【相続人代表者指定届のトラブル回避】指定人届を無視したり知らない人に任せるとトラブルに?

更新日:2023.12.06

【相続人代表者指定届のトラブル回避】指定人届を無視したり知らない人に任せるとトラブルに?

相続手続きを行っている最中に、役所から「相続人代表者指定届」が届いた人はいませんか。役所からの書類ということで、驚かれるかもしれません。

相続人代表者指定届とは、納税義務のある人が亡くなり相続人が2人以上いるときに役所から送られてくる”税金関係の書類を受け取る相続人代表を指定”する書類のことです。

相続人代表者は書類を相続人を代表して受け取るだけで、それ以上の法定効力は発生しません。

1. 相続人代表者指定届とは?

親族が亡くなった後、役所から相続人代表者指定届を提出するように求められることがあります。

相続人代表者指定届とは、固定資産税等の納税義務を負う人が亡くなった場合において相続人が2人以上いるときに、役所から送られてくる届け出のことで、税金関係の書類を受け取るための相続人の代表者を指定する内容です(地方税法9条の2第1項)。

地方税法9条の2

1 納税者又は特別徴収義務者(以下本章(第十三条を除く。)においては、第十一条第一項に規定する第二次納税義務者及び第十六条第一項第六号に規定する保証人を含むものとする。)につき相続があつた場合において、その相続人が二人以上あるときは、これらの相続人は、そのうちから被相続人の地方団体の徴収金の賦課徴収(滞納処分を除く。)及び還付に関する書類を受領する代表者を指定することができる。この場合において、その指定をした相続人は、その旨を地方団体の長に届け出なければならない。

典型的なケースとしては、被相続人が不動産を所有していて、固定資産税及び都市計画税の納税義務を負っていたような場合です。

遺産分割協議が完了するまでの間、被相続人名義の不動産は相続人間で共有となりますので、不動産にかかる固定資産税等を支払う義務を負うのは相続人全員となります。

ただ、役所からすると不動産が共有状態のままだと、誰に税金関係の書類を送ればよいのかがはっきりしないため、相続人代表者指定届を提出してもらうと事務処理上の手間が省けるという事情があります。

また、相続人からしても、誰1一人の代表者に税金関係の書類がすべて届くようにしておいた方が、支払い漏れのおそれがないというメリットもあります。

相続人代表者指定届の提出を求める書類は、被相続人の住所宛に届けられることが一般的です。

なお、不動産の固定資産税に関しては、毎年1月1日時点において不動産登記されている名義人宛に4月から5月頃に納税通知書が送付されます。このため、1月1日時点で相続登記が完了していない場合には、相続人代表者指定届の提出を求められる可能性があります。

相続人代表者指定届の提出が、その後の相続に影響することはありません。届け出に記載する代表者はあくまでも、書類を代表で受け取るだけの立場でそれ以上の法的な効力は発生しません

このため、相続人間で遺産分割に関する協議がまとまりそうにない場合であっても、相続人代表者指定届は提出することができます。

また、代表者に指定されたからといって相続をしなければならないことはなく、相続税や固定資産税などの納付義務を代表者が一人で負うことにもなりません。

2. 相続人代表者指定届の書き方は?

相続人代表者指定届は、通常は管轄する市町村役場の公式サイトに掲載されています。届出書のひな型は、市町村ごとに多少の違いがありますので、詳細は管轄の市町村に確認する必要があります。

一般的な相続人代表者指定届は、相続人代表者の氏名・住所・電話番号等のほか、被相続人や代表者以外の相続人の氏名・住所等を記載する内容となっています。

そして、相続人代表者指定届を提出するのは、代表者として指定された者となります。

記載内容は難しいものではなく、また押印が必要である場合でも通常は代表者個人の押印のみで足ります。

ただし、市町村によっては相続人それぞれが自筆で署名するよう求めていることもあります。

相続人全員から簡単に署名を得られないようなケースでは代筆が認められることがありますが、このあたりのルールは市町村によって異なることがあるため、事前に管轄の市町村に確認しておいた方がよいでしょう。

3. 相続人代表者指定届の様々な疑問点

相続人代表者指定届の書き方や提出について多く寄せられる疑問点とその解決方法を紹介します。

3-1 提出を忘れていた場合はどうなる?

相続人代表者指定届の提出は、そもそも義務ではありません。相続人代表者指定届について定める地方税法9条の2第1項は「相続人は、そのうちから被相続人の地方団体の徴収金の賦課徴収及び還付に関する書類を受領する代表者を指定することができる」と定めています。

ポイントは、「…できる」という部分であり、届出をするか否かは相続人の判断に委ねられています。したがって、相続人代表者指定届の提出を忘れていたとしても罰則などはありません。

ただ、相続人代表者指定届が提出されていない場合、役所としては誰に納税関係の書類を送付すればよいかがわかりません。そこで、このような場合には市町村の判断で相続人の代表者が決められ、その代表者あてに書類が送られることになります。

相続人代表者指定届が提出されていない場合に誰が代表者に指定されるかは市町村の判断次第ですが、法定相続分が多い相続人や被相続人と同居していた相続人などが指定される例が多いようです。

3-2 相続放棄をしたor相続放棄を予定している場合は?

相続人は、相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内に相続放棄をすると相続人ではなくなります。したがって、相続放棄をした人は相続人代表者となることはできません。

相続人代表者指定届に関して定める地方税法9条の2第1項は、代表者を相続人の中から選ぶことを定めているためです。

相続放棄をする前であれば相続人なので相続人代表者となることは一応可能ですが、将来的に相続放棄の可能性がある場合には基本的には代表者とならない方がいいでしょう。

相続放棄後に改めて代表者を指定する必要があるなど手続が煩雑となる可能性があります。

ここで、相続人代表者指定届で代表者と指定された者は、相続を単純承認したとみなされて相続放棄できなくなるのではないかという疑問が浮かぶかもしれません。

しかし、単純承認したとみなされるのは、相続財産を自分のものとする意思があると思われるような行為をした場合です。

相続人の代表者としての指定は、書類の送付先を指定するという手続上の意味しかもちません。したがって、相続財産を取得しようとする意思に基づくものとはいえません。

このため、相続人代表者に指定されたからといって、その後に相続放棄をする際に支障になることはありません。止むを得ない事情がある場合には、相続放棄までの間だけ相続人の代表者となることも可能ではあります。

なお、相続放棄をした相続人は相続開始時点から相続人でなかったことになるため、相続財産にかかる固定資産税等を支払う必要はありません。

ただし、相続放棄の事実を役所は知ることができないため、相続放棄をした人が自分で固定資産税等を管轄する役所に対して相続放棄の事実を伝える必要があります。

3-3 相続人代表になったら固定資産税を肩代わりするべき?

相続人代表者に指定されたからといって、相続財産にかかる固定資産税をすべて代表者1人が負担するわけではありません

固定資産税は不動産の所有者に納税義務があるところ、遺産分割前の不動産は相続人全員の共有となるためです。したがって、固定資産税も相続人全員が納税義務を負います。

ただし、相続人代表者に指定された者も納税義務を負う者の1人ではあります。このため、他の相続人が固定資産税を支払おうとしない場合には、結果的に相続人代表者が他の相続人に代わって納税せざるを得なくなる可能性はあります。

そうしなければ、相続人代表者も税金を滞納した扱いとなってしまうためです。もっとも、これは相続人代表者だから負うリスクというわけではなく、例えば、相続人代表者が固定資産税を納付せずに他の相続人が肩代わりして納税することもあります。

このように、相続人の一部が固定資産税の支払いを肩代わりした場合には、他の相続人に対して、各自の負担すべき割合に応じて立て替え分の支払いを求めることができます。万が一、他の相続人が支払いに応じないという場合には、弁護士等に相談するとよいでしょう。

3-4 相続人代表者指定届の提出方法は?

相続人代表者指定届の提出方法は、窓口で提出する方法と郵送で提出する方法の2つがあります。これに加えて、市町村によっては電子申請によって提出できることがあります。

電子申請とは、従来「届出書」などの紙によって行われていた申請や届け出の手続きを、自宅や会社のパソコンやスマートフォン等によって行えるシステムのことをいいます。

どのような提出方法が用意されているかについては、事前に市町村の公式サイトなどで確認をしておきましょう。

3-5 相続登記を既に行った後も提出をする?

被相続人が亡くなった後、相続財産の中に不動産がある場合には相続登記が行われます。相続登記にはいくつかの種類があります。

相続人間の遺産分割協議の完了後に行われる相続登記が一般的ですが、遺産分割を行わずに法定相続分に従って共有名義で登記をすることもあります。このほか、遺産分割をせず遺言の内容にしたがった登記をするのも相続登記の一つです。

いずれの相続登記であっても、登記後は相続財産となる不動産の所有者(共有者)が不動産登記簿上明らかとなります。

ただし、共有名義としての登記であれば、相続人の代表者を一人に指定する必要は残ります。このため、共有名義の場合には相続登記後も相続人代表者指定届の提出をした方がよいことがあるでしょう。

これに対し、相続登記が相続人の単独名義である場合には、その名義人に納税に関する書類が送付されるため、相続人代表者指定届の提出は必要ありません。

ただし、固定資産税等の納付に関する書類は、1月1日時点の不動産登記上の所有者(共有者)宛に送付されます。したがって、1月1日時点で相続登記を完了していなかった場合には、その年の納税分については相続人代表者指定届の提出をする必要があります。

執筆者プロフィール

弁護士 松浦 絢子


松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、男女問題など幅広い相談に対応している。

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