弁護士に相続の相談や依頼をしたら、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
依頼する事務所や案件の内容によって異なりますが、およその相場が存在します。
今回は弁護士に遺産分割や遺言書作成などの対応を相談・依頼したときの費用相場や金額を抑える方法、良い弁護士の選び方をご紹介いたします。
弁護士を探している方、相続対策を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
目次
- 1.相続の依頼にかかる弁護士費用の種類と相場
- 2.相談内容別の弁護士費用
- 3.弁護士費用は誰が支払う?相手に支払わせることは可能?
- 4.弁護士費用をなるべく抑えるには
- 5.相続に強い弁護士の選び方
- 5.1.相続を専門的に取り扱っている
- 5.2.解決事例の種類と件数
- 5.3.調停委員や裁判官の考え方を理解し事情を考慮した戦略を立てられる
- 5.4.弁護士歴
- 5.5.依頼者に不利な情報も教えてくれる
- 5.6.質問や対応のスピード感
- 5.7.レスポンスや、報連相がしっかりしている
- 5.8.料金の明瞭さ
- 5.9.弁護士との性格的相性
- 5.10.紛争防止に対しての取り組み、早期介入
- 5.11.話をしっかり聞いてもらえる
- 5.12.丁寧に理解できるまで説明してくれる
- 5.13.できないことはできないと答える
- 5.14.事前見積もりを出してくれる
- 5.15.アクセスが良いか
- 5.16.無料相談、土日や平日夜間でも相談できる
- 5.17.オンラインの相談を実施しているか
- 5.18.他士業とのネットワーク
1.相続の依頼にかかる弁護士費用の種類と相場
一口に「弁護士費用」といってもさまざまな種類があります。
弁護士費用はそれぞれの事務所が定めているので、どの事務所に依頼するかで金額が変わります。
依頼する内容によっても大きく異なります。
弁護士費用にはいくつか種類がありますので、まずはそれぞれについてみていきましょう。
1.1.相談料
相談料は弁護士に相続に関する相談をしたときに発生する費用です。
多くの事務所では「30分5500円」に設定されていますが、無料相談を受け付けている事務所も多数存在します。
1.2.着手金
着手金とは、遺産分割協議などの具体的な案件に取り組んでもらうときに支払う費用です。
依頼内容によって金額が異なります。
・遺産分割協議の場合…22万~33万円程度
・遺産分割調停や審判の場合…33万円~
・遺留分侵害額請求の交渉の場合…11万円~
・遺留分侵害額請求の訴訟の場合…請求額の2~8%程度(下表参照)
遺留分侵害額請求などの「財産的利益を請求する事件」では、以下のように「請求額を基準」とする事務所が多数です。
経済的利益の額 | 着手金 |
300万円以下の場合 | 8% |
300万円を超え3000万円以下の場合 | 5%+9万円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 | 3%+69万円 |
3億円を超える場合 | 2%+369万円 |
1.3.報酬金
報酬金とは事件を解決できたときに発生する費用です。たとえば遺産分割協議が成立して遺産を受け取れたら報酬金が発生します。
報酬金は受け取った相続財産の金額に応じて変わり、利益が大きくなるほど高額になります。目安は以下の通りです。
経済的利益の額 | 報酬金 |
300万円以下の場合 | 16% |
300万円を超え3000万円以下の場合 | 10%+18万円 |
3000万円を超え3億円以下の場合 | 6%+138万円 |
3億円を超える場合 | 4%+738万円 |
1.4.実費
実費は裁判所に払う印紙代や郵送料など「実際にかかる費用」です。弁護士に依頼せず自分で対応しても実費はかかります。弁護士に依頼するときには当初にまとめて実費を払い、後に清算するのが一般的です。
相続案件では以下のような実費がかかります。
・戸籍謄本類の取得費用…相続人調査を依頼すると戸籍謄本1通450円、除籍謄本や改製原戸籍謄本は1通750円かかります。
・印紙代…遺産分割調停や審判、遺留分侵害額請求訴訟、相続放棄などを依頼するとそれぞれ裁判所へ印紙代を払わねばなりません。金額は事件内容によって異なります。
・郵便切手代…相手に内容証明郵便を送る費用、通常の文書を送る費用、裁判所へ納める郵便切手の費用などがかかります。
1.5.日当
日当は、弁護士が出張した際の手当です。
1日出張したら3~5万円程度、半日なら1~3万円程度がかかります。
1.6.手数料
遺言書や遺産分割協議書の作成などの単発の作業を依頼すると手数料がかかります。
金額は依頼内容によって異なりますが、11万円~22万円程度となる事務所が多いでしょう。
1.7.弁護士費用の具体例
ケース1 遺言書の作成を依頼
遺言書の作成を依頼すると弁護士の手数料が11~22万円程度かかります。
公正証書遺言の場合には公証役場の手数料や証人の費用などが加算されるので、さらに数万円(遺産額によって異なる)が発生します。
合計
15~25万円程度
ケース2 遺産分割協議を依頼して3000万円分の遺産を獲得
着手金
他の相続人との遺産分割協議を依頼すると、着手金が22万円程度かかります。
報酬金
3000万円の利益を得られたら、報酬金が349万8千円程度となります。
合計
371万8千円
ケース3 遺産分割協議から調停、審判を依頼して3000万円の遺産を獲得
着手金
遺産分割協議を依頼した時点で着手金が22万円かかります。調停に移行した段階で追加の着手金が110万円かかったとしましょう。
実費
調停申立時に実費として1万円が発生(郵便切手、戸籍謄本の収集費用、印紙代など)。
報酬金
最終的に審判で3000万円を獲得できたので報酬金は349万8千円です。
合計482万8千円
2.相談内容別の弁護士費用
相続に関連して発生する弁護士費用は依頼内容によって大きく異なります。
パターン別に相場をご紹介します。
2.1.遺産分割協議
他の相続人との遺産分割協議の代理を依頼した場合の弁護士費用を示します。
着手金
22万~33万円程度です。ただし遺産分割調停を申し立てる場合、追加で着手金が発生する事務所が多数です。調停の着手金は「○○万円」などの定額計算の事務所もありますが、「請求額の2~8%程度の金額」になる事務所もあり、対応がまちまちです。なお請求額に応じた金額相場については1.2.で記載した表のとおりとなります。
報酬金
得られた経済的利益の4~16%程度です。具体的な金額は1.3.で紹介した表のとおりとなります。たとえば1億円分の遺産を得たら811万8千円と計算されます。
2.2.遺留分侵害額請求
遺言や贈与によって「遺留分」を侵害されたら、侵害者へ「遺留分侵害額請求」ができます。
遺留分侵害額請求を行うと、侵害された遺留分に相当する金額を払ってもらえます。
そのための交渉や調停、訴訟を弁護士に依頼する場合の費用は以下の通りです。
着手金
交渉なら11万~22万円程度が相場です。調停や訴訟になると経済的利益を基準に計算する事務所が多数となり、請求額が高額になると金額が上がります。具体的な金額は1.2.で紹介した表のとおりです。
報酬金
相手から支払いを受けられた金額の4~16%程度が相場です。具体的な金額相場は1.3.で紹介した表のとおりです。
2.3.遺言書の作成
弁護士に遺言書の作成を依頼すると「手数料」が発生します。金額は遺産内容の複雑さなどによって異なり、相場は11~22万円程度です。
2.4.遺言執行
遺言執行とは、遺言内容を実行してもらうことです。弁護士に遺言執行を依頼すると、相続開始後に弁護士が不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどの各種手続きをしてくれます。
手数料の相場は遺産の価額によって異なり、金額が上がると高額になります。
2%+24万円程度となる事務所が多いでしょう。
参考
遺産額 | 弁護士費用の相場 |
300万円以下 | 30万円 |
30万円~3000万円 | 2%+24万円 |
3000万円~3億円 | 1%+54万円 |
3億円を超える | 0.5%+204万円 |
2.5.相続放棄
借金を相続したくない場合などに有効な対処方法です。プラスの遺産もマイナスの負債も一切相続せずに済みます。
弁護士に依頼すると、手数料として3万3千円~11万円程度がかかるでしょう。
3.弁護士費用は誰が支払う?相手に支払わせることは可能?
遺産分割協議や遺留分侵害額請求を弁護士に依頼すると、高額な費用がかかるケースも多々あります。そんなとき、事件の相手方に弁護士費用を払わせられないのでしょうか?
日本では弁護士費用は「自己負担」となっています。たとえ裁判で全面勝訴しても弁護士費用を相手に払わせることはできません。
ただし訴訟を起こした場合、「印紙代」は相手に負担させられる可能性があります。判決時に裁判所が印紙代の負担割合を決定します。
遺産分割調停や審判では印紙代も申立人が負担します。
以上のように、相続の手続きにかかる費用は「基本的に自己負担」となると考えましょう。
4.弁護士費用をなるべく抑えるには
遺産相続にかかる弁護士費用は安くはありません。できるだけ抑えるには以下のような工夫をしてみてください。
4.1.無料相談を活用する
まず「無料相談」の活用は必須です。30分5500円が無料になるのですから利用しない理由はないでしょう。
4.2.事前に情報収集する
費用を安く押さえたいなら「情報」を集めましょう。弁護士費用の相場を知っておけば「相場より高い事務所」を避けられます。
また事前に弁護士事務所のHPをみてだいたいの費用を確認すれば「リーズナブルな事務所」に当たりをつけられます。いくつかの法律事務所サイトをみて「安い事務所」を探して相談すれば費用を抑えられるでしょう。
4.3.複数の事務所を比べる
安い事務所を探したいなら複数事務所の比較をオススメします。同じ案件でも依頼する事務所によって金額が大きく異なります。複数の事務所で相談して見積書を出してもらい、安い事務所を選定するとよいでしょう。
4.4.法テラスの民事法律扶助を利用する
最終的には法テラスの民事法律扶助を利用する方法があります。民事法律扶助を適用すると着手金も報酬金も一般の弁護士事務所相場より大幅に下がります。
たとえば経済的利益が3000万円までの報酬金の割合は一律10%ですし、着手金も10万円以下になる例が多々あります。
法テラスと契約している弁護士であれば法テラスを使って受任してもらえるので、適用したい場合には相談してみましょう。
5.相続に強い弁護士の選び方
せっかく弁護士に依頼するなら「相続に強い弁護士」を選びたいところです。注目すべき点や選び方をご紹介します。
なお、以下でも相続に強い弁護士の選び方は記載していますが、より詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
5.1.相続を専門的に取り扱っている
第1に「相続案件を専門的に(積極的に)扱っていること」が重要です。相続に関する経験やスキルが不足していると、対応が後手後手にまわったり時間がかかったりして依頼者に不利益が及ぶリスクがあります。
単純に弁護士歴が長くても取り扱い件数が多いとは限りません。これまでの相続に関する相談、解決実績の件数や解決事例などを確認しましょう。
5.2.解決事例の種類と件数
弁護士事務所のHPには解決件数や実例が掲載されているケースがよくあります。相続に関する解決事例などをみて「(その弁護士が)相続を得意としているか」当たりをつけましょう。一般的に対応件数や解決実績の数だけノウハウが蓄積されているものです。
5.3.調停委員や裁判官の考え方を理解し事情を考慮した戦略を立てられる
遺産分割調停では調停委員、審判や訴訟では裁判官の裁量が大きくなります。これらのキーパーソンの傾向や手続きの流れを熟知して、有利になる戦略の立案に長けた弁護士を選びましょう。
5.4.弁護士歴
単純に弁護士としての年数も一定程度は影響します。たとえば「1年目の弁護士」に「相続が得意です」といわれても納得しがたいでしょう。
もちろん「相続案件の取り扱い件数」が重要なのですが、年数もある程度は評価対象となりえます。
5.5.依頼者に不利な情報も教えてくれる
良い弁護士は「依頼者に不利な情報」も伝えてくれるものです。
確かに依頼者にとって、不利な情報を告げられると気分が落ち込むでしょう。しかしリスクがある以上、伝えてくれないとさらに悪い結果になる可能性があります。
不利な情報も踏まえて戦略を考えてくれる弁護士を選びましょう。
5.6.質問や対応のスピード感
できる限りレスが早い、コミュニケーションをとりやすい弁護士を選びましょう。
ただし連絡直後にレスがなくても不利になるとは限りません。調停や訴訟は基本的に1ヵ月に1回程度開催されます。あまり焦らずに連絡を待つべき状況もあるので、ケースバイケースで対応しましょう。
5.7.レスポンスや、報連相がしっかりしている
レスや報連相は重要です。
ただ弁護士は日中、裁判所や弁護士会などへでかけていることも多く、電話等をもらってもすぐに折り返しができず時間がかかるのが一般的です。
そんなときは焦らずに連絡を待ちましょう。
5.8.料金の明瞭さ
良い弁護士を選ぶため、料金が明瞭なことは極めて重要です。事件ごとに料金表が提示されていても、具体的な案件にあてはめると予想と大きく変わってくるケースが少なくありません。
相談時にきちんと料金を提示してくれて追加費用発生の有無やタイミング、支払時期など明確に説明してくれて契約書もきちんと作成する弁護士を選びましょう。
5.9.弁護士との性格的相性
弁護士選びでは「性格的な相性」も非常に重要です。
話しやすい、質問しやすい、説明がわかりやすい、好感を持てる弁護士に依頼しましょう。
5.10.紛争防止に対しての取り組み、早期介入
フットワークが軽く早期に対応してくれる姿勢も重要です。
依頼したらすぐに動いてくれてサクサク対応を進めてくれる弁護士が良い弁護士といえます。
5.11.話をしっかり聞いてもらえる
依頼者の話を聞く姿勢も重要です。ただしプロですから依頼者の「言いなり」では話になりません。依頼者の希望を踏まえて「ベストな解決方法」を提示してくれる弁護士を選びましょう。
5.12.丁寧に理解できるまで説明してくれる
難しい専門用語で煙に巻くような弁護士は良い弁護士とはいえません。丁寧に一般の人にもわかりやすい言葉で説明してくれる人を選びましょう。
5.13.できないことはできないと答える
依頼者が希望しても不可能なことはあります。そんなときにはごまかさずに「法律的にできません」とはっきり指摘してくれる人が良い弁護士と考えられます。
5.14.事前見積もりを出してくれる
相談したら「どの程度の費用がかかるのか」見積もりを出してくれる弁護士を選びましょう。
費用の説明を後回しにされると後にトラブルになるリスクが高くなります。
5.15.アクセスが良いか
交通アクセスも重要です。事件を依頼したら何度も事務所に通わねばならないケースが多いからです。駅から近い、自宅や職場から近い事務所が良いでしょう。
5.16.無料相談、土日や平日夜間でも相談できる
無料相談ができて土日祝日対応、夜間の相談に対応してくれるかも判断の指標となります。
ただし上記の条件を満たしても、誰でもいいわけではありません。相続に強くコミュニケーションをとりやすいことは絶対です。良い弁護士が休みに対応していない場合には有給をとってでも依頼すべきケースは考えられます。
「良い弁護士が無料相談や土日祝日対応しているとベター」くらいに考えましょう。
5.17.オンラインの相談を実施しているか
今の時代、できればオンライン相談に対応している弁護士を選びたいものです。ただし「相続に強いこと」が絶対条件となります。「相続を得意としている弁護士がオンライン相談に対応しているとなお良い」程度と考えましょう。
5.18.他士業とのネットワーク
相続案件に対応するには、不動産登記を扱う司法書士や相続税を扱う税理士の協力が必要です。こうした他士業とも連携していてネットワークを構築している弁護士は相続に力を入れている可能性が高いといえます。
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