
相続人の証券口座に被相続人が保有していた株券の移管をしなければいけません。
相続人が証券口座を持っていない場合は、相続の手続きのためだけに新たに証券口座を開設する必要があります。
口座を持っている人が相続人になっているなら、新たに開設する必要はなく、移管だけすれば済みます。
被相続人と相続人の証券会社が異なる場合は、移管できる場合もありますが、場合によっては移管できない場合もあるので要注意です。
移管できない場合は、被相続人が取引をしていた証券会社に新しく口座を開設しましょう。
相続人の証券口座に株券などを移管したら、相続人自身の口座で売却や換金の手続きを行います。
移管手続きが完了したタイミングで口座を開設した支店に電話連絡をすると、その場で売却や換金可能です。
売却や換金する場合は、株価の動きがどうなっているのかチェックする必要があります。
少しでも高く売りたいなら、売却する時期を見極めた上で申請しなければいけないことも念頭に置いておきましょう。
移管手続きを済ませたタイミングで売却するのであれば、その時の株価で売却・換金となります。
2. 株を相続する際に知っておくべきポイント
株を相続するなら、いくつか知っておくべきポイントがあります。
ここでは、遺産分割や評価額、配当金について解説していきます。
2-1 遺産分割について
株を遺産分割する場合は、売却・換金して現金を分割することになります。
代表相続人が持つ証券口座に移管した後に売却・換金し、その売却益を均等に分割するのが公平な方法だと言えます。
分割するのは、売却された実際の代金です。
所得税の課税対象となる場合は、控除後の代金を分割します。
株を遺産相続した年の確定申告は、証券口座が「特定口座、源泉徴収あり」となっているなら利益が出ても必要はありません。
それ以外の口座を開設していたり、特定口座に保管できない銘柄を相続して売却益が出ていたりしたケースでは、相続人の所得になって確定申告が必要になります。
確定申告をすると、相続人の社会保険料や扶養親族に影響が出る可能性もあるため、あらかじめ確認しておきましょう。
また、換金せずに相続する方法もあります。
この場合は、証券会社の目録をチェックして、誰がどの銘柄をどのくらい相続するかあらかじめ相続人の間で決めておかなければいけません。
銘柄で分割するのであれば、分割しなおせないという点にも注意が必要です。
証券口座の銘柄は、分割の内容を具体的に証券会社に申し出なければいけないこともあり、後からやりなおせないのです。
後からやりなおせばいいと適当に考えるのではなく、内容をあらかじめしっかりと確認し、相続人全員が納得した上で相続手続きを進めるようにしましょう。
そうしなければ、後から相続に関するトラブルが発生する可能性が高くなります。
2-2 評価額について
相続税の申告をするために、評価額を知っておくことも重要なポイントになります。
原則は、亡くなった日の終値が基準となるのですが、必ずしもそうとは限りません。
相続開始日の終値、課税時期の月の終値の平均額、課税時期の月の前月の終値の平均額、課税時期の月の前々月の終値の平均額の中で「一番低い価格」を選択できるのです。
分かりやすく説明すると、亡くなった日、亡くなった月、亡くなった前月、亡くなった前々月のいずれかで一番低い価格を採用できるという意味です。
相続人の誰かが株を現物のまま取得し、他の相続人に代償金を支払う場合は考え方が異なります。
相続人同士で話し合い、株価をいくらと評価するのか決めるのです。
亡くなった後に株価が大きく変動しているケースは不公平になる可能性が高いため、亡くなった日(休日の場合は前日)の株価を採用するのが最も公平性が高い決め方だと考えられます。
2-3 配当金について
配当金は、亡くなった後に必要な相続手続きをしなくても支払われます。
被相続人宛に配当金の通知書が届くケースが多く、相続人が郵便局などに持参するとそのまま配当金が支払われることが多くなっています。
しかし、それは正規の手続きではないためトラブルを防ぐには、被相続人が持つ証券口座で相続手続きをきちんとしておきましょう。
口座相続手続きだけではなく、配当金の相続手続きも必要です。
上場企業は、自社の配当金支払いに関する事務作業を信託銀行に委託しているケースも多く見られます。
そのため、相続が発生したら信託銀行に対して配当金の相続手続きを行う必要があります。
企業によって配当金が出る時期が異なるため、手続きに数ヶ月ほど時間がかかる可能性も念頭に置いておきましょう。
3. 相続の方法は上場か非上場かによっても変わる
株の相続方法は、上場か非上場かによっても変わってきます。
続いては、それぞれの相続方法について解説していきます。
3-1 上場株式の場合
上場株式の場合は、証券会社など取引をしていた会社で相続手続きを行います。
被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、相続人の戸籍謄本、相続人の印鑑証明書などが必要です。
遺産分割協議を行った場合には、遺産分割協議書も必要になります。
証券会社によっては決められた書式が用意されているケースもあるため、証券口座を開設している証券会社に必ず連絡をしておきましょう。
その上で書類を用意すれば滞りなく手続きを進められます。
上場株式の場合は、被相続人の生前に売却すると株に対してかかる相続税を減らせます。
株から現金に相続財産の形が変わるだけのように思われるかもしれませんが、納税資金を確保しておくという意味でも現金化するメリットは大きいのです。
3-2 非上場株式の場合
非上場株式の場合は、株主の管理を発行する会社が行っているため、相続手続きも株式を発行する会社が行うことになります。
非上場株式を保有していたなら、株式を発行する会社に連絡し、相続手続きの指示を仰ぎましょう。
非上場の株式会社は、経営者の一族がオーナーとしてその会社の株式を保有しながら経営しているケースが多く見られます。
株主だった人が亡くなって相続人が新たな株主となる場合、どのような人が株主になるかオーナー側は不安に感じるものです。
会社の経営方針に適切ではない人物が株主になった場合、経営が意図しない方向に向かってしまう可能性があるため、不安を感じてしまいます。
そのような状況を回避するために非上場の株式会社は、相続人に対して株式の売渡請求が可能となる契約を結んでいることが多いです。
非上場株式の場合は、会社の後継者に贈与しておくと相続税の負担を減らせます。
事業承継税制などの特例を使えれば、よりその負担を軽減できるため検討してみるのがおすすめです。
また、非上場株式は、1株当たりの評価額の計算方法は非常に複雑です。
そのため、これまでの財産状況や配当政策などを見直すと、1株当たりの評価額を下げられる可能性もあります。
ただし、何をどうすれば評価額が下がるかは会社によって異なるので、税理士や弁護士などの専門家に相談しながら株価を下げるための努力をしてみましょう。
4. 亡くなった場合は銀行口座が凍結される
亡くなった場合、銀行口座は凍結されてしまうため、有価証券や証券口座の名義変更をしなければいけません。
預貯金をはじめとした金融資産は、相続が起きたタイミングで口座が凍結され、引き出したいと思っても引き出せなくなります。
相続が発生した時、少しでも早く名義変更をして現金を受け取りたいと考える人も多く見られます。
様々な事情によってまとまった現金が必要な場合は、特に早く現金化したいと考えるものです。
金融機関における手続きは、専門的な知識がないと難しいと感じてしまう傾向があるため、税理士や弁護士などの専門家に相談しながらすすめるのがおすすめです。
名義変更の方法は、お金や株式を預けている金融機関の支店で行われます。
金融機関に問い合わせ、相続手続書類を手に入れましょう。
相続手続書類だけではなく、添付する書類も忘れずに準備してください。
添付書類には、
・亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本
・除籍謄本
・住民票の除票
が必要です。
また、相続人に関する書類も用意しなければいけません。
相続人に関する必要書類は、
・相続人全員分の戸籍謄本
・住民票
・印鑑証明書
です。
5. まとめ
被相続人が株式や証券口座を持っている可能性はかなり高いです。
しかし、相続人も株式投資や投資信託をやっているとは限らず、どうすればいいのか迷ってしまうケースも多いのが現状です。
それでも、相続財産に含まれるため、正しい手続きをしなければいけません。
また、相続する場合は、遺産分割や評価額、配当金についても正しく理解しておく必要があります。
知識が乏しい場合は無理に相続人だけで解決しようとせず、弁護士などの専門家に相談してみるのもおすすめです。
相続にはお金が関わってくるため、後々になってトラブルが発生するケースも実は多く見られます。
トラブルを防ぐためにも、相続人同士での話し合いをきちんと行い、全員が納得できる結果を導き出せるようにしましょう。
そのためにも、弁護士などの専門家の力を借りてアドバイスをもらいながら話し合いや手続きを進めた方が良いのです。
この記事の監修者
工藤 崇(くどう たかし)
独立型ファイナンシャルプランナー。
WEBを中心にFP関連の執筆・監修多数。セミナー講師・個別相談のほか、「相続の第一歩に取り組む」ためのサービスを自社で開発・提供。
東京・北海道を拠点として事業展開。
株式会社FP-MYS代表。