再婚の【連れ子に相続権はない!?】|財産を継父や継母から相続できる?

更新日:2023.12.06

再婚の【連れ子に相続権はない!?】|財産を継父や継母から相続できる?

法律で遺産をもらい受ける権利が認められるのは「配偶者や血縁のある家族」に限られます。そこで再婚家庭で問題になるのが、「連れ子に継父や継母の財産を残せるかどうか」どうかです。

連れ子の相続権について、結論は、「連れ子でも必要な手続きを踏めば相続権が得られますが、死後トラブルになる可能性には十分な注意が必要」です。

本記事では、家族のかたちの多様化に伴って不安の声が増えている「連れ子の相続権」について、確実に財産を受け継いでもらうための手続き方法やポイントについて解説します。

1. 連れ子が相続人になれない理由

連れ子の相続権

婚姻届を提出する前からすでにいる配偶者の子、つまり「連れ子」は、そのままだと継父母の相続人になれません。

民法第887条では、相続権が得られるのは「被相続人の子」だとしています。この条文で言う「子」とは、戸籍上夫婦である男女の間に生まれた子や、被相続人が親子関係を認めて役場に届け出た子を指します。

連れ子は上記のどちらにも当てはまらず、また実親が婚姻届を出したからといって、継父(もしくは継母)と連れ子との間に法律上の親子関係が自然に生じるわけでもありません

つまり、改めて何らかの手続きをするまで相続法上の「被相続人の子」として扱われず、連れ子に遺産を取得する権利はないままなのです。

【参考】子の身分の種類

子の身分 概要 相続権を持つ相手
嫡出子 結婚している男女の間に生まれた子 実の父母
非嫡出子 結婚していない男女の間に生まれた子 実の父母
養子 実の両親が別におり、役場に養い親として届けた子 養親と実の親※特別養子縁組の場合は養親のみ
連れ子 結婚前に、配偶者が別のパートナーとの間でもうけた子 実の親のみ※継母or継父の相続人にはなれない

2. 連れ子に遺産を取得させるための2つの方法

それでは、法律上権利のない連れ子に対し、継父もしくは継母から死後財産を譲るにはどうすればいいのでしょうか。

考えられる方法として、連れ子と法律上の親子関係を発生させる手続きをする方法と、遺言書の効力を活用して相続財産を残す方法の2つがあります。

2-1 連れ子を養子として迎える

最初に考えられるのは、連れ子と「養子縁組」する方法です。届出先は、将来被相続人になる人(=連れ子にとって義理の親に当たる人)の本籍地役場か、連れ子自身の本籍地役場のどちらでも構いません。

注意しなければならないのは、下記のように養子縁組には2種類ある点です。

「特別養子縁組」は、児童養護施設などから幼児を迎えるケースで利用されるもので、家庭裁判所の決定を受ける必要があります。連れ子に遺産を取得させる目的であれば「普通養子縁組」の届出で十分です。

  • 普通養子縁組: 血の繋がった親との親子関係を維持したまま養子にする方法です。届出後、連れ子は養親と血縁上の親の両方について、相続権や扶養義務を持ちます。
  • 特別養子縁組: 血の繋がった親との親子関係を切って養子にする方法です。要件として「養子にする子が原則6歳未満であること」や「家庭裁判所の審判を経ること」などがあります。届出後、連れ子は養親に対してのみ相続権や扶養義務を持つようになります。

2-2 遺言で贈与する旨を残す

生前の意志を書き残して死後の財産処分を指示する「遺言書」は、相続権を持たない人に遺産を与えることも可能です。

つまり、連れ子に財産を取得させたいと遺言書に書いておけば、相続権がなくても遺産を取得させられます。以下、遺言で連れ誤に財産を取得させる場合の文例です。

【遺言書の文例】

遺言者○○は、下記の者について、遺言者の有する全ての財産を遺贈する。

(連れ子の氏名・現住所・本籍地を記載)

この時注意したいのは、文言を「遺贈する」(=遺言で贈与する)としなければならない点です。

「相続させる」という文言は、相続権のある人について取得分を指定するための文言であり、養子縁組していない連れ子に使うのは不自然です。誤った文言は遺言の効力をめぐるトラブルに繋がるため、書き方には十分注意しましょう。

また、相続人でない人が遺贈で財産を取得する場合、相続人の最低限の取得分として保障されている「遺留分」を巡って争いに発展する可能性もあります。詳しくはこの後解説しますが、連れ子に取得させようとする財産の割合や内容について十分考えるべきです。

3.【注意】認知と養子縁組の違い

親子関係を結ぶ手続きにおいて、「連れ子を認知する」という表現が使われることがありますが、これは間違いです。

確かに、認知も養子縁組も共に「法律上の親子関係を結ぶ手続き」ですが、その意味はまったく異なる点に注意が必要です。

まず「認知」とは、未婚の母から誕生したため戸籍簿に実父の情報がない子どもについて、実父が血縁関係を認めて役場に届け出ることです。

これに対し「養子縁組」とは、戸籍簿に実父母の情報があるかどうかに関わらず、「現在家族として関係を築いている人=養い親として役場に届け出る」ことです。

配偶者が前夫や前妻との間にもうけた子であれば、連れ子の実の両親は戸籍簿に記載されています。ここであらためて「認知届」を提出することはできず、法律上の親子関係を発生させて相続権を得させたいのであれば「養子縁組」を届け出ることになります。

【例】2回の離婚歴がある女性が、それぞれの婚姻中にもうけた子を連れて再婚した場合連れ子の戸籍簿にはそれぞれ当時の配偶者の名前が記載されており、すでに前夫の嫡出子としての身分を得ています。現在の配偶者である継父が認知届を役場に出しても、受理されません。継父の遺産を取得させるには「養子縁組」の届出が必要です。

4. 連れ子と養子縁組するメリット

連れ子に遺産を取得させる方法として一番確実なのは、養子縁組することです。

法律上の親子関係を結んで相続権が得られれば、遺産分割協議(共同相続人の話し合いでそれぞれの取り分を決める手続き)に参加できるようになり、さらに協議の場で実子(嫡出子や非嫡出子)と全く変わらない取得分を主張できるようになるからです。

遺言書で財産を贈与する「遺贈」の場合は、上記のような権限は一切発生しません。

万が一遺言書が無効になれば、連れ子は遺産分割の手続きにまったく関われなくなり、生前の関係に関わらず継父や継母からの財産を受け取れなくなってしまいます。

連れ子に財産を残す決意を固めた時は、優先的に養子縁組の手続きを行い、その上で遺言書作成などの生前対策を始めましょう。

5. 連れ子の相続はトラブルになりやすい

離婚・再婚歴のある家庭では、連れ子の相続を巡ってトラブルになりやすいのが現状です。

連れ子に遺産を取得させようとすれば、以前の結婚でもうけた子や父母・兄弟姉妹などの「血の繋がった相続人」の取得分が減ることになるからです。

取得分が減少した相続人が、死後になって「遺言書の無効を主張しはじめる」「勝手に遺産を処分し始める」などの行動をとる可能性は、家族仲次第で十分考えられます。

上記のような相続トラブルは、まず養子縁組し、さらに下記4つのポイントを押さえて生前対策することで防止できます。

5-1 なるべく「公正証書遺言」を作成する

連れ子に遺産を取得させる時は、どんな方法を選ぶ場合でも遺言書を作成しましょう。

相続法で決められたルールに沿って作成された遺言書は、「生前の本人の意思」として法的効力を持ち、連れ子の権利を守るのに役立ちます。

また、遺言書にはいくつかの種類がありますが、なるべく「公正証書遺言」を選びましょう。本人が作成することで効力を持つ自筆証書遺言や秘密証書遺言は、文面や保管方法が原因で無効になりやすいデメリットがあります

一方で、法務大臣に任命された「公証人」に作成してもらう公正証書遺言は、作成された時点で内容が正しいと保証され、作成後は公文書として保管されるため、その効力が疑われることはありません。

5-2 遺言執行者を指定しておく

遺言執行者(民法第1006条各項)とは、亡くなった人の財産を管理し、相続人や受贈者(=遺贈を受けた人)への名義変更手続きなど「遺言書に記載された内容の実現」を職務とする人です。

遺言執行者には、相続人への通知義務や善管注意義務(=自己の財産と同じように遺産を管理する義務)があり、2020年4月からの改正民法では「遺贈を実現する権利」も明確に認められるようになりました。

年齢や健康状態から見て連れ子が自分で財産管理できる状況にない、あるいは連れ子以外の家族でも財産の管理処分ができるようなケースでは、あらかじめ遺言執行者を決めておけばスムーズに遺産分割手続きが進みます

弁護士や司法書士などの第三者的な立場の専門士業を指名しておけば、相続の知識やトラブル対処力の面で安心できます。

5-3 「家族信託」の利用も検討してみる

家族信託とは、生前のうちに書面を交わし、財産の一部または全部の管理権を特定の家族に委ねる「信託契約」の1つです。

管理権を委ねるだけでなく、被相続人やその配偶者に財産を給付するよう指定しつつ、給付を受ける家族が亡くなった時に財産を誰のものにするか決めておくこともできます。

連れ子を「受託者」にして家族信託を始めれば、連れ子以外は財産の管理処分ができないよう制限しておき、生前は夫婦の生活費の給付を受けながら、夫婦の死後は信託契約の終了に伴って連れ子が財産を受け取れるようになります。

家族信託のデメリットは、信託手数料や契約時のコンサルタント費用など一定のコストがかかってしまう点です。ある程度まとまった財産がないと費用対効果を感じにくいため、弁護士や司法書士などの専門士業と相談しながら検討しましょう。

6. 遺言書を作成する時は「遺留分」に注意

遺言書を作成する時に注意したいのは「遺留分」です(民法第1042条各項)。遺留分とは、亡くなった人の兄弟姉妹を除く相続人について「最低限保障されている取得分」であり、権利のある人は遺言作成者の生前の意志とは無関係に受け取れます。

例えば、先妻の子と後妻の連れ子の計2人が遺産を取得する権利を得たケースだと、先妻の子は最低でも債務控除後の遺産のうち2分の1を受け取れます。

これを無視して後妻の子に全財産を残す内容の遺言書を作成した場合、死後になって先妻の子が「遺留分侵害額請求権」を主張すれば、連れ子には支払いに応じる義務が課せられます。

どんな方法で連れ子に財産を残すにしても、遺言書を作成する時は、家族それぞれの遺留分に配慮して取得分を決めましょう。

7. 連れ子に「生前贈与」するのも1つの手段

確実に連れ子へ財産を残したいのであれば、元気なうちに名義変更を行う「生前贈与」も1つの手段です。

生前贈与された財産は、死亡前の1年以内に贈与されたものを除き、原則として遺留分侵害額請求権の対象になりません(民法第1044条1項)。

死後になって血縁のある家族が連れ子の取得分に不満を抱いても、生前のうちに連れ子の名義になった財産に関しては、その権利を守れるのです。

8. まとめ

実親と夫婦であっても、連れ子と継父(もしくは継母)の間に相続関係はありません。

それでも遺産を取得させる方法として「生前贈与」や「遺贈」が挙げられますが、最も確実なのは「養子縁組」を届け出ることです。

たとえ養子であっても、法律上の親子関係さえあれば、遺産分割協議に参加して実子と同じ相続分を主張できるようになります。

8-1 連れ子の相続対策のポイント

いずれにしても意識しなければならないのは、血縁関係のある家族との間で相続トラブルになってしまう可能性です。財産を確実に連れ子に残したい場合は、養子縁組するだけでなく、次の4つのポイントを押さえて生前対策しておくと安心です。

  • 公正証書遺言を作成しておく
  • 信頼できる弁護士や司法書士などを「遺言執行者」を指定しておく
  • まとまった財産がある家庭では「家族信託」も検討してみる
  • 遺言書で相続分を指定する時は、遺留分に配慮する

再婚家庭など家族関係が複雑化しているケースでは、家庭ごとの状況にフィットする生前対策の方法を考える必要があります。

できるだけ早いうちに専門家に相談し、家族全員が納得できる相続対策の方法をアドバイスしてもらいましょう。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

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