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「推定相続人」を特定できれば相続手続きが分かる! 相続順位・戸籍の調べ方・廃除の方法を解説

更新日:2021.02.04

「推定相続人」を特定できれば相続手続きが分かる! 相続順位・戸籍の調べ方・廃除の方法を解説

「推定相続人」とは、配偶者や夫婦の間に生まれた子など、”ある人”について現時点で相続権を持つ人のことで、”ある人”が生前の場合が「推定相続人」、死後は「法定相続人」と実務上呼びます。生前対策では、何よりもまず推定相続人を全員把握しなければなりません。1人でも相続手続きから漏れてしまうと、財産の取得分を巡るトラブルに発展してしまうからです。

また、生前のうちに推定相続人を把握できれば、何らかの事情でどうしても相続させたくない人の権利を取り上げる「相続人の廃除」も行えます。

本記事では、家族ぐるみで知っておきたい「推定相続人の考え方」について、個別事例での特定のやり方を含む基礎知識を詳しく解説します。

推定相続人とは

推定相続人とは、ある人の死後に「その遺産を所定の割合でもらい受ける権利」(=相続権)が法律上発生する人を指します。本人が遺言書を作成せずに亡くなったり、あるいは死後見つかった遺言書が無効になったりした場合には、推定相続人同士が集まって自分の取得分を主張しながら遺産分割できます。

例えば、夫婦とその1人息子の一家の場合、夫の「推定相続人」は妻と長男の2人です。この例では、夫が遺言書を作成せずに死亡した場合、その遺産は妻と長男が話し合って分け合うことになります。

推定相続人と法定相続人の違いとは

相続権を持つ人は「推定相続人」とも「法定相続人」とも呼ばれますが、実務で推定相続人という名称を使うのは本人の生前だけです。

では、どうして推定相続人と呼ぶのでしょうか。その理由は、遺産をもらい受ける権利を確定させるのが「本人が死亡した時点の家族構成」である点です。どんな人でも、家族構成員が変わるような出来事(結婚・離婚・養子縁組・死別など)が死亡までに起こる可能性は捨てきれません。生前のうちは、現時点で死亡した場合に誰が相続権を持つのか”推定”する他ないのです。推定された人は、推定された時の状況のまま本人が死亡した時、やっと権利が確定して“法定”の相続人だと言えるようになります。

別の言い方をすれば、家族の状況に変化を起きる予定が特にないのなら、基本的に「推定相続人」は「法定相続人」と同じ意味ということです。

推定相続人を把握しなければならない理由

推定相続人が誰なのかは、できるだけ相続が開始される前に把握しておかなければなりません。その目的は「相続トラブルの防止」です。

遺言書を作成する時に、家族として意識する人だけが遺産をもらい受けられる内容にすると、法律上権利があるにも関わらず無視された人が不満をもち、「遺言書の無効」などを主張し始めるかもしれません。また、万が一遺言書を作成できなかったり、遺言書が無効になったりすると、その時法定相続人として権利が確定した人が集まって「遺産分割協議」を開く必要があります。この時、協議から1人でも漏れれば、その場にいる法定相続人だけで決めた遺産分割の内容は無効になります。全員で集まって協議を開けたと思っていても、もともと相続人だと思われていなかった人の主張が原因で、なかなか話し合いがまとまらず相続手続きが長期化する恐れがあります。

以上のような事態を避けるには、生前対策ではまず「推定相続人」を特定し、そしてできる範囲で家族と情報を共有しておく必要があります。

推定相続人を決める「相続順位」の仕組み

死後になって遺産をもらい受ける権利が発生するのは、家族のうち「相続順位」が高い人です。つまり、相続順位がどうやって決まるのか理解しておくことは、誰が推定相続人なのか調べるための第一歩になります。

順位が決まる仕組みは複雑ですが、まず相続権を持つ人は「配偶者相続人」「血族相続人」の2つの立場に分かれることを押さえましょう。詳しく解説する前に、順位から相続人を特定するためのポイントを3つ紹介します。

【推定相続人を特定する時のポイント】

  • 相続権を得るのは「配偶者相続人」と血族の中で最も順位が高い「血族相続人」
  • 配偶者相続人が主張できる遺産の取り分は、血族相続人の順位で決まる
  • 血族相続人の子が、亡くなった人の順位を受け継ぐ場合がある(代襲相続)

配偶者相続人とは

配偶者相続人とは、文字通り財産を遺す人の「夫」または「妻」です。存命であれば必ず推定相続人になり、血族相続人(財産を遺す人の「子」「父母などの直系尊属」「兄弟姉妹」のうち、最も法律上の優先順位が高い人)と共に遺産をもらい受ける権利を得ます(民法第890条)。

前述の通り、配偶者相続人の相続権の割合(=遺産の取り分)は、「一緒に相続する血族相続人の順位」で決まります(民法第887条本文・第889条1項各号)。血族相続人の相続順位と、配偶者相続人の相続権割合は以下を確認してください。

【血族相続人の相続順位】

第1順位: 子

第2順位: 直系尊属のうち最も親等が近い人

第3順位: 兄弟姉妹

【配偶者相続人の相続権の割合】

第1順位と一緒に相続する場合:2分の1

第2順位と一緒に相続する場合:3分の2

第3順位と一緒に相続する場合:4分の3

血族相続人とは

血族相続人とは、財産を遺す人の「子」「父母などの直系尊属」「兄弟姉妹」のうち、最も法律上の優先順位が高い人のことをいいます。血族相続人に関しては、下記2つのルールがあります。

【血族相続人のルール】

  1. 配偶者相続人がいない時は、単独で推定相続人(あるいは法定相続人)になる。
  2. 血族相続人に同順位が2人以上いる場合は、人数に応じて相続権の割合を等分する。

2のルール(民法第900条各項)に関しては、第3順位である兄弟姉妹だけが例外です。片親が違う兄弟姉妹(異母兄弟や異父兄弟だい)には、両親とも同じ兄弟姉妹の2分の1しか割合がありません。

血族相続人の解釈のポイントは「子」の扱いです。近年は家族の成り立ちが多様化しており、再婚家庭や事実婚を続けるうちに子が生まれる家庭も増えました。このようなケースでは、子はどう扱われるのでしょうか。

  • ポイント1:「子」なら身分に関係なく相続権を得られる

子の身分には、夫婦の間に生まれた「嫡出子」とそうでない「非嫡出子」に加え、さらに「前の配偶者との間にもうけた子」「養子」の4種類があります。どの身分でも推定相続人であることには変わりなく、主張できる遺産の取得分にも区別はありません。

よく疑問に思われるのは、「非嫡出子」や「前妻の子」(前夫の子)「前の配偶者との間にもうけた子」でしょう。こうした身分の子でも、今の配偶者との間にもうけた子とまったく同じ扱いで推定相続人になれます。

  • ポイント2:「連れ子」は養子縁組するまで相続人になれない

たとえ今の家庭で親子関係を築いていても、配偶者が前の婚姻中にもうけた「連れ子」は推定相続人になれません。連れ子を相続人に加えたい場合は、養子縁組を届け出る必要があります。

  • ポイント3:「事実婚の子」や「婚姻届を出す前に生まれた子」は要注意

「事実婚(内縁関係)で子をもうけた」「未婚のまま子をもうけて後から婚姻届を出した」などのように、正式な夫婦になる前に生まれた子供は、父親の推定相続人になれない可能性があります。

法律上、特に親子関係を申告しなくても自動的に夫の子として扱われるのは、夫婦の婚姻期間中に妊娠したか、結婚200日経過後~離婚300日以内の間に生まれた子供だけです(民法第772条)。結婚前~結婚200日以内に生まれた子は、血縁上の親子だと役場の戸籍係に申告するための「認知届」を提出するまで父子関係は発生しません。

事実婚や授かり婚の場合、認知届を提出し忘れていないか子の戸籍謄本を確認しておきましょう。

血族相続人の優先順位

ここでは、いったん血族相続人の優先順位をおさらいしましょう。血族相続人には第1順位から第3順位まであり、下記のように指定されています。

【血族相続人の相続順位】

第1順位:

第2順位:直系尊属のうち最も親等が近い人

第3順位:兄弟姉妹

例えば、子(第1順位)をもうけている人については、存命の配偶者相続人と子が推定相続人です。結婚後に子をもうけなかった人は、父母や祖父母のうち最も親等の近い人(第2順位)が子の代わりに推定相続人になります。子がおらず、父母や祖父母を既に失くしている人は、存命の配偶者と兄弟姉妹(第3順位)が推定相続人です。

推定相続人の組み合わせ例

基本的な相続順位の知識は以上となります。ここでいったん整理してみましょう。この後紹介する「代襲相続」を除けば、推定相続人の組み合わせは以下の表の①~⑦のどれかです。表ではそれぞれの相続権の割合も併せて紹介していますので確認してください。

【表】推定相続人の組み合わせと相続権割合

推定相続人の組み合わせ 配偶者相続人 血族相続人
配偶者 (第1順位) 直系尊属(第2順位) 兄弟姉妹(第3順位)
①配偶者のみ 1分の1
②配偶者と子 2分の1 2分の1
③配偶者と直系尊属 3分の2 3分の1
④配偶者と兄弟姉妹 4分の3 4分の1
⑤子のみ 1分の1
⑥直系尊属のみ 1分の1
⑦兄弟姉妹のみ 1分の1

血族相続人が死亡した時に起こる「代襲相続」とは

血族相続人の順位そのものも相続の対象になり、子に受け継がれます。実際に順位が相続されることを代襲相続と呼びます。代襲相続が起こるのは、血族相続人である「子」もしくは「兄弟姉妹」が既に亡くなっているか、後ほど紹介する「廃除」もしくは「相続欠格」により推定相続人がその権利を失っている時です(民法第887条2項・同条第3項・第889条1項)。

【例】もともとは夫婦・長男・長女の3人家族で、長男が孫を1人残して亡くなっている場合

→夫の推定相続人は、配偶者相続人である妻と、血族相続人(第1順位)である長女、同じく第1順位である長男の順位を相続した孫の計3人です。

  • 直系卑属は「再代襲」がある

直系卑属での代襲相続は、子・孫・ひ孫……とのように何代でも「再代襲」が発生します。例として、子も孫もすでに亡くなっているケースでは、ひ孫がいれば再代襲して第1順位の推定相続人になります。

注意したいのは、兄弟姉妹からの代襲相続は1代だけである点です。つまり、甥や姪の子どもは再代襲できません。

 

  • 相続放棄すると代襲相続は起こらない

推定相続人が亡くなった時にその子が「相続放棄」をしていると、代襲相続は起きません。相続放棄とは、遺産に含まれる一切の権利義務を手放すことであり、代襲相続人としての権利も当然失ってしまうからです。

推定相続人の特定方法

ここまでを一言でまとめると、推定相続人は「本人との身分関係」(=続柄)で決まります。身分関係に関することは、日本国籍を持つ人なら「戸籍簿」に記載されています。つまり、家族構成を把握しきれないケースでも、戸籍簿の写しである「戸籍謄本」を集めることで推定相続人を特定できるのです。

戸籍謄本の取得方法

戸籍謄本を取り寄せられるのは「本籍地を管轄する役場」だけです。本籍地=現在の住所とは限らないため注意しましょう。どこが本籍地になるのか分からない時は、先に住民票の写しを取得すれば確認できます。

また、役場で戸籍謄本の請求が出来るのは「戸籍に記載されている人」もしくはその代理人だけです。すでに亡くなっている人について謄本を取り寄せたい時は、相続人であることを証明するための書類が必要で、以下の通りです。

  1. 請求者の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード)
  2. 印鑑(認印OK)
  3. 委任状(代理人が請求する場合)
  4. 戸籍に載っている人との身分関係が分かる「請求者の現在の戸籍謄本」(すでに亡くなっている場合)

戸籍の種類

戸籍には「戸籍謄本」「戸籍抄本」「戸籍全部事項証明」と複数の名称があります。取り寄せの手続き等で混乱しないよう、戸籍の種類を整理しておきます。

  • 戸籍簿: 本籍地役場で保管する台帳(戸籍の原本)
  • 戸籍謄本: 戸籍簿の内容をまるごと写したもの(=戸籍全部事項証明)
  • 戸籍抄本: 戸籍簿上の特定の人の記載部分のみ写したもの

推定相続人を探す時は、同じ戸籍簿上に乗っている全ての人の情報を把握するため「戸籍謄本」(戸籍全部事項証明)が必要です。

戸籍のさかのぼり方

戸籍謄本から推定相続人を調べる時は、将来の被相続人(=財産を遺す人)が現在入っている戸籍謄本を元に、その人が生まれた時までさかのぼるようにして次々に戸籍謄本を取得します。

そもそも、戸籍謄本は生涯に1つだけとは限りません。原本にあたる戸籍簿は1家族につき1つと決まっており、そこに載っている人の記録は、それぞれの結婚・離婚・養子縁組などのタイミングで別の戸籍簿へと異動するからです。過去に入っていた戸籍には、「前の配偶者との間にもうけた子」や「認知した子」、あるいは「両親しか存在を知らない兄弟姉妹」など、本人すら見落としている推定相続人の情報が載っているかもしれません。

では、一体どのようにして戸籍をさかのぼれば良いのでしょうか。基本的には、下記Step1~Step4を順に進めていけば、問題なく出生時点までの全ての戸籍を取り寄せられます。

 

  • Step1: 被相続人の「身分事項」を探す

戸籍簿には、記載されている人ごとに結婚・婚姻・養子縁組・死亡などの情報が「身分事項」としてまとめられています。まずは、被相続人の身分事項を探しましょう。

 

  • Step2: 1つ前の戸籍がどこにあるか確認する

身分事項の欄に書かれた「結婚や養子縁組などがきっかけで戸籍に入った日」と「1つ前の本籍地」を確認します。この時、戸籍に入った日がその戸籍の「改製日」と一致していれば、法改正で書式が改められる前の戸籍簿(=改製原戸籍)が、その戸籍謄本を請求した役場にあります。

 

  • Step3: 1つ前の戸籍簿の写し(戸籍謄本)を取得する

Step2で確認した1つ前の本籍地を元に、その本籍地を管轄する役場へ戸籍謄本を請求します。前述の通り、戸籍に入った日がその戸籍の「改製日」と一致していた場合は、確認した戸籍謄本の取得元である役場にもう一度「改正原戸籍」(戸籍謄本??)を請求しましょう。

 

  • Step4: Step1~3を繰り返して出生時点までさかのぼる

Step3で取得した戸籍謄本について、Step1からの手順を繰り返します。最後に取得した戸籍謄本の入籍日が出生日になっていれば、その時点で「出生から死亡までの連続した全ての戸籍謄本」を取得できたことになります。

 

戸籍をさかのぼり終えたら、各謄本に書かれた家族の情報を「相続順位」に当てはめ、推定相続人を特定しましょう。この時、戸籍謄本を元に家系図を作成すると、特定がより簡単になります。

戸籍をさかのぼる時の注意点

出生までさかのぼって戸籍を取得するときに、いくつか頭に入れておく必要がある項目がありますので以降説明します。

  • 亡くなった推定相続人も戸籍謄本をさかのぼる必要あり

注意しなければならないのは「代襲相続」の可能性です。推定相続人の子もしくは兄弟姉妹にあたる人が亡くなっている場合、孫・甥・姪などがいないか確認しなければなりません。そのため、追加で亡くなった推定相続人についても戸籍をさかのぼる必要があります。

 

  • 戸籍簿はさかのぼるほど読みにくくなる

戸籍をさかのぼる時は、年配の人ほど出生付近の謄本が読みにくくなる点が問題です。本籍地役場で保管される戸籍簿は、法改正のタイミングで、その時代ごとに管理しやすい書式へと作り直されます。こうして戸籍を作り直すことを「改製」と呼び、古い戸籍は「改製原戸籍」として引き続き役場で保管されるようになります。令和2年時点で取得できる改製原戸籍は、どれも戸籍のコンピュータ化が行われる前のものであり、縦書きで1つ1つ手書きされています。

上記のような古い戸籍は、年代をさかのぼるほど文体が堅くなる上、担当者の字の癖が強く一目見ただけでは読めないものが多くあります。さらに、大正4年式と呼ばれるもの以前の戸籍は「家」(家名や事業を継ぐ戸主とその一族)ごとに管理されており、当時の家制度に関する知識がないと推定相続人の特定は不可能です。

【参考】戸籍の書式

戸籍の年式 作成されていた期間 書式 戸籍簿の単位
明治19年式 明治19年10月16日明治31年7月15日 縦書き&手書き 戸主とその一族
明治31年式 明治31年7月16日大正3年12月31日 縦書き&手書き 戸主とその一族
大正4年式 大正4年1月1日昭和22年12月31日 縦書き&手書き 戸主とその一族
昭和23年式 昭和23年1月1日平成6年11月31日 縦書き&手書き 夫婦・未婚の子・未婚の孫
平成6年式 平成6年12月1日現在 横書き&コンピュータ作成 夫婦・未婚の子・未婚の孫

さかのぼるうちに古い戸籍にたどり着いた場合は、なるべく弁護士や司法書士に推定相続人探しをバトンタッチすることをお勧めします。実務で多数の戸籍謄本を扱った経験を元に、正確に特定してくれるでしょう。

推定相続人に相続させないようにする方法

推定相続人を特定したところで、遺産を取得させるべきでない人がいる場合もあるでしょう。その例として「推定相続人に暴力を振るわれていた」「その推定相続人に強い口調で遺言書を作成するよう命令された」などが挙げられます。上記のような行為をした人については、その相続権を失わせる方法として「廃除」「欠格」があります。

相続人の廃除

相続人の廃除(民法第892条~第894条)とは、下記のような事情で関係が悪化している推定相続人について、生前の本人の意思で相続権を取り上げることです。

【「相続人の廃除」ができる要件】

  1. 生前の本人を虐待した
  2. 生前の本人に重大な侮辱を加えた
  3. 過去、推定相続人に著しい非行があった

以上のような要件で廃除された人は戸籍の身分事項に記載され、関係者が謄本を取り寄せれば確認できるようになります。

相続欠格

相続欠格(民法第891条・第965条))とは、「生前の本人を傷つけた人には相続させない」とする、強制力のある制度です。下記の欠格事由があれば、事由の発生時点で自動的に相続権を失います。

【相続人の欠格事由】

  1. 遺言書の偽造・内容の改ざん・破棄・隠ぺいなどを行った
  2. 生前の本人に詐欺や無理強いをし、遺言書の作成・撤回・取消し・変更をさせた
  3. 2と同じ手段を使って、遺言書の作成・撤回・取消し・変更を妨害した
  4. 被相続人や同順位あるいは先順位の相続人を、故意に死亡させた
  5. 4で挙げた人を故意に死亡させようとして、刑事罰を受けた
  6. 被相続人が殺害されたと知りながら、それを告発しなかった(判断能力のない人・加害者の配偶者・加害者の直系血族を除く)

なお、欠格事由により相続権を失くしたことは、戸籍に一切記載されません。そのため、法定相続人が欠格者抜きで遺産の名義変更をする時は、欠格者本人に事由があることを認める内容の書面を作成させ、手続きで使用することになります。

「相続人の廃除」の条件と客観的に比較しても、欠格事由は極めて重いものです。その仕組み上、本人が自由に相続欠格の効力を生じさせることもできません。

つまり、任意で推定相続人に遺産を与えないようにしたい場合の手続きは「廃除」の一択になります。

廃除の手続き方法

推定相続人を廃除する手続きには「生前廃除」「遺言廃除」の2種類があり、どちらでも都合のいい方法を選べます。いったんは廃除の手続きをとっても、関係が修復できた時は取り消すことも可能です。

ここでは、推定相続人に遺産を与えたくない時の任意の手続きについて、各方法の解説と注意点を紹介します。

生前廃除のやり方

「生前廃除」は、現在の住所地を管轄する裁判所に請求し、本人の生前にその効力を生じさせる方法です(家事事件手続法第188条1項)。請求する際は、書式が指定された「家事審判申立書」を準備し、申立ての趣旨や理由を埋めて添付書類とともに提出します。生前廃除の必要書類は以下の通りで、全て必要となります。請求者の戸籍謄本

  • 廃除したい推定相続人の現在の戸籍謄本
  • 廃除の理由が証明できる資料

通常、相続権や遺産の取得分に関する請求が行われた場合、家裁は当事者の話し合いである「調停」での解決をまず試みます。しかし生前廃除では、調停は一切行われません。廃除したい側とされる側がそれぞれ主張し合い、その内容と提出された証拠資料をもとに裁判官が判断する「審判」で請求が認められるかどうかが決まります(家事事件手続法第244条など)。

  • 生前廃除は要件が厳しい

生前廃除の法律上の要件はすでに説明した通りですが、個別のケースが当てはまるかどうかは厳しくチェックされます。少なくとも、単に「親が思うような仕事に就いてくれなかった」「気に入らない相手と結婚した」などの理由では廃除できません。実際に廃除が認められたケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 推定相続人からDVを受けて怪我をし、流産までしたケース(大阪高裁昭和37年5月11日判決)
  • 療養中に推定相続人が不倫し、強い精神的ショックを受けたケース(新潟家裁高田支部昭和43年6月29日審判)

廃除が認められるケースを分析すると、推定相続人の行為でどの程度傷ついたか証明でき、かつ一方的なものだと客観的に分かる傾向があります。では反対に、廃除を認めてもらえないケースとは、どんなものでしょうか。

【廃除請求が認められないケース】

  1. 兄弟姉妹間で待遇に差があり、不満を募らせた子が暴言や暴力に走ったケース(大阪高裁昭和37年3月12日判決)
  2. 親の経営する会社の財産を横領したが、大企業である点や倒産との因果関係がないことから「廃除の要件に当たらない」とされたケース(東京高裁昭和59年10月18日判決)

廃除が認められなかったケースを分析すると、請求者側にも原因があったり、実際に起こった出来事と「非行があった」「侮辱された」などの主張との間に因果関係がなかったりする傾向があります。

実際に生前廃除を請求する際は、相手と主張が真っ向から対立することもイメージして「きちんと事実を証明する」「廃除請求までの経緯が合理的だと分かるよう整理しておく」ことの2点が重要です。これらの対応は損害賠償請求などの訴訟と共通しており、法律トラブルに強い弁護士に依頼するとよいでしょう。

遺言で特定の相続人の廃除をする場合

「遺言廃除」は、遺言書に廃除したい人とその理由を書き込み、死後にその効力を生じさせる方法です(民法第893条)。実際に効力を生じさせるには、「遺言執行者」を指名して生前の想いの実現を委託し「遺言が効力を持った時に遅滞なく」廃除請求の手続きをしてもらう必要があるとも定められています。

【遺言書の文例】

第〇条 遺言者は、遺言者の次男○○(昭和○年〇月〇日生)を、以下の具体的事実に基づいて遺言者に虐待を行ったものとし、相続人から廃除する。

(※具体的事実を記載)

第〇条 遺言者は、本遺言の執行者として下記の者を指定する。

(※遺言執行者の氏名や事務所名などの詳細を記入する)

なお、生前の間に遺言執行者を決められない場合でも、死後になって利害関係者からの請求があれば家庭裁判所に選任されます(民法第1010条)。しかし、法律上の要件や、廃除される人から抵抗(遺産の横領など)を受ける可能性のことを考えると、速やかに廃除請求を処理してもらうため生前のうちに指名しておくのがベストです。

また、指名するのであれば、相続を専門とする弁護士や司法書士が適任です。これらの専門士業であれば、一貫して遺言した人の立場に配慮し、手続き自体も的確かつスピーディに進められます。

遺言廃除のメリット

なるべく穏便に推定相続人を廃除するなら、生前廃除よりも遺言廃除のほうがおすすめできます。

遺言廃除の第1のメリットは、廃除される立場の人と直接争わずにすむ点です。第2のメリットとしては、廃除の要件が緩和される点が挙げられます。遺言廃除では、単に明確に廃除理由を書くだけで請求が認められ、個別ケースで廃除が正当なのかどうかの厳正な審判は行われません。非行や侮辱の証拠を添える必要は基本的になく、廃除される側の主張とも無関係に効力が生じます。遺言書に記載した以上は「生前最後に残した意志」として尊重されるのです。

それだけに、遺言廃除は重い意味を持ちます。廃除に不満を持つ人が法定相続人の手続きを妨害する恐れがあるため、なるべくトラブルに精通した専門士業と相談しながら進めるべきです。

廃除を後から取り消すには

いったんは推定相続人の廃除をしても、後から関係を修復できた場合は「廃除の取消し」が可能です(民法第894条)。取消しの具体的な方法は、当初どの方法で廃除したかによって異なります。

  1. 生前廃除を取り消す場合: 家庭裁判所に請求するか、廃除を取り消す内容の遺言書を作成します。遺言書で取り消す場合、遺言執行者から家裁への請求手続きが必要になるため、誰に遺言を実現してもらうのか指定しておきましょう。
  2. 遺言廃除を取り消す場合: 遺言書を破棄して書き直すか、内容を変更または訂正して「廃除を取り消す旨」が分かるようにしておきます。

推定相続人が自分を廃除することは不可能

注意点として、推定相続人自身で廃除することはできません。もしも相続人になりたくないと思う事情があるのなら、法定相続人の地位を手放すための「相続放棄」(民法第915条)の手続きをする必要があります。相続放棄の手続きには「死亡を知った時から3か月以内」の期限が設けられているため、戸籍謄本などの提出書類の準備は素早く進めましょう。

まとめ

生前対策は「推定相続人の特定」から始まります。誰が推定相続人になるのか調べたい時は、まず法律で定められている相続順位の知識を押さえましょう。基本は「配偶者相続人」と「子・親等の近い直系尊属・兄弟姉妹の中で最も順位が高い人」がセットで相続権を持つということです。

これを家族構成に当てはめて特定するには、将来被相続人になる人について出生時点までさかのぼるように次々と戸籍謄本を取得し、対象の人を中心とする家系全体を把握する必要があります。

【推定相続人特定で対応が難しくなるポイント】

  1. 被相続人の戸籍謄本は本籍地役場でしか取得できず、住んでいる場所と本籍地が離れていると手間がかかる
  2. 古い年代の戸籍ほど読みにくくなる(年配の人の推定相続人特定で手詰まりになる可能性あり)
  3. 推定相続人である「子」や「兄弟姉妹」が亡くなっている場合、代襲相続の可能性を考えて追加で戸籍をさかのぼる必要がある

特定した推定相続人に遺産を譲りたくない事情がある場合は、対象の人物を「廃除」して相続権を取り上げることも可能です。廃除する際、家庭裁判所に請求する方法だと、問題の推定相続人と主張を争うことになる上に「合理的な説明ができているか」「事実を証明できているか」が厳しくチェックされる点に注意しましょう。

遺言書作成や税対策のための時間を十分に確保するには、遺産を取得する権利が誰にあるのか、また相続財産がどれだけあるのか、素早く正確に把握し終える必要があります。これらの「生前対策の準備」にあたる部分は、法律知識だけでなく実務経験にも長けた弁護士や司法書士に任せるのがベストです。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

「つぐなび」の運営は、1970年創業の株式会社船井総研ホールディングス(東証1部上場、証券コード:9757)の経営コンサルティング事業を担う株式会社船井総合研究所が行っています。…もっと見る

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