葬祭扶助とは、生活保護受給者など経済的に困窮している人の葬儀費用を自治体が費用負担をする制度のことです。
葬祭扶助を規定する「生活保護法」や、実際の現場での動きなどをご紹介しながら、葬祭扶助制度についてわかりやすく解説いたします。
目次
1. 葬祭扶助とは
葬祭扶助とは、「生活保護法」の中で定められた生活困窮者に対して行われる葬儀支援制度のことです。主に生活保護受給者に対して葬儀費用がまかなわれます。
憲法第25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という理念が掲げられ、続けて「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定されています。
生活保護制度はいわば憲法のこの理念を実践するためにあり、葬祭扶助の他にも生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助などがあります。
葬祭扶助については生活保護法第18条で次のように定められています。
第十八条
(1)葬祭扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対し、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 検案
二 死体の運搬
三 火葬又は埋葬
四 納骨その他葬祭のために必要なもの
(2)左に掲げる場合において、その葬祭を行うものがあるときは、そのものに対して、前項各号の葬祭扶助を行うことができる。
一 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき。
二 死者に対してその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき。
それではここからは、生活保護法の条文に基づいて、葬祭扶助制度を分かりやすく解説します。
2. 葬祭扶助の適用条件
葬祭扶助は、次のいずれかの場合において申請ができます。
2-1 喪主が経済的に困窮している場合
葬儀を営む立場にある遺族や喪主が生活保護受給者で、経済的に困窮しており葬儀費用を工面できない場合に葬祭扶助が受けられます。
また、普段は生活保護を受けていなくても、葬儀費用を捻出できないと役所や福祉事務所に認められることによる、葬祭扶助だけを受けられるケースもあります。
2-2 親族がおらず遺族以外の人が葬儀を手配する
扶養義務者(直系親族・兄弟姉妹・生計維持関係にあって葬儀を執りおこなう人)がおらず、家主、民生委員、後見人、入所施設長などの第三者が葬儀を行いたい場合に申請できます。
3. 葬祭扶助の申請方法とタイミング
葬祭扶助の申請先は、申請者の住所地の役所または福祉事務所です。故人や申請者がすでに生活保護を受給しているのであれば担当のケースワーカーを窓口にします。
もしも民生委員などの第三者が申請する場合は、故人の住所地の役所や福祉事務所に申し出ます。
申請は必ず火葬を実施する前に行います。万が一火葬をしてしまったあとでは扶助されないので、十分に気をつけましょう。
生活保護受給者でなくても福祉事務所が認めることで葬祭扶助が適用されることもあります。
ただし、審査結果が下りるまで2週間程度かかるため、先に申請を済ませた上で火葬を執行します。後日審査が通れば福祉事務所から葬儀社に火葬費用が支払われます。
4. 葬祭扶助の給付金額
葬祭扶助によって給付される金額の上限は、大人が20万6000円、小人が16万4800円と定められており、この範囲内で葬儀費用が支給されます。
4-1 遺留した金品を葬儀費用に充てることもできる
もしも故人が預貯金や有価証券などの金品を持っていたまま亡くなった場合、葬祭扶助を行う福祉事務所はこれらを葬儀費用に充当できます。
また、故人の遺品を売却して得た代金を充てることもできます。その上で葬儀費用に満たない差額分が葬祭扶助として支給されます。
4-2 葬儀費用は葬儀社に直接支払われる
葬祭扶助による葬儀費用は申請者の手に渡ることなく、直接福祉事務所から葬儀社に支払われます。
4-3 葬祭扶助でまかなえるもの
葬祭扶助で給付される費用でまかなえるものには限りがあります。
生活保護法第18条によるところの、「検案」「死体の運搬」「火葬または埋葬」「納骨その他葬祭のために必要なもの」に対してのみ支給されるとされています。
これは言い換えれば「遺骨にするための最低限の火葬費用」のことです。そのため、通夜や葬儀などは認められません。こうしたセレモニーがなくとも火葬はできるからです。
葬祭扶助でまかなえるものには以下のものが挙げられます。
- 手続き代行料: 死亡届の提出など、火葬をするために必要な文書作成と届け出の費用です。葬祭扶助申請の代行やサポートをしてくれる葬儀社もあります
- 棺: もっとも安価な桐八分棺が利用されることがほとんどです。棺の中の布団やご遺体に着せる仏衣も含まれます
- ドライアイス: ご遺体の保全のために必要なものとされています
- 寝台車・霊柩車料金: ご遺体を搬送するための費用です
- 安置施設使用料: 火葬当日まで遺体を安置しておくためにかかる費用です。もしも自宅に連れて帰るのであれば不要です
- 火葬料金・骨壷・骨箱: 火葬場に支払う火葬や骨壷に対しての料金です
ここに挙げたもの以外でも例外があります。たとえば、ある葬儀社では葬儀後の枕飾りや後飾りを葬祭扶助の中で行っていますし、棺に添えるお別れ花が認められています。
また、葬祭扶助の範囲内であれば寺院により読経や戒名もまかなえるとするところもあります。身寄りのいない人向けの永代供養料(集合墓への埋葬)も認められています。
実際の現場ではケースバイケースで対応しています。
自治体による方針、葬儀社との間での取り決め、さらには個別の事案の状況によって、どこまでのものがまかなえるか若干の違いがあるようです。詳しくは直接役所や福祉事務所に確認してみましょう。
5. 葬祭扶助を利用した葬儀の流れ
葬祭扶助を利用した葬儀は基本的には直葬と同じ流れです。ただし…
1)火葬前に必ず福祉事務所に葬祭扶助申請をする
2)通夜や葬儀のようなセレモニーは行えない
この2点が、葬祭扶助による火葬の特徴です。
- 逝去・福祉事務所に連絡: ご逝去となったら、まずは必ず福祉事務所の担当ケースワーカーに電話連絡しましょう。葬祭扶助が認められたら、福祉事務所側が葬儀社や遺体搬送の手配をします。ケースによっては遺族が葬祭扶助制度に対応する葬儀社を手配することもあります。
- 搬送・安置・納棺: ご遺体を搬送します。自宅か専用の安置施設のいずれかを選びます。また、状況によっては先に納棺しておきます。
- 葬祭扶助申請・死亡届: 葬祭扶助で火葬するためには福祉事務所に葬祭扶助申請書を提出します。受理されると葬祭扶助証明書が発行され、死亡届とともに役所に提出し、火葬許可がおります。
- 火葬・拾骨: 火葬当日は時間に合わせて火葬場に集合します。火葬を見届けて、遺骨の入った骨壷を自宅に持ち帰ります。
5-1 家族葬はできる?
葬祭扶助制度を利用した家族葬はできません。葬祭扶助はあくまでも生活保護の一環で、国民の税金でまかなわれています。家族葬をするだけの費用があるのなら、実費で行いましょう。
5-2 香典は受け取ってもよい?
香典を受け取ることはなんら問題ありません。周囲の人たちへの故人様や遺族への「お気持ち」を金品に換えたものなので、税金がかかることもありません。
ただし、香典を受け取ると香典返しするのが慣例ですが、この費用は葬祭扶助の対象外です。
6. 葬祭扶助が支給されないケース
生活保護受給者であっても、葬祭扶助が支給されないケースもあります。はじめの方でも触れたように、生活保護受給者がすべての扶助(生活扶助や医療扶助など)を受けられるわけではありません。
火葬費用が工面できると判断された場合は、葬祭扶助の適用外となることもあるのです。
- 故人に預貯金がある: 生活保護受給者であった故人の預貯金が火葬費用をまかなえるだけ残っていれば、葬祭扶助の支給対象外となります。また仮に、預貯金があるもの火葬に必要な金額に満たない場合は、残金全てを火葬費用に充て、不足分が葬祭扶助として支給されます。
- 親族の中に葬儀費用を支払える人がいる: もしも親族の中に葬儀費用の支払いが可能な人がいるのであれば、自治体が費用負担をする必要性がなくなります。ここでいう親族とは扶養義務者(子、父母、祖父母、孫、兄弟姉妹)のことを指します。
- 支給額以上の葬儀をした場合: 葬祭扶助の申請が認められた上で通夜や葬儀を行った場合、火葬費用は支給されません。もしも葬祭扶助制度での葬儀を希望するのであれば、支給額でまかなわれること以上のことはできません。
7. 葬祭費給付金制度と埋葬料給付金制度
葬祭扶助とよく似た言葉に「葬祭費」、さらには「埋葬料」というものがありますが、似て非なるものです。
葬祭扶助が適用されない場合は、実費で火葬をしなければなりませんが、こうした葬祭費や埋葬料の給付金制度を活用することで、葬儀費用の負担を軽減させることができます。
7-1 葬祭費とは
葬祭費とは、国民健康保険や後期高齢者医療制度の被保険者が亡くなった時に、その方の葬儀を行った人に支給される給付金のことです。
自営業やパートやアルバイトなど、職場を通じて加入する社会保険に加入していない人が加入する公的医療保険です。
支給される費用は加入する保険によって異なりますが、5万円から7万円が一般的です。
7-2 埋葬料とは
埋葬料とは、全国健康保険協会が運営する健康保険(協会けんぽ)の被保険者が亡くなった際に、埋葬の費用として喪主に支給される給付金のことです。
また、家族(被扶養者)が亡くなった際に「家族埋葬料」が支給され、金額はそれぞれ5万円です。主に会社員がこれに該当します。
葬祭扶助による火葬のためには、必ず福祉事務所のケースワーカーへの連絡が必要です。
葬儀が起きていきなり連絡するのではなく、元気なうちから葬儀の方針を伝えておくことで、いざという時の手続きがスムーズに進むでしょう。
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玉川将人
1981年山口県生まれ。家族のたて続けの死をきっかけに、生涯を「弔い」に捧げる。葬儀社、仏壇店、墓石店に勤務して15年。会社員勤務の傍らでライターとして、死生、寺院、供養、終末医療などについて多数執筆。1級葬祭ディレクター、2級お墓ディレクター、2級グリーフケアカウンセラー。