特別縁故者、条件と家裁への申し立ての流れ–相続税は2割加算に

更新日:2023.11.28

特別縁故者、条件と家裁への申し立ての流れ–相続税は2割加算に

特別縁故者とは、被相続人と生計を同一にしていた者、被相続人の看護や介護をしていた者、被相続人と親子同様の師弟関係等特別の縁故があった者のことをいいます。

被相続人の法定相続人がいないなどのケースにおいて、裁判所は特別縁故者への相続財産分与を認めることがあります。

特別縁故者とは?

特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者のことをいいます。

被相続人に配偶者や子供、両親や兄弟といった者がいる場合、その者が法定相続人となりますが、場合によってはそのような法定相続人が存在しないケースもあります。

もしも被相続人に法定相続人が存在せず、また、遺言による遺贈などがなされていない場合には、被相続人の財産は国庫に帰属し、国のものとなってしまいます。

しかし、このような場合に、被相続人に対して「特別の縁故がある者」が存在するときには相続財産を国庫に帰属させるのではなく、その「特別の縁故がある者」に対して相続財産の分与を認める、という「特別縁故者への相続財産分与制度」があります。

つまり、被相続人に法定相続人が存在しない場合に特別縁故者に対して相続財産が分与される可能性があるわけですが、誰でも特別縁故者に認められるわけではありません。

特別縁故者として認められるためには、一定の要件を満たしている必要があります。単なる親族や近隣者として被相続人と交際していたというだけでは、特別縁故者とは認められません。

以下、特別縁故者として認められるための条件をご説明いたします。

特別縁故者になるための条件は?

特別縁故者として認められるためには、次の三つのうちのどれかに該当している必要があります。

  1. 被相続人と生計を同じくしていた者
  2. 被相続人の療養看護に努めた者
  3. その他、被相続人と特別の縁故があった者

上記三つの条件について、具体例等を少し挙げてみます。

①被相続人と生計を同じにしていた者

特別縁故者として認められるものの一つ目として「被相続人と生計を同じくしていた者」があります。

婚姻届は出していないものの事実上の夫婦関係を構築している内縁配偶者や、養子縁組届は出していないものの事実上の養子関係にある者で、被相続人と共に生活をしていた者などが該当します。

②被相続人の療養看護に努めていた者

特別縁故者として認められるものの二つ目に「被相続人の療養看護に努めた者」があります。被相続人の看護や介護をした者が該当します。

ただし、業務として報酬を得て看護や介護をした者は、これに該当しません。看護師、介護ヘルパー、家政婦などが業務として看護や介護をしても、特別縁故者としては認められません。ご注意ください。

③被相続人と師弟関係などの特別な関係があった者

特別縁故者として認められるものの三つ目は「その他、被相続人と特別の縁故があった者」です。

被相続人と親子同然の師弟関係があった者や、遺言書は無いながらも被相続人から財産を残す旨の約束がされていた者などが該当し得ます。

ただし、被相続人の死後の縁故のみをもって特別縁故者とみなすことはできない、と解されております。

なお、特別縁故者は個人(自然人)に限らず、寺などの宗教法人や老人ホーム、市や町などの自治体等、法人が該当する可能性もあります。

特別縁故者に該当するか否かの判断に迷われた場合には、司法書士や弁護士等相談しましょう。

特別縁故者となり、財産分与をするには家庭裁判所への申し立てが必要

被相続人に法定相続人が存在せず、特別縁故者としての要件を満たしている場合には、相続財産を分与される可能性があります。

この場合、被相続人の特別縁故者に該当することを主張する者は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、その申し立てを行わなければなりません。

要件を満たしているからといって、自動的に特別縁故者として相続財産の分与を受けられるわけではありません。

家庭裁判所への申立手続を経て、家庭裁判所の判断に基づく必要があり、勝手に被相続人の財産を取得できるものではありません。くれぐれもご注意ください。

特別縁故者になるまでの流れ

特別縁故者としての要件を満たしている場合、家庭裁判所に対して相続財産分与の申し立てを行いますが、その申し立ては被相続人の死亡後、一定期間が経過した上で行わなければなりません。

なぜなら、特別縁故者への相続財産の分与は、被相続人に法定相続人が存在しないことが前提として必要なため、被相続人の死亡後一定期間、法定相続人が現れないことを確認しなければならないからです。

よって、特別縁故者としての相続財産分与の申し立ては、その期間を待ってから行うことになります。

特別縁故者による相続財産分与の申し立てまでの経緯

被相続人の死亡後、特別縁故者としての相続財産分与の申し立てができるに至るまでの経緯を、以下、時系列にしてみます。

  1. 被相続人の死亡
  2. 相続財産管理人の選任及びその公告: 相続人の存在が明らかでない場合、家庭裁判所に申し立てることで「相続財産管理人」が選任される。相続財産管理人が選任されると、「相続財産管理人選任の旨の公告」がなされる。
  3. 請求権申出の公告: 「相続財産管理人選任の旨の公告」がなされ、その公告後2か月が経っても相続人の存在が明らかでない場合には、相続財産管理人は相続債権者及び受遺者に対する「請求権申出の公告」を行う。この請求権申出の期間は2か月以上とされ、この期間満了後に、相続債権者や受遺者に対して相続財産からの弁済がなされる。
  4. 相続人があるならばその期間内に権利を主張すべき旨の公告: 上記の請求申出期間が満了してもなお相続人の存在が明らかでない場合、家庭裁判所は6か月以上の期間を定めて、「相続人があるならばその期間内に権利を主張すべき旨の公告」を行う。
  5. 相続人不存在の確定: 上記の期間が満了すると、相続人の不存在が確定する。
  6. 特別縁故者による相続財産分与の申立: 相続人の不存在確定後、特別縁故者の要件を満たす者が相続財産分与の申し立てを家庭裁判所にした場合、家庭裁判所はそれを審理し、相当と認めたときは分与の審判を行う。なお、特別縁故者による相続財産分与の申し立ては、上記④の公告期間満了後、3か月以内に行う必要がある。

つまり、被相続人の死亡後、特別縁故者による相続財産分与の申し立てが可能になるまでには、少なくとも10か月以上の期間の経過を要します。

また、特別縁故者による相続財産分与の申し立ては、相続人の不存在が確定する公告の期間満了後3カ月以内に行わなければなりません。

早すぎてもだめ、遅すぎてもだめというわけです。申し立てを行うべき時期を明確に把握して適切な時期に行うことが必要となります。

法定相続人が見つかった場合

被相続人の法定相続人が見つかった場合には、特別縁故者への相続財産の分与は認められません。

また、連絡が一切つかないといった「行方不明の法定相続人」がいる場合も、特別縁故者への相続財産分与は認められません

特別縁故者への相続財産分与は、あくまでも相続人が「不存在」である場合に認められるのであり、「行方不明」は「不存在」に該当しないからです。

なお、「行方不明の相続人」がいる場合には、その行方不明者についての不在者財産管理人の選任や、失踪宣告の申し立てといった、別の手続きを行うことになります。

特別縁故者も相続税の支払いが発生する

特別縁故者の相続財産分与の申し立てが家庭裁判所により認められ、相続財産の分与を受けた場合には、分与を受けた特別縁故者は相続税の申告が必要となる場合があります。

分与された財産は相続税の課税対象となるからです。

相続人ではない特別縁故者が相続財産の分与を受けた場合は、被相続人の配偶者や一親等の血族には該当しないため、相続税の2割加算の適用があります。

また、相続税の申告期間は、相続財産の分与の審判確定日の翌日から10か月以内に行う必要があります。

なお、特別縁故者が相続財産の分与を受けた場合には、相続人であれば適用のある控除を受けることができないことがあります。

特別縁故者による相続税の申告は、相続人による相続税の申告とは異なる点が多々ありますので、詳細は税理士等に確認した方がよいでしょう。

 

執筆者プロフィール
山下晋広
司法書士。2000年、司法書士試験合格。2004年、司法書士事務所を開業。所属する東京司法書士会では、調停センター運営委員、広報委員を担当。大学では文学部にて東洋哲学を学び、博物館学芸員を志しつつも、諸事情にて転身。現在、司法書士として研鑽を積む。主な業務は相続手続・不動産登記手続・企業法務・成年後見業務。

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