相続が発生した場合、必要な手続きがわからず、税理士への依頼を検討するケースも多いでしょう。
しかしいざ税理士事務所へ見積依頼をしても、税理士報酬の相場がわからなければ、その金額が妥当かどうか判断できません。
今回は相続税申告における税理士報酬の目安や注意点について解説します。
目次
1.このような場合は税理士にまず相談を
相続が発生した場合でも、すべてのケースにおいて税理士に相談が必要ということはありません。
以下のいずれかに該当する場合には、一度税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
なお相続について税理士へ相談すべきケースについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
1.1.相続税がかかるかどうか知りたい
まずは生前のうちに、将来相続税が発生するかどうか確認したい場合です。
将来の相続税をシミュレーションすることにより、生前贈与などの効果的な相続対策を実行できます。
1.2.初めての相続税申告で手続きがわからない(忙しくて時間がない)
相続手続きは煩雑であるため、仕事や育児などで時間を確保することが困難な場合には、早めに税理士へ相談することをお勧めします。
1.3.相続税がかかるかわからない(かかりそう)
原則として相続税が発生する場合には申告手続きが必要となりますが、相続財産が多い事例では、遺産総額を計算するには財産ごとの相続税評価額を算定する必要があるため、申告義務の判定も複雑なものとなります。
1.4.相続税申告が必要になりそう
相続税申告は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10ヵ月以内に申告しなければなりません。
また相続税においては「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」など、申告しなければ適用できない特例制度があるため、申告が必要な場合には早めに税理士へ相談してください。
1.5.相続税がかかるだろうとほぼわかっているが、申告額を安く押さえたい
相続税の計算においては様々な特例制度が設けられています。
そのため税理士へ相談する事例としては、単に自分で申告手続きを行うことが不安な場合だけでなく、相談することで節税に繋がることを期待するケースも多いです。
1.6.相続財産が多い
相続財産が多い場合には、相続人の見落としなどの理由によって一部が相続財産から漏れてしまうケースも頻発します。
そのため相続財産が多い場合には、申告漏れのないように専門家からの助言を受けることも検討してください。
1.7.相続財産の中に不動産がある(1つでも価額によっては&多数ある場合は税申告の可能性も)
不動産についてはその用途によっても評価額が変わるため、その算定が難解なケースも数多く存在します。
仮に評価額に誤りがあれば、納税額が過大または過少となってしまうリスクもあるため、不動産がある場合には早めに税理士へ相談しましょう。
1.8.税務署からの書面(お尋ね/お知らせ)が届いた
相続発生日から半年程度経過した段階や申告期限から数年が経過した段階で、税務署から「相続税申告が必要ではありませんか?」という内容のお尋ね文書が届くことがあります。
そのような税務署からのお尋ね文書にはきちんと回答することが望ましいため、必要に応じて税理士へ相談しましょう。
2.相続税申告で税理士に依頼する場合の費用の内訳
税理士へ相続税申告を依頼する場合、多くの事務所では基本報酬と追加料金を分けて料金体系を設定しており、個々の相続事例をその料金体系に当てはめて報酬額を計算します。
基本報酬に含まれる内容は事務所によって多少異なりますが、一般的には以下の項目が含まれています。
・財産評価及び財産目録の作成
・節税を加味した遺産分割のご提案
・遺産分割協議書の作成
・相続税申告書の作成、提出
所得税の準確定申告や書面添付制度の利用、相続税申告後の税務調査対応については別料金として設定しているケースもあります。
いずれにせよ税理士事務所によって料金体系やサービス内容が異なるため、複数の事務所へ見積依頼を行い、報酬額やサービス内容を比較検討しましょう。
3.相続税申告の税理士報酬金と相場
相続税申告を税理士へ依頼する場合、一般的な報酬の目安は財産額の0.8%~1.0%とされています。
しかし具体的な料金体系については税理士事務所ごとに異なっており、また個々の事例によって上記の相場より高くなるケースも少なくありません。
3.1.相続税申告の報酬金と相場
かつては税理士報酬規定により税理士報酬は固定されていましたが、平成14年に撤廃されて以降、税理士報酬は自由化されています。
そのため現在では、税理士事務所によって異なる料金体系を設定することが可能であるため、一般的な相場を捉えることは難しくなっています。
ただし近年ではホームページを通じ、各事務所の料金体系を確認できます。
したがって税理士を探す際には、まずはインターネットを活用した情報収集から始めましょう。
3.2.相続税申告の依頼は税理士によって費用が異なる
税理士事務所の料金体系は事務所ごとに異なりますが、多くの場合には財産額に基づいて計算されます。
具体的には、「財産額×〇%」という計算式で報酬額を計算するケースや、「財産額が8,000万円以下の場合は○○円、1億円超の場合には××円」というように、財産額をいくつかの階層に分けて料金設定をしているケースが一般的です。
3.3.相続税申告の依頼が相場より高くなるケース
先述したとおり、相続税申告における税理士報酬の目安は財産額の0.8%~1.0%程度ですが、個々の相続事例によっては加算報酬という形で追加料金が課され、世間相場よりも報酬額が高くなるケースも少なくありません。
以下では追加料金が課されやすいケースについて解説します。
3.3.1.土地の評価が複雑な場合
土地評価は、相続税申告において最も複雑な業務のひとつとされています。
土地の形状や利用状況、周辺環境などによって相続税評価額が変わるため、様々な要素を加味しつつ、適切な評価額を計算しなければなりません。
したがって評価額の算定が複雑な土地や、評価すべき土地の数自体が多い場合には、必然的に税理士側の工数も増加するため、追加料金が発生する可能性が高くなります。
3.3.2.申告期限まで時間がない場合
先述したとおり、相続税申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告する必要があります。
申告期限が決まっているため、期限が間近に迫る中で依頼があった場合には、他の業務よりも優先してその相続案件に取り組まなければなりません。
また急いで手続きを進めることは、時間に余裕があるケースに比べて税理士側にもリスクが及ぶことこともあり、このような背景から追加料金を設定する事務所が多いのです。
3.3.3.遺産に非上場株式がある場合
土地評価と同様に、非上場株式の評価額算定についても複雑な作業が必要となります。
上場株式の場合には日々取引価格が公表されていますが、非上場株式の場合、相続発生日における会社の株価を自分で計算しなければなりません。
このような背景から、相続財産に非上場株式が含まれる場合には、株価の評価件数に応じた加算報酬がかかるケースが一般的です。
3.3.4.相続税を物納する場合
相続税を納税する際、現預金が充分でない場合には不動産などによって物納することができます。
ただし物納自体を利用するケースがあまり多くなく、利用する場合には別途「物納申請書」などの書類を作成しなければならないことから、物納を行う場合には追加料金が発生するケースが一般的とされています。
3.3.5.相続人が多い場合
相続人の数が多い場合には必要となる書類が増え、申告手続きも煩雑となることから、追加料金が発生する事務所も少なくありません。
ただし一定人数までは基本料金に含まれているケースが多く、「相続人が3名以上の場合には、1名につき○○円(または○○%)加算」という形で料金体系を設定している事務所が一般的です。
4.相続税申告はどの税理士でも同じ結果ではない
土地や非上場株式の評価のように、相続税においては複雑な手続きが多く、どの税理士に依頼しても税額が同じになることは少ないでしょう。
また税額計算だけでなく、遺産分割や節税の提案、手続きに関するわかりやすい説明など、「依頼者に寄り添ったサポート」という観点においても、税理士によって大きく向き合い方が異なります。
したがって報酬額のみで税理士を選ぶのではなく、サポート内容も重視しましょう。
4.1.相続税の領域は税理士でも難しい
相続手続きにおいては、税理士としての経験値が非常に重要な役割を担っています。
税理士の顧問業務の場合、顧客である法人や個人事業主側にも、法人税や所得税に関する一定の知識や経験が備わっているケースも多いです。
しかし相続の場合には、依頼者には相続に関する知識がほとんどないケースが大半であり、意図的でなくても、様々な場面で抜け漏れが発生しやすいという特徴があります。
そのような相続手続きにおいては、税理士側が自らの経験に基づいてしっかりとリードしなければなりません。
したがって単に知識を有しているだけでなく、専門家としての充分な経験が必要であることから、相続手続きの難易度はより一層高まるのです。
4.2.相続税を苦手としている税理士もいる
税理士業務の中心は、法人や個人事業主を顧客とする顧問業務であり、相続案件に触れる機会すらほとんどない税理士も多いのが実情です。
このように相続業務に携わる頻度の少なさによって、専門家としてのノウハウが蓄積されず、相続手続きを苦手とする税理士も少なくありません。
5.相続税申告を相談する税理士の選び方
適切な判断基準を持たずに、相続に強い税理士を選ぶことは容易ではありません。
そこで以下の内容をひとつの判断基準として、税理士探しを行うことをお勧めします。
なお相続に強い税理士の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
5.1.相続税申告の実績数
一般的には相続税申告の実績が多いほど、税理士事務所や各々の税理士にノウハウが蓄積されていると考えられるため、年間の申告実績は判断基準となります。
目安としては申告実績が年間50件程度あれば安心です。
5.2.相続税を専門(得意)としているか(法人税や所得税ではなく)
先述のとおり、税理士事務所の中には相続が専門外の場合も少なくありません。
近年では多くの税理士事務所がホームページを設けているため、相続専門の事務所かどうか確認しましょう。
5.3.税務調査に入られる率が低いか
相続税申告の場合、税務調査が行われる可能性は10%前後といわれていますが、相続専門の税理士として税務署から一定の信頼を得ている場合には、税務調査に入られるリスクも自ずと減少するものと考えられます。
5.4.税理士報酬は明確か
税理士報酬の一般的な相場は遺産総額の0.8~1%程度といわれています。
しかし基本料金に加え、遺産に宅地や非上場株式の評価などが含まれる場合には、追加料金が発生することも多いです。
見積もりを依頼する場合には、そこに含まれるサービス内容にも注意しましょう。
5.5.相続税の納付金額と税理士報酬を合算して考慮する(税理士報酬だけで選ばないこと)
相続税は税理士の知識や経験によって納税額が大きく変わる可能性のある税金であるため、報酬の大小によって税理士を選ぶことは得策ではありません。
したがって税理士報酬だけでなく、節税提案もしてくれる税理士を選ぶように心掛けましょう。
5.6.手続きも考慮した提案をしてくれるか
相続手続きは相続税申告だけでなく、遺産分割協議や不動産登記など多岐にわたりますが、中には申告のみを請け負って他の業務について一切関知しない税理士もいるようです。
したがって申告以外の手続きも含め、包括的な提案があるかどうかについても重視しましょう。
5.7.自分でもできる内容をいかに深く網羅的に代行してくれそうか
相続手続きについては、依頼者が自ら行うことも可能です。
依頼したい手続きの範囲は依頼者によって異なるため、自身のニーズに応じた手続きを網羅的に代行してくれることが重要です。
5.8.相続税申告を税理士に相談する際の選び方のその他の基準
これまで解説した判断基準よりは多少重要度が劣るため、以下の内容のみで税理士を選ぶことはあまり適切ではありませんが、先述した判断基準と合わせてご確認ください。
5.8.1.話をしっかり聞いてもらえる
遺産分割協議のように相続手続きにおいては複数の選択肢が存在するケースも多く、それらを決定する際には相続人の意思が最も重要です。
申告を完了させることがすべてではなく、気持ちを汲み取ってくれるような税理士を選びましょう。
5.8.2.丁寧に理解できるまで説明してくれる
依頼者側は相続手続きに馴染みのないケースが大半であるため、相続税計算の流れや特例制度など、税理士がわかりやすく丁寧に説明してくれることも重要なポイントです。
5.8.3.できないことはできないと答える
税理士でも対応できない業務は存在するため、相談内容に対して曖昧な回答はせず、対応の可否について明確な回答が得られるかどうか確認しましょう。
5.8.4.費用(料金表)が明確、事前見積もり
ホームページなどで料金体系が掲載されているケースもありますが、個々の相続事例で税理士報酬は変動するため、必ず事前見積もりを取るようにしましょう。
5.8.5.アクセスが良いか
相続では何度も税理士との打合せが必要であるため、あまりにも遠方の場合やアクセスが不便なケースでは不都合が生じる可能性があります。
5.8.6.レスポンスや、報連相がしっかりしているか
相続税申告には期限があるため、税理士側のレスポンスが遅い、報連相がないなどの問題はできる限り避けたいものです。
したがって依頼前に、事務所や担当者のレスポンスに不安がある場合には注意しましょう。
5.8.7.相談は無料か、土日や平日夜間でも相談できるか
土日や平日夜間しか時間が確保できない場合には、そのような日時でも対応可能かどうか、税理士側へ確認しましょう。
また初回相談料については無料と有料のどちらのケースもありますが、一概にどちらが好ましいとは言えません。
有料、無料で判断せずに、選択肢を広げて相談することをお勧めします。
5.8.8.オンラインの相談を実施しているか
仕事や育児で時間を確保することが難しい場合には、zoomなどを利用したオンライン面談が可能な事務所を探してみるのも良いでしょう。
オンライン面談が可能であれば、正式に依頼した後でも有効活用することができます。
6.成功報酬の税理士には注意するべき
税理士事務所の中には、成功報酬型の料金設定をしている事務所もあります。
たとえばその税理士が詳細に検討した結果、「土地の評価額を減額できた」、「一部の財産を合法的に相続財産から除外できた」などの理由により相続税の節税を実現した場合、その対価として成功報酬を請求するケースが一般的でしょう。
このような成功報酬の問題点は、契約前に顧客側へ充分な説明がなされていない事例が多いことです。
専門的な検証を行う場合には、追加の工数を要する内容もあるため、別途料金が発生するケースもあります。
しかしそのような場合には、その業務の必要性やメリットについて、契約前の段階において丁寧に説明し、依頼者の了承を得ておかなければなりません。
税理士事務所の中には、契約前に充分な説明がなかったにもかかわらず、契約後に追加料金を請求されるケースもあるため、契約の締結前にサービス内容や追加料金が発生するケースについて、しっかりと確認しましょう。
7.金額が安すぎる税理士には注意するべき
税理士報酬が高額な場合だけでなく、反対に安すぎる場合にも注意が必要です。
税理士事務所としての企業努力によって低コスト化を実現している可能性もありますが、中には相続税に関するノウハウがないことから、弱気な価格設定をしているケースもあるでしょう。
先述したとおり、そのような税理士に依頼してしまうことで、本来適用できるはずの特例や控除が受けられず、かえって相続税額が高くなってしまうリスクがあります。
したがって税理士報酬だけでなく相続税も含めたトータルでのコストで考え、税理士報酬が安すぎると感じる場合には、その税理士に相続に関する充分な知識や実績があるのかどうか、必ず確認してください。
8.相続税申告に必要な書類の一覧
一般的な相続税申告の必要書類には以下のものが挙げられます。
・被相続人の戸籍謄本
・すべての相続人が確認できる戸籍謄本
・相続人全員の住民票
・法定相続情報一覧図
・遺言書または遺産分割協議書の写し
・各相続人の印鑑証明書
・不動産の固定資産税課税明細書、公図など
・預金通帳や残高証明書
・生命保険契約に関する保険証券など
なお上記についてはあくまで目安にすぎず、申告内容や被相続人の財産状況によって追加で必要となる資料もあります。
依頼する税理士に確認の上、必要書類を準備してください。
服部大税理士事務所 税理士・中小企業診断士 服部 大
2020年2月、30歳のときに愛知県名古屋市内にて税理士事務所を開業。平均年齢が60歳を超える税理士業界内で数少ない若手税理士として、同年代の経営者やフリーランス、副業に取り組む方々の良き相談相手となれるよう日々奮闘中。単発の税務相談や執筆活動も承っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。