相続を司法書士に任せるなら、出来るだけ解決力の高い人物を選びたいものです。
そうは言っても、何を基準に・どういった考え方で評価すればいいのか分からない……こんな悩みを抱えていませんか。
遺産整理や遺言書、その他諸々の悩みに強い司法書士は、簡単に4~5項目に着目するだけで見つかります。
この記事に目を通せば、委任したい内容に左右されず、解決まで強力に支援してくれる司法書士に出会えるでしょう。
目次
1. 相続に強い司法書士の選び方
その司法書士が相続に強いと言えるかは、「提案力」「専門性」「実績」「他士業との連携状況」の4項目から評価出来ます。どれを重視しても構いませんが、基本的にはバランスよく評価の高い司法書士を選びましょう。
そもそもどのようなケースでは相続について司法書士に相談するべきか知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
【計4項目】相続に強い司法書士選びのポイント
✔提案力:相続に必要な「総合的解決」に繋がる
✔専門性:提案力と連動して「確実な解決」に繋がる
✔実績:事例の難易度に関わらず安定して解決出来る
✔他士業との連携状況:相談しなおす手間のない「ワンストップの解決」に繋がる
ここで司法書士選びの基本方針を紹介しておくと、時間の許す限り実際に相談してみるのが肝要です。上記4項目のどれも、事務所の紹介サイトやパンフレットだけでは正しく評価出来ません。
気になる事務所を見つけたら、一度は司法書士本人と直接会話してみて、以下の考え方を基準に能力を見極めてみましょう。
1.1. 相続の全体像を踏まえた提案をしてくれるか
第1に注目したいのは、状況全体に沿った提案がもらえるかどうかです。
司法書士と言えば登記代行、つまり「相続登記」(相続不動産の名義変更)の申請が業務だと考えられがちですが、それだけだとサポート達成には到底及びません。
相続とは、相続法・関連法令・家族の状況・資産構成等が複雑に混ざり合い、適宜対処を必要とする場面です。
「今後のこと考えるならこうした方がいい」とのように、相続の全体像を踏まえた適切に助言と手続き支援があってこそ、司法書士に相談する意味があると言えます。
【一例】司法書士から欲しい提案
・不動産の分割方法(相続税額や土地活用に影響する)
・遺留分対策(不十分だと相続トラブルに発展する)
・財産調査(不十分だと後々不利益を被ることも)
【ワンポイント】相続登記は追加の対応が必要になる場合あり
相続不動産の中には、単に所有権移転登記(=相続登記)をするだけでは済まないものもあります。その1つが、生前の融資のために「抵当権」が入っているケースです
こういった場合には、金融機関と交渉した上で、司法書士に依頼して抹消登記してもらう必要があります。
最近では、隣人との境界トラブルが長年放置されていたり、相続登記が2世代以上に渡って未了のままになっていたりする問題もあります。
このような場合は司法書士報酬がかさむため、その理由、つまり追加対応をきちんと説明してくれるかどうかも重要です。
1.2. 専門分野として「相続」を挙げているか
第2に注目したいのは、取扱い分野に「相続」が挙がっているかどうかです。
司法書士として十分に知識を研鑽していると言っても、共通の問題について全員が同じように解決出来るわけではありません。
相続、債務整理、売買取引時の登記代行……とのように、1人ひとり専門分野があります。
相続の悩みを解決したくても、異なる分野の人に相談していては、納得出来る答えはなかなか出てきません。
相続のことは相続の専門家へ、司法書士事務所を探す時も専門分野を必ずチェックするよう心がけましょう。
【ワンポイント】対応出来る悩み&トラブルの種類にも着目する
専門性をチェックする時は、具体的にどんな悩みに対応してくれるのか確認しましょう。
例えば「生前のうちに遺言書作成を手伝ってほしい」と「死後の相続不動産の名義変更を手伝って欲しい」では、視点も時間軸も、これからやるべき事も全く違います。
「相続のうちのカテゴリーを取り扱っているのか」という視点を持つと、いま自分が抱えている問題と一致させつつ良い司法書士と巡り合えます。
1.3. 相続分野の実績が十分か
司法書士選びの第3のポイントは、実際に扱った相続事例の状況です。
解決件数が多いほど、また経験年数が長いほど、その司法書士の能力は高いと言えます。
付け加えると、相続はなにかとアクシデントに見舞われがちな出来事です。
支援してもらうなら、そうした「複雑なケース」に手慣れている人物が良いでしょう。
この点、実績豊富な司法書士は、必然的により多くのトラブルも体験しています。
その経験から、常に落ち着いた対応が期待出来、より満足度の高い解決に繋がるとも言えるのです。
【ワンポイント】解決事例から「司法書士の特徴」が分かる
司法書士事務所によっては、相談者の個別の悩みに繋がるよう、特に自信のある解決事例を公開しています。事例詳細から分かるのは、その司法書士の性格や強みとしていることです。
相性重視・解決力重視のどちらの選び方でも、事例公開している司法書士事務所だと相談の是非がクリアになります。
1.4. 他士業と連携しているかどうか
第4の司法書士の選び方のポイントは、別の資格職との連携状況です。
相続手続きには、司法書士の権限や知識が及ばない部分もあります。
そうかと言って、単に「出来ない」と返事されてしまうのは困りものです。
別の士業に最初から繰り返し悩みを伝えていては、面倒というだけでなく、司法書士の方針とは異なるやり方で進められてしまうかもしれません。
良い司法書士は、自分の手が及ばないことを踏まえて、下記のような関連する士業とも提携しています。
提携のある司法書士なら、必要であればすぐに状況共有し、解決までワンストップで進めてくれます。
【相続に関連する士業】
相続争いや債権者との交渉に関すること…弁護士
相続税や贈与税に関すること…税理士
地積や筆界に関すること…土地家屋調査士
売却に関すること…宅地建物取引主任士
【ワンポイント】「出来ないこと」の説明=信頼性の証
相談する時は、司法書士として対応出来ないことを説明してくれるかどうかチェックしてみましょう。何についても元気よく肯定的な返事が返ってくると、少し不安です。
良い司法書士は、自分に対応出来る分野を説明し、その上で「出来ないこと」に関しては別の士業と連携してでも対応する姿勢を見せてくれます。
1.5. その他の選び方
その他、司法書士選びでは以下3つのポイントもチェックしてみましょう。
ここで注意したいのは、どれも「プラスアルファで充実していた方が良い項目」に過ぎず、決して依頼の決め手にはならないことです。相続の悩みや手助けして欲しい問題を確実に解決するなら、これまで解説した4つの項目を重視すべきです。
コミュニケーションの円滑さ
…話をしっかり聞いてもらえるか、丁寧に理解出来るまで説明してくれるか、レスポンスや報連相をきちんとしてくれるか
料金説明・見積りの明朗さ
…料金表が分かりやすいか、不明点を説明してくれるか、見積りに細かく内訳を書いてくれているか
相談しやすさ
…無料相談の有無、土日や平日夜間の相談対応、アクセスの良さ、オンラインの相談の対応状況
2. 相続における司法書士の主領域
相続であり得る悩みなら、大抵のことは司法書士で解決出来ます。
気になる司法書士の取扱い業務を、相続開始から時系列を追ってって確認してみましょう。
2.1. 相続開始直後に必要な対応
家族が亡くなった直後は、遺産分割のための調査等といった事前準備が必要です。特に重要なのは以下の2点です。
①相続人調査・相続財産調査
相続開始直後には、後々の遺産分割が無効にならないよう「相続人」と「相続財産」を全て洗い出さなくてはなりません。
大量の戸籍と固定資産課税台帳等の調査が必要になる面倒な作業ですが、時間がなければ丸ごと司法書士に任せられます。
②遺言書の検認
遺言書(※公正証書遺言を除く)を見つけたら、すぐ「検認」を請求し、相続人立ち会いの元で家裁に確認してもらわなくてはなりません(民法第1004条1項)。
実際には、申立人や他の相続人が全員揃う必要はなく、委任された士業だけが裁判所に向かえば十分です。そして、この業務も司法書士で担えます。
2.2. 不動産の名義変更(相続登記)
司法書士が最も得意とする「相続登記」は、書類作成から申請までどんなことでも対応出来ます。
まだ不動産を誰の名義とするか決まっていないのなら、課税額や売却・活用を踏まえた提案も可能です。
その他、すでに触れた通りですが、以下のような複雑な対応もお手の物です。
①抵当権抹消登記
相続する土地建物の中には、融資のため「抵当権」がついたままのものがあります。このままだと、債権回収のため競売にかけられるリスクがあり、活用も売却も出来ません。
そこで、安心して不動産を所有するために、抵当権者=金融機関に権利を外してもらうよう交渉する必要があります。
そうは言っても、交渉が成立するだけではまだ足りません。交渉の最終段階では「抵当権抹消登記」を確実に済ませる必要があり、これこそが司法書士の出番です。
②数次登記
長く受け継がれてきた土地建物の中には、登記名義人が祖父母世代かそれより前の人物になっているものがあります。
この場合、終わっていない相続登記を丁寧に進め、権利移転の過程を正確に登記簿へ反映する「数次登記」が必要です。
数字登記の扱いは極めて複雑で、亡くなった人より前の世代で生じた相続人にも連絡をとらなくてはなりません。
連絡がとれないと分かれば、どのようにして現在の所有者の名義にするか検討しなくてはなりません。上記のような対応は、ほとんどと言って良いほど司法書士の元に依頼が飛び込みます。
2.3. 遺産分割の実現
遺産分割を実現する段階では、不動産以外の財産についても司法書士の活躍が期待出来ます。ここで挙げる5点の依頼内容は、司法書士に依頼する必要性が特に高いものです。
①遺言執行
効力の生じた遺言書の内容を実現する「遺言執行」は、相続人で協力し合って進めなくてはなりません。それぞれ時間にゆとりがない場合には、司法書士に全て委ねられます。
家庭裁判所に「遺言執行者」(民法第1006条~第1020条)を選任してもらう場合でも、司法書士を候補者として挙げられます。
②遺産分割協議書の作成
遺産について家族で話し合い、合意した内容に沿って財産の名義変更を進める場合、必ず「遺産分割協議書」が必要です。
協議書は法律上の効果を有するため、合意事項を正確かつ明瞭に記載しなくてはなりません。その作成も、司法書士が扱う業務の1つです。
③戸籍収集・相続関係説明図の作成
相続手続きでは、折に触れて「法定相続関係が分かる書類」が必要です。これはつまり、相続に関与する家族全員分の戸籍謄本と「相続関係説明図」を指します。
あらかじめ司法書士に委任しておけば、必要な戸籍謄本を必要な部数だけ取り寄せた上で、説明図も作成してくれます。
④預貯金等の名義変更手続き
相続財産に含まれる預貯金・株式・債権……といった財産は、個別に窓口で名義変更(あるいは解約と払い戻し)の手続きを依頼しなくてはなりません。
司法書士に委任すれば、それぞれ相続人に代わって手続きしてくれます。
⑤遺産整理
「相続財産の取りまとめ」と「名義変更その他の必要な手続き」を併せ、遺産整理として丸ごと司法書士に任せても構いません。
財産目録の作成から名義変更まで、遺産分割協議を除く大半の手続きを委ねられます。
2.4. 生前準備
相続開始後に限らず、生前準備でも司法書士ならサポート可能です。
そもそもどんな準備をすればいいのか分からない場合には、状況に合わせて丁寧に解説してくれます。
①遺言書の作成
遺言書の作成に関することなら、どんな内容でも司法書士に扱えます。
公正証書遺言の作成、自筆証書遺言や秘密証書遺言の最終チェック、そして大元である遺言の内容に関する相談まで、様々な形での相談が考えられるでしょう。
②成年後見制度
司法書士の業務の中には、認知症その他の疾患を負う人のための「成年後見制度」も含まれます。
相続開始後では、遺産分割協議に参加出来ない高齢者や障がい者のために「法定後見」の相談をすることが多いでしょう。
生前対策では、自身や高齢の家族のために「任意後見」に関することが取り扱えます。
③家族信託
遺言や後見に代わる生前対策である「家族信託」についても、司法書士に取り扱える範囲です。
平成18年の信託法改正から利用出来るようになった本契約は、主に不動産あるいは経営する会社をスムーズに引き継ぐ手段として活用されています。
特に不動産に関しては、信託契約の組成・設定から監督まで、税務を除けば司法書士がワンストップで扱える分野です。
2.5. 相続放棄
相続開始後に債務が多すぎると分かれば、不利益を避けるために「相続放棄」を選択しなければなりません。その申述書の作成に関することも、司法書士の取扱い分野です。
自力で出来ない原因の多くは、相続人全員で申述しなければならない点です。
早めに司法書士に依頼すれば、3か月の期限があることを踏まえ、余裕を持って放棄を進めてもらえます。
3. 司法書士に支払う料金と相場
司法書士の取扱い範囲は弁護士に匹敵しますが、同様の依頼でも費用は割安になるのが一般的です。費用について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
簡単に料金の目安を示してみましょう(下記参照/実費除く)。
相続登記:5万円~8万円/1件
遺産分割協議書の作成代行:4万円~6万円
遺言書の作成代行:4万円~6万円
相続手続きを丸ごと任せる場合:20万円~※
※遺産の価額その他状況に応じて料金設定されるのが一般的です。
個別にかかる費用に関しては、地域や対応の難易度によって異なります。司法書士に依頼する場合の費用の相場について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
4. 相続を司法書士ではない士業に相談すべきケースとは
先で少し触れたように、相続を取り扱う資格職は複数あります。
悩んでいること・やって欲しいことによっては、司法書士ではない別の士業への相談から始めた方がよいでしょう。
候補として挙がることが多いのは、税理士・弁護士・司法書士のいずれかです(下記参照)。
4.1. 税理士に相談すべきケース
相続の悩みが「相続税や贈与税に関すること」と分かっていれば、税理士に相談するのがベストです。
必要であれば、司法書士とも連携してくれるでしょう。
税理士に相談するべきケースについてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
・相続税申告のやり方が分からない
・相続税がいくらかかるのか知りたい
・税額軽減に繋がる特例を教えてほしい
・生前贈与の節税策が知りたい
4.2. 弁護士に相談すべきケース
司法書士と弁護士は取扱い分野が似通っていますが、任意交渉や裁判手続に必要な「訴訟代理権」を持つのは弁護士だけです。
下記のようにトラブルその他複雑な状況にあるケースでは、弁護士に依頼するのが無難です。
・遺産分割でもめている・もめた
・遺留分侵害額請求したい・された
・自分の取り分が少なすぎると感じる
・相続手続きが終わった後に遺産が見つかった
・事業承継についてアドバイスや支援が欲しい
・経営中の賃貸物件の相続についてアドバイスして欲しい
4.3. 行政書士に相談すべきケース
行政書士は「代書屋さん」と表現されるように、基本的には申請書類の作成のみを取扱います。
下記のように法律相談を必要としないケースなら、行政書士に相談すると良いでしょう。
既に話し合った内容を元に、遺産分割協議書を作ってほしい
必要書類はあるので、自動車や株式の名義変更をやってほしい
遠方で死亡連絡を受けたので、さしあたり死後事務について教えて欲しい
まとめ
相続の悩みに対する司法書士の解決力は、基本の4項目で推し量れます。
今解決したいことがある程度整理出来ているのなら、項目に優先順位をつけて選んでみるのも良いでしょう。
【相続に強い司法書士の選び方】
提案力…相続を取り巻く状況全体を見渡してアドバイスしてくれるか
専門性…専門的に取扱う分野の中に「相続」が含まれるか
実績…解決件数や経験年数は十分か
連携状況…必要に応じて相続関連の他士業と状況共有出来るか
司法書士に扱えるテーマは、紹介したように広範です。必然的に相談内容にも1人ひとりの個性が生じ、どれを取っても事務的な対応で簡単に解決出来るとは言えません。
これを踏まえても、相談先選びでは「実際に会って悩みを打ち明けてみる」ステップが特に大切です。
気になる司法書士事務所や法務事務所を見つけたら、時間の許す限り問い合わせしてみて、どんな反応があるか確かめてみましょう。
遠藤 秋乃(えんどう あきの)
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。