嫡出子、非嫡出子という言葉をご存じですか。嫡出子とは、法律上婚姻関係のある男女の間に誕生した子どものことを言います。
非嫡出子とは、法律上婚姻関係にない男女の間に誕生した子どものことを意味します。ここでは、非嫡出子と相続の関係性について主に解説します。
目次
嫡出子、非嫡出子とはなにか
まずは、嫡出子と非嫡出子の違いについて説明します。また、嫡出子の中でも「推定される嫡出子」、「推定されない嫡出子」に分かれるため、これについても解説します。
嫡出子の考え方
嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女間に生まれた子どものことをいいます。これに対して、非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない男女間の子どもをいいます。
嫡出子については、民法772条において「嫡出推定」という制度が設けられています。
民法第772条
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民法722条2項の嫡出推定は、出産の後に婚姻関係が解消されたケースにおいて、子どもの父親が誰であるか争われることで子どもの身分関係が不安定になることを避けるために設けられたものです。
民法722条1項又は2項の要件を満たし、嫡出推定を受ける子どもを「推定される嫡出子」といいます。
嫡出推定を受けた子どもの父親が、自分の子どもではないと主張するには、子どもが生まれたことを知った日から1年以内に嫡出否認の訴えを起こす必要があります。
これに対して、嫡出推定の要件を満たさない子どもは、嫡出子であるとの推定を受けることができません。このような子どもを「推定されない嫡出子」といいます。
昨今は、婚姻届の提出前に子どもを妊娠するケースが増加しています。このような場合、妊娠が発覚してから婚姻届の提出までに期間が空くと、民法772条の嫡出推定の要件を満たさず「推定されない嫡出子」となることがあります。
もっとも、この場合でも出産前に婚姻届が提出されていれば嫡出子であることには変わりありません。
このため、子どもの出生後に出生届を提出すれば、嫡出推定は受けないものの問題なく嫡出子としての扱いとなります。
推定を受ける嫡出子か推定を受けない嫡出子であるかによって法律上扱いが異なるのは、父親が子どもとの親子関係を否定したい場合の争い方です。
推定される嫡出子であれば、父親が親子関係に疑問を抱いている場合には嫡出否認の訴えによる必要がありました。これに対して、推定されない嫡出子の場合には、親子関係不存在確認の訴えを提起するとなります。
親子関係不存在確認の訴えは、嫡出否認の訴えのように期間制限はなく、まだ確認すべき法的利益がある者であれば誰でも訴えることができます。
したがって、推定されない嫡出子については、相続争いをきっかけにして子どもが親子関係の存否に関する紛争に巻き込まれるリスクが一応あります。
ただし、これはあくまでもDNA鑑定などで血縁上の親子関係が明確に否定できることが前提です。
したがって、実際には推定されない嫡出子であるからといって、親子関係をめぐる紛争に子どもが巻き込まれる可能性はほとんどないといってよいでしょう。
なお、子どもが嫡出子となるのは「法律上の」婚姻関係にあった場合だけです。このため、両親が事実婚という場合には、そもそも嫡出子となりません。
【ケース別】嫡出子の判断のしかた
次に、よくある事例ごとに嫡出子かどうかの判断基準について説明します。
婚姻関係を結んだのが出産後だったケース
子どもを出産した後に婚姻届を提出した場合、法律上の婚姻関係にある男女間に生まれた子どもではないため嫡出子にはあたりません。
このため、父親が法律上自分の子どもとしたい場合には、父親が認知をする必要があります。
出産後に婚姻届の提出及び父親による認知の両方が行われると、その子どもは嫡出子の身分を取得します(民法789条)。これを「準正」といいます。
連れ子がいて再婚したケース
連れ子がいる人が再婚した場合、再婚によって再婚相手と連れ子との間に当然に法律上の親子関係が生じるわけではありません。
再婚相手が連れ子を法律上の子どもとしたい場合には、養子縁組をする必要があります。
嫡出子と非嫡出子の相続割合はどうなるか
以前、嫡出子と非嫡出子とでは相続割合が異なっていました。非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定があったためです。
ところが平成25年9月4日、最高裁判所は、両親が法律上の婚姻関係になかったことは子ども自身には選択の余地のない事柄であり、これを理由として不利益な取り扱いをする民法の規定は憲法に違反していると判断しました(最高裁判所平成25年9月4日決定)。
この最高裁判所の決定を受けて民法が改正されたため、平成25年9月5日以降に開始した相続に関しては非嫡出子と嫡出子の法定相続分は同じとなりました。
最高裁判所の決定では、遅くとも平成13年7月当時には非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定は憲法に違反していたと判断されています。
そうすると、平成13年7月以降に開始した相続のうち従来の民法の規定に従って行われた遺産分割は無効になるのではないかが問題となります。
しかし、最高裁判所は、すでに行われた遺産分割の効力が覆るとすれば、多くの人に影響が出ることに配慮し、平成13年7月から平成25年9月4日までの間に確定した法律関係には影響を生じないものと判断しています。
このため、平成25年9月4日以前にすでに解決済みの遺産分割に関しては、嫡出子と非嫡出子とで相続割合が異なることが容認されているといえます。
認知しているかどうかがポイント
非嫡出子が相続人となれるか否かに関しては、被相続人が父親であるか母親であるかにより若干の違いがあります。
母親と子どもの関係では、基本的には出産の事実によって認知なしに法的な親子関係が認められます。したがって、非嫡出子は母親が亡くなった場合に相続人となれることについてはまず争いになりません。
これに対して、父親との関係では、認知があって初めて非嫡出子と父親との間に法律上の親子関係が発生します。
このため、父親が亡くなった場合に非嫡出子が相続人となるためには、父親から認知されていることが条件となります。
なお、認知は届出によって行う以外に、父親の遺言によって行うこともできます。父親が認知しない場合、子どもやその法定代理人(実母など)等民法で定められた一定の立場の者は、父親の死亡日から3年が経過するまでであれば認知の訴えを起こすことができます。
また、認知をすると、非嫡出子が父親の相続人となることができることに加え、父親に対して養育費(扶養料)を請求することもできるようになります。
相続でもめないために
非嫡出子がいる場合には、親がなくなった後に相続でもめる可能性が高いといえます。そこで、相続でもめないための準備について説明します。
遺言書として残す
非嫡出子の存在を親族の誰にも知られないよう隠していた場合であっても、認知をしている場合には相続開始後の戸籍調査によって発覚することになります
また、父親の死亡後に認知していない子どもから認知の訴えを起こされる可能性もあります。
親族が把握していない子どもの存在が明らかになると相続人が想定外に増えるため、他の親族の相続分はその分少なくなります。このため、相続争いにつながりやすいのです。
このようなケースで相続争いを未然に防ぎたいのであれば、生前に遺言を残して子どもの存在や相続分の指定をあらかじめしておくことが有効です。
認知していない子どもであれば、遺言による認知も検討の余地があります。
専門の弁護士に相談する
非嫡出子に関しては、なかなか周囲に気軽に相談しにくいことが多くあります。
このため、非嫡出子の相続をめぐってトラブルになった場合はもちろん、非嫡出子の親が生前に遺言書を作成する場合にも、相続について詳しい弁護士に相談しておくと安心です。
弁護士には守秘義務があるため、非嫡出子に関する相談内容が第三者に漏れる心配もありません。
弁護士 松浦 絢子
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、男女問題など幅広い相談に対応している。